フィリピン北ルソン・ネグロス島視察調査報告【AQUA206号】

フィリピン北ルソン・ネグロス島視察調査報告~BMW技術の再生に期待を込めて
㈱匠集団そら 秋山 澄兄

 昨年一一月にNPO法人APLAの依頼を受け、㈱匠集団そらでは、一二月一四~一九日にフィリピン・ネグロス島とルソン島北部イザベラ州の視察調査を行いました。
 視察調査の目的は、①ネグロス島のマスコバド糖製糖工場の排水処理施設改善②ルソン島の有機農業へのBMW技術の具体的活用方法――を検討するためです。

 フィリピンに到着し、最初にネグロス島バコロドの生物活性水のミニプラントを視察しました。ネグロス島には、以前、ツブラン農場とカネシゲファームに生物活性水プラントが導入されていましたが、ツブラン農場は閉鎖され、カネシゲファームのプラントも停止状態にあります。このため、APLAフィリピン担当デスクの大橋成子さんがバコロドの自宅で生物活性水のミニプラントをつくり、BMW技術の灯を守ってきました。
 生物活性水は、大橋さんの自宅の裏庭にいるアヒルや鶏の飲水、家庭菜園栽培等に利用されています。大橋さんの夫、アンボ氏(マヨン村村長)は「生物活性水を使い始めてから、庭の鶏達の臭いがほとんどなくなり、卵も水っぽいものから黄身・白身ともにしっかりとしたものになりました。また、孵化率が上昇し、またたくまに羽数が増えていきました」と話します。
 匠集団そらの星加と秋山で、この生物活性水の点検計測を行い、プラント維持の為の指導を行いました。点検した結果、生物活性水は良質なものができていました。
 アンボ氏が村長を務めるマヨン村では、各家庭で飼育している豚の悪臭で度々喧嘩になることが多く、見かねたアンボ氏が生物活性水を豚舎に散布した結果、悪臭がおさまり、今ではほとんど喧嘩も起こらないと話していました。
 次に、バコロドから車で南へ約一時間のところにあるATMC(オルター・トレード・マニュファクチャリング・コーポレーション)のマスコバド糖の製糖工場を訪問しました。
 ATMCでは、現在、製糖工場の排水処理が課題となっています。工場排水は、主にサトウキビを絞る時に使用する機械と、製糖する時に使う機械の洗浄水等で、ATMCは昨年の環境省の調査で、工場の排水が準値を大幅に上回っていると指摘を受け、その対策が急務となっています。
 フィリピンでは、以前は国の排水基準が無いに等しい状態でしたが、現在は日本とほぼ同じ基準を定め、フィリピン環境省が製糖工場をはじめ、全国の工場排水を調査し、厳しく取り締まりを始めています。そして基準値を守れない工場に対しては操業停止の処分も課せられているそうです。この対策として国から提案されているものは、非常に高いコストがかかるもの(酵素・微生物資材の購入)で、年間を通すとよほど大きな工場でなければ対応はできないと聞きました。
 ATMCでは、指摘を受ける前までの排水処理施設は、沈殿槽だけのもので、その上澄み水を小川に放流していました。
 現在はカネシゲファーム(現在稼働停止中の生物活性水施設)から曝気システムを移動し、曝気を始めていますが、いまのところ排水基準を満たしていません。
 今回は現地で水質計測、排水ラインの調査・確認を行いました。今後、匠集団そらからBMW技術を活用した対策を提案し、導入に向けての話し合いを進めて行きます。
 マスコバド糖製糖工場からの帰途、カネシゲファームに立ち寄りました。故兼重正次氏(一九九五年逝去。当時、BM技術協会常任理事、グリーンコープ事業連合専務理事)の記念碑は今でも奇麗に管理されていて、記念碑の周りに植えられた木々も大きく成長していました。APLAでは今後、カネシゲファームの再生に向けて話し合いが始められているとのことでした。
 ネグロス島での視察調査を終え、マニラを経由して、次の目的地ルソン島北部のイザベラ州、ヌエバビスカヤ州へと向かいました。この地方は五つの先住民族の自治区であり、世界文化遺産にも指定されているコルディエラの棚田があります。
 広大な田んぼとトウモロコシや大豆の圃場が広がり、水と緑が豊かな印象を受けました。
 はじめに、農業協同組合CORDEV(注1)の代表であるグレッグ氏の案内で、イザベラ州カワヤンにある農地改革省の敷地内にある堆肥センター建設予定地を訪れました。
 CORDEVでは農地改革省から土地を借受け、堆肥センターを含めた有機農業の実験農場を作る計画を進めています。
 近年、フィリピンにおいても有機農業に対する関心は高まっていて、この地域でも二〇〇ヘクタールの水田で有機栽培が行われています。
 グレッグ氏は「今までは有機堆肥を購入していましたが、今後は自分達で未利用資源を利用した有機堆肥作りを目指しています。そこにBMW技術を導入することが可能かどうか模索しています」と話します。
 農地改革省の敷地内に、現在、トウモロコシの残渣とモミ殻燻炭が運び込まれており、トウモロコシ残渣は自然発酵していました。
 農地改革省を後にし、次に向かったのは、車で南へ三時間、ヌエバビスカヤ州ソラノにあるグレッグ氏の自宅です。
 ここには大橋さんの自宅と同様に、生物活性水のミニプラントが設置されたばかりで、プラント維持と管理方法について、同行したアンボ氏も参加してBMW技術のミニ学習会が行われました。グレッグ邸の庭には豚や鶏、山羊などがいました。
 グレッグ氏はできあがった生物活性水を家畜の他に、米作りやトマトの栽培などで実験をしてみると話していました。
 BMW技術がCORDEVの活動を支え、この地域の有機農業に大きく役立つことを熱望するとともに、今後は時間をかけてBMW技術がフィリピンに根付いていけるよう、BM技術協会、匠集団そら、APLA、CORDEVら関係団体と互いに協力し、取り組みを成功させていきたいと考えています。
(注1)CORDEV(Cooperative For Rural Development)。地産地消をめざし、ルソン島北部のバナナ、果樹、コーヒー、カカオ、米、野菜、養豚等の八つの生産者協同組合が連携した農村発展のための協同組合。

