「有機認証取得がはじまりました。」第3回  【AQUA192号】

BM技術協会会員の動向
有機認証取得がはじまりました第3回  謙信の郷
峯村正文さん 秋山猛留さん

 BM技術協会では、これまで、自然生態系の保全・回復を目指し、資源循環型の農業技術の普及に取組んできました。二年前から会員の各産地で取組まれている~自然学を実践する~「土と水の学校」有機栽培講座では、BMW技術を活かし、有機栽培技術の確立を図ろうとしています。
 有機農業に取組み、有機JAS認定を取得している協会会員・産地にJAS認定取得の経緯、現在の「有機農業」を巡る動きについて、インタビューを続けていきます。第三回は、新潟県・謙信の郷の峯村正文さんと秋山猛留さんです。 (まとめ:井上忠彦)

―――いつから有機認証を取得されていますか?
秋山 二〇〇三年に米で二町歩の面積を取得しました。それからだんだんと増えて、今年は四・二町歩になりました。
峯村 二〇〇一年から毎年取得しています。今年は三・八町歩ですね。
―――有機認証を取得してみて、どのような感想をお持ちですか。
秋山 謙信の郷の金谷さんに紹介してもらった有機認証団体、NPO法人民間稲作研究所(http://inasaku.or.tv/kenkyujo/)の稲葉さんから「簡単だよ」と勧められてやってみたのですが、けっこう大変でしたね。特に書類作成が面倒な作業だと思いました。でも二年目からは、まぁこれくらいはしょうがないだろうなという感じです。
―――大手スーパーなどが、有機認証農産物の取り扱い拡大や、有機食品の開発を進めていることについては、どうお考えですか。
峯村 やっぱり消費者がどのくらい有機農産物を求めているか、理解してくれるかでしょうね。安全や環境保護にある程度こだわる人たちが増えなければ、これ以上の消費の拡大は見込めないかもしれません。
―――有機農業への取り組みについてお聞かせください。
峯村 有機に切り替えるとまず生き物が増えてくるのに驚きます。田んぼにいるユスリカやミジンコの量をみればはっきりと違いがわかる。こういった生き物たちの量を、どの程度有機農業が成功しているかのひとつの尺度や基準にできるのではないかと思います。
秋山 わたしも有機に切り替えてから生き物がどっと現れだしたのはびっくりしましたね。
峯村 ただ有機の場合、わたしのところのように基本が夫婦二人の家族経営ですと、作業の負担が増えるのがきついですね。特に除草です。以前、シルバー人材派遣に除草作業をお願いしたことがあるのですが、大変な作業だと思われたらしく半日で帰られてしまいました。電話をかけて聞いてみると「もう有機の田んぼの草取りの仕事は引き受けないから」といわれてしまいました(笑)。それからここだとカモ除草の場合、マガモがカラスに狙われてしまいますね。何かいい対策はないものでしょうか。
秋山 家族四人くらいだと、一〇町歩を超えたらとても手が回らない。有機ではやっていけないのではないですか。
峯村 米から一部大豆などに転作しましたが、米と他の作物と、作業の忙しい時期がどうもかぶってしまいます。
 絶対に必要なのは周囲の農家の理解でしょう。除草はこちらでやりますからと断っていたのに隣接地に勝手に除草剤を撒かれたりしたこともあります。飛散や農業用水の問題は大きいです。やっぱり地域全体として協力して取り組んでいかないと。また家族の理解もいるでしょう。妻に冗談で「来年も有機で大変な除草につきあわせるならあなたと離縁したい」といわれたことがあります(笑)。
―――有機農業基本法成立に関して、国、県に対する要望などありますか?
秋山 認証取得にはコストがかかりますから、認証取得のための経済補助を期待します。農作業以前の出費もけっこうかかります。機械も毎年のように故障が起こり、そのたびに何十万円も費用がかかりますよ。
峯村 わたしはいろいろな地方に行って見聞きし、雑草の出ない方法などを教わってきました。でもその地方で行われているのとそっくりそのまま同じことをやっているはずなのに、なぜかここでは雑草が出てしまうんです。農業技術やノウハウというものはどうしても地域に根ざすものなんでしょうね。このあたりは気温や土地の条件から、草が出やすい状況にあります。
 やっぱり各地域にあった有機農法というものがあるはずです。そういう指導をしてくれる技術指導員が身近にいてほしいですね。びっくりするほど多くはとれなくてもある程度安定した収量が見込めるやり方とか。いままできちんと有機農法の研究を積み重ねてきたといえる研究機関は日本では数えるほどしかないのではないでしょうか。
 すこし上の世代には、作業がいくら大変でも雨が降ろうが槍が降ろうが自分は有機で栽培するんだという強固な信念でやってらっしゃる方たちがいました。しかし研究すればもっと労働力のかからない有機栽培のやり方が絶対にあるはずだと思います。わたしたちは趣味で農業をしているわけではありません。
―――新潟では「土と水の学校」も何度も開催していますね。
峯村 はじめは苦土の使い方がよくわかりませんでしたが、「土と水の学校」によって数年でどんどん成果がでています。それから稲の苗に生物活性水を五〇〇倍に希釈したものを使用していましたが、今年は思い切って一〇〇倍希釈でやってみたら、はっきりわかるほど結果がよかったですね。一〇〇倍希釈だと見た目にも生物活性水の色がわかるくらいだし、おっかなびっくりだったのですが。
―――今後の展望についてどうお考えですか?
秋山 日本中が新潟のコシヒカリに追いつき追い越せで必死になっている間、新潟は次の手を打ってこなかった。コシヒカリの価格がここまで下がってきた今、みんなが目を覚まさなければならない時期かもしれません。

