韓国・山(サン)自然学校を訪ねて 【AQUA191号】

韓国・山(サン)自然学校を訪ねて

自然・環境・生態系を日常的に体験する代案学校
BMW技術を教材に、自然の循環システムを学ぶ
㈱匠集団そら 秋山 澄兄

 一〇月六日~九日の四日間、韓国のBMW技術導入現場を視察しました。今回は、慶北永川市の山(サン)自然学校について報告します。
 山自然学校(旧梧山自然学校)は、釜山国際空港から車で北東へ二時間余り、東テグと言う地方都市から車で三〇分ぐらいの山逢いの静かな村の中にあります。そこでは廃校になった小学校を利用して二〇〇二年に、前身の梧山(オサン)自然学校が設立され、三日から四日のキャンプを通して、自然体験等を通じた教育を行っていました。
 設立当初は、山梨県・白州郷牧場の「キララの学校」をモデルに、自然とその生態系を学ぶ子供の為の学校として運営が始まり、現在では自然の生態体験を日常的な暮らしの実践として持続可能にする代案学校(注1)として、二〇〇七年から、新たに全寮制の山自然学校として開校されました。
 小学生の生徒数二二名、常勤講師五名で生活を共にし、通常の教育課程に加え、宇宙の授業や調理実習など、すべての授業に自然・環境・生態系との関わりや取り組みを織り交ぜながらの教育がなされています。
 また従来のショートキャンプの受け入れも続けられており、夏休みなどに近郊の都市のテグ、釜山、ソウルなどから年間三千名の子供達が訪れるとのことで、常勤講師と数十名の非常勤講師やボランティアスタッフにより運営されています。子供だけの学校でなく親子教室などもあり、自然・環境・生態系はもちろんのこと、音楽や工作、付近の様々な場所で色々と学ぶことのできるプログラムなどが導入されています。近くには青鷺の繁殖地もあり、野外活動においても自然の生態系・環境などに触れ学ぶことができます。
 自然・環境・生態系を学ぶ為の施設として注目すべきものは二つあり、一つ目はBMW技術が導入されているということ。大きな食堂の厨房排水はBMで処理されています。処理水はビオトープ(観察用池)に利用され、その中の生態系を学ぶことができます。池の中に浮草、鯉、蛙、タニシ、その他の水中生物を観察できるようになっていて、さらに校庭にある便所の排水を利用した生物活性水施設があり、そこでは自分達の尿や糞が生物活性水となり、圃場還元などされ、循環されていることを学ぶこともできます。
 もう一つはエネルギー。ここでのエネルギー源は主に太陽光エネルギーを利用し、風力発電を合わせ百パーセントの電力がまかなわれています。さらに余電力は電力会社に売っているとのことで写真にある太陽光パネルで約三キロワットの電力供給ができ、風力と合わせ約四キロワットの発蓄電が可能ということでした。次号で紹介するプルム農学校や済州島でも同じ光景を目にしたのですが、韓国では自然エネルギーに対する考え方・取り組みが日本より進んでいて、正にそれを実感することができました。
 これから石油がなくなっていくことがわかり始めた今、日本も見習うべきことであり、またBMW技術を利用する者としても避けては通れない課題点でもあると思いました。現在のBMW技術は大きな意味で生産・消費の面で大きく役立っていますが、そこに偏ってしまっているような気もします。
 もちろん自然の循環に沿った技術であり、豊かな環境(農地や畜舎)作りと言った点の貢献は多大なるものだとは思います。ですがBMW技術に直接ふれることができるのは、農業従事者を中心に自然との関りを営む大人が中心であるような感じが私の中では否めません。間接的には子供達の役には立っているけれど、山自然学校のように教育現場の中で直接BMW技術にふれながら、子供達が自然・環境、そしてエネルギーを学ぶことのできる環境は素晴らしく思えたのです。そしてさらに、BMW技術が利用される現場としてこのようなスタイルがこの先必要不可欠なのではないかと実感しました。
 BMW技術はありとあらゆる可能性をまだまだ秘めています。これからは自然・環境に対してだけでなく、子供の教育といった点でこれからの社会・教育にも向き合っていく方法があるのだと考えさせられました。

