エネルギーに翻弄される農産物と理想のバイオヒュエル 【AQUA191号】

石油と穀物の値上がりが食品価格を突き上げる

 消費者レポートによれば、ニューヨークで典型的朝食のボウル一杯にいれたシリアルとミルクは今約49セントになる。去年は44セントほどであった。来年には56セントになる見込みが強い。これは一般の家族には厳しい状況である。この波が寄せるような食品価格上昇の裏には、重油価格の上昇、中国の経済ブーム、増大するバイオ燃料生産、がある。この苦境は地球的な規模であり、当分収まりそうな様子はない。市民の食品負担が全体に膨らんでいる主要因は、原料、包装、石油燃料がこの数十年間に比べてずっと高くなっているからである。食品価格の急騰は商品市場に辿って行けるが、その市場では農産物と石油の値段はこの数十年に比べ今年最高額になっている。重油は、ガソリンとプラスチック包装の価格を限定するのだが、この9月には空前の高値を出している。小麦の値段もまた記録的な高さを示した。諸物価の高騰は、各市場の短期の供給と需要に関連しているが、同じように供給商品を誰が生産して、誰が消費していくのかの長期的な変移にも関連している。中国での急成長、さらにはブラジル、ロシア、インド、他の発展途上国での急成長は、原材料の厖大需要を捲き起こしている。この大型需要は、産業や工場や自動車を駆動させるエネルギー、社会の基礎施設を築く金属類、家畜と人間を食べさせる豆類と穀類を含んでいる。中国はこの10年で世界の菜種油の50%を輸入するようになっていて、世界最大の輸入国になっている。大豆のような油脂種子から作られたオイルは、包装食品で広く使われている。他方トウモロコシは高果糖コーンシロップに使われている。これはよくある甘味料で、ソーダからパンまであらゆる食品に使われている。

食用作物の燃料への転用

 中国の菜種油需要はもう1つ別の動向を反映している。世界は燃料を作るために食用産物の多くを転用させている。合衆国と中国で生産されるトウモロコシは、ガソリンに添加されるエタノールに変えられている。ヨーロッパはエタノールのため多量の小麦を転用し、そしてバイオディーゼルのため菜種油を転用している。これは普通のディーゼル燃料と混合される大気汚染が少ないとされる燃料になる。ブラジルはエタノールを作るためサトウキビ生産を拡大させている。合衆国でのエタノール産業からのトウモロコシ需要が今年トウモロコシ価格を急上昇させている。これがドミノ効果を始動させて、食品流通チエーンに価格上昇を引き起こしている。それは家畜飼育業者、食品メーカー、小売り業者がコストを回復しようと必死になって対応するからだ。 トウモロコシ価格は今年の莫大収穫の予測があるので、当然とされる高値上がりからはずれている。しかし物価は農業市場全体のインフレーションのため歴史的に上がったままである。2年前に約2ドルで売れた1ブッシェルのトウモロコシは今日およそ3.50ドルになっている。

食品物価のインフレーション

 今年起きた需要のテクトニック的地殻変動は短時期の供給制限を引き起こし、さらにインフレーションを悪化させた。原材料の複数市場はしばしば地理的にも相互にもリンクしているので、一市場での問題は別の市場に広がっていく。大豆で見ると、合衆国の農民がエタノール需要に応えるため、今年ずっと多くのトウモロコシを植えて、大豆生産には少ない面積を当てた。それは大豆の供給を絞ってしまった。今年初頭から大豆価格が40パーセントを超えて上昇した。大豆は1月の1ブッシェル7ドルから、1ブッシェル10ドルに今高騰している。ウクライナでの穀物不作が米国での価格上昇を急に起こす事になっている。この状況は雪だるま式にふくらんで行っている。小麦の収穫が世界で次々に大雨や旱魃で被害を受けると、外国のバイヤーが買い付けに必死で駆け回って価格変動が起きている。小麦の備蓄は世界的にこの26年で最低に落ちて、小麦価格が急上昇している。イタリアでは主要食のパスタの値段が上がり、消費者団体が先月上昇する価格に対して象徴的なパスタ抗議を街頭で演じたりした。1ブッシェルの小麦が最近9.50ドルまで上がった。これは小麦が1ブッシェルおよそ5ドルした今年初頭のほぼ90パーセントの高騰である。米国労働省(The Labor Department)は食品インフレーションが年4.2パーセントで進んでいて、これは全体的なインフレーション率の2倍であると報告している。米国全土では、ミルク価格は今年の始めから18パーセント上がっている、他方卵は1年前に比べて35パーセン値上がりしている。米国農務省は全体的食品価格インフレーションが3パーセントになり、2008年には4パーセントになると見積もっている。石油や燃料問題が農業基盤、食物生産、市民生活不安の根底に蹲っている。


