【AQUA267号】千葉BM技術協会 第18回定期総会・公開講座開催

千葉BM技術協会 第18回定期総会・公開講座を開催
公開講座テーマ「抗酸化力・免疫力・解毒力を高める食べものとは」

 千葉BM技術協会は、五月三一日、千葉県船橋市の生活協同組合パルシステム千葉船橋本部で、第一八回定時総会を開催しました。総会では、①二〇一三年度活動報告及び会計報告、②二〇一四年度活動計画及び活動予算、③二〇一四年度役員選出について、それぞれ議案審議が行われ、了承されました。
 福島第一原発事故以降、千葉BM技術協会では、その影響や対策等、共通認識を得るための学習活動を展開してきました。学習活動を通じ、放射能リスク対策の一つは、個々の免疫力を高めることが重要であり、これは、多くの生活習慣病・ガン対策や、老化対策にも通じるものであることを学んできました。中でも食生活は非常に重要なファクターであるものの、免疫力等を高める機能を持っている農産物のビタミン等が、五〇年前と比べて大きく減少している事態に直面していることが明らかになっています。(表1の食品成分分析調査参照)その背景には、この間の大量生産・大量消費型社会の進展等が考えられますが、生産や生活を取り巻く環境と、食と健康は、密接に関係しており、今後、人々が健康に生きるためには、「農・環境・医療」の連携等による「食」の再生が求められています。
 そこで、千葉BM技術協会では、今年度、これらに関する学習・実践活動を通じ、地域の土や水を保全・再生し、資源循環型の生産・生活・社会につながる活動を、BMW技術等を活かし、取り組んでいくことを方針に掲げています。
 具体的には、①『免疫力』等を高める農畜産物等に関する学習・生産実験、②放射能リスクとこれからの資源循環型社会等に関する学習等に取組んでいくことが、総会で了承されました。
 なお、二〇一四年度の役員は、以下の通りとなっています。
会長:  木内克則(農事組合法人和郷園)
副会長: 下地通太(生活協同組合パルシステム千葉)
    礒田有治(有限会社千葉自然学研究所)
幹事:  赤座繁樹(赤座養鶏場)
    桑島雄三(株式会社パル・ミート)
    中根 裕(生活協同組合パルシステム千葉)
    樋口健二(生活クラブ生活協同組合 虹の街)
    北見則弘(北見畜産有限会社)
監査:  岡田哲郎(NPO支援センターちば)

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 千葉BM技術協会主催 公開講座
21世紀は、治療から予防へ「抗酸化力・免疫力・解毒力を高める食べものとは」
〜分析データから分かった健康な野菜、そうでない野菜〜
     講師 東京デリカフーズ(株)  研究開発室長 武井 安由知 氏

 総会終了後に開催された公開講座には、千葉BM技術協会会員のほか、茨城BM自然塾、新潟BM自然塾、夢産地とさやま開発公社、村上園、生活クラブ事業連合会等、BMW技術協会会員や、流通団体、行政等、関係者四〇人が参加しました。
 公開講座は、千葉BM技術協会の本年度活動計画の『免疫力』等を高める農畜産物等に関する学習の一環として、開催されました。
 講師には、十数年間にわたり、約二万五千点の野菜の分析データを蓄積・解析し、産地で生産された野菜が、全国平均値と比較して、おいしさや栄養価、健康機能、安全性に優れているのかどうかを数値として「見える化」する取組みを先進的に行っている東京デリカフーズ(株)の武井安由知研究開発室長をお招きし、「抗酸化力・免疫力・解毒力を高める食べものとは」〜分析データから分かった健康な野菜、そうでない野菜〜と題して、講演が行われました。

野菜のおいしさ・栄養・機能性を、
   糖度、ビタミンC、抗酸化力で評価
 武井室長からは、①健康とは?国が抱える問題、②健康ニーズと野菜消費、加工業務用野菜の増加、③野菜の中身の「見える化」ツール、④野菜の機能性〜抗酸化力とは〜、⑤野菜を機能性で販売〜ベジマルシェの取り組み〜、⑥機能性表示の動向、⑦農場から健康を〜Farm to Wellness〜等の項目で、講演が行われました。
 東京デリカフーズでは、これまでの蓄積データから、野菜の中身成分を、糖度(おいしさ)、ビタミンC(栄養素)、抗酸化力(機能性)、硝酸イオンで評価し、各作物ごとに、全国平均と比較して、個々の野菜の質がどうなのか、「見える化」できる仕組みを構築しており、その評価とともに、抗酸化系、免疫系、解毒系と分類して野菜等を販売する東京・六本木アークヒルズの「べジマルシェ」の取組み等が武井室長から紹介され、参加者は、興味津々でした。

