【AQUA238号】TPPとは何か

 TPP(環太平洋パートナーシップ経済連携協定)問題がマスコミを賑わせている。あたかも国論を二分する議論のような扱いだが、ことの本質はどこにあるのだろうか。「工業VS農業」、「開国か鎖国か」など二項対立の図式は、事態の進行を別のところへ誘導する政府・大手メディアの意図を感じる。TPPは、小泉政権時代に叫ばれた「構造改革」「規制緩和」「郵政民営化」などの路線の延長上にある議論なのだ。そのことが意図的に隠されているのではないか。「TPP推進派=改革派」「TPP反対派=既得権擁護派」という対立に収斂させたい意図がミエミエである。「抵抗勢力(既得権擁護)と戦う正統派」の図式を描きたい野田政権=「改革派」の側にはうってつけの構図なのである。
 ご存知の通り、小泉・竹中「構造改革」は、日本の経済構造を米国流のグローバル・スタンダードに従属させることによって容赦のない競争社会を作り上げてきた。市場経済の規制を取り払い、金融、労働、郵政、公共サービス等の自由化を狙った。しかし、この「改革」は、弱肉強食の競争社会からはじきだされた大量の貧困層を発生させ、金融市場の暴走を招き、僅かな富裕層に利益をもたらす格差社会を築いたことを忘れてはならない。日比谷公園の派遣村に炊き出しを求めて長蛇の列ができたのはつい三年前だった。その後も失業者の増加は止まらない。だが、二〇〇八年のリーマン・ショックに至り、歯止めのない「構造改革」は一定の決着を見たと思ってきた。しかし、あれから三年、主要先進国は、政府の莫大な財政発動と、中国などの新興諸国の経済発展とその市場の助けによって、何とか切り抜けたように見える。そこで「構造改革」はまた息を吹き返してきたのである。

