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2006年06月30日
AQUA174号 トップ記事
水の再生運動を通じて、流域共同体=ミクロコスモスの建設へ
~世界自然遺産「白神山地」の青森県・西目屋村でシンポジウム開催~
5月13日、世界自然遺産・白神山地を村内に持ち、岩木川の源流である青森県・西目屋村で、映画「白神の夢」上映・講演会と、岩木川流域の町村長らと石澤直士BM技術協会理事長が出席したシンポジウムが開催されました。一つの川の上流・中流・下流の市町村が、協力して水を守り、資源を生かし、地域づくり、人づくりを行なっていく重要性が話し合われ、今後、流域共同体として取組んでいく第一歩となりました。
BM技術協会では、流域として地域ミクロコスモスの具体化を図る事を各地の会員と協力して、地方自治体等に呼びかけていく事を2006年度の方針としています。今回のシンポジウムは、その出発点となります。
今回の取組みは、これまで会報アクアで紹介してきた映画「白神の夢~森と海に生きる」(※注1)を参考に、河川流域の水や土を守り、資源を生かした新たな地域づくりができないかという石澤理事長の呼びかけに賛同した関和典西目屋村長、小田桐智高藤崎町長、高松隆三五所川原市教育長ら、関係者の協力で実現しました。「好きです西目屋!講演会~白神エコツーリズムを考える ふるさと再発見~」と題して開催されたシンポジウムは、西目屋村中央公民館で開催され、村民160人が参加しました。その概要を紹介します。
≪映画「白神の夢~森と海に生きる」上映・講演会≫
昨年、愛知県で開催された「愛・地球博」国連館で上映された「白神の夢」の縮小版の上映後、同映画プロデューサーの山下勉氏と、小池征人監督から講演が行なわれました。
■山下勉氏講演要約
[山下 勉氏:東京都出身、日本大学理工学部卒。
演劇舞台装置や大道具制作、環境アセスメントの仕事を経て、近年はそれらの仕事を生かし、映像記録という手法を取り入れながら自然の仕組みに基づいた地域振興策を提案、提言している。]
この映像で紹介した秋田県の八森町にしても、西目屋村も、どこの農山漁村もそうですが、高齢化が進み、大都市に若い人が出て行ってしまっているのが現状です。そして、その都市でやってきた事が、地球規模で限界までに達して、資源の枯渇や温暖化や海洋の汚染とか様々な問題を起しています。
一方で、皆さんのふるさとの西目屋村は世界自然遺産に指定されました。ここから流れている岩木川は日本海に流れ、十三湊(※注2)までいきますが、十三湊は、昔は大変な国際都市だったのです。皆さんが代々ここに住み、命をつなげてきた故郷は、どういう経過で、どうダメになり、どこに突き当たって、そして今世界自然遺産という評価を得て、これからどうしていくのか。この事を改革する方向で努力する事がこれから生まれてくるお子さん達や未来の為につながっていくのだと思います。その努力を今やっておかないと、未来の人の豊かさや、生きる自由を奪う結果になると思います。
そのいい例がアフガニスタンや北朝鮮で、今、飢餓が起こっています。森を壊し、森を食いつくし、そして植物も生えなくなって、その大地に雨が降り、雪が降り、大地が崩れ、泥となって海に流れていきます。結果、近海漁業で豊かだった海の森といわれる藻場を埋め尽くし、魚も寄り付かなくなり、山の動植物はとれない、魚もとれない状況になっています。
私達は、そういう世界共通の問題を抱えています。そして、その一番の模範となるような生態系の息づきが残っている白神山地は、命のつながりによって成り立ち、それを営々とやってきた場所です。そういう所に皆さんはいます。地球規模でどこの国も抱えている大事な問題の模範となるような資源を、この村は持っているという事です。
それを未来にどう生かしていくかという事が非常に大事な事だと思います。
世界につながっている岩木川流域の全市町村が、自然の資源の恩恵を受けて生きる生き方、未来に向けて、失ってはいけない価値観をどう次の世代につなげるかという事が重要です。
■小池征人監督講演要約
[小池 征人監督:山梨県出身。中央大学卒。
水俣病をテーマにドキュメンタリー映画を作り続けている土本典昭監督の助監督を勤めた後、公害や差別、冤罪事件等常に社会的なテーマの作品を作り続けている。作品に「水俣の甘夏」「人間の街─大阪/被差別部落」「免田栄/獄中の生」等がある。]