 野菜の硝酸イオン含有量と糖度、
  ビタミンC、抗酸化力とは反比例する
 また、これまでの分析データから、野菜の硝酸イオン含有量と、糖度・ビタミンC・抗酸化力は、反比例する関係にあることや、水耕栽培等で、硝酸イオン含有量と糖度は、コントロールできるものの、それ以外は、現状では、土耕栽培には、かなわない等についても、解説が行われました。
 講演後も、約三〇分ほど、参加者からの質問が相次ぎ、ついには、終了時間となってしまいましたが、それほど、参加者の関心の高さをうかがわせる公開講座となったようです。(報告:千葉BM技術協会 副会長 礒田有治)

Author 事務局 : 2014年07月01日08:39

【AQUA267号】BMプラント動向5月

①山梨県山梨市 長沢農園(やはた会)生物活性水プラントの設置工事をおこないました。
 五月一〜二日の二日間、生物活性水ミニプラント(一〇〇〇リットル×五槽/日生産量一〇〇リットル)を設置し、培養調整培を開始しました。原水は農業用水、原料はBM活性堆肥です。生物活性水は六月九日に予定している採水後の水質検査で、亜硝酸態窒素と大腸菌の検出がなければ完成の予定です。
 長沢農園は山梨市の山々に囲まれた谷間の奥にあります。有機栽培のキウイフルーツを中心にぶどうとすももの栽培をしています。代表の長沢さんは、圃場への土壌潅水や、果樹の葉面散布などを利用の目的としていますが、近隣にある酪農家と協力して、良質の有機堆肥作りも目指したいとのことでした。
 パルシステムの地域づくり基金助成事業に採択されたこともありますが、このプラントが地域のために少しでも役に立って行くことを望みます。

②青森県藤崎町のトキワ養鶏にて、生物活性水プラントの移設による再稼働について、打合せと配管設備の説明をおこないました。以前プラントが設置されていた場所を、飼料米の保管倉庫として利用するためプラントを移設、空になったタンクを清掃するところから始めました。六月初旬には、第一槽目から培養調整を始めていく予定です。生物活性水は、飲水の添加用と堆肥舎での消臭、水分調整用に利用する予定です。
 なお、現在は飲水改善プラントの小屋の中に設置してある、精製用のタンクから生物活性水を飲水改善プラントに添加しています。    (報告:㈱匠集団そら 星加浩二)

Author 事務局 : 2014年07月01日08:35

【AQUA267号】フィリピンBMW技術協会の設立について

 フィリピンでは、ネグロス島のカネシゲファーム、ルソン島北部のカワヤン市、ヌエヴァビスカヤ州マラビン渓谷の三ヵ所に生物活性水プラントが導入され、ここ数年、それぞれの地域においてBMW技術への関心が高まっています。特にカネシゲファームの取り組み、BMW技術を軸にバイオマスを含めた地域(農場)循環システムのモデルは注目を集め、地方自治体や大学、農家などからの視察や問い合わせなどが、日に日に増えている状況です。さらには、小農民の自立プロジェクトへの期待もあります。
 このような状況を受け、カネシゲファームのアルフレッド代表、現地の中間技術開発会社であるエイドファンデーション(カネシゲファームのバイオガスプラントを開発)、NPO法人APLA、日本のBMW技術協会は、協会設立に向けた話し合いを五月一一日に現地にておこない、規約などを作成しました。
 今後は六月の二〇一四年第一回常任理事会での承認を経て、再度現地にて詰めの協議の後、今年度中の協会設立を目指します。フィリピンでのBMW技術普及のため、しっかりとした受け皿をつくっていきます。
  (報告:BMW技術協会事務局 秋山澄兄)