Author 事務局 : 2007年12月01日12:33

~自然学を実践する~「土と水の学校」報告 【AQUA192号】

有機栽培講座 今年のまとめを各地で実施

 ~自然学を実践する~「土と水の学校」有機栽培講座が、一〇月、謙信の郷、会津うまいもの塾、ファーマーズクラブ赤とんぼで小祝政明先生を講師に開催されました。いずれも今年の取組みの結果を踏まえたまとめの講座となりました。それぞれの報告を紹介します。

新潟県・謙信の郷
●稲つくりの裏技    
 稲の収穫も終わった一〇月二五日(木)、上越市三和区神田集落センターで、「謙信の郷」主催の第三回~自然学を実践する~「土と水の学校」有機栽培講座が開催されました。
 今回は、一年の締めくくりとして、メンバー各々が栽培したお米を試食して食べくらべる事が最大のテーマです。
 折しもこの時期は大豆刈りの最後の追い込みで、参加者は少なかったのですが、幸い「魚沼有機」の農家二人がお米を持って講義に参加してくれて、様々なお米の食べくらべが出来ました。日常使っている電気釜を使用し、四種類の米を試食し、「香り」「甘み」「粘り」「食感」などを比較しながら、一人一人感想を述べました。
 一言に、美味いお米と言いますが炊いたご飯が、それぞれ個性があり、特徴があることを再認識しました。
 この試食を踏まえ、どのような特徴の米を作っていくかについて、有機栽培における肥培管理の面から次の事が小祝先生から解説されました。
◆量の観点  分けつの確保ではNとKが重要。
◆美味さ、甘さの観点  CaやMgが重要。
 そして、移植後の追肥ではNとMgが収量と食味の鍵を握っていること。肥培管理面から出穂四〇日前が重要な時期ですが、いずれもCaがベースになっていることが大事であること。また、甘さの観点からはマンガン、ホウ素が重要な点も解説されました。
 前回の講義では有機栽培における「苦土」の稲作診断のポイントを、今回は、食味における「苦土」の追肥の重要性がポイントでした。   
(報告:謙信の郷 峯村正文)