(注1)代案学校(だいあんがっこう)
韓国では、フリースクールやオルタナティブ・スクールを代案学校という。一二年ほど前に、大学受験に偏重した既存の教育に疑問を投げかける代案教育運動から生まれた。小規模で都会から離れた自然豊かな場所で、寄宿生活を伴う事例が多い。山自然学校は国の認可は受けていないため、中学校にあがるためには学歴取得の試験が卒業時に必要になる。無認可の代案学校に入った子供達のほとんどは中・高学校も代案学校を選び、高校課程卒業時に日本で言う大検のようなものを受け合格すると小学校から高校までが学歴として認められる。

Author 事務局 : 2007年11月01日14:45

BMW技術の奥深さに触れて 【AQUA191号】

知識よりも知恵を大切にした技術
BMW技術の奥深さに触れて

 私たちは、あらゆる物が消費され、廃棄されていく時代にくらしている。しかし、人間の長い歴史から言えば、この循環が途切れた社会は、近代の高度経済成長のごく短い時間の中で起こっている。とすると何がこの変化をもたらしたのだろうか。

  「人間の限界を自分自身が認識できなくなった時から、人間は自分自身を破壊するようになった」とフランスの文化人類学者のレヴィ・ストロースは「遠近の回想」(みすず書房一九九一年)で述べている。人間は、生物界の中では特殊な生きものではないということを再考する時期が来ている。西欧のデカルト的な知性主義は、人間を自然の世界から切り離して特別なものにしてしまい、そのときから人間たちは自分たちを支えていた基盤を失い、自分自身を攻撃しはじめたのである。
 しかし、一方、アジアモンスーンに共通する農民たちは、自然に学び活かそうとして知恵を働かせて持続可能な技を作った。そして、かつての技術は、人間と自然との豊かな橋渡しとして存在したのである。自然界の豊穣な世界を深く理解し、その仕組みにある種の理想をいだきながら、しかし、自然とは完全には一体となれない自分たちの限界と悲しさを知って上品に行動していた。広大な自然界の仕組みと人々のくらしの間に微妙でゆるやかな間をとることで、自然と共に生きる人間の精神と技を作り出していたのだ。そこには、精神と身体が一体となった世界が存在する。私たちがここで再認識しなければならないのは、知識よりも知恵を大切にした時代が遙かに長かったことである。経済よりも物作りを大切にしていた時代の方がずっと長かったことである。スピードや効率性は、生物である人間にとってかならずしも幸福をもたらすものではなかったのである。
 今回、茨城BM自然塾の塾長であり、BM技術協会の常任理事である清水澄さんと「家庭排水の完全ゼロエミッション化」と「太陽光発電のある暮らしは地球環境と家計にやさしい田中発電所所長」(名刺にそう書いてあった)田中一作さんにお会いして、人間の知恵としての技の延長上に生態系を活かしたBMW技術があることを実感した。

現場からの発想を生かす
大いなる実験家 清水澄氏
 そのひとの印象は、強烈であった。エネルギーに満ちあふれた言葉の重みに驚くばかりである。しかも、現場からの発想を生かした本来の実験家である。表面的な実績を挙げようとしている人などとは、そもそも人種が異なっていることがすぐに分かった。茨城の酪農家、清水澄さんは水戸に近い湖沼のほとりに住んでおられるが、この沼にそそぐ涸沼川の上流には有名な御影石(花崗岩)の山地がある。その岩石をミネラルとして生かそうとしているのである。BMWの技術と水田を組み合わせて、再び地域水系の浄化力を水田に取り戻す実験を行っている。稲田の花崗岩に発する水系とその結実点としての涸沼そのものが大きな自然システムとして見えてくる。田んぼそのものを曝気してしまう装置も考えた実験田さえ持っているのには驚いた。BM技術協会顧問の長崎浩氏によると、BMW技術は、そのものが五〇%の技術で、あとは、地域が創意と工夫を積み重ねてそれぞれの地域に合った現実的なものとするという考えが基本にあるというが、実際に清水さんを見ているとその奥深い思想が見えてくる。往々にして研究者は、自分の技術を地域に委ねるだけの器量がない。だから、地域の伝統的な技術を遅れたものと否定する。そもそも農業そのものが地域に根ざした土着的な技術によって成り立っていたことを考えるならば、この技術を現実の中に展開する農家の土着技術を尊敬しなければ成立しない話だ。BMW技術は、農家そのものを活性化させる優れた技術だと感じた。

