通常の化学物質も胎児や幼児の未来に危機を潜ませる 【187号】

子供を守る宣言:通常の化学物質も胎児や幼児の未来に危機を潜ませる

187eco2.jpg
187eco1.jpg
環境保護に関心が深い世界の主導的科学者達が多数国際会議に集まり、胎児、赤子、幼児、子供の生命の安全について強い言葉を使った警告を発している。母体の子宮に達した有毒物質に胎児が露出される事は、胎児のその後の人生で健康上の問題を起こすことになる、と、科学者達が国際会議で警告宣言を発している。子供が人生の先で直面する潜在的な健康障害には、糖尿病、注意欠陥障害(attention deficit disorders)、前立腺癌、生殖能力障害(fertility problems)、甲状腺障害、さらには肥満問題が挙げられている。

母体の子宮からはじまる危機

 世界の5大陸から結集したおよそ200 人の科学者達によって出された警告は、辛抱強い多くの医学的研究によって積み上げられた証拠に依拠したもので、討議に参加した科学者達の合意を受けて発されたものである。持ち寄られた多くの研究データは、生命が子宮内で発展する間、さらに生まれて数年の間に、有毒物質に露出される事が、その後長期に亘って被害を受けやすい状況を生んでいる事を証拠づけている。この会議は北大西洋に浮かぶフェロー諸島(The Faroe Islands) で開催され、毒物学者、小児科医、疫学者、他の関連専門学者達が集まってきて、胎児と子供の健康に関して研究発表を行った。彼等の深刻な警告は、胎児と新生児が種々の有毒物質に遭遇すると、主要臓器と機能の成長が歪められるという発見から出ている。その要点は、"Fetal Programming"「胎児プログラミング」と呼ばれるプロセスの中で、暴露された子供達はその後の人生で病気に弱くなり、そしてさらに不安を強める事は、有毒物質暴露で異変を受けた人間の特質が次代の子供達や孫にさらに伝えられる潜在性が示唆されている事である。

 この科学者達のステートメントは、普通はない事だが、子供達への危害を抑止する行動を起こすよう国際的に呼びかけを行なっている。今回のアッピールは、ハーバード大学と南デンマーク大学のフィリップ・グランジャン (Philippe Grandjean) 博士とファロズ病院システム(The FaroeseHospital System) のパル・ウエイヘ(Pal Weihe) 博士によって率いられている。グランジャン博士とウエイヘ博士は水銀に暴露される子供達を20年以上追跡調査してきた業績を持つ、子供の安全保護を課題にしてきた著名な科学者である。

 この警告声明に対する多くの政府機関と産業界の団体は、特に米国では、消極的かもしくは否定的である。その典型的な静観する弁解は以下のようである:幼い生命にとってたいへん有毒な物質の残留が空気、水、食物、消費製品の中にあるという恐れを裏付ける「人間の証拠」はほとんどない、あるいは皆無である。しかし多くの国の日常消費生活ではあらゆる面で化学薬品が侵犯している。例えば、米国では約80,000 以上の化学薬品が登録されている。この会議に結集した科学者達は、世界の政治や経済を主導する人達にこう督促している。科学的確証をもっと多く出せと要求する責任放棄の態度で応じるのは止めるほうがよい。そして世界の各政府が、有毒化学物質が胎児と幼児の成長へ微妙な変化を起こし、その後の健康な生活を損なう危険性を考慮に入れて、これまでの化学物質規制と過程を修正するように求めている。胎児と幼児の発達過程に有害な変化を生じさせる証拠がすでに出ている化学物質には、合成樹脂、化粧品、農薬中に存在する化合物(compounds)が含まれている。「多くの環境に放出された有毒物質へ人々があちこちで暴露されている今日の状況があるので、胎児と幼児への害を阻止する新らしい対策が必要である。子供を護るこのような防止措置をとるのに、個別の危険に関して詳細な証拠がでるまで待ち受ける態度は取るべきではない」と、この国際会議に結集した科学者達が発表した4ページにわたるステートメントの中で反論されている。

遺伝子表現への干渉

 科学者達は特に最新の動物研究が明らかにした以下の結果に危機感を持っている。それは化学物質が遺伝子の表現を変更させうることを示唆している。それは人々が病気に陥る遺伝子のスウイッチを入れたり、消したり、する事を左右させる危機である。DNA 自身が変更されることはないけれども、子宮内の遺伝子の誤発(misfire)は永続的効果になるかもしれない、それですべての次世代は病気になる大きなリスクを負うことになる可能性がある。「胎児や幼児期には発病への敏感性が高まるが、これらの時期に化学汚染物質の毒物暴露を受ければ、子供の時期に病気と障害を引き起こすことになり、さらには人生の全期間におよんでその傾向が続くだろう」、と、この警告声明の科学者達は結論づけている。

 「バーカー仮説」(Barker hypothesis)といわれるものが1992 年に英国の科学者によって提起された。この理論は人間の胎児は、初期の環境によって病気になるように「プログラムされる」と予見したものである。このバーカー仮説が、多くの動物実験のデータと若干の人間のデータが集積されてきて、立証されてきて、有毒物質露出に対しては現在十分な記録された証拠があるという結論に科学者達は達している。「これらの胎児期の多くの毒性物質露出の悲しむべき面は、それが、母親の方には被害はないが、母親の胎児には害をもたらす事である」と、フィリップ・ランドリガン(Philip Landrigan)博士は述べている。彼は、マウントシナイ医学校(The Mount Sinai School of Medicine)のコミュニティー予防薬学部(Department of Community and Preventive Medicine)を率いる小児科医であり、今回発表されたステートメントの執筆者の1人である。