福島県・会津うまいもの塾
●いもち病対策を検討
 一〇月二七日(土)、小祝先生を講師とした「土と水の学校」有機栽培講座が、米栽培農家など二〇名の参加のもと福島県喜多方市で開催されました。
 「今年の反省と来期作に向けて」がテーマで、中心になったのは米減収の原因と対応についてです。今年、減収の最大の要因となったのは、九月の台風九号前後の雨とその後二二日まで続いた猛暑と推定されました。この結果、いもち病が蔓延したうえ粒が細くなってしまったのです。
 いもち病対策では、病気に強い品種にする。風通しを良くする。栽培時期をずらす。などの案が検討され、風通しを良くすることが有力となりました。茨城の事例では、二条植え、一条空きの作付けで収量も上がっており、風の弱い地域では実践してみる価値が十分あると思われます。
 さらに、水管理や乾し方、追肥時期と肥料、稲ワラ分解と微生物の働き、倒伏防止策、堆肥と微量要素の相乗効果など稲作の基礎を話していただいた後、来期の稲作にはこれらを活かすことを確認して閉会となりました。
(報告:会津うまいもの塾 佐藤邦夫)


山形県・ファーマーズクラブ
赤とんぼ
●硝酸イオンが少ないキュウリは美味で食感も良い
 一〇月二八日(日)、山形県川西町のファーマーズクラブ赤とんぼを会場に、今年の締めくくりとなる「土と水の学校」有機栽培講座が開催され、一五人が参加しました。
 今年度、野菜栽培では、「硝酸イオンが少ない安心で美味しい野菜作り」と「多収穫と安定収量」を目指して取組みました。結果として、硝酸イオンが少ないキュウリは、甘くて食感が良く、美味しいと確認することができました。
 キュウリ栽培における問題点として、「病気」や「落花」などがあり、小祝先生から肥料状態がどうだったか、腐敗による原因やホウ素不足が考えられることなどの説明と、対処するための適切なアドバイスをいただきました。
 米作りでは、イモチ病対策の質問がありケイ酸不足が考えられ、初期成育から必要量を吸収できれば病害虫に強い頑丈な茎葉になることなどを学習しました。
 今後の課題として、施肥設計の充実と肥料分解に必要な微生物(放線菌・酵母菌等)をタイミングよく使用することや、鉄、ホウ素などの微量要素を補い、健康に育てることが重要と考えます。来年度は、さらにミネラル豊富な美味しい野菜づくりを目指していきます。
(報告:ファーマーズクラブ赤とんぼ 武田 和敏)

Author 事務局 : 2007年12月01日12:31

「イタリア・スローフードの旅」報告 【AQUA192号】

 BM技術協会会員の「らでぃっしゅぼーや」主催による「イタリアのスローフードを巡る旅」が一〇月一〇日から一九日に行われました。同じく協会メンバーの「やまなし自然塾」「白州郷牧場」「あゆみの会」のメンバー七人が、イタリアのスローフード協会や食科学大学などを見学してきました。(報告:井上忠彦)