小さな田んぼの循環が地球の大きな循環の要を握っている=完全循環型の暮らしは可能か
田中一作氏の実験
 私は、これまでずっと考え続けていた。排出ゼロの完全循環型システムなんて本当に可能なのだろうか?これまで多くの一見、ゼロエミッションというまやかしのシステムを見てきたが、田中一作さんの住宅というより、暮らしそのものは本物だった。かねてからエコトイレは、莫大なお金がかかり、臭気が完全に消えないなどの問題がどうしても気になっていた。また、微生物が分解した後にそれらが畑や、田んぼで肥料として生かされない限り循環は途切れてしまっていることに重大な問題を抱えていると疑問を持っていた。
 それらの疑問が、田中さんの小さなひとつの家庭で行われている現実としての循環システムを垣間見ることで、すべてが解消したのだ。完全なるゼロエミッションは、むしろそれに留まるのではなく、積極的に循環型に変化し、完全な循環システムへと完成する。そんな究極の住宅なのである。
 田中さんの家では、トイレ、台所、洗濯などの家庭雑排水と生ゴミの大部分をBMW技術を使った水浄化プラントで処理をする。また、それだけでなくそれを田んぼや鶏の飲み水として循環して使うのである。しかもこの浄化システムは、田中さん夫妻と清水さんを始めとする地域のひとびとが作った手作りシステムだというのだから驚きである。田中さんの家のシステムは、清水さんを始めとする地域コミュニティーの復活を伴いながらその豊かさを確実に増している。
 田中さんの裏庭には田んぼがある。水質浄化システムで作った生物活性水を使って十坪ほどの餅米の田んぼを作っているのだ。家庭雑排水からできた生物活性水はいったん小さな水槽に入れられそこから田んぼに引き込まれている。家庭雑排水が流れ込む浄化槽には、モノアラガイやサカマキガイが大量についていて有機物を食べていた。見事に育った、有機の田んぼにはヒメゲンゴロウやミズカマキリなどの水生昆虫、フナやタモロコ、モツゴなどの魚影が多数見ることができた。なにより、稲の茎が太く、理想的な有機の姿をしていた。これが地元で採れた岩石と、地元の土着菌と家庭雑排水の有機物からできている循環の究極だとすれば、BM技術協会の礒田有治さんが言う現代の「肥溜め循環理論」だということが深く理解できる。この延長に現在では、逆に売電までしている太陽光発電システムや、地域のコミュニティーの復活に奔走する姿も重なって見えてくるのである。
 BM技術協会の方々の理想に、水源から河口まで、地域流域の土と水を再生するミクロコスモス構想が壮大な計画としてあるが、この考えの基本をなすのがこの小さな田んぼを含む小さな完全循環システムの発想から生まれているということを実感した。「小さな田んぼでの循環が地球の大きな循環の要をにぎっている」BMに関わった人々の最終的な到達点が地球の生態系の再生そのものだとすれば、それはもっとも健全な技術のひとつであることは確かである。

水田農業には、経済価値で計り知れない豊かさがある
 農村地域で適切な利潤を得ながら人間らしい豊かな生活を行うためには、地域の農家の生物多様性を生かした持続可能な技術がなければ成立しない。また、自然を直接相手にしている一次産業である農業は、それだけ自然の驚異から受けるリスクが高く、多くの自然災害の影響を受けやすいと同時に、健全な持続可能農業は、地域の景観を守り、生物多様性を育み、風景を作り出している。これらは、すべて経済効果には換算されることのできない外部経済と呼ばれるものであるが、このことに価値があるとすればそれを支えるシステムが必要となる。それが環境直接支払いの概念である。水田農業には、経済価値で計り知れない豊かさがある。これらを地域と都市住民が一緒になって支えるシステムが早急に必要なのである。BM技術協会のひとつのゴールと考えている水域全体の生態系の再生がこれを支える技術の一つであることは実感として理解できた。