 ブッシュ元大統領や小泉元首相の構造改革路線を裏付ける思想は、「新自由主義」(ネオ・リベラリズム)と呼ばれてきた。その思想の復活がTPPに反映されているのではないか。五〜六年前に発刊されたデヴィッド・ハーヴェイの「新自由主義」(作品社)をもう一度ひっぱり出してみよう。詐欺まがいの金融工学が闊歩した時期に、資本主義の本質を捉えた著作として高い評価を得たものであった。新自由主義といえば、グローバリゼーションを特徴づけるものである。グローバルな市場が企業の競争を激化させる。国際競争力をつけるには規制緩和や法人税削減で財政コストを抑え、福祉や教育、医療、社会保障、保険など社会資本のコストを削減することが必要である。この実態はすでに米国でも日本でも政策的に繰り広げられてきたことだ。TPPはこれをあらゆる分野に適応させようとするものである。ハーヴェイにとって「新自由主義」は、単なるイデオロギーや政策ではなくて、「階級権力の再生」のための政治・経済プロジェクトなのである。その新自由主義(ネオリベラリズム)は、TPPを持ち出して再び蘇ろうとしている。新自由主義は単なる市場原理主義と解されるべきではない。新自由主義は資本主義経済の再配分を止め、経済システムを不安定化させながら、貧富の格差を拡大するものだ。それには当然のように労働者側の反発と再分配の不公正をただす対抗アクションが登場する。ニューヨークのウォール街の「占拠」やEU圏での「1%の富裕層に99%の貧困層」の非対称性を覆い隠すために、強権的な政治体制が必要だ。これまで新自由主義は、市場原理主義=小さくて国家の干渉のない政府というイメージで語られていたが、新自由主義の形態にはさまざまな顔があることも知られてきた。(もともと新自由主義の生地はチリのピノチェット軍事独裁政権だといわれている)「政治・経済の絡み合い」である新自由主義は、さまざまな顔で登場する。その一つの形態が地域のブロック経済への取り込みである。環太平洋やアジアを巻き込んだTPPの世界戦略は、米国を中心とした新しいブロック経済圏を作ることにある。戦争なしには経済が回らない米国には軍事力を背景にした「自由貿易」以外に術はない。米国がアジア地域の経済圏に神経を尖らせるのは、むろん、巨大化する中国を意識してのことだ。TPP推進のためにしばしば「アジアの新興経済を取り込む」という議論がでてくるのはこのためである。
 「経済の閉塞感に悩む日本が、それを打ち破り成長戦略を描くには『外に向かって開く』しかない。TPPは非常にいいチャンスだ。TPPは現在、交渉参加を表明している国だけでも、世界のGDPの約四割を占め、世界最大の経済連携協定になる。将来的に、中国を含めたアジア太平洋地域全体の経済連携につなげていくためにも、TPPを土台にする方法がベストだろう」(伊藤元重東大教授:一〇月三〇日付日経新聞)
 「アジア太平洋地域全体の経済連携」とは、旧鳩山政権の「アジア共同体構想」(もともと中身は何もなかった)の延長にもとれるが、米国の戦略的意図を無視して、日本が自前のアジア戦略を語るのは土台、無理な話だ。ましてや当の中国はTPPへの日本参加に冷ややかだ。経済のブロック化とそれにともなう摩擦がどんな事態をもたらすかは歴史が示す通りである。(一九三〇年代後半の第二次世界大戦は、アジアでは欧米列強・日本などブロック経済圏の衝突だった)
 いっぽう、TPPについては、誰が損をして誰が得をするのかという議論が活発に行われている。「例外なき関税撤廃」から想定される損得については、多くのメディアの取り上げるところだが、TPPは、むしろ、日本の未来を考える上で、私たちがどういう生き方を選び、どういう経済選択をするかということにある。輸出依存型の日本経済は、たしかにこれまでの経済成長の基本だった。だが、それはもう見直す時期にきているのではないか。「グローバル」の対抗概念に「ローカル」という言葉を使うなら、実際に人間が住む社会は地域である。地域が豊かに幸福になること、これを目標とするなら、工業製品の輸出や海外市場への進出といったこれまでの成長戦略こそ見直されるべきではないか。
 『毎日新聞』の位川一郎記者は、一〇月二一日付の「記者の目」でこう書いている。
 「輸出や海外進出に依存した経済成長はもはや国民を幸福にしないのではないか。(中略)むしろ、中長期的な政策の方向としては、国内の需要に注目することのほうが重要であろう。供給過剰(需要不足)の日本経済だが、環境、自然エネルギー、福祉、食などのように、供給が足りない分野はまだ多い。むやみに海外へ販路をもとめる前に、国内で必要な製品・サービスが十分供給にされ、雇用も確保される経済が望ましい。同時に所得配分で格差を是正すれば、中間層の厚みが戻り、個人消費が増え、景気回復の力にもなる」
 まっとうな主張である。3・11を受けて、将来の道筋を描くには、日本経済の進路を根本から変え、TPPの本質である新自由主義路線から大胆な転換が問われているのだと思う。