 イタリア料理というものがあるわけではなく、イタリア各地方の郷土料理を集大したものがイタリア料理とよばれているに過ぎない、といわれます。そんな「食」の多様性を伝統とするイタリアの有機事情を報告します。
 日本では有機(またはオーガニック)ですが、イタリアでは「Bio」が有機の意味だそうです。イタリアにおいて、有機の野菜は慣行のものに比べておよそ一五~二〇%市場価格が高く、オーガニックよりの生産者は今も増えつつあるそうです。
 一〇月一五日に、人智学のルドルフ・シュタイナーによる、宇宙・自然のリズムを基にする「バイオ・ダイナミック農法」のイタリア研究所を訪問しました。ここには年間七~八〇〇人ほどの来訪者があるそうです。バイオ・ダイナミック農法は八〇年前から行われていて、たとえばオーストラリアなどでは、かなり大規模に行われている有機農法です。
 「微生物が含まれる土はそれ自体が生き物」「農業従事者は土を癒す医者である」といった言葉が研究所所長のスピーチから聞かれました。また「農業なしに国家は存在しない」「わたしたちは農産物だけでなく文化を生産している」といった誇りにあふれる発言もありました。
 研究所の後に、二五年前からバイオ・ダイナミック農法に切り替えたマッサンティ・マルコさんの農場を訪問しました。マルコさんは有機農法は「自分が自由になれる手段」、「農業を楽しめる農法」であると笑顔で語られました。
 よく知られているようにスローフードとは、ファーストフードに反発して名付けられた運動です。スロー対ファースト、つまり「スピード」がひとつの対立軸です。
 経済活動は一九世紀からスピードに関わるようになりました。より高速に物や人を移動し、より瞬時にサービスを提供する者が常に経済的な勝利を収めました。つまり誰よりもファーストであることが勝者の必要条件になりました。一五~一七世紀の大航海時代における植民地拡大が「空間を支配する戦争」だったとすると、産業革命以後はスピード・速度という「時間を支配する戦争」に変化したともいえます。
 そして速度の進歩は人間に幸福を与えるという考え方でした。速度は正義であり、スピードは美、という意識が世界を前進させていたはずです。
 イタリア系フランス人の思想家、ポール・ヴィリリオは「速度の進歩が民主主義を通して人間に幸福を与えるという考え方は、まだ速度が相対的なものにとどまっていた一九世紀の幻想であり、望んだ瞬間にそれが手に入ってしまうという『絶対速度』を手に入れた現在においては、もはや速度は権力としてしか現れえない」と語っています。
 人間の思考速度はほとんど変わっていないにもかかわらず、物や情報の流れる速度はこの百年で何千倍にもあがっています。そんな圧倒的な高速は我々の思考能力を奪い、そこに全体主義を割り当ててしまう可能性がある、とヴィリリオは警告しているのです。
 たとえば一九二〇年代にイタリアで起こった芸術運動「未来派」は機械化によって実現された近代社会のスピードを称え、速度を徹底的に賛美しましたが、やがて全体主義に感化されファシズム運動と結びつきました(シュタイナーのバイオ・ダイナミック農法もナチズムに反発しながらも一時接近していた歴史があります)。
 速度を正義・美とする意識は現在もわたしたちの世界を覆っています(蛇足ですが、現在はスローライフ派の坂本龍一も一九八六年に「イタリア未来派」をテーマにしたアルバムを製作しています。そのライナーノーツで世界中の人種の中で一番遅いテンポを刻めるのは日本人だろうと記述しています)。一九八〇年代半ば、「反・速度」ともいえるスローフード運動がおなじイタリアから起こったことにはなにか必然的な理由があるのかもしれません。
 地球という限定された空間で生活する以上、今日我々の前に立ちはだかっているのは環境問題です。便利さや快適さをより加速させていく生活は、無尽蔵なエネルギー資源や決して汚染されることのない環境といった幻想のなかでしか成立しえないものでしょう。速度にはエネルギーが必要であり、必然的に環境に影響を与えます。「時間(速度)」と「空間(環境)」は相互に影響を与えあうわけです。
 偶然にも、食科学大学の学生たちがポー川の汚染状況を知るためにその流域にそって自転車で旅しているところに合流することができました。イタリアの若い世代の間では、環境問題はよりダイナミックなものとして意識されていると感じさせられました。