この映画をつくる時に調べた資料の中に、非常に感動した記事がありました。それは、白神山地・青秋林道建設反対運動の資料の中にあった新聞記事です。1945年の3月に赤石川の上流に、大然という集落があるのですが、そこが土石流災害に合い、一晩で六七人が死亡し、生き残ったのはわずか10数人という大事件が起こりました。つまり、源流域の山に手をつけたらどういう事になるのかということが書いてある記事です。この記事を見て、赤石川の源流域の人々が、その事をもう一度思い出した訳です。それは人間の体に例えてみれば、脳にメスを入れる事と同じだと、だから木を切ってはいけないのだという事に気づき、わずか1ヶ月で13,000人の署名が集まって、白神山地が残ったのです。
西目屋村も全く同じ、源流域の村です。ここに生きている人達が白神山地から日本海にいたる流域をどう考えるかという事が、大変大事だと思います。何故なら、頭(上流)に暮らす人々の生活のあり方そのものが、津軽平野一体の色々なものに影響すると、私は確信を持っています。
白神山地というのは、ただ大きな山があるだけです。そこからもう一つ考えると、変わらない事が大事なことなのだという事に気づきました。変わらないという事は、そこに安定した人を生かす自然体系や人間社会の関係や、仕組みがあるという事です。だから、ここは、縄文以来の人々から、生き続けてきた命がつながっているのです。自然の仕組みが変わらずある事が、実はそこに生きる人達を永遠に生かす物質的な財産になるのです。その事を私達は違う定規を持ってしまったので、もう一回白神山地の自然の定規に戻って、そこから考えたならば、もっと楽になるのではという事に気がつきました。この映画は、それをテーマにした映画です。
≪パネルディスカッション 「外から見た西目屋村」要約≫
●パネラー
小田桐 智高 藤崎町長
高松 隆三 五所川原市教育長(旧 市浦村長)
関 和典 西目屋村長
石澤 直士 BM技術協会理事長((農)トキワ養鶏代表理事専務)
●司会
森内 美夫 NPO法人クッピ副会長
(司会) 岩木川の源流は、西目屋村で、全長は102キロ、その間に藤崎町、旧常盤村があり、最後にシジミ貝のふるさとである十三湖に流れ込んでいます。川との係わりから、その思い入れを紹介していただきたいと思います。
(小田桐 藤崎町長) 今、ペットボトルに入った水が500ミリリットル、120円か130円で売っています。これはガソリンよりも高い値段です。1リットルに直すと300円近くします。それを下流の人は、お金を出して飲まなければいけないという時代です。藤崎町は岩木川の流域にあり、白神の水の恩恵をうけている町です。農業用水や飲水に使わせていただいています。藤崎町は農業の町であり、農産物にはきれいな水が必要です。だから、この水を汚さないように使わせていただいて、またきれいにして、返さなければならないという思いでいます。
白神山地から流れる水は、岩木川となり、弘前市、藤崎町等を通り、最後は十三湖に注ぎます。そこには、シジミ貝が生息し、我々が汚した水は、最後はシジミ貝が浄化しています。それを我々はおいしいと食べています。だから我々が汚した水は、きれいな水にして返さなければ、やがては自分の口に入ってくる事を認識しておかないと、必ずしっぺ返しを受けます。
(高松 五所川原市教育長) 我々の生活形態は、川の恩恵を受けているのにもかかわらず、生活用水の垂れ流しや、農業で利用される除草剤等の農薬が各河川から十三湖に流れ着きます。特に岩木川は、東北で二番目に汚れている川と言われています。その証拠に田んぼにドジョウがいなくなり、川にメダカがいなくなっています。昭和三〇年頃には十三湖には、白鳥が千羽以上来ましたが、今は多くて五〇羽程度しか来なくなりました。だから、上流と中流と下流の人々が一体となって、川を守らなければならない。いくら上流できれいな川を守ったとしても、途中で汚されてしまえば、やがては人間も住めないような所に変わっていってしまう。上流と下流の価値観を再認識しながら話し合ってほしいと思います。
(石澤 BM技術協会理事長) 農業で一番重要なのは水です。トキワ養鶏でもBMW技術で、畜産の糞尿を宝に変えようということをやってきました。また、高知の最後の清流といわれる四万十川でも、畜産を中心にこの技術が取り入れられています。小田桐町長が昨年のBMの全国交流会で、シジミ貝の話をされ、川の重要性に気づき、その話を関村長に話をさせていただき、今回の会が開かれることになりました。関村長は、日本で一番若い村長で、自らが日本一の村のセールスマンになりたいという方です。
上流と中流と下流が手を結んでやっていけるか、その第一歩が今日だと思います。