 これらの研究者達は、汚染薬物が人間の健康問題で深刻な役割を果たす事は認めざるを得ないのだが、一部の病気は予防が可能であることを指摘して、希望の方向も示している。シンシナティ子供病院医療センター、環境健康センター(The Environmental Health Center)ディレクター、ブルース・ランフィア(Bruce Lanphear)博士はこう述べている:「汚染物質への暴露を減少させる事は極めて大きな恩恵を生むでしょう。我々は、子供達を守る政策が打ちだされる前だからといって、厄介な病気が成熟していくのを座視すべきではありません」何百年もの間、毒物学の基本的な規則は"The dose makes the poison."「ドース(服用量)で毒になる」であった。現在では、科学者達は"The timing makes the poison"「タイミングで毒になる」と言っている。換言すれば、「如何なる時に有毒な露出が起こるのか」は、「如何なる量で人々が有毒物質に暴露されるのか」と同じくらい、重要な事である。

 母体内の胎児は「子宮内環境の変動に異常に鋭敏になっている」、と科学者達は書いている。成長している脳は最も敏感である。魚と他のシーフードに潜む水銀とポリ塩化ビフェニール(polychlorinated biphenyls/PCBs)に母親が露出される事は、子供のIQ と運動能力を低下させる。これに加えて、出生初期に殺虫薬剤へ暴露される事はその後の人生でパーキンソン病とアルツハイマー病へ引き金を引く働きをする可能性がある。同じようにまた、鉛や有機燐酸塩殺虫剤(organophosphate pesticides)、またタバコの煙に露出される子供達は、「注意欠陥多動性障害」(attention deficit hyperactivity disorder)を発症する大きな危険を抱える事になる。米国で病気になる子供の3 人に1 人、すなわち推定56 万人の子供達、が、鉛への露出、あるいは胎児期にタバコの煙にさらされた事に原因がある、と、環境健康センターディレクターのランフィア博士が先年12月に発表された研究論文で発表している。免疫システム、生殖システム、心臓血管システムは同様に幼児期に危害を受けやすい。母体内でPCB に露出された子供達は、病気への高い感染率があり、ワクチン接種に対しては弱い反応を示している。多くの化学物質はホルモンに擬似した反応を起こし、動物実験では、新生児にメス化現象(feminization)を起こしている。さらに成人期に精子発生数を減少させ、前立腺、精巣、子宮、胸部の癌を発生させ易くしている。最近の研究で最も進んだ新分野では、新陳代謝システムは、栄養諸要素がどのようにエネルギーに換えられるかをコントロールしているが、動物実験で動物に化学物質を与えると、その代謝システムに変化が起きてくる事が確認されている。そしてその変化は異常肥満と糖尿病を誘引する事に寄与している可能性を示している。

化学物質が起こす体内リスク

 「化学物質のこれらの「反」作用は、人間への実際の露出レベルでは、人体で化学汚染物質の害を引き起こしている。それは、自然環境に放出されている化学物質から発生する汚染物質の害と同類のものである」と、科学者達は説明している。科学者達が取り上げている危険な化学物質に、「ビスフェノールA」(bisphenol A)と言われるものがある。これは「ポリカーボネート」(polycarbonate)と呼ばれるプラスチックの食品や水の容器の中に見つけられるものである。さらに危険な物質には以下が挙げられている:農薬のアトラジン(atrazine)、ヴィンクロゾリン(vinclozolin)、DDT、鉛、水銀、一部の化粧品とソフトプラスチックスに使用されているフタラート(phthalates)、臭素化難燃剤(brominated flame retardants)、一部の水道を汚染しているヒ素、さらに禁止されているが蔓延しているPCBがある。前記で挙げた化学薬品の一部は合衆国では規制を受けている、しかし他の多くは規制されていない。さらに、子供の成長過程への影響テストは通常必要とされていない。だから「そのような潜在的に悪い影響は環境露出の安全レベルを決定する際に必ずしも考慮されていない」と、科学者達は言う。小児科医のフィリップ・ランドリガンはこう述べている:「信じ難いギャップがあるのです。産業界で使用される主要な化学物質の80%は幼児の初期成長に害を与えるかどうかを検査するテストが実施されていないのです」

子供の安全、子宮から思春期まで

 今回の国際会議は世界保健機構(The World Health Organization)、国立保健研究所(National Institutes of Health)、欧州環境機構(National Institutes of Health)、疾病管理予防センター(The Centers for Disease Control and Prevention)による資金援助を与えられている。デンマークのフェロー諸島は、北極圏限界線(The Arctic Circle) の真南にあって、子供の生命の安全を考えるには最適の開催地である。なぜならこの地域は胎児期が受ける有毒物質暴露を分析してきた長年に及ぶ人への実験の拠点であったからである。1986年以来、研究者のグランジャンとウエイヘは、フェロー諸島の子供達を追跡してきた。その探求は子供達が母親の子宮内にいる時から思春期まで続き、シーフードに残留する水銀の神経系統への反作用を監視してきた。この2 人の研究者の発見した事柄は、政府へ健康に関する助言をする人達を動かし、次の勧告が出る事になった:子供と出産適齢期の女性達はメカジキや他の毒性物質に高度汚染された魚を食べるのは止めるべきである。前述のランドリガン博士に加えて、3人のカリフォルニアの研究者と他6人の米国科学者達がこの国際会議の警告宣言執筆を担当した28 人委員会に奉仕して、委員会の合意をまとめ警告声明の発表を実現させた。

依拠した情報源: Common chemicals pose danger for
fetuses, scientists warn. Los Angels Times, June 16, 2007
By Marla Cone, Times Staff Writer


HP

 購読申込案内はこちらへ  申込メールフォームはこちら

Author 事務局 : 2007年07月15日16:44

 
Copyright 2005 Takumi Shudan SOLA Co.,Ltd All Rights Reserved.