Author 事務局 : 2007年12月01日12:27

韓国訪問記「プルム農学校を訪ねて」 【AQUA192号】

地域全体で取組む有機農業とクリーンエネルギー導入
㈱匠集団そら 秋山 澄兄

前号の韓国視察レポート「山(サン)自然学校」に引き続き、今回は忠南洪城郡洪城のプルム農業技術学校(以下、プルム農学校)について報告します。
プルム農学校は最初に訪れた梧山から東テグへ出て、そこから電車を乗り継ぐこと約四時間、洪城(ホンソン)と言う町に着き、そこから車で二~三〇分のところにあります。この地域は生協を含め地域全体で有機農業に取り組んでいることでよく知られており、その中心を担っているのがプルム農学校です。ソウルからですと、電車で約二時間、まっすぐ南に下ったところに位置します。
プルム農学校は四五年の歴史を持つ民間の私学校で、高等部と大学課程があり、高等部には一学年二五人、計七〇人~八〇人の生徒がいます。教員・学校職員をいれて一〇〇人の全寮制の学校です。
大学課程は高卒の子や大人が農学と哲学を学べる「専攻部」として、学生が一一人、先生が一〇人います。
ここでも山自然学校と同様にBMW技術が導入されていて、専攻部の敷地に便所と学生寮の厨房の排水を利用した生物活性水施設、学生の手によって飼育されている韓国牛(四~五頭)の飲水改善施設がありました。
専攻部では、学生達が授業の中でもBMW技術を利用した循環式農業をはじめ、様々な有機農法の授業や実習、研究などが日々行われています。高等部では通常の高等学校での教育課程を含め、有機農業の授業や実習などが行われています。
先月号でお伝えした「山自然学校」同様にここでもソーラーシステムが導入されていて、全体の約七〇%の電力をまかなっているとのことでした。
また、校内を案内して下さった鄭ミンチョル先生のご自宅(学校近隣)もソーラーシステムを導入されていて、一〇〇%の電力をまかなっているそうです。
このように、この地域のあちらこちらで太陽光パネルと風力発電の設備、施設を多く目にしました。街灯はもちろんのこと、農家や公の施設など、梧山とは違い地域全体に太陽光パネルが設置されていると言った感じなのです。先にも書きましたが、この農学校は地域との関係を大切にしています。
学校と生協、そして地域の人々が一緒になって、有機農業を主体とした地域作りをしているとのことでした。例えば、稲作について学生と農家の人が一緒になって研究に取り組んでいることをはじめ、学校生協には学生だけでなく地域の人達も買い物に訪れます。もちろん自然エネルギーも地域での取り組みの一つだそうです。教育現場を中心にその地域全体が一体となって有機農業に取組む、このスタイルは私にとって初めて目にしたもので、大変驚きました。
今回の韓国訪問では二つの特徴を持った学校を訪れることができました。最初の山自然学校では教育現場の中で直接BMW技術に触れながら、子供達が自然・環境、そしてエネルギーを学ぶ「学校」、ここではBMW技術施設が導入されている教育現場、この教育現場である「学校」を中心に広がる「地域」。異なるようでもありますが、ひとつの筋と言うか、ひとつの線で何かつながっているように感じました。前号での報告で、BMW技術が「教育・エネルギー」の分野にも飛躍していくことが必要不可欠ではないかと書きましたが、地域もそのひとつで、これについてはすでに、岩木川流域の問題や今年の全国交流会でのテーマであった「ひろげよう『BMの世界』森から海へ」など「地域」の取り組みは始まっています。今後、「教育・エネルギー」含めこれらの取り組みが広がり、充実した内容で成果をあげられるものになって行くことを願います。

その他の訪問先
済州島にある、養豚場を見学させてもらいました。ここではちょうど、この日から尿処理施設が稼働を開始する日でもありました。韓国でもBMW技術を使った施設がどんどん増えているそうです。この時にお会いした地元の役場の人達は高い関心を示していて、この養豚場での経過を見て成果がでれば、この先もBMW技術を導入して行きたいと話していました。

Author 事務局 : 2007年12月01日12:25

第17回BMW技術全国交流会が宮城で開催 【AQUA192号】

「ひろげよう"BMの世界"森から海へ」をテーマに

第一七回BMW技術全国交流会が、一一月一六日(金)、一七日(土)の二日間、宮城県のホテル松島大観荘で、開催されました。「ひろげよう『BMの世界』森から海へ」をテーマに、全国の会員・関係者や、海外では韓国、中国からの参加もあり、合計約二七〇人が参加しての交流会になりました。今号では、交流会の概略を報告します。
(報告:長倉徳生)

今回のテーマをイメージしたオープニングビデオの上映後、西塚忠元第一七回BMW技術全国交流会実行委員長(みやぎBM技術協会会長)から開会の挨拶が行われました。西塚実行委員長は、今回のテーマの説明後「森から海へとつながるBMの世界を皆さんと語り合いたい」と交流会への期待を述べました。

○基調報告「流域の土と水の再生を」
  BM技術協会 理事長 石澤 直士
石澤理事長は、世界自然遺産「白神山地」を源流とする地元青森県の岩木川流域の上流、中流、下流の人たちと、流域の土と水を再生するため、話し合いを始めたことや、BMW技術を活用したモデルづくりに着手していることを報告し、こうしたことを進める上で消費者との連携が大切であることを訴えました。また、今後農業は石油危機に大きな影響を受けるとし、石油に依存する生産・生活からの転換、自然エネルギーの活用などを訴え、太陽光発電とBMW技術での生活と生産を個人で実践している例として、茨城県の田中一作氏の取り組みを紹介しました。