人間もバクテリアも、その棲み場所
   つまり、生態系から見ることだな
・・・ヴェルナツキーは、地球の生命を「岩が分散したもの」と考えた
 わたしたちの生活は、農家の生活も、地域の生活も地球の大いなる物質循環の中にある。植物であれ、人間であれ水分を除いた乾燥組織の中に取り込まれている元素の量と、地殻の岩石中の元素量との間にはかなりの関係があることがわかっている。近年地質学者は、ロシアの科学者V・I・ヴェルナツキーの考えを受け入れるようになった。ヴェルナツキーは、地球の生命を「岩が分散したもの」と考えた最初の科学者である。当時は学説として科学者には受け入れられなかったが、つまり、無機質の岩石は数億年にわたって自らの配列を変えて、細菌へ、そして人間へとより複雑なかたちの生物に向かって自らが変化するものである。ということである。そして、人間もまたバクテリアによって土にそして、岩石に帰るのである。
 BMWの中に含まれるのは、特定の菌ではなく、原材料や菌体製造場所に棲む土壌微生物群が増えたものだという。調査分析では、通性嫌気性菌といって好気でも嫌気でも活動する菌が多いことが分かっている。通性嫌気性生物は、そのエネルギー獲得のため、酸素が存在する場合には好気的呼吸によってATPを生成するが、酸素がない場合においても発酵によりエネルギーを得られるように代謝を切り替えることのできる生物である。通常は細菌であるが、酸素の有無に関わりなく醗酵を行う菌(レンサ球菌,乳酸菌,酵母など)が含まれる.嫌気性か好気性かそれにこだわることはないとは言え、実際にBMWは曝気しているのであるから軽い好気性の状況にあるのは間違いない。酵素であれミネラルであれ、特定の種類のものを「農業資材」する考えをとらないというのがBMW技術の方針である。これが資材さえ多様であり、地域の土壌もそこに棲息する菌類も人間も多様であるとする考え方の基本が見えてくる。

生態系農法の低エントロピー生産技術のひとつであること
 BMWは生態系農法の低エントロピー生産技術のひとつであることと、そこに流れる地域に半分委ねるといった基本概念がアジアモンスーンの多様性を重視する概念とゆるやかに合致する。あとの半分の技術は、農家自身が現場に合った自分の工夫によって完成にすることが提唱されているのである。かえってこのような性格の技術だからこそ、農業そのものがおもしろくなってくる。もともと、農業は創造的で自由なものであったことを考えると、多くの借りものによって成り立った技術は、農家を解放せず、むしろ農業の豊かさを制限することになる。いわば民衆の技術になって始めて本来の農業技術としての豊さが見えてくるのである。農家から草取りの重労働を解放しようとして、かえって多くの環境問題を抱えることになった現代の除草剤の現状を考えてみれば、農業技術の持つ性格が見えてくる。地域の実態と共に改善される。こういった技術が、むしろ地域のコミュニティーの再生を行うことのできる技術である。
 地球環境の危機が叫ばれて、現代社会を支えてきた科学技術の在り方全般に反省が迫られている。先端技術がとめどない勢いで発展する一方で、時代や空間を遙かに超える生物多様性を生かした共生技術が、先住民族の知恵としてすでに完成している例は少なくない。江戸時代には日本全体にこうした地域に根ざした持続可能な共生技術が各地で完成の域に達していたことは、日本農書全集(全七六巻:農文協)を見れば明らかである。
 生命の進化から考えた生物学的共生概念で世界を考えたら現代の弱肉強食といったネオダーウイニズムとは、全くちがったものになっていただろうと、進化生態学者のエリザベット・サトリウス博士は指摘する。生物をその生態系において見るとき、そこには法則の多様性が本来つきまとうのである。生物の論理の共通性と多様性、一見合い反するこの両極端に対して節度を持って対応していきたいものである。
 今回の茨城の訪問では、あまりに当たり前のことを発見することができた。自分がいかに知らないかを実感した豊かな経験であったといまこの現実をかみしめている。