Author 事務局 : 2014年07月01日08:33

【AQUA267号】韓国BM協会を訪問

今年のBMW技術全国交流会・アジアBMW交流会の招致をしました。
 五月三〇日、韓国・京畿道の楊平郡にある韓国BM協会を生田喜和・アジアBM連帯会長(BMW技術協会常任理事)と協会事務局の秋山が訪問しました。
 韓国BM協会会長の鄭相黙(ジョン・サンモク)氏、新しく事務局長となった金(キム)氏、韓国BM水代表の河(ハ)氏と会い、「第二四回BMW技術全国交流会・第四回アジアBMW技術交流会」への参加召致をおこないました。韓国はアジア交流会のために、毎年おこなっていた韓国BM交流会の開催を見送り、アジア交流会への参加に集中するとのことでした。そのため、可能であれば「第一一回韓国BMW技術交流会」も合同開催という形にしてもらえないかと要望がありました。
 また、鄭(ジョン)会長から、韓国の有機農業、農民運動の歴史を通して、現在の農業事情、FTA締結の影響による国内問題に関して講演ができる人ということで、金大中政権時代に農林部長官を務め、親環境農業(日本の有機農業)を推進し、農業改革をおこなった、金成勲(キム・ソォンフン)氏の推薦があり、実行委員会で検討することになりました。
 なお、韓国側の発表は楊平農業技術センターをはじめ、畜産、野菜農家など三〜四つの事例発表をしてもらうことになりました。
 五月三一日は楊平郡から南下し、釜山の西側にある馬山市へ移動し、韓国BM水を訪問しました。はじめに、最近できたというプラント工場を見学しました。工場には最近開発したという新型の生物活性水ミニプラントがありました。パネル式の受水槽を組み立て、工場で配管や堆肥浸み出し槽を取りつけて出荷し、現地では設置するだけというシステムになっているとのこと。その後は事務所に移動し、主にプラントのメンテナンスを担当している、林(イム)氏、林氏をサポートしながら工場での工事をおこなっている鄭(ジョン)氏と、日本と韓国のプラント、生物活性水の成分の違いについて、意見を交換しました。生物活性水は、原水と原料によって成分が変化するが、韓国のユーザーは中々理解をしてくれないので、どう説明すればいいのか考えているそうです。口蹄疫やPED、鳥インフルエンザなどがあり、畜産農家から家畜の病気に対しての抗体検査などの要望もあるとのことでした。
   (報告:BMW技術協会事務局 秋山澄兄)

Author 事務局 : 2014年07月01日08:32

【AQUA267号】北海道マイペース酪農と、佐久総合病院の取組みが示唆するもの

北海道マイペース酪農と、佐久総合病院の取組みが示唆するもの
〜適正規模農業と、生涯現役で働ける地域複合社会を目指して〜
BMW技術協会 常任理事 石澤 直士(株式会社ゼンケイ 代表取締役)

 マイペース酪農(※注1)と聞いて、耳にしたことのあるという方も多いのではないだろうか。ただ、その中身や考え方をきちんと把握されている方は、どのくらいいるだろうか。また、なぜ佐久総合病院とマイペース酪農なのかと思われた方も多いのではないだろうか。
 現在、日本の産業構造は限りなく専業・分業化されている。農業も単一作物化が進んでいる。この実態を踏まえたうえで考えると、従来から一貫して、有畜複合農業が日本には一番適していると主張してきたが、現実は、先に述べたとおりの状況であり、実態に沿って考える必要があると感じていた。
 そこで出会ったのが、北海道のマイペース酪農と長野県の佐久総合病院の取組みである。
 四月〜五月の間に、マイペース酪農の現場と、佐久総合病院を訪問する機会を得たので、この二つの取組みから見えてくる地域社会や農業のあり方について、述べてみたい。
 はじめに、マイペース酪農をひと言で言い表すのは困難だが、北海道根釧地域の風土に合わせた背伸びをしない家族経営に取組んでいる中標津町の三友盛行さん(当協会会員「根釧みどりの会」会員)を中心とした方々の取り組みである。特に北海道の農業は規模も生産量も生産額も全ての農業分野で国内では抜きんでており、単一作物(もちろん輪作体系はとられています)の傾向は顕著だ。中でも酪農は、大規模化が進んでおり(これは北海道に限ったことではないが)、国内生乳生産量の九割をまかなっているので、北海道は、酪農王国と言われている。国内酪農が危機に瀕している中で北海道だけは生き残るであろうと言われている。ただ、その実態を見ると決して盤石ではなく、とても脆弱な基盤で成り立っている。このような事を述べるとヒンシュクを買うかと思うが、ある時突然牛乳が飲めなくなる日がやってこないとも限らない。ところが、TPPが来ても生き残り、突然牛乳が飲めない日が来ないとほぼ確信させる酪農家が北海道に年々その数を増やしつつある。それがマイペース酪農だ。
 片や、佐久総合病院は、長野県佐久市にある医療機関で、皆様ご承知の通り平均寿命が日本一の長野県の中でも佐久市は、男女ともに全国市町村の上位二〇位に入っており、特に女性は長野県でも第一位としてリードしている。中でも特筆すべきなのは、かつて東の沢内村(現岩手県和賀郡西和賀村)西の八千穂村(現長野県南佐久郡佐久穂町)と言われていたほど短命な地域だった両地域が今では両地域共に長寿の地域になっているのだが、八千穂村の長寿化の原動力になったのが佐久総合病院を中心とした、全村あげての健康管理だ。しかし、長寿の要因について今回お話をお聞きした同病院の座光寺正裕先生(TEDxSaku(※注2)YouTubeに座光寺先生のスピーチが紹介されている)によると、ほかにも多くの要因があるが、高齢者で仕事をしている人の数(主に農業)が全国で一番だということが、とても大きな要因の一つではないかとお話されている。
 今回偶然にも同じ時期に、この二つの地域を実際に見てお話をお聞きして、これからの地域社会のあり方や農業のあり方が、個別、単純な取組み等の要因だけではなく、様々な要因が複合的に組み合わさって成り立っていくことが重要であることを再認識した。BMW技術協会が従来から進めてきた取り組みには、その事があまりにも当たり前に含まれていたことと、協会は技術者集団であることから、それをトータルに考えることは、政治として語られ、個々がそれぞれに取り組むものと考えて来たのではないのだろうか。
 しいて言えば、北から南まで気候や植生が違うために、もちろん人の考え方も違い、共通項は技術だけで、それさえも皆個々にその地域々々で取り組むことであるとして来たのではないだろうか。ところが、そこが違うのだと、今回考えさせられアクアに書かせていただくことにした。