○特別講演「牡蠣をつくる森」 
牡蠣の森を慕う会
代表 畠山 重篤
畠山氏はフランスに行った際、森が守られているために、森の動物、川の魚、そして海の牡蠣、エビが豊かであることに気がついたと、森に木を植える運動を始めるきっかけを説明しました。森に木を植えることとともに川の流域の人たちの「心に木を植える」ことが大切であり、難しいことだと話し、上流の小学生を対象に続けている海での体験学習について具体的に語りました。
平成元年から続けてきた植樹の効果もあり川、海が豊かになってきたこと、今年気仙沼湾でウナギを捕獲したことを今年の植樹祭で報告できたことを笑顔で語り、これで孫の代まで気仙沼湾で牡蠣の養殖が続けられるのでは、と講演を締めくくりました。

○講演「BMW技術の概要と今後の展望」 
BM技術協会 顧問 長崎 浩
長崎顧問は最初に環境倫理学の父といわれたアルド・レオポルドの提唱した「土地倫理」を紹介しました。この土地倫理には「土地はその最初の構成メンバー(土壌、水、動植物)を人間の土地利用とできるだけ両立するよう保持すべき」とあり、BM技術協会もミクロコスモスを目指し地方自治体等と望ましい農業、土地利用、景観、地域社会のための施策や制度を追求していきたいと訴えました。
一方で、運動は技術に支えられなければ、地域社会、行政など世の中に広がっていかない。今後、技術の研鑽(適正技術)と道徳的な主張(政策目標)の双方を実現させるために、みんなで知恵を絞っていって欲しい、と今後の協会の活動への期待を述べました。


①「組合員農園、福祉農場で活用されるBMW技術」生活協同組合あいコープみやぎ 小野 奈美子
社会福祉法人みんなの輪    安田 たかね
小野氏は、大郷町にある市民農園で行なった組合員向けの野菜作り実践講座報告、生協で取り組んでいる、BM菌体、生物活性水を使った段ボール箱での生ゴミ堆肥作りの報告を行いました。あいコープみやぎでは、組合員と契約農家、福祉農園との間の資源循環の仕組みを、臭いが少なく手軽にできるこの方法で目指している、と発表を締めくくりました。
安田氏は、あいコープみやぎから委託されている生物活性水プラントの施設利用者による管理の様子、生物活性水を使った生ゴミ堆肥の製造試験の様子などを紹介しました。また、施設利用者による米粉を使ったパン作りについて解説しました。農園班が育てたほうれん草を使った米粉パンが人気であることが紹介されました。

②「有畜複合経営で活きるBMW技術」 
㈲大郷グリーンファーマーズ
代表取締役 郷右近 秀俊
郷右近氏は、平成九年に導入した飲水改善、生物活性水プラントを中心にした鶏糞、野菜くず、くず米、堆肥の循環の解説、鶏糞と米ぬかや未利用資源を使ったBM堆肥作りの解説など行いました。また、今年から本格的に取り組み始めた土壌分析に基づいた施肥、生物活性水を使った育苗の様子などを写真で紹介しました。

③「放牧豚、ノラ牛プロジェクトでのBMW技術」 
生活協同組合あいコープみやぎ
理事長 吉武 洋子
農事組合法人 おおさき赤べこ生産組合
組合長 高橋 精一
最初に吉武氏から、ノラ牛プロジェクトの意義について解説が行われました。このプロジェクトが休耕田を利用した放牧であること、またアニマルウェルフェアを意識していることが紹介されました。
高橋氏は放牧豚について、一反に一〇頭位を放牧していること、全体で面積が五町あり糞尿の処理は始めてから全くないことなどを報告しました。続いてノラ牛プロジェクトを始めた経緯を説明し、始めるにあたりあいコープみやぎと相談し、自然トラストの考え方を取り入れたと解説しました。今年飼料米作りを始めたことも報告し、四町で直播き飼料米を作り、豚のエサに一〇%混ぜる予定であると話しました。最後に、今年飲水改善プラントを導入したこともあって、豚の成育が良くなり、これまで出荷に一九〇日かかっていたのが二週間縮まってきたのではないか、と語り、発表を締めくくりました。