NPO法人 田んぼ 理事長 岩渕 成紀

Author 事務局 : 2007年11月01日14:41

「有機認証取得がはじまりました。」第2回  【AQUA191号】

BM技術協会会員の動向
有機認証取得がはじまりました第2回
 (財)夢産地とさやま開発公社 理事 山本 優作さん

食品への安全性が揺らぐ事件が国内外で相次いで発生する中、大手スーパーや食品メーカーが、消費者に「安全・安心」を訴えるため、有機農産物の販売の拡大、有機加工食品の開発に本格的に乗り出そうとしています。しかし、現在、国内の有機農産物生産は、全体の一%にも達していません。今後、大手スーパー間、また、産直を中心に安全な農産物を売り物としてきた生協等を中心とした流通間で、国内外の有機農産物、有機食品を巡っての動向が注目されています。一方、昨年、有機農業基本法が制定され、これに基づき、国や各県では、基本施策の策定や調査作業に入っています。
BM技術協会では、これまで、自然生態系の保全・回復を目指し、資源循環型の農業技術の普及に取組んできました。二年前から会員の各産地で取組まれている~自然学を実践する~「土と水の学校」有機栽培講座では、BMW技術を活かし、有機栽培技術の確立を図ろうとしています。
前号から有機農業に取組み、有機JAS認定を取得している協会会員・産地にJAS認定取得の経緯、現在の「有機農業」を巡る動きについて、インタビューを始めました。第二回は、高知県・(財)夢産地とさやま開発公社理事の山本優作さんです。
(まとめ:礒田有治)

―――今年、有機認証を取得されたそうですが。

山本 全部で一・二ヘクタール取得しました。認証が下りたのが今年5月です。記録はずっと付けていたし、一九九五年から、一〇年以上、農薬も化学肥料も使っていません。有機認証は、記録さえあれば取れます。ただし、一七品目の作物を作っていたから、作成する資料が大変でした。例えば、米だけなら米だけで良い。ところが一七品目あったら、一七の記録が過去二年間の全部要るわけです。竹林の場合は、永年作物なので、三年間の記録が要るので、それが結構大変でした。全部で提出した書類が二百枚以上ありました。それがこたえました。

―――有機認証を取得してみて、どのような感想をお持ちですか。

山本 認証を取ったということで外向きにアピールできます。一般の人はまだ有機認証(JAS)のマークを知らない、認証の意味も分らないというのが実態です。ただ生協の店などに出したら、結構反応があります。今までは、県外から買っていたが、認証のある野菜が並びだしたので、少々遠くても買いに来だした。そんな声は、ぽつぽつあります。高知に認証を取った農産物を販売する専門の店が今年、八月頃にオープンしました。「いつ出してくれるのか」という要請がありますが、今は、持って行く手間がありません。

―――昨年、有機農業基本法が成立しましたが、どうような意見をお持ちですか。

山本 国は、法律は作りましたが、これから基本計画を各都道府県で作っていかなければなりません。今後は、県レベルでどの程度のものが実際にできて、行政がどれくらい支援体制をできるのかではないかと思います。けれども、総じて行政は遅れます。とくに高知県では遅れています。その辺がどうなるかだと思います。あとはもう、生産者の方がどれだけ行政に対して働きかけができるのか。そして、どういう支援をしてもらいたいのか、提案をきちんとした形で上げて行けたらよいと思います。そうすれば多少は変わってくると思います。
僕は、前から言っているのですが、有機認証を取った人だけが表示義務があるのはおかしいと思っています。有機認証を取っていない人でも、どういう資材を使っているか、何回、農薬をかけたか、全部表示してほしい。そうすれば、われわれの物が優先して売れると思う。有機認証を取っていない人はそういうことをしない。例えば、僕はショウガを無農薬で作っているが、高知県では一五回まで農薬の散布が認められている。どういう農薬を何回使ったか、このショウガは、栽培期間中に一五回使ったとか。そして、一般栽培では、今も、土壌消毒に臭化メチルを使っています。「作付前に臭化メチルを使い、作付期間中に一四回、農薬を散布してできたのがこのショウガです」と言い、「こちらは無農薬です」と言ったら、絶対に、無農薬の方が売れると思います。だから、本当に共通の土俵で勝負するのであれば、全部の作物にそういう表示をしてもらいたい。