酪農家、大学、研究者、獣医師、消費者ら  関係者二〇〇人が集った酪農交流会
 まず、四月二八日、マイペース酪農交流会が別海町で開催されたが、釧路市の宿泊先から会場に向かう途中、マイペース酪農に取組む「根釧みどりの会」の会長を務める石澤元勝さんが経営する石澤牧場を見学した。BMW飲水改善プラントがミルククーラーの壁一つ隔て、牛の見える所に大切におかれている。牛舎にはいくらか体調の悪い牛が一頭いるだけで、他は放牧場で草を食べている。ここは広さ五〇haに五〇頭の牛がいて、近々娘さん夫婦があとを継ぐことになっている。牛がカメラの前で愛きょうを振りまいているように見えた。
 別海町での酪農交流会は、毎年この時期に開催されるそうだ。今回の参加者は、マイペース酪農のご家族とその取り組みに賛同される消費者の方々や、これからマイペース酪農に取り組もうとされている学生を始めとした若い方々そして、その取り組みを研究されている学者・研究者の方々で、総勢二〇〇人近くが参加した。
 交流会では、マイペース酪農に関わった方々の多くの体験談や、大学や研究者による多角的な調査・研究発表が行われ、お昼には、会員の奥様方手作りのチーズやケーキ等牛乳加工品やその地域で採れた山菜や野菜を中心とした手料理や、手作りパンで各グループに分かれて食事会。そして、昼食後は、「草地更新」をテーマに、参加者各人がそれぞれの思いを述べる。ただし、時間がくると容赦なくチンとベルがなる。この方式が中々普及しないことや、多くの課題が、楽しく議論された。さらに会場を移して、熱い議論は、夜まで続いた。
 この様な会議では、どちらかと言うと熱い思いだけが優先されるのが通常なのだが、この交流会では、規模拡大型酪農経営とマイペース酪農との経営比較等、ありとあらゆる数字が出てくるのが特徴的だ。しかも、非常に合理的で土地と牛と資本金さえあれば、やってみたい衝動に駆られる。当然のように若い方々が、その魅力に取りつかれるのは自然の理である。ところが三友さんに言わせれば、現在、慣行的酪農をやられている方々が、これからマイペース酪農に取り組んでも大丈夫だという。今から牛を揃えたり、土地を購入するということになると、最低五千万円の資金が必要で、それこそ大変だとおっしゃっている。それよりは、現在酪農をやられている方々が取り組んだ方が確実なのだが、もちろん現状をきちんと把握して、三友さんの言うとおりにやればという前提がある。