----TPPについては事務局大田の個人的意見であることを付記しておきます。
BMW技術協会 事務局 大田 次郎

Author 事務局 : 2012年01月01日12:04

【AQUA238号】「脱原発宣言」を発した城南信用金庫

 一一月一七日、パルシステムエネルギー政策検討委員会の学習会が開催されました。今回の講師は金融機関で唯一、脱原発宣言を行った城南信用金庫(http://www.jsbank.co.jp/)の理事長、吉原毅氏。
 講演の骨子は以下の通りです。
 原発は安全でクリーンでコストも安いという政府や電力会社の話を安易に信じて、福島から東京に電力供給を受けていたことを深く反省しました。これだけの事態を引き起こしたことを考えれば、当然、原発をすべて停止して総点検し、関係者が責任をとるというのが普通の感覚です。しかし、驚くべきことに政府もマスコミも、「直ちに健康に影響はない」「原発がないと経済や国民生活が成り立たない」、こうした発言の繰り返しでした。これには非常に違和感と、同じ企業人として、あまりの倫理観のなさに、強い怒りを感じました。それで「原発を止めなくては」と皆で声を上げていかなくてはいけないと思うようになりました。
 城南信用金庫は、東京都と神奈川県を営業地域とする中小企業と個人のための金融機関です。信用金庫は一八四四年にイギリスのマンチェスター郊外のロッチデールで生まれた協同組合組織がルーツで生活協同組合などと同じです。当時のイギリスは産業革命の進展により、貧富の差が広がり、道徳や倫理の衰退などさまざまな社会問題に直面していました。人のつながりよりもお金が中心の世の中になったこと、つまり資本主義の矛盾の露呈でした。こうした中で、協同組合組織は、人々が互いに助け合い、人間としての幸せを取り戻すための組織として創られました。
 3・11の原発事故で、地域を消滅させてしまうほどの危険性をはらんでいることがあきらかになりました。金融機関は融資にあたって事業の採算性や将来性を検討します。どのようなキャッシュフローがあり、リスクがあるかを評価します。原発という事業は、未来がなく、とても融資できるような事業ではありません。再稼働を求める人もいるが、採算性を目先のレベルだけで見るのではなく、後から必ず発生するコストを含めるべきなのです。使用済み核燃料の処理方法は確立しておらず、日本中に核廃棄物があふれています。原発はツケを後の世代に先送りする事業で、ツケとは借金です。借金を重ねていけば必ず返済不能になります。私たち金融機関は、将来にツケをまわし、みんなが不幸に陥るのを知りながら、目先の利益だけを考え、目をつぶることは絶対にできないと考えています。
 私たちの金庫では、来年一月から、本店、各営業所で使用している電力について、原発を推進する「東京電力」との契約を解除し、民間の余剰電力を購入し販売している「株式会社エネット」(NTTファシリティーズ、東京ガス、大阪ガスの子会社であるPPS http://www.ennet.co.jp/)との契約に切り替えます。PPSとは、特定規模電気事業者(高圧五〇kW以上の利用者に電力を供給)のことで、環境に優しい天然ガス発電所を主力電源に、また、風力発電や太陽光発電、バイオマス発電などの自然エネルギー利用にも取り組んでいます。当金庫としても、生活協同組合のみなさんの協力をいただきながら、各方面に働きかけて、企業や工場、学校、マンション等のPPSへの契約切り替えを推進し、原発の全面停止を早期に実現する考えです。
 また、ソーラーパネル、蓄電池、自家用発電機の設備費などの設備投資をした方には「節電プレミアムローン」や「節電プレミアム預金」を通じて金利優遇を行い、省電力の設備拡大、推進を支援しています。本年八月には「再生エネルギー買取法」が成立し、個人や事業者が、太陽光や風力、小規模水力、地熱などの自然エネルギーで発電した電力を、電力会社に一定価格で買い取ることを義務付けた「固定価格買取制度」の導入が決定しました。今後、地域の企業や一般家庭において、再生可能エネルギーに関連した設備投資が増加することが予想されますが、当金庫も積極的に金融支援を行い、「原発に頼らない安心できる社会」の実現をめざしていきます。 (報告:BMW技術協会 事務局 大田 次郎)

Author 事務局 : 2012年01月01日12:01

【AQUA238号】一般社団法人BMW技術協会として初めての常任理事会が開かれました

 一〇月五日の法人化後、最初の常任理事会が開かれました。はじめに伊藤幸蔵新理事長より挨拶がありました。「一〇月五日に一般社団法人BMW協会として法人登記が完了しました。すでにみなさんにご案内させていただいた通りです。法人化により、より地方の会員のみなさんの技術サポートを強化し、技術を共有化していく計画です。BMW技術は従来よりも進歩しています。このためより会員のみなさんと密に交流し一層の技術発展をめざします。また、若手の技術の育成を強化するため、勉強会なども積極的に行っていきたい。勉強会は常任理事のみなさんに講師のお願いをすることになると思いますので、宜しくお願いします。」 続いて理事会成立の確認が行われました。一四名の常任理事のうち出席九名、欠席五名で過半数の出席があり理事会は成立し進められることとなりました。
 報告事項として、法人設立後の事務局の作業状況、会費の改訂に関して、第二一回BMW技術全国交流会進捗状況、BM技術協会二〇一一年度決算報告(二〇一一年四月一日〜一〇月四日)、BMW技術普及状況、及び高知出張報告(土佐山開発公社、大川村、津野町など ※アクア一一月号参照)、その他には、一二月八〜九日に行われる韓国BMW技術交流会の告知、福島県須賀川市にある「JーRAP」で行われている実験の途中報告と、飯館村での実験を検討する提案などが行われました。引き続き、協議事項として決算報告、二〇周年記念小冊子の発行、協会主催の学習会の内容、会員入退会(個人会員四名が入会)などに関して協議が行われました。
 次回の開催は二〇一二年一月の予定です。
(文責:秋山澄兄)