―――外観は、一緒ですからね。

山本 そうです。そこまで行かないと本当のものにならないという思いがあります。

―――大手スーパーなどが、有機認証農産物の取り扱い拡大や、有機食品の開発を進めていることについては、どうお考えですか。

山本 基本的には良いことだと思います。しかし、量販店で認証があるから高く売るというところはあまりありません。僕のところでは、大豆を作るために虫を何万匹も取る等、とても手間がかります。豆腐を一丁いくらで売ったらいいかを計算したら、一丁五〇〇円で売らないと、コストが合いません。普通の豆腐は、今安いので一二四円ほど、高いので一四〇円くらいで売られている。そんな値段では全然、合わない。だから、あとは価格の問題かと思います。
大手に限らず量販店がコーナーを設けて販売するということは、一般の人々の目に有機認証JASというものが触れる機会が出てきていることだと思います。今高知の量販店でもJASの農産物が並んでいる傍にJASとは何かという説明がしてあります。そのことによって皆がJASを認識するきっかけになると思います。普通の農薬を使った農産物とJASとか、JASではなくとも無農薬で作った物を比べた時に、無農薬だから物が悪いでは通らない時代です。だから、無農薬の物でも一般に栽培したものと変わらないくらいの品質でないといけない。そこまで仕上げるには手間がかかる。手間がかからない物もあります。例えば蕎麦などは一般の物とまったく変わらない。農薬も要らないが、きっちり土作りができた畑であれば大丈夫です。他に、この地域で言えば四方竹も孟宗竹も大丈夫です。作る物を選択することが大事です。

―――山本さんご自身の有機農業の取り組みの経過や、今後のあり方をお聞かせください。

山本 有機農業は、とさやま開発公社を立ち上げた当時から、高知の生協組合員から安全・安心な物を提供してもらいたいという要請で始めました。それから、BMの技術を導入した段階で、良い堆肥を作って栽培していけば、それなりの物ができるだろうという思いがありました。
土佐山は、鏡川の源流の地域にあたり、高知市民の水瓶になっています。ここから高知市民の飲料水が行きます。そこで化学農薬や化学肥料を垂れ流していけば、市民に理解してもらえないのではないか、という思いがありました。源流で市民に理解してもらえる農業を展開していく必要がある。合併する前でしたから、高知市の水道代に一メーターにつき、一円上乗せすると、億の財源ができるので、それを土佐山に還元してほしい、と前の市長に僕は言っていました。そのようにお互いが共存しあっていかなければならない。これだけ環境の問題が言われている時代だから、可能な限り全体として有機に切り替えていく必要があるのではないかと思います。
もう一つは、土佐山には柚子があります。柚子は今、土佐山で一番販売高の大きな作物です。キューピー・マヨネーズと高知の大手の販売会社である旭食品がうちの柚子を全部購入しています。それら両社からJASを取ってほしいという依頼がありました。
今、JASを取る方向で話を進めています。しかし、JASを取るのに三年間かかります。すぐ取れるところもありますが、とりあえず、誰かが取っていく。JASを取るために何が必要か、それは自分が取らないと分らない。とりあえず自分がJASを取って、依頼を受けている柚子がどこまでいけるかが課題です。
キューピー・マヨネーズも旭食品もJASの認証のある物が将来絶対に売れるという見通しがあるので、両社からJASを取ってほしいという依頼が来ているのだと思います。一般栽培からJASに切り替えて、例えば、一般栽培の時に百万円取れていたとします。彼らは、今年JASというか、そういう栽培法に切り替えたために七〇万円しか取れなかった場合、残りの三〇万円の所得保障をしようとまで言っています。新たに植えるところは苗代も出していいと言う。向こう五年くらい収入がないから、所得保障してもいいとも話しています。一定のものをきちんと示したら、取組んでいく農家もいるのではないかと思います。