理想バイオヒュエル「ジャトロファ」への期待

 エネルギー問題の解決なしには人類の幸福な活動は難しい。「ジャトロファ」《Jatropha》というバイオ・エネルギー源が最も持続可能な選択として登場してきている。公式名でいえば、「ジャトロファ・クルカス」《Jatropha curcas》は中央アメリカを起源とするユーフォルビア(euphorbia)科の有毒な低木雑草である。バイオエネルギーとしての主要なセールスポイントは、余分な、侵食された土地でも育ち、旱魃にも強く、指先程の実にかなりな油脂分が含まれている。放置された荒地でも繁茂する「ジャトロファ」は食物栽培をする土地と競合する事がなく、多量の水も、肥料も、殺虫剤もいらないという。だから、トウモロコシ、菜種油、大豆、ひまわり、他の生物燃料生産に転用される食用作物とは違い大きな利点を持っている。「ジャトロファ」は油量生産が高く、低油性効率の既存バイオ作物を凌駕して、さらに食用にはできないので、食用産物の値段を吊り上げる事もない。「ジャトロファ」はまた油抽出効率が高いサトウキビやオイルパームをも退ける優位性を持っている。サトウキビやオイルパームは自然の草地や森林を伐採した大規模プランテイションが必要で、大気へメガトン規模の温暖化ガス放出を引き起こしている。だが「ジャトロファ」は余分とされる荒地でも栽培され環境への負担がないと主張されている。

「ジャトロファ」列車に競って飛び乗る

 前インド大統領、アブドゥル・カラム博士(Dr. Abdul Kalam)は「ジャトロファ」バイオディーゼルの強力な提唱者である。彼はインドの6千万ヘクタールを越える利用可能な野生地の内3千万ヘクタール以上の土地が「ジャトロファ」栽培に適していると2006年のスピーチで訴えた。最近ではインド国立銀行が「ジャトロファ」栽培をさらに後押しする承諾覚書に署名をした。これはインドの地方農民に総額13億ルピーになるローンを与えるもので、その返済は収穫した「ジャトロファ」種子の買い上げ金で余裕をもってできることになっている。またインド鉄道はエンジンを動かすディーゼルに混ぜた「ジャトロファ」オイルを使用して、実際に大成功を収めている。インドの多くの州も「ジャトロファ」栽培に飛びついている。インド地方開発省(TheMinistry of Rural Development)はインド全体で50万から60万ヘクタールの「ジャトロファ」栽培地が既に存在していると推定している。これはインドだけの話ではない。中国はすでに2百万ヘクタールの土地で「ジャトロファ」を栽培していると述べている、そして2010年までには中国南部の諸州でさらに1千百万ヘクタールに「ジャトロファ」を栽培する計画であると発表している。ビルマは数百万ヘクタールに「ジャトロファ」を栽培する計画を明らかにしている。フィリピン、さらにいくつかのアフリカの国が独自の大規模な「ジャトロファ」プランテイションを開始させている。これまでのところマラウイに20万ヘクタールの「ジャトロファ」栽培地があり、ザンビアには1万5千ヘクタールがある。