関 西目屋村長 白神+西目屋村で、岩木川の上流という答えがでます。この上流というものをどう生かしていくかという事で、色々答えが出てくると思います。西目屋村の産業は、農業が基本です。つくる事=売れるという芯がないと、つくる楽しみや、意欲がわきません。西目屋村で何かをつくったら、農産物に付加価値がついて売れるというシステムをつくりたいと考えています。今日、映画を見、皆さんのお話を聞いて、西目屋村はどん詰まりではなく、川の上流にいたのだという事に自信を持たなければならないと気づきました。また、小池監督の話によれば、我々は中流・下流の人々の頭脳なのだから、きちんと考え方を持ってやっていかなければならないと思います。
(司会) 皆さんから、川を大事にし、川のエネルギーで町を活性化していきたいというお話しがありましたが、西目屋の村民にメッセージをお願いします。
小田桐 藤崎町長 産業構造は、西目屋村も藤崎町も変わらず、米とリンゴの農業が中心です。あとは付加価値をつけて販売していく事が大事だと思います。ここには、世界遺産の白神と、美しい水、と他にないものがあります。そういう事をセールスポイントにすべきだと思います。藤崎町では、有機農業や減農薬農業を進めており、ドジョウがいて、ホタルがまだいます。こうした事が付加価値につながると思います。
(高松 五所川原市教育長) 九州のある町長は、1,000万円かけてプールをつくるなら、川に1,000万円かけて、子供達の遊び場をつくるそうです。そうすれば、お母さん達は平気で合成洗剤を流せなくなるだろう、ゴミを捨てなくなるだろうという事で頑固一徹で通してきた町長もおられます。先ほどの映画にもあったように地球上の全ての命は、水の中から生まれます。水が無ければ命は存在しません。だから、西目屋村も確かに白神があり、岩木川の源流であるけれども、ただ源流というだけでは、村民の生活に大きな影響を及ぼす事はないでしょう。源流である西目屋村をどういう形で売り込み、付加価値をつけるかが問われるところです。先ず、水に学び、水を生かす方法を考える必要があります。先ほど小田桐町長がミネラルウォターの話をされましたが、これを1トン換算すると約30万円。ところが皆さんが毎日使っている水道水は、1トン当たり月の水道料金にすれば、約250円~300円です。それでも水道料金は高いという。でも水道水の何倍かの水は平気で飲む。景気が悪くて収入がないといいながら、これは何本でも飲む。この感覚が私は少しおかしいのではないかと思います。こういう事を再認識し、世界遺産である白神を活用して生活していけるような西目屋村の新しい生き方がこれから問われると思います。
(石澤 BM技術協会理事長) 川を大事にしていく事を西目屋村から始めていけば、この事自体がブランドになります。この流域全体がブランドになり、そこでつくったものがいいものになっていきます。普通の当たり前のものを、その川の水を使ってつくったという事が一番大事なブランドになると思います。汚い水の所でつくったもの、農薬の流れている川の水でつくったものに、本当の価値があると言えるでしょうか。
この水を守るきっかけになった今日が、始めの一歩となり、この小さい村からの発信が非常に重要で、歴史に残るような一日になるのではないかと考えています。これだけの皆さんが集まり、お話できた事が、弘前市、藤崎町、板柳町、五所川原市という岩木川の流れにつながっていくと思います。是非、この地域から先ず、発信していただいて、中流、下流につながっていけるようにしていただきたいと思います。
最後に、映画にも出てきましたが、小学校の子供達が白神山地や地域の事を勉強して、成長し、卒業するときにはとても凛々しい顔になっていきます。だから、西目屋村も子供達を宝物にして、この地域を教育の場として育てていってほしいと思います。それがいずれは希望となり、世界のモデルになっていくのではないかと思います。今日がその第一歩になってくれればと思います。
関 西目屋村長 今日の映像は秋田県八森町の映像でした。しかし、この映像は、日ごろ我々が見ている光景です。母さんがいて、父さんがいて、ご飯を食べているという光景は、日常的に我々の周りにある光景です。という事は、あの映像の中にあるのは我々なのです。その中に色々なヒントがあったと思います。我々は何を大事にしなければいけないのか。我々がどういう地に足をつけて立っているのかという事をこれからも学んでいきたいと思っています。そして、それを一つの方向にまとめていきたいと思います。
※注1:アクア170号8面、172号6面参照
※注2:十三湊(とさみなと)日本海と十三湖に挟まれて延びる砂州の上にあり、中世、当時の最北端の港として、中国との交易をはじめ、国内外の物産がこの地に集まり、大交易港、北の都として脚光を浴びた。
(報告 礒田有治)
Author 事務局 : 2006年06月30日 17:50