○講演「松島湾、気仙沼湾に注ぐ水をつくる岩石のストーリー」 
名古屋大学環境学研究科 教員 奥地 拓生
奥地氏は今回の講演に先だって行った岩石調査で分かった宮城県、岩手県の地層などについて解説しました。室根山をつくっている花崗岩からミネラルが溶けだし、気仙沼湾で牡蠣を育てていること、北上産地の石灰岩は海に流れたミネラルを陸に戻す働きをしていることなどが語られたあと、そうした岩石が地中から地表にあらわれるのは大陸のダイナミックな移動によるもの、と解説しました。
大郷グリーンファーマーズの生物活性水プラントから取り出した花崗岩が、一二年経て表面がざらざらして色が変わっている様子を写真で紹介し、花崗岩からミネラルが供給されていること、BMW技術は石を使って水を再生する仕組み、と解説しました。

■懇親会
一日目の講演、発表の終了後、懇親会が行われました。懇親会には全国のBM生産者から提供された食材の味をいかした料理が並びました。食材は、野菜、米、豚肉、鶏肉、果物の加工品、飲料などに及び、あらためてBMW技術の広がりを感じさせるものでした。

○生物多様性と水田の再生 田んぼの生きもの調査プロジェクト報告 
パルシステム生活協同組合連合会
産直事業部 田崎 愛知郎
田崎氏は生物多様性の説明で、人も四〇億年の命のつながりによってあり、生物多様性の一つとして活かされている、人間中心の価値観から生態系全体の価値観への転換が必要、と訴えました。その上で生物多様性農法を、多様な生物の中で作物を管理し栽培する技術と解説しました。田んぼの生きもの調査プロジェクトは、この生物多様性農法の確立と普及を目指していることを説明し、子供たちの食農教育にも取り組んでいることを、紹介しました。

①生物活性水によるクロレラの培養と養鶏飼料化実験 
山梨大学大学院医学工学総合研究部
 教授 御園生 拓
(株)山梨自然学研究所
代表取締役 向山 茂徳
御園生教授は、昨年の全国交流会で発表した生物活性水によるクロレラの培養実験を踏まえて行ったクロレラの大量培養について、実験データを示しながら解説しました。
引き続き向山氏が、培養したクロレラを飼料にするための取り組みについて説明しました。クロレラの殻を壊すためにバクテリアを利用することとし、菜種かすや米ぬかなどの原料とともに発酵させ、エサとして十分使えるものができたことを様々なデータを示し報告しました。飼料の高騰のおり、それぞれの地域にあるものを利用しながら、頑張っていきたいと向山氏は発表を締めくくりました。

②バイオベット飼育によるアニマルウェルフェアー基準にもとづく飼育管理の実態と検証」 
㈲ポークランド 菅原 幸治・加藤 仁
最初に菅原氏は、糞尿処理のコストが少なくてすむなどのバイオベット飼育の利点をあげたあと、子豚導入時点からの写真を見せながら仕組みなどを説明しました。
続いて獣医である加藤氏がバイオベット飼育と通常の豚舎飼育の豚のアニマルウェルフェアーに基づいた行動比較調査の報告を行いました。アニマルウェルフェアーとは、空腹、渇きからの自由、不快からの自由など五つの自由のことを示すと解説がありました。検証によりストレスを感じると増える血中の物質がバイオベット飼育の豚の方が低い、腸内細菌の状態がバイオベット飼育の豚の方が良好であった、などの結果が得られたことが報告されました。

~自然学を実践する~
   「土と水の学校」有機栽培講座実践報告
①概要と取組みの成果 
BM技術協会 事務局長 礒田 有治
礒田氏は会員産地の堆肥、生物活性水の性質、成分の違いを数値で示し、自分たちの使用している堆肥、生物活性水の性格を知った上で使うことが大切であると解説しました。
また、「土と水の学校」で実践してきた土壌分析に基づいたミネラル、微量要素を含めた施肥による各生産者の成果を、写真を使って紹介しました。果菜類の収量が上がった、根菜類の大きさが揃い規格外が減った、コメの食味が上がった、などの報告がされました。
②BMW技術による有機栽培 高品質・多収穫の栽培の仕組み
  「土と水の学校」講師 小祝 政明
小祝氏は、高品質・多収穫栽培について、「正しい土壌分析と施肥設計」、「関連微生物の培養技術」「正しい堆肥の作り方と使い方」の三点が重要と解説した後、植物生理、有機栽培の長所を説明しました。また、これから私たちに必要なこととして、「高品質・多収穫によるマーケティング」「高品質・多収穫によるブランドの確立」「健康野菜による予防医学の普及」の三点をあげました。
③実践報告
・青森県 (農)八峰園  古川 治
リンゴの秀品率の向上に取り組み、リンゴの葉の大きさが揃い、生理落花がほとんど見られなくなったことなどを報告しました。また、秀品率も昨年の五〇%から八五%に改善されたことが紹介されました。

