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2007年02月28日

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600戸に電力と温水を供給するバイオマス発電
食糧自給率150% 風力発電15% 成熟した国 「デンマーク」視察訪問記

 1月14日から20日までの7日間、厳冬期の農業とエネルギー関連及び福祉施設の視察を目的に、デンマークを訪問した。視察には、農業者大学校の卒業生を中心にBM技術協会の椎名盛男常任理事、見田由布子さんら合計13人が参加した。
 デンマークは、「畜産王国という事情から国内に入国してから2日間は、畜産関連の視察はできない」という、今回コーディネートして頂いたデンマーク農業理事会からの指導の下、入国した当日はホテルに入り、翌日は、朝九時過ぎから二時間弱デンマーク農業理事会の本部でデンマーク農業事情と今回の視察の内容についての説明を受けた。その後、約二時間かけてデンマーク第2の都市オーデンセ市にあるFangel バイオガスプラントへ向かい、翌日からようやく農場の視察が始まった。

肉の自給率は500%、原子力発電は禁止

 デンマークは、私自身今回で2度目の訪問になるが、前回は、見るもの聞くもの全てに納得してこの国の良いところばかりを見てきたように思う。具体的には、九州とほぼ同じ面積4万3094平方㎞(グリーンランド、フェロー諸島を除く)で、人口(535万人)や、風土的には北海道(人口562万人)とほぼ同様である。一人当たりのGDPは、北海道とほぼ同じ約3万ドル。しかし、食糧自給率は、150%で、特に豚肉は、500%近い自給率を誇っている。しかも飼料自給率は85%。そして、協同組合の力がとても強いことが特徴だ。また、原子力発電は禁止(風力発電が電力消費量の15%)になっている。
 実は、原子力発電が禁止になった理由は、国民投票によるもので(ほとんどの法案が一~二%の差で決まるそうだが、この法案だけは大差がついたそうだ)、この一件だけでなくいろんな政策が国民投票によって決定されるそうだ。しかも、80%以上と高い投票率。
すべてが、体制に流されていくどこかの国とは違い、一人一人が自分の考えを持っていてしかもその意見をきちんと伝える仕組みが出来ている、いわゆる成熟した国に感動して帰った記憶がある。そうは言っても、前回訪問した時期は、9月の一番良い季節だった。出来れば真冬のデンマークの状況を見てみたい。糞尿を散布できるのは、春の作物が芽吹いてからであり、冬の間の状態を見たい。本音は、いい所ばかりではないのでは、無理なところもあるのでは、こんな生き方じゃ疲れるのではと、少し意地悪な気持ちもあった。

消費税は25パーセント、教育・医療費は無料

 今回は、飛行機代金以外の全ての経費を現地で支払った。消費税25%の凄まじさをつくづく感じた。だからデンマークの給料は高い(今回の通訳の方に支払うお金は1日日本円で8万円、豚肉カット工場の職員給与は、福利厚生費含めて時給5千円)。けれど、デンマークの人は、出来るだけ買い物はしない(お酒は安いが他は全て高い。水は200円、ガソリンは160円以上)。朝の通勤時間は、自転車が多い。自転車専用道路まである。
 食事の時間は、少しでも安い所を探すが、それでも1人4~5千円はかかる。(イタリア料理のお店でパスタ(ペペロンチーノ)を頼んだが、2千円)。それにしてもこの国の方々は良く働く。彼らに言わせると税金が高いからよく働かなければいけないそうだ。その代わり、教育費、医療費はかからない。

フォルケ・ホイ・スコーレ

 フォルケ・ホイ・スコーレ(Folke hoj skole)は、「一八歳以上の人が誰でも好きな期間に希望する科目を学ぶことができて、試験もなく、資格も与えない。全寮制で教師と共同生活をする。経費は政府の援助でまかなわれて、国家の干渉はない」というもの。生きることそのものを学ぶための学校と言われ、自己の再発見ができる場でもある。国民高等学校とも呼ばれ、地域に根ざした民間の学校である。運営費の70~80%を国が援助しており、自分のやりたいテーマに合わせ、自分独自のプログラムを組み立てられ、約1ヶ月間~1年間のプログラムがある。各学校によっても特色が見られる。

糞尿と食品残渣でメタンガスを製造 ― バイオガス・コージェネ発電と、良質肥料に利用
 いずれにしても、今回は特にデンマークの得意分野である、養豚と酪農を中心に見てきたが、その糞尿からメタンガスを取りそのガスを利用して発電を行い、さらに発生する熱を利用して家庭の暖房や冷房(熱交換により)に利用されている。これは、「バイオガス・コージェネ発電(発電+余熱利用による温水供給)」と呼ばれている。今回訪問したFangel バイオガス社では、オーデンセ市の600戸に電力と温水を供給し、その他に1キロワット約12円で電力会社に売電を行っている。電力と温水を供給している600戸の家庭からは、1戸当たり、年間平均18~19万円の光熱費を頂くそうである。
 メタンガスの原料は、1日当たり180トンの家畜糞尿(豚80%、牛10%、ミンク10%)と、40トンの食品残渣で、1日当たり1万2千㎥のメタンガスが製造されている。発電能力は、800kW/時間となっている。さらに、メタンガスを採ったあとの消化液は、良質の肥料として農家に還元される。また、糞尿だけでは、効率が悪いので近くの食品残渣を有料で引き受けて、メタンガス製造に使用しているが、これも春には散布させて頂くそうである。まさに、循環型を地で行っているのがデンマークである。
 また、デンマークでは、現在、全体の一五%となっている風力発電の割合を、2030年までに、50%までに引き上げる方針となっている。

「間接照明」の大人の国

 最後になるが、日本の照明は直接照明が中心だが、デンマークでは間接照明である。今回同行した椎名常任理事の「日本も、そろそろ成熟した大人の国にならなければいけないのではないだろうか」という言葉が強く耳に残った。二度目の訪問で強く感じた「間接照明」の国デンマークについて、今回は、エネルギーの話を中心にさせていただいた。機会があれば是非一度訪問してみてはいかがだろうか。

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Author 事務局 : 2007年02月28日 14:12

 
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