Author 事務局 : 2012年01月01日11:36

【AQUA238号】第21回BMW技術全国交流会が開催されました

第21回BMW技術全国交流会が開催されました
10年ぶりに九州で開催された、全国交流会の速報です


 二〇一一年一一月二八日〜二九日に開催された第二一回BMW技術全国交流会は二八二名の参加を得て福岡市内で開催されました。今回の交流会は一〇年ぶりに九州での開催、昨年の山形開催の第二〇回を一つの区切りにし、BM技術協会の法人化を含め新たな第一歩であること、そして多くの会員が被害を受けた東日本大震災からの復興をみんなで確認するという意味で大きな意義がありました。


中村康則実行委員長の「第二一回BMW技術全国交流会開催にあたって」の挨拶
 震災で被害を受けられた多くの皆様にお見舞い申し上げます。今回の交流会は震災で被害を受けられた会員の方にも多く参加いただき、ともに復興に向けた歩みを進めるためにも開催を決意しました。二〇年を節目にして第二一回のテーマとしては「原点に返る、BMW技術〜技術と人の未来に向けて〜」に決めました。この交流会に向けて西日本BM技術協会としても技術の普及に努めて来ました。自分自身が畜産をする中でこのBMW技術はとても大切な技術であることを再認識しています。今回の交流会は、多くの参加者を得て開催することが出来ました。有意義な二日間になるように願っています。

BM技術協会前理事長 生田喜和常任理事の「開会の挨拶」
 昨年の第二〇回交流会を一つの区切りとして、新たに出発するに当たり今回の開催地を九州としたのは、BM技術協会の立ち上げに尽力された故兼重正次さんの活動基盤であったことも大きな理由です。今年一〇月に協会が一般社団法人BMW技術協会としてスタートしました。法人化したのは、BMW技術が安全性と地球環境保全の術を持った最も優れた農業技術であり、BMW技術が求められる時代が到来しており、今こそ社会に登場すべく、社会的使命を果たすためです。協会の継続性の強化と世代交代ということでは、会費の改定により経済基盤を整え、新たに伊藤幸蔵氏を理事長に、秋山澄兄氏を事務局長として活動していきます。

【基調報告】
新しくBMW技術協会の理事長に就任した伊藤幸蔵氏の基調報告「原点に返る、BMW技術〜技術と人の未来に向けて〜」
 東日本大震災で被害にあわれたBMW技術協会の会員は本当に大変でしたが、復興への取り組みを進めています。震災直後は米沢郷牧場でも畜産の飼料の手配や雛の保温対策が大変でしたが、家畜を殺処分することなく何とか乗り切りました。震災直後、BMW技術協会の事務局として会員の安否確認をしようとしましたが皆さんに連絡がつかずに大変でした。東北から北関東にかけての会員は大変な被害にあいました。震災直後に、宮城県や茨城県などには直接出向いて会員の被害状況も確認しました。その後極力被害にあわれた会員も訪問させていただきました。畜産関係の生産者は特に飼料の確保が大変でした。それでも多くの生産者が飼料米に取り組んでおり、手元に飼料米があったことにより、被害が最小限で済みました。飼料米については米沢郷牧場としても取り組んできた成果であり、今後も国産飼料一〇〇%を目指して取り組みます。最後にBMW技術協会の今後ですが、これまで取り組んできた全国交流会を引き続き開催するとともに、交流の場を活発にする、全国のBMプラントの稼働状況の確認と課題の把握、海外研修生の受け入れ、または海外への研修派遣の相談窓口、視察ツアーの開催などを強化する計画です。それには財政と事務局の強化が必要であり、皆さんのご協力も得て進めていきます。そしてBMW技術協会が持っているネットワーク、北は北海道、南は九州・鹿児島県までを生かし、より多くの会員、地域のためになる活動を前進させていきます。