売り上げは半分で、所得は平均的な
酪農と変わらないマイペース酪農
 マイペース酪農と、ある農協の平均的な酪農との比較では、平均的な酪農は、草地も少し多いが、頭数は倍近い、当然乳量も売り上げも倍になる。片や、マイペース酪農は、半分以下の乳量で売り上げも当然半分以下だが、支出は三分の一で所得はほぼ同じ、ところが、資金返済後の所得いわゆる本当に使えるお金は上回る。(表参照)また、共済金からの収入は、平均的な所得率の低い酪農の方々が多くもらっている。一方、所得率の高いマイペース酪農の方々の共済金の収入は低い。ところが、収入の多い方々は掛け金も高い、低い方々は掛け金も低い。どうしてこのようになるのだろうか。年々共済金の掛け金は高くなる一方だ。実は、日本の多くの農家が行き詰る要因が、身の丈に合わない規模拡大により、結果、借金を返せなくなることだ。これを、マイペース酪農の方々は全く逆の身の丈に合った農業をやっている。特に大切なのは、他の畜産では難しいことだが、費用の大半を占める飼料代金が四分の一以下なのだ。

清流に育つ『梅花藻』が
水源地から七キロで見えなくなる
 翌日は、別海町で獣医を務める高橋昭夫さんのご案内で、別海町の水源地を見るために、標茶町の西別川の支流コントナイ川の源流に向かった。西別岳の麓に位置する標茶町は豊富な湧水がある。別海町はそこに数か所の水源地を持っているが、そのうちの一か所を訪ね、まだ冬季閉鎖で通行止めになっている道路を歩いていくと、白樺やブナ等の原生林に囲まれた水源地が見えてくる。そこにはまだ雪が残っているが、清流にしか育たない『梅花藻』が水になびいている。水源の源流を見ようと奥へと足を進めたがそこはコンクリートで厳重に覆われているため、少し拍子抜けしたが、早速、味見をしたところ、とても柔らかい優しい水だ。前日に宿泊した別海町の温泉も水も美味しい理由が良くわかった。
 そこから下流へ下っていくと西別川の中流まで行く手前、水源から約七キロ地点で、『梅花藻』は見えなくなっている。別海町に入るとまるで別の川になっている。途中高橋さんのご案内で適切ではない糞尿の取扱いで耕された畑や、TMRセンター(※注3)のサイレージの廃液貯留槽等を見せていただくが、なぜ『梅花藻』が消えていくのか、とてもわかりやすい。
 そこを後にして、規模の大きな酪農経営を見せていただいた。フンは柔らかく、足元は硫酸銅で青く染まっている。
 最後に三友さんの農場を案内していただいた。まずは放牧場に行くと、去年の牛の糞があちらこちらに点在している。糞をひっくり返してみると、そこには放線菌が繁殖している。そして鼻を糞にくっつくまで近づけても臭いがない。放牧地を一周したが、先程まで歩いた他の慣行的な酪農の放牧地とは、まったく別の感触だ。聞けば、四〇年間、まったく草地更新していないそうだ。とにかく、ふかふかしている。放牧場から、牛舎に向かう途中、牛糞が一面に広げられている堆肥場を通ったが、通常であれば長靴を履かないと、歩けない状態になっている場合が多いのだが、革靴でも問題ない固さだ。牛舎に入って納得。ものすごい量の牧草である。育成牛から子牛まで全て豊富な牧草の中にいる。とても合理的な仕組みである。牛舎には、BM飲水改善施設が設置されている。