Author 事務局 : 2009年03月01日20:34

バックナンバー 2005年 157号~168号

2005年 AQUA 見出し一覧

No168 2005年12月号

BMW技術の新たな可能性をさぐる
 ~第15回BMW技術全国交流会報告~

◆WORD ECOWATCH
 日本における遺伝子操作米の科学的概要と問題点
◆土作りから始まる村作り
 フィリピン・ネグロス島でBMW技術普及に奮闘
◆「新潟県の米と自然を守る連絡会」からの報告

No167 2005年11月号

~ミクロコスモスへの第一歩~
  農業集落排水施設で悪臭防止実験を実施、消臭効果を確認
   -青森県藤崎町常盤地区農業集落排水施設-

◆農産物を介して生産者と消費者が直接対話 
  やまなし自然塾 東京・銀座で公開講座を開催
◆WORD ECOWATCH
 パンデミック・鳥インフルエンザ汚染拡大と野鳥の問題を考える
◆経験的な知識を科学的な理解へ
  ~自然学を実践する~「土と水の学校」第三回報告~
◆BM技術協会・(株)匠集団そら ホームページリニューアル
◆ポークランドがふるさと企業大賞を受賞

No166 2005年10月号

上海同済大学訪日団がBMの現場を見学
◆クローズアップ 第15回BMW技術全国交流会
◆サステナブル(破綻なき)食物システムへの施策はどうあるべきか
◆BMW技術が支える牛と子供たちのふれ合い
◆タイ・バンラート郡のBMW技術活用現場を訪問

No165 2005年9月号

自立した農業と豊かな地域を目指して 農産物直売所「食彩ときわ館」
◆第15回BMW技術全国交流会~BMW技術の新たな可能性をさぐる~開催案内
◆WORD ECOWATCH 大変貌するブラジル農業の犠牲と課題
◆BMで環境に負荷を与えない暮らしを実践
◆「俳句会」「写真展」も行なわれた収穫祭 茨城BM自然塾

No164 2005年8月号

各作物別栽培課題に実践指導〜「土と水の学校」第2回学習会開催
◆WORD ECOWATCH 世界を巡った環境工学者が辿り着いた「夢農場」(2)
◆2004年度活動報告、2005年度活動方針・役員紹介

No163 2005年7月号

四万十川の豊饒が生む創意ある活動
◆WORD ECOWATCH 世界を巡った環境工学者が辿り着いた「夢農場」(1)
◆子供達の食育を続けて 広がる「稲作り体験、れんげ畑祭り」の輪

No162 2005年6月号

中国の上海、崇明島に生物活性水プラントが完成
◆食の大切さを知るイベントに茨城BM自然塾が取り組む
◆WORD ECOWATCH 狂牛病をめぐるカナダとアメリカのカウボーイの相克
◆二年目を向かえた松井ファーム-農と暮らしが一つになる充実感があふれて
◆「土と水の学校」in秋田 「早く実践してみたい」農業のおもしろさを再確認

No161 2005年5月号

栽培時術の向上を目指し、各地で学集会を展開~自然学を実践する~「土と水の学校」開催
◆韓国・緑色平和生協が来日 -BM技術協会会員産地、生協を見学
◆WORD ECOWATCH 遺伝子操作された森林の問題(2)
◆書籍紹介『有機栽培の基礎と実際~肥効のメカニズムと施肥設計』
◆対外交流 日中経済交流の動きへ参画して
◆ファーマーズクラブ赤とんぼの実践 -子供の躍動が生まれる環境を提供して

No160 2005年4月号

集落の水を再生して地域へ還元しよう -農業集落排水処理施設改善事業に向けて
◆初の韓国BMW技術交流会へ日本から合流 -多彩な発表者の息吹きが暑く・・・
◆WORD ECOWATCH 遺伝子操作された森林の問題(1)
◆よい堆肥の成熟がなって
◆松井農場の生物活性水施設稼動へ
◆昨年の全国交流会の記録集が完成

No159 2005年3月号

◆集落排水処理施設へBMW技術導入
◆私とBMW技術を回顧して 秋田忠彦
◆WORD ECOWATCH 京都プロトコル分析:国境なき希望が国境あるエゴで曇る
◆雪の福岡でBMW技術学習会
◆日中経済交流促進議員連盟会長 北沢議員と会談

No158 2005年2月号

◆未来を取り込むポークランド~JAS認証獲得とバイオベットの試み
◆WORD ECOWATCH GM食品の挿入遺伝子とアレルギー発現性の問題
◆遼遠なる大地に展開する中国企業団との技術導入の始まりが・・・
◆ターミノロジー解説:バイオベットとは

No157 2005年1月号

◆会員の皆さんと議論の共有を 2005年に向けて BM技術協会会長 長崎浩
◆「農」本来の姿を求めて 2005年にむけて BM技術協会理事長 石澤直士
◆新年の挨拶 サイアムタクミ取締役社長 バンジュート・ソムワン
◆東北アジアに吹く生命と平和の風 韓国BMW技術協会会長 チョン・ホンギュ
◆WORD ECOWATCH マラウイで村民が希望の種子を蒔く
◆新理事紹介

Author 事務局 : 2005年12月01日17:45

 
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