  被災地からの報告

あいコープみやぎ 小野瀬裕義氏の報告
 全国の皆様から寄せられた支援と激励に感謝します。東北地方を襲った広範囲で大規模な地震と津波、原発事故、放射能汚染、その中で直面したあいコープみやぎの被害について報告します。あいコープみやぎはセンターの被害もありましたが、組合員と生産者の被害はとても大きかったのです。BMW技術協会による炊き出し、グリーンコープによる支援物資はとても助かりました。改めてお礼を申し上げます。あいコープみやぎでは一日でも早く復興できるように原発事故による放射能対策を含めて路線を明確にしました。これまでの暗黙の成長路線ではなく経営のスリム化による経営再建を図る計画です。今後の課題としては第一次産業の復興に取り組んでいきます。

みやぎBM技術協会 西塚忠元氏の報告
 宮城県では、死者・行方不明者一万一五〇二人など、大変な被害でした。私たちのグループである「みつば会(五名)」でも自宅が浸水被害にあった人が三名、農地の浸水は全員が被害を受けました。被害は農地・農機具、農地に流れてきているがれきなどであり、特にがれきは撤去がとても大変です。今後の農地復興は、作付ができるまでに、がれきの撤去、排水機場の新設、土地利用計画の決定、用排水路の整備、除塩(四〜五回)などのプロセスが必要です。また復興への課題としては、地盤の沈下があった一方で、土砂の堆積があり、防潮堤の新設が必要であり、更に土地利用が制限されていることなどで利用計画が立てにくいなど、課題は山積です。これまでの皆さんのご支援に感謝するとともに、私たちも頑張りますので、今後とも息の長いご支援をお願いします。

会津うまいもの塾 佐藤邦夫氏の報告
 地震直後には放射能の心配から地元スーパーから福島県内の農産物が消えました。大震災の頃、会津はまだ雪景色でした。このころ私たちは放射能による土壌汚染で作物は作れるのであろうかと心配しましたが、土壌検査で問題がなかったので、いつものように稲や畑作の取り組みを進めてきました。いつものようにやろうということで、小祝さんを迎えて圃場巡回勉強会も六月に行いました。稲穂はたわわに実りました。一方で農産物だけでなく肥料、堆肥など資材も放射能検査をする必要があって大変でした。更には米や野菜について会津うまいもの塾として検査するだけでなく、メンバーのそれぞれの作物を放射能検査して取引先の不安に応えました。今後は放射能汚染対策として除染と作物に吸収させない取り組みが必要であると思っています。

【報告】
「井上ピッグファームにおけるBMW技術と耕畜連携農業の取り組み」:
 紅会 井上博幸氏の報告(事情により井出剛寛氏が報告)
 農場は福岡市の隣の糸島市にあり、母豚約一五〇頭、農場全体で約一五〇〇頭の豚を飼養しています。主な出荷先はグリーンコープです。農場としては飼料にこだわっています。二〇〇日令で出荷するためにカロリーがあまり高くない飼料を使ってじっくり育て、仕上げには麦を与えてうまみが出るようにしています。飲水についてはBMW技術を使って家畜にやさしい水を与えています。母豚を健康にして足腰を強くするために放牧するようにしています。尿はBMWの簡易尿処理プラントで処理しています。豚糞はBMW技術を使って堆肥にしています。この堆肥を使って糸島BM農法研究会の平野氏はにらを作っています。

「私の養鶏とBMW技術との出会い」:
 (有)ヨコテ 横手俊郎氏の報告
 糸島市で採卵養鶏場を営んでいます。生物活性水プラントの報告をします。六年ほど前のBMW技術全国交流会で発表したように鶏のコクシジウム対策で生物活性水を五〜一〇倍くらいに希釈して飲ませていましたが、あるときこの生物活性水が手に入らない時期があり、困ったので自分で生物活性水プラントを作ってみようと思いました。見よう見まねで、鶏のケージに岩石を入れてタンクの底に置き、暗渠排水に使うパイプを工夫して醗酵鶏糞を入れ、エアを送り、水を循環させることによって何とかうまくいくようになりました。検査で大腸菌が出なかったので、それを鶏に与えたら以前と同じようにコクシジウムは発症していません。更にそのあと曝気槽を増やし、貯留槽も組み込んで、現在では一層安定しています。BMWについて解らないこともたくさんありますが、これからも無理のない範囲でいろいろなことを試していきたいと思います。

