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2007年10月01日

「有機認証取得がはじまりました。」第1回  【AQUA190号】

BM技術協会会員の最近の動向
「有機認証取得がはじまりました。」第1回
 ㈲白州森と水の里センター 代表取締役 高草木 里香さん

食品への安全性が揺らぐ事件が国内外で相次いで発生する中、大手スーパーや食品メーカーが、消費者に「安全・安心」を訴えるため、有機農産物の販売の拡大、有機加工食品の開発に本格的に乗り出そうとしています(八月一二日付、日本経済新聞一面)。しかし、国内の有機農産物生産量は、全体の〇・一六%(平成一七年度)に過ぎません。今後、大手スーパー間、また、産直を中心に安全な農産物を売り物としてきた生協等を中心とした流通間で、国内外の有機農産物、有機食品を巡っての動向が注目されています。一方、昨年、有機農業基本法が制定され、これに基づき、国や各県では、基本施策の策定や調査作業に入っています。
BM技術協会では、これまで、自然生態系の保全・回復を目指し、資源循環型の農業技術の普及に取組んできました。二年前から会員の各産地で取組まれている~自然学を実践する~「土と水の学校」では、BMW技術を活かし、有機栽培技術の確立を図ろうとしています。
そこで、今回から有機農業に取組み、有機JAS認定を取得している協会会員・産地にJAS認定取得の動機や経緯、現在の「有機農業」を巡る動きについて、どう捉えているかインタビューを行っていきます。第一回は、山梨県・㈲白州森と水の里センター代表取締役の高草木里香さんです。   (まとめ:井上忠彦)

――白州郷牧場で有機認証を取得しようと思った動機をお聞かせ下さい。
高草木 白州郷牧場では「キララの学校」という子供たちのための自然学校を二五年ほど前から行っています。有機認証機関という第三者にちゃんと認められた形で、いままで継続してきた有機農業を「キララの学校」に来る子供や父兄に伝えたいと思って、有機JAS認証を取得することにしました。
――昨年、有機農業基本法が成立しましたが、これについてはどうお考えですか?
高草木 いまのところ取引的な影響はありませんね。でもこれがきっかけになって有機に対する理解が広がればいいと思っています。そうなるかどうかは消費者がほんとうに有機農産物を求めているのかということがポイントでしょう。生産者側から見ると、ヨーロッパのような行政の補助なしに個人の努力だけで農家が慣行栽培から有機に転換するというのはかなり難しいのではないかという気がします。
――白州における有機農業の特徴はどういうことでしょうか?
高草木 「キララの学校」に来る子供たちのために、畑が教室・教材になるようにしています。例えば一年を通じていろいろな野菜を子供たちにみせられるように、水ナス、サンチュ、インゲン、ホウレン草など、三、四〇品目の多品目栽培をしています。また、学校の開催時期に合わせて定植や収穫時期を調整することもあります。畑も、まず子供が入って安全なことが基本です。野菜を畑でそのまま食べられるように無農薬栽培ですし、子供が裸足で土の上を走り回っていいように化学肥料もまったく使いません。
――畑が教室ですか。
高草木 自然に触れ、自然を知る教室です。自然は人間の知らないことだらけですから。でも人間が知恵を絞って工夫をしていくことで、想像もしなかったものすごいことも起きる。そういうことを子供たちに伝えたいです。命に触れられる場所というか。
 有機農業のポイントも「自然をよく知る」ことだと思っています。養鶏なら鶏本来の能力を発揮できるような環境を作ってあげること。たとえば、狭いところに閉じこめないでのびのびと育つ環境は鶏にも必要なはずですよね、人間と同じように。自由に歩き回れるスペースを確保して、仲間の鶏といっしょに太陽の光を浴びて、風にもあたって走りまわって…そうすれば別に薬をあげなくても病気をしないでちゃんと健康に鶏は育つわけです。
 野菜の育て方も同じことなんです。無理をさせないで、その地域の風土にあった作物を選択して育てる。その植物の特性にあった環境を整えてやる、土をつくってやる。それって自然を学ぶことだし、自然と人とがどう関わっていくかを学ぶことです。わたしたちも勉強しながらやっています。
――そういう農業に多くの農家が転換できないのはなぜでしょう?
高草木 効率とリスクじゃないですか。天候でまったく成績が変わりますし、病気がでれば全滅もありうるわけだから。また買う人の理解も必要ですね。野菜の見ためが不揃いだったり、虫喰いがあったりもしますから。有機農業の意味というのは、ただ単に食料をつくるということだけではなく、環境に負担をかけず保全することにもある点を消費者に理解してもらう必要があるでしょうね。
――大手スーパーが有機JAS認証商品専門コーナーの設置や取り扱いの拡大を始めようとしています。これらの動向についてどうお考えですか?
高草木 これも有機について消費者が考えるひとつのきっかけや窓口になればいいですね。
――たとえば「オーガニック・ギルド」の商品価格は通常の二倍程度といわれています。有機の場合、成功すれば付加価値がつけやすいということはありますか?
高草木 「オーガニック・ギルド」が扱うのは加工品ですよね。有機農産物だって日本での生鮮野菜の価格は安いですよ。慣行栽培の二倍の価格にはなかなかならないです。
――土と水の学校は、「Radixの会」が主催だった「小祝塾」から含めて、すでに白州で十回以上開催されていますね。どんな効果がありましたか?
高草木 土壌分析によって収量、品質ともにあがりました。果菜や葉物など品目にもよりますが、以前より収量が二~三倍になったものもあります。野菜のとろけが少なくなり、軟弱さがなくなりました。また病気が入りにくくなりました。
――具体的にどんな取組みがありましたか?
高草木 まず苦土成分が足りない、と。でも土壌分析以前に生物活性水とBM堆肥が白州のベースにあったから、みるみると土壌改良の効果がでたんだと思います。土の微量要素によって生育のバランスがとれて。ただBMW技術でやっているとそれだけでも量がとれるから、普通よりも土中から微量要素を吸い過ぎて早くなくなっちゃうということもありますね。だからきちんと補わないといけないです。
――有機農業の今後のあり方についてはどう思われますか?
高草木 これから石油がなくなるとまず直接的に起こる事態は食料危機だといわれています。化学肥料がなくなるし、農作業する燃料もなくなる。そうなるときちんと循環できてエネルギー投入の少ない持続可能な有機農業でいくしかないかもしれません。
 エネルギーの面から農業を考えていくというのは新しい切り口じゃないかと思います。主観的な「おいしさ」や定義のまちまちな「安全」ではなく、生産量に対してどのくらいのエネルギーが必要かという客観的な数値としてわかることですから。かってキューバも石油危機で有機農業にむかったんですよ。
――今後の抱負はどんなことでしょう?
高草木 安定して技術を底上げしていきたいと思います。また教育の面で「子供たちの畑」ということももっと掘り下げていきたいですね。

Author 事務局 : 2007年10月01日 09:08

 
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