Author 事務局 : 2007年11月01日14:37

「やはりBMの力は凄い」 【AQUA191号】

 八月二四日、トキワ農場の新鶏舎の建設を関係者一同で祝った日の出来事だった。BMで飲水改善をした水を飲ませることによって感動した平成六年一〇月のとある日を改めて思い起こした。

BMに取り組んだのは、平成六年の四月からだったと思う。平成五年のBMW技術全国交流会で、大分県グリーンファーム久住の荒牧さんの『白身で黄身が持てる卵』との出会いから待ちに待ってようやくBMシステムを導入した。飲水改善・生物活性水作りという一連の流れの中で、約半年かけて雛から育て、その雛から生まれた卵が、荒牧さんのような卵を作り出すと確信し、事実その通りになった、平成六年一〇月、トキワの卵がBMの卵になった日だった。
今年(平成一九年)の夏は、全国的な猛暑、青森も暖冬に始まり冷夏の様相を呈していたが、一変しての猛暑、我が地方には不向きと言われていた、飼料米「べこあおば」の穂も実り、豊穣の秋を迎えようとしている八月も末のこの時期に、気温三〇度を越える中で、この出来事が起きた。
トキワ農場の場長の赤坂が導入当初から飲水改善をした水を飲ませた「後藤もみじ」の産卵率が九五%(通常は九二%程度)となり、もう一つの「ボリスブラウン」も九六%の産卵率であるとの報告を受け、やはり、良い鶏舎でよい管理、しかも飲水改善をしているのでこのくらいの成績は出るのか、などと一人悦に入っていたが、せっかく鶏舎メーカーの社長もいるのだから久しぶりに卵を割ってみようと思い、赤坂場長に「もみじ」と「ボリス」の卵を一〇個ずつ持ってきてもらい、触ってみた。手に取った瞬間ずしりと来た。あわてて卵を割ってみると、案の定すごい盛り上がりだった。直ぐに割り箸を準備し、箸でつまんでみた。とにかくすごい、いくら揺すっても、白身が壊れない。久し振りの経験に手が震えたが、それでも白身が崩れない。黄身を箸からゆっくりと離していくと、見事に白身で黄身がつかめた。思わず、赤坂場長に「この卵選んできた?」と聞くと、赤坂場長は、いとも簡単に「いいえ、ただ鶏舎から集めてきただけ」との返事。何個も割ってみたがどれも同じだった。
今まで、何度も卵を割っては白身で黄身を持つという挑戦を繰り返してきたが、正直一〇個中三個から五個程度、しかもその日生まれた卵で、かつ涼しい時期にという、ある意味限られた条件の中での出来事であったように思える。しかも今回の鶏舎は、環境は整っているとはいえ、開放の直立六段のシステム鶏舎(和歌山県に本社のあるヨシダエルシス製)で、良い成績は、出るとは聞いていた。また、実際に見に行って、何度も確認をした。しかし、なかなか、信用は出来ない。私自身は、平飼いが一番良いと思っていた。しかし、事実である。
改めて、一日置いた卵でやってみたが、すべて掴めるし、要領さえ得れば、誰でも出来る。
これで確信した。BMは凄い。これは、鶏舎が凄いのか、BMが凄いのかと、ヨシダエルシスの社長に聞いたが、「このような卵は、見たことがない」との返事だった。ということは、やはり、BMが凄いのだと今更ながら、確信した。
やはりBMの力は凄い。

BM技術協会理事長 石澤直士

Author 事務局 : 2007年11月01日14:32

 
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