「BMW技術との出会いと野菜作りについて」: 熊本県愛農会野菜部 渡辺洋一氏の報告
 BMW技術との出会いは、同じグループの清村養豚場が尿処理にBMW技術を使って簡易尿処理施設を作ったときからです。今ではすっかりこのBMWの尿処理水がなければ成り立たないほどになっています。作物はリーフレタス、人参、玉ねぎ、大根、ほうれん草を作っており、すべて有機JAS認証を取得しています。反当り六トンの尿処理水を投入し、堆肥は作物により入れたり入れなかったりですが、いずれも安定して良いものが出来ます。大根の細根が可食部より更に一メートルも伸びるし、棒が一・三メートルほど下まで突き刺さるように土はとても柔らかくなっています。今後は愛農会として五トンタンクを二基設置して尿処理水を精製して会のメンバーが使えるようにする計画です。

「トイレに始まりトイレに終わるBM農法〜小規模農家のBM農法」:
 糸島BM農法研究会 柴田周作氏の報告
 糸島市で、米、ミニトマト、パプリカ、小さな白菜、ほうれん草などを栽培しています。大町克克之氏(養豚)に勧められてBMW技術に出会いました。その後すっかりBMW技術が気に入ったので、自宅のトイレの糞尿をBMW技術で生物活性水にするプラントを作り、その生物活性水を農業に使っています。トイレの糞尿をポンプでプラントに引き、五〇〇リットル×五槽のタンクで浄化・精製して農作物に使うとともに、トイレに一部を戻してトイレの段階で発酵の前段階の処理をしています。生物活性水の活用としては堆肥作り、BM発酵ぼかしづくり、栽培に活用しています。栽培ではBMW技術を使うことにより連作障害が出にくく、ミニトマトの花付きも良くなります。また発芽率が向上するなどの効果もあります。今後も農薬、化学肥料を極力使わず費用を減らし、大型機械を必要とせず、高付加価値農業を目指していきます。

「二〇一一年 米沢郷牧場 青果(さくらんぼ、ラ・フランス、りんご)の取り組み」:
 米沢郷牧場 横山裕一氏の報告
 私たちは、地域の自然と共生し、地域資源の循環と再生産可能な農業を次世代へ伝えたいと考えています。今回は、さくらんぼ、ラ・フランス、りんごの栽培において開花前に生物活性水を利用して花を充実させるということで、生物活性水の施用区と対照区における開花〜結実〜収穫に至るまでを試験してみました。作物によって花ビラの散り方も一斉が良い場合、長持ちした方が良い場合など、いろいろあることが分かりました。ラ・フランスでは施用区が対照区と比較して、直径・長さとも数%以上良かったこと、りんごの種が生物活性水施用区で平均一六・三個、対照区で九・七個と大きく差が出ており、種が多いことが玉の形を安定させることにつながるのではないかと思っています。今後は果樹の花を充実させ収穫量を安定させ、品質向上につなげることと、地域資源の有効利用、効率の良い栽培方法の確立を目指していきます。


「生物活性水「BMそら」・BM菌体利用者アンケート報告」:
 グリーンコープ共同体 林和子氏の報告
 グリーンコープは一九九〇年にBMW技術に出会い、一九九五年一〇月から生物活性水「BMそら」を、一九九七年一〇月からBM菌体を販売してきました。当初に比べると、利用する組合員は減少しているので実態把握、販売に役立てる目的でアンケートを実施しました。BMそらの使用方法では、植物(家庭菜園や生花)、ペット(犬猫や水槽)、家庭(消臭など)がそれぞれ三分の一程度であり、植物では生花、ペットでは水槽といういずれも「水」が直接関係する使用方法に抜群の効果があるという結果です。ただし、使い方が分からない、説明書が欲しいという組合員の切実な声が聞けました。BM菌体のアンケートは、専用バケツで処理していない組合員が多くいることが分かりました。生ごみをゴミとして出さずに「自家処理」してきた人の意見は、生き方そのものが表現されています。BM菌体のアンケートではありますが、生活に対する気持ち、どのように考えて生ごみを処理してきたかの思いのたけを、数十年の歴史を振り返って回答している人がたくさんいました。