・宮城県 ㈲大郷グリーンファーマーズ  熊谷 剛介
取り組み二年目となった今年の水稲とトマトの事例が発表されました。稲は、ミネラルを施肥したために根の張りが良く初期成育が良くなったこと、ヒエと台風の影響などで収量減になったが、除草を徹底することで多収穫・高品質のコメ作りが可能、と報告されました。トマトは、移植時に苗を生物活性水につけ初期成育が順調だったこと、ミネラルの施肥により樹体が堅くしまる効果があったことなどが報告され、今後の課題として天候ごとの水管理の工夫などがあげられました。

・山形県 ㈲ファーマーズクラブ赤とんぼ  今野 純
今年はキュウリの硝酸イオンの少ない栽培、多収穫・安定収量の確保に取り組みました。測定の結果、一般のキュウリに比べて硝酸イオンが大変低かったことなどが報告されました。ミネラルに加え微量要素のバランスの良い施肥により、天候に左右されずに安定的な収量を確保できることが実感できた、と報告されました。
コメについては安定収量と食味・品質向上を目標として取り組み、日照不足のために初期成育が遅れ収穫時期も昨年と比べて遅れたが、収量は反当たり九・五俵収穫できたことなどが報告されました。

・新潟県 ㈲謙信の郷  峯村正文
稲の多収穫・高品質栽培に取り組みました。苦土を施肥したとき葉の色があせないために穂肥を与える時期を誤るため、色、草丈、葉や茎の固さ、気候などから時期、分量を総合判断する必要であると確認したことなどが報告されました。また、今年行ったBM堆肥と生物活性水を使ったプール育苗による培土の実験についても報告され、最終的に苗の根を確認したところ非常に良かったことが報告されました。

各地の実践報告後、礒田氏がこれからの研究課題として、利用目的に合わせた堆肥・生物活性水づくりがあることを示し、研究対象として、茨城県の田中一作氏が実践している家庭雑排水を原料にした生物活性水を利用したコメ作りの例を紹介しましました。

■総括及び次回開催地発表
全ての発表終了後、伊藤幸蔵常任理事が今全国交流会の総括を行い、「発表のレベルが上がってきている。そろそろ次のBMW技術の進む方向について話をする時期にきているのではないか。発表のあった飼料化や様々な問題について、自分たちの地域も含めて新たな活動を展開していただきたい」と述べました。
続いて石澤理事長より、閉会挨拶と次回の開催地となる千葉県の(農)和郷園の木内博一代表理事(協会常任理事)が紹介され、木内常任理事は、来年の全国交流会を、地域、行政まで巻き込んで活動できるきっかけにしていきたい、と豊富を語りました。

■現地視察会
交流会の後に催された視察では、一日目に発表のあった、社会福祉法人みんなの輪の「わ・は・わ大郷」味明分場と大郷グリーンファーマーズの西塚農場を訪れました。「わ・は・わ大郷」味明分場では、生物活性水プラント、生ゴミ堆肥化プラントの見学などを行いました。パンに加工するためのほうれん草もここで栽培されていて、パウダーにしてほうれん草を練り込んだ米粉パンを、お土産にいただきました。西塚農場では、堆肥についての説明を受けた後、平飼鶏舎、トマトの栽培されているハウス、生物活性水、飲水改善プラントを見学しました。プラントから取り出した一二年間たち色の変わった花崗岩と新しい花崗岩をたたいて、音の違いや表面のざらつきを確認しました。前日の奥地氏の解説にあった、「石が死んで水を作る」というBMW技術の一端を実感することがきました。

Author 事務局 : 2007年12月01日12:23

 
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