不確定な基礎からの成果

 バイオディーゼル作物としての「ジャトロファ」の可能性には多くの不確実さがある。「ジャトロファ」という植物は一度も「飼い慣らされた」事がない。その収穫は予測可能ではない、最適栽培条件はまだ確定されていない。さらに大規模栽培の潜在的な影響は未知である。インドの「塩分海水化学物資中央研究所」所長のプッシュピト・ゴーシュ(Pushpito Ghosh)氏はこの「ジャトロファ」を10年以上研究してきた。彼は「ジャトロファ」栽培への性急な押しよせが「非常に非生産的な農業」に到る危惧を表明している。数年前に国際連合開発プログラム (The United Nations Development Programme)は劣化した土地に、「ジャトロファ」を実験的に植えつける為に資金を供給した。「ジャトロファ」はなんとか育ってきたが、種子油の収穫高は公表されたヘクタール当たり300リットルの数字からはかけ離れたものであった。2003年、自動車会社「ダイムラークライスラー」、「ドイツ投資開発会社」、インドの「科学産業研究評議会」、「ホヘンハイム大学」が国際事業団を組んで、「ジャトロファ」油をバイオディーゼルに変えるため必要な「エステル転化反応プロセス」を開発する目的でゴーシュの研究チームに資金を提供した。ゴーシュの研究チームが作りだした「ジャトルファ・バイオディーゼル」はヨーロッパの基準を充分に満たす良品質であったので、菜種油、ひまわり、大豆から取ったバイオディーゼルを凌いだ。ゴーシュの夢はエステル転移反応プロセスを経済的に貧しい村でも使用できるものにする事であった。インドに点在する60万の村の貧しい約8万の村は頼れる燃料も電気もなかった。ゴーシュのチームはまもなく村落や小規模産業での使用に十分な1日250リットルのバイオディーゼルを生み出す「エステル転化反応ユニット」を作りだした。

不確定な未来と欠けている研究

 インドに於けるこの希望作物の植えつけの大部分はまだ未熟で、最高生産性には達してはいない。「ジャトロファ」研究の先駆者ゴーシュ氏は、「ジャトロファ」の大量栽培の問題が十分に理解される前に、あまりに多くの助成金が農民に支給されている事を心配している。彼は、農民に「ジャトロファ」を換金作物として他を捨てて植えることに賭けずに、むしろ従来の栽培農作物に平行させて植えるように助言している。インド「プランニング委員会」が1ヘクタール当たり1300リットルの油生産を見積もっているのだが、ゴーシュ氏はその予定数字の半分を見積もっている。石油会社「D1 Oils Indian」のオペレーションは収穫量に関する研究に焦点を合わせていて、多くの「ジャトロファ」の品種をテストしてインドの多様な気候風土でどれが最も良く育つかを調査している。しかしこの研究もまだ断片的で、全体的な取り組みになっていない。バイオディーゼルの企業家、ルイ・ストリドム(Louis Strydom)氏は、ケニアで大規模な「ジャトロファ」バイオディーゼルプランテーションと精錬所を創立するのに奮闘してきてこう悟っている。世界で小規模農民による補助的な作物として「ジャトロファ」を栽培してバイオ燃料を生産するのは生活できる程度に成り立つ経済モデルではある。しかし大規模な商業的生産になるとそれは別の事業になる。1つには、「ジャトロファ」の高生産性と年多数回収穫は誇張されすぎている。それらが可能になるのは、最適条件での降雨と土壌質、殺虫剤と肥料の使用、があって始めて可能になるものである。ゴーシュ達が、理論的に理想的バイオエネルギーとされる「ジャトロファ」でも用心深い対応を推奨しているのは妥当だといえる。今最も必要なのは、「ジャトロファ」が大規模栽培プランテイションになった時の生態的なそして社会経済学な影響に関する調査研究である。

参考資料:
◎Fuel, Grain Prices Spur Food Price Hikes - washingtonpost.com
By Lauren Villagran October 10, 2007
◎Jatropha Biodiesel Fever in India
By Dr. Mae-Wan Ho  ISIS Press Release 15/10/07
◎Holding the seeds of the future
By Terry Slavin The Guardian Weekly September 28,2007

Author 事務局 : 2007年11月01日14:43

 
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