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2007年06月15日

日本の海にも波及する中国河川流域の環境問題 【186号】

揚子江流域に停滞する堆積物と汚染物質 

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中国の三峡ダム(Three Gorges Dam)は世界最大の水力発電プロジェクトとして世界の注目を浴びてきた。だがその揚子江流域に多量の堆積物と富養物質を滞留させ、下流地帯にも深刻な浸食が起きている、という調査を研究者達が発表している。「地球物理学研究通信」(The Geophysical Research Letters)の最新号に発表された論文で、中国の科学者達が三峡ダムは2003年以来毎年1億5千百万トンの堆積物を停滞させていると述べている。

 上海の「東中国標準大学」(The East China Normal University)の研究者達は、規定の計測ステーションでの計測だけでなく、揚子江で以前監視されていない流域の複数地点で水と堆積物の動量を計測したものを合わせて考察を進めている。研究者達はこう記述している:「揚子江の水を2003年以来調節している三峡ダムは毎年上流の堆積物の3分の2を滞留させている。この滞留に反応して、このダム下流の河川底に深刻な侵食が起きている・・・揚子江河口へ向かう堆積物の流れは毎年31パーセント減少している。揚子江のデルタが減小しているのだ」
 「この割合で沈殿物が続いて滞留していく事は、さらに分流でも多くのダムが計画されている事と組み合わさって、揚子江デルタに住む人々と生態系に厳しい影響を与えるであろう」、と、付言する科学者達がいる。公式の中国報道機関による報告は三峡渓谷の貯水池の沈泥の滞留はコントロール下にあると述べている。高さが185メートルあるダム壁の最下部にある巨大な水門が、水位を下げる為6月と9月の間に開けられて、数回の洪水の間に貯水池に滞留した堆積物を放出させている。 過去に於いては、他の場所での大きなダムプロジェクトはダムの背後に沈泥や富養を引き起こして、魚類や水生資源と下流の農地の肥沃さに損害を与えた事が知られている。多くの環境保護活動家達は、三峡ダムの建設は、下水と産業汚染物の「汚水だめ」になることの懸念に加えて、さらに思いがけない生態的な被害を生じさせる事態が考えられると述べている。三峡ダムによって作られた貯水池は、2つの都市、湖北州と隣接する重慶地域の11の郡と116の町、に、水を届ける事を可能にした。だがその裏には、百万人以上の人々が転居を強いられ、そして1,600あった在来の工場が水没させられている。

汚染物質が国民の癌死亡率を高めている

 汚れた空気、不潔な水、汚染された土壌、が、中国で腫瘍の急増を引き起し、癌が国民の主な死因になっている、と、国営メディアが5月22日に報告した。この中国政府の調査は、癌患者の著しい上昇は汚染物質が原因であると発表した。それは、「首も折れる」猛スピードの経済成長が国民の健康に過酷な影響を与えているという恐れを強くしている。「中国保健省」によれば、癌は、中国最大の死亡原因になり、脳血管関連(cerebrovascular)の病気、心臓病、を超えている。科学者達は、保健省による30の市と78の郡の調査を通じて、空気汚染、水汚染、それに加えて農薬と食品添加物の広範囲な使用、が、この死亡状況の原因である、と、指摘している。
 中国医学アカデミー(The Chinese Academy of Medical Sciences)と協力している癌研究所のチェン・ジーズー(Chen Zhizhou)氏は環境状況はずっと悪くなっている、と、言った。彼は「中国日報」(The China Daily)紙にこう述べている:「多くの化学企業と工場が河川沿岸に建設されているので、それらの会社は容易に廃棄物を河川に投棄する事ができる。過度な肥料と殺虫剤の使用がまた地下水を汚染している。その汚染された水が直接土壌と農作物と食物に影響を与えている」

高開発地帯に「癌の村」が出ている

 最近中国の新聞は「癌の村」の事を伝える記事で満ちている。それらの村では産業プラントの近くや汚染された水路に沿って集団的に癌患者が出ている。中国で非常に収入が高く最も開発が進んでいる江蘇地域にそういった村の多くが出て、中国全土に於ける癌患者発生の12%を占めている。建設当局の官吏が去年こう述べていた:
 「江蘇州の一本の川だけで93の異なった発癌物質が流れていた。それはあまりにも多い沿岸の工場が未処理の廃棄物を川に投棄していたからです」江蘇州の腫瘍防止センター(Tumour Prevention Centre)は国営メディアにこう伝えている:悪化する環境の結果として1991年から2000年迄の間に全国的に都市区域で癌の死亡者が18%上昇し、田舎の地域で11%上昇している。
 天津北東部にいくつかの化学工場の本拠になっている村(Xiditou)があり、ひどい健康被害で悪名が高くなっている。当地の保健機関は、癌発生率が全国平均の30倍以上である事を認めている。しかしこの地方の事情は独自なものではない。

国民4分の1は清浄な水が飲めない

 中国環境省によれば、中国13億人の住民の4分の1は通常の清浄基準以下の水を飲んでいる。このような統計的な数値は、上昇する医療費と薬剤監督当局がからむ汚職事件と相俟って、国民の不安を掻き立てている。近づく北京オリンピックの準備も影響を受けている。南華早報(TheSouth China Morning Post)紙によれば、40人の国を代表する運動選手とコーチが、汚い空気と劣悪な換気設備が原因で1月にインフルエンザに感染して、競技に参加する事ができない事態が起きていた。

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農地汚染で食物供給に不安が出ている

 中国の産業活動と都市地域の拡大によって、中国農地の10%以上が汚染されている実状を公式の調査が示している。さらに北京政府の努力に関らず、耕作に適した地域が減少している。新華社(Xinhua)の公式報道によれば、大地の汚染が土地需要の圧力と一緒になって、中国の食糧を自給する能力に対し「深刻な脅威」を提している、と、土地資源省が述べている。熾烈な産業活動から出る工場排水が大地汚染の主要な犯人とされている。重金属類の廃棄物質だけで、1年で穀物の1,200万トンが毒性汚染されて、その損失額はほぼ26億ドルにもなると報道している。今回の報告は中国の食品保全に関する最新の警告である。中国はその耕地のたった7%から8%で世界住民の約22%を食べさせているのだと自慢していた。だがその自給する食品自体の安全に問題が起きているのである。農薬の濫用が環境への被害だけでなく、食品に残留して深刻な健康問題を起こしている。国民の保健を担当する官吏者達は、毒性汚染された穀物が健康障害になっていくだろうと予告している。

急速な経済繁栄で失われるもの

 北京にある人民大学(The People's University)の農学者、ウェン・ティエユン(Wen Tiejun)氏は、「いっそう多くの多国籍企業と中国資本グループが投資に向かっているなか、その困難はますます深刻になってきている」と述べている。中国の総耕作面積1億2180万ヘクタールに対し、去年最初の10カ月だけで、利用可能な農地が30万ヘクタール以上減少している、と、中国はすでに発表している。北京政府は都市が拡大侵食していく動きを抑える為、贅沢開発の制限、農地の住宅や産業への転用制限を打ち出し制止しようとしている。だが中国がより金持ちになるにつれて、中国はより病んだ国になっていく、と、いう不安が広がりつつある。

依拠した情報源:
1. World Crises|Reuters.comThree Gorges dam causes downstream erosion--study21 May 2007
2. Beijing blames pollutants for rise in killer cancersJonathan Watts May 22, 2007 The Guardian
3.China fears toxic threat to farmland | Waste and pollution | Guardian Unlimited Environment Jonathan Ansfield Monday April 23, 2007


HP

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Author 事務局 : 2007年06月15日 17:30

 
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