「土佐山百年構想」:
 夢産地とさやま開発公社 大﨑裕一氏の報告
 土佐山村は二〇〇五年に高知市と合併しました。土佐山村は村として一一六年の歴史がありましたが高知市と合併する時点では一二〇〇人程度に人口が減少していました。合併後、高知市の中にうずもれるのではという心配もしましたが、改めて土佐山地域は、高知市を貫く清流・鏡川の源流域に位置する重要性が見直されています。そうした中で高知市として「土佐山百年構想」が提案されました。高知市教育委員会や(財)夢産地とさやま開発公社を中心に、地域住民・関係者・行政当局が一体となってチャレンジしていくことになります。旧土佐山村の時代、村には「村民憲章」があり、最後の項目には“私たちは、教え教わる学習の村をめざします”即ち社学一体教育を目指すことがうたわれていました。土佐山には教育に対する強い意識があり、社学一体教育を中心とした町づくりは、鏡川とともに山を下り、高知市の「源泉」として、大きな役割を果たしていくことになります。

「有機農業のむらづくりにむけて」:
 南阿蘇村役場 工藤眞巳氏の報告
 南阿蘇村は熊本県の中ほど、阿蘇のカルデラに位置しています。三つの村が合併してできた際にあえて「村」を選びました。南阿蘇村は水源にも恵まれ風光明媚な場所で、農業も盛んな村です。南阿蘇村にはBMW技術を使った有機肥料生産センターがあり、平成一七年(二〇〇五年)から村営の堆肥センターとして運営を開始しています。牛の肥育農家の排せつ物を元にBMプラントの生物活性水を混ぜ合わせて堆肥を作っています。このたい肥は「牛若丸」のブランドで村の耕種農家に販売しています。畑作や稲作に利用するとともに生物活性水を鯉の養殖にも利用して効果があることが分かってきました。耕種農家には有機農産物推進事業補助金で堆肥購入の半額補助があり、これも活用しながらBMW技術を生かした有機肥料生産センターを有効利用し、「牛若丸」とBMW技術の認知度を上げていきたいと考えています。また、BMW技術の活用という意味では生物活性水も活用していただくように無料配布を行う計画です。

「初めて生物活性水を利用して」:中村グループ 鹿毛智昭氏の報告
 福岡県久留米市田主丸町でお米と露地野菜(ほうれん草、にんじん、ニンニク、ナス)を栽培しています。無農薬栽培を始めたきっかけは、農薬散布で自分の体に異変・中毒を起こしたためです。今年初めて生物活性水を使ってみました。目に見えて効果が出たことは、ナスの苗がとてもよく育ち生育が早まったように思えたことと、ボカシ肥料でも効果があり、発酵速度が早くなり、味噌こうじのようにいい匂いがして、今までにないボカシが出来ました。効果がはっきりとは出なかったこととしては、ニンニクには生育途中から使用したため、いまいち効果が見られなかったことと、苗に効果があったナスも圃場での灌水ではいまいち効果が見られませんでした。今後は、にんじんにも生物活性水を使います。これからいろいろな経験をして、BMW技術を身に付けていきたいと思います。

「BMW技術における果樹栽培とhototoの取り組み」:
 農業生産法人hototo 水上篤氏の報告
 hototoは山梨県にあり、経営理念としては「持続可能な風景をつくる」ということで、笑っている子供、笑っている野菜、笑っている家族、笑っている地域、笑っている自然、そんな笑っていられる場所を農産物を通して作りたいと運動をしています。BMW技術と出会い、昨年生物活性水プラントを作って様々に実験をしています。ぶどう、ミニトマト、いちごで栽培実験しました。ぶどうでは節間がつまり耐病性がよくなり農薬を減らすことができそうです。また糖度が上がり長期保存できるような葡萄が収穫できる可能性があると思います。都会に暮らす消費者が参加する農業スクールを開いています。参加者に生物活性水を持って帰ってもらうのですが、消費者がベランダで作ってるミニトマトに実が沢山付いたということで、多くの人がこの生物活性水に興味を持ってくれています。