生きがいとしての農業とホームドクター
 制度が、医療費削減と長寿日本一を促す
 TEDxSakuが五月一一日に佐久市で開催され、その翌日に日本経済新聞に小さな記事が掲載された。長野県が平均寿命日本一になったのは生活習慣に有るとして、農業から医療、そしてITまでの幅広い分野で、多くの人々に訴えたそうだ。中でも座光寺先生のお話に興味をそそられ、早速問い合わせた所、一七日に佐久総合病院のお祭りが有るのでどうぞということで、お話をうかがいに行った。佐久総合病院の名前と若月俊一先生のお名前だけは聞いたことが有るが、どの様な事をやられているのか恥ずかしながら何の知識もなく向かった。ただ、長生きの秘訣はということと、農業とがどの様に結びつくのかということの二つを若いお医者さんからお聞きしたい一心だった。
 病院にいって驚いたのは人口一〇万人の佐久市にある病院に二〇〇人の医師がいて、しかもとても若い方々ばかりでした。目をキラキラさせて将来の夢や今の仕事に対するやりがいを、座光寺先生の上司の方と、つい先日まで途上国に医療支援に行かれていたという方から聞くことが出来た。プライマリ・ヘルス・ケア(全ての人々に健康を)という言葉は聞いたことが有るのではないだろうか。ただ、この取り組みの日本の若手医師の研修の場が佐久総合病院であるということを私は知らなかった。
 プライマリ・ヘルス・ケアで、特に重要なことは、①住民の要望に応じた方策、②地域資源の有効活用、③住民が参加すること、④全ての分野(農業・教育・通信・建設・水等々)との協調、統合――以上のことに取組むために、活動項目が挙げられているが今回は割愛する。
 座光寺先生は、今から七〇年前に若月先生が八千穂村で取り組んできたことにすべて起因し、結果として安い医療費の実現と平均寿命日本一の要因は、孫・子のために生きがいとしての農業をやり続けることと、ホームドクター制度により、畳の上で死ねることが、とても大切な要因であると言われていた。
 この二カ所の取り組みが実は、とても関連が有ると強引に持っていくつもりはないが、夢も希望もないお金だけがすべての価値観の中で、この先地方で生きていく価値観が見いだせない方、もちろん都会にいても見いだせない方々が大勢いて、毎年日本では三万人に近い人々が自殺するという現象が続いている。
 特に畜産の明日は見えないのではないかという現状を、今一度適正規模と、風土と自然と寄り添い生きていく北海道の三友さんらの取り組み、そして、死ぬまで現役で働き、地域での生きがいとやりがいを見出し、人間としての尊厳を認められ畳の上で大往生する長野県佐久市の取り組み――この二つの取組みが示唆している地域の自然や風土を基盤とした経済と福祉が複合的に組み合わさった地域社会づくりが全国で動き出した時、日本は世界で最も住みよい国になるのではないだろうか。

※注1…マイペース酪農
 土地に根差した本来あるべき姿の農業をめざし、よその土地からの依存をできる限り減らし、自家生産牧草に依存した酪農。根釧地区では、一ha当たり、牛一頭の飼育が適正規模とされている。
※注2…TEDxSaku
 広める価値あるアイディアを共有しようという目的で運営されている非営利団体。佐久の地域生活に寄り添ったアイディアを発信すると同時に、この地域を刺激するアイディアを世界から取り入れ、アイディアを通じて、この地により深い繋がりを育むきっかけを提供すること、また、様々なアイディアに触れることで、より広い世界に目を向け、世界の中の佐久、七〇億人の中の一人を実感するきっかけを提供することを目的としている。
※注3…TMRセンター
 粗飼料と濃厚飼料を適切な割合で混合し、乳牛の養分要求量に合うように調整した飼料(TMR:Total Mixed Rations)を地域の酪農家に供給する組織。

Author 事務局 : 2014年07月01日08:30

【AQUA267号】今年は「国際家族農業年」

知っていますか?
   今年は「国際家族農業年」
 BMW技術協会が法人化した二〇一一年は東日本大震災が起こりました。それ以前のリーマンショックから引き続き、TPP、遺伝子組換の問題、放射能汚染や被爆地への帰還の問題含め、世界を一握りの人間が支配できる構造計画が着々と進んでいます。しかし、こういった動きの中、国連は二〇一四年の今年を「国際家族農業年」として「非企業的自給自足的農業」こそが、これからの地球規模での「食糧問題」の解決策と宣言しました。
 これは、多国籍企業による搾取の強化と、それに伴う国内産業の衰退、プレカリアートの世界的増大という事態に、一石を投じるものとしての期待もあります。

○国際家族農業年の概要
 食料不安に苦しむ人口の七〇%以上が、アフリカ、アジア、中南米、中近東の農村部に住んでいる。彼らのうち特に小規模農家が、天然資源、政策や技術へのアクセスが不十分な家族農家である。貧しい家族農家は、適切な政策環境が効果的に整えられれば、直ちに生産性向上の可能性を展開することができることがこれまで多く証明されている。
 家族農家は、領土のネットワークや地域文化の一部となっており、彼らは主に地域や地方市場で収入を費やすため多くの農業・非農業の雇用が生まれている。 本国際年は、家族農業が飢餓や貧困の緩和、食料安全保障と栄養の提供、人々の生活の改善、自然資源の管理、環境保護、そして主に農村地域での持続可能な開発を達成することにおける重要な役割に世界の注目を集めることを目的としている。
 この国際家族農業年は、小規模農家が直面している課題の認識と理解を深めるため、国家・地域・世界レベルでの幅広い議論と協力を推進し、家族農家を支援するための効率的な方法を見出していく。
FAO:国際連合食糧農業機関
 (http://www.fao.or.jp)より

Author 事務局 : 2014年07月01日08:28

 
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