「再生可能バイオ燃料と農業系未利用バイオマス」:山梨大学大学院医学工学総合教育部 御園生拓氏の報告
 地球の気温の上昇、温暖化は温室効果ガスが原因で起こります。温室効果ガスの中でCO2は大きな問題です。世界の中で日本のCO2排出の総量はそれほど多くないのですが一人あたりはとても高くなっています。CO2はその多くは化石燃料の燃焼によって排出されます。化石燃料はもともと生物が長い時間をかけて形を変えたものでありますが、使えばなくなってしまうものです。そこで再生可能なエネルギーとしてバイオマスに着目することになります。ひとつは廃油をバイオディーゼルにすることや畜産廃棄物などの有機物をガス化することです。現在取り組んでいるのは畜産廃棄物を利用した生物活性水でクロレラの大量培養を行い、それを畜産飼料にして循環させることです。白州郷牧場や黒富士農場で取り組んでおり、この取り組みを太陽光発電や小電力発電などとも組み合わせて広い意味での再生可能エネルギーの取り組みとして進めたいと考えています。現在のエネルギーを大量に使っている経済活動や生活をとりあえず何とかしたいという思いで取り組んでいます。

「カネシゲファーム・ルーラルキャンパス(KFーRC)の取り組み」:特定非営利活動法人 APLA フィリピンデスク 大橋成子氏と、BMW技術協会 秋山澄兄氏の報告
 カネシゲファームは、ネグロス島の砂糖労働者が農民として自立し、マスコバド糖やネグロスバナナの輸出の道筋を作ったグリーンコープの故兼重専務を忘れないようにと名前が付けられた農場です。兼重専務は、ネグロスにはBMW技術が必要であるといっていました。兼重専務が亡くなってからこのファームにはBMW技術が導入されました。しかしプラントや農場はあまり活用されないまま経過しました。ネグロスでも農民の後継者問題は深刻でどのように農業をやったら良いのかということから研修する場が必要であり、カネシゲファームを活用することになりました。豚舎からの糞尿排水はバイオガスプラントでバイオガスを抽出してから、その消化液を処理して生物活性水を作り、それを飲水改善プラントに希釈して豚や鶏に飲ませるとともに、自分たち(人間)も飲んでいます。通常は子豚として販売していますが、ここで飼育した豚は病気にならずに豚の太りも良いということで評判になり、業者が一〇〇頭単位で買い付けに来るほどになっています。自分たちも挽肉にしてソーセージを作ってみたらとてもおいしかったです。飼育している鶏・カラバオ・牛・七面鳥などにも飲ませています。ティラピアの養殖、野菜生産にも生物活性水を活用しています。バイオガスの活用や電気を使わない揚水ポンプなど、BMW技術と地域適正技術(中間技術)とのコラボレーションにも取り組んでいます。

 BMW技術協会常任理事の山本伸司氏が「人間で云うならば二〇年で成人になる、それが昨年のBM技術協会でした。今年は二一年、これから第二期の人生がはじまる、画期的な年でした。その時に今年の三月の大震災、原発事故を受け、協会が社会的に果たさなければならない役割が非常に大きくなっています。その中でBM技術協会は一〇月に一般社団法人BMW技術協会として法人化をしました。第二期は若手のリーダー達を中心とした、新たなBMW技術運動の展開のスタートとなり、その中でのここ福岡での全国交流会開催はまた大きな意味をもつものでありました。今回の交流会を振り返ってそれぞれの報告者の概要を再確認するとともに、今回の交流会が二〇年の区切り、これからの前進に向かってとても有意義なものでありました」とまとめられました。

 最後に西日本BM技術協会会長の荒木隆太郎氏より「みなさん二日間お疲れ様でした。今年の大会は、まさに二〇年の区切りのスタートの大会として良いスタートが切れたと思います。また三月の震災により大きな被害を受けた方々もたくさん参加して頂きありがとうございました。来年は高知県での開催となりました。これからの一年間、原点に返り活動を続け、また高知での再会を楽しみしています」と閉会の挨拶があり、交流会は終了しました。

西日本BM技術協会 事務局 宮﨑 利明

Author 事務局 : 2012年01月01日11:33

 
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