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2007年10月01日

水田の生態系を回復させる水づくりVol.4 【189号】

 Pick up interview
「田んぼの生きもの調査プロジェクト」田崎愛知郎さんに聞く

 世界自然遺産・白神山地を源流にする岩木川。この岩木川流域の青森県藤崎町で、BMW技術が導入された農業集落排水処理汚泥(堆肥)と生物活性水を活用し、水田の生態系を回復させる実験がトキワ養鶏グループで、始まります。
 前号から、水田の生態系に着目した『田んぼの生きもの調査プロジェクト』に取組んでいるパルシステム生活協同組合連合会の田崎愛知郎さんに、生きもの調査の目的や内容について、お話を伺っています。
 私たちとしては、生態系が回復した水田の水が岩木川に流れ、十三湖、日本海に注ぐことをイメージしています。聞き手は、椎名盛男BM技術協会常任理事。

―――今回は、技術の話を中心に伺いたいと思います。田んぼの生きもの調査ですすめられている生物多様性農法について、そのテクノロジーの理論と再現性について説明していただけますか。

田崎 「生物多様性農法」の定義付けは生きものの視点から生産技術を見直し、構築していくことが基本です。地域の水ネットワークと関係する生きものの生活史を理解したうえで、物質循環機能を活かし生物多様性のある水田生態系の活力を増進させ、結果として品質、収量とも慣行栽培を超える稲作技術といえます。それは又、地域による気候・立地・水・周辺条件により地域ごとの特色ある生産体系となります。指標生物の発現状況、稲の生育状況・収量が再現性になるのですが、育苗、湛水、雑草抑制、害虫抑制、生物作用による肥料分固定などのポイントごとの栽培技術として総合的に構成されます。「田んぼの生きもの調査」は技術の重要な柱となります。

―――まず、定義的に言うと、生物多様性農法を技術として展開する時に、その理論と、どんな場所でも再現性があるということが、テクノロジーに問われることです。例えば、BMの大きな理論的特徴というのは、岩石を使うということです。岩石からミネラルを取り出すことと、岩石に、酵母とか、多様な微生物を棲みつかせて、バイオフィルムという生物膜を作ります。汚水なり、有機物がこのバイオフィルムを通るときに、微生物の餌として取り込まれ、結果として、浄化されます。この時に微生物は、酵素等の分泌物を出し、これが水の性質に機能を持たせ、生きものによい水ができます。この水を家畜に飲ますと、悪臭が消えたり、ハエが少なくなくなるという再現性があります。火成岩を使うのは、理論的根拠として組成がはっきりしているからです。そういう意味で生物多様性農法は、どういう理路になるのですか。

田崎 資材として、現在、言われているのは多くは米ヌカです。米ヌカを発酵させたものを水田に、水と一緒に入れていきます。

―――生ヌカではなくて、発酵させたものですか。

田崎 生ヌカでも良いのですが、効果を促進させるためには発酵したものを、使用します。ふゆみず田んぼの場合は、秋に稲刈りが終わり、11月や12月の水が入る時期に米ヌカまたは、大豆カス等、有機資材を発酵させたものを水田に投入します。発酵有機資材を水田に投入し、田面を発酵させます。また、最近、稲葉光圀さん(NPO法人民間稲作研究所・理事長)と、岩渕成紀さん(NPO法人田んぼ・理事長)は、春、温度が上がってきたときに田面が光合成細菌に覆われることで、窒素を取り込み、肥料効果があると話しています。方法論ということで言うと、どの時期であろうと、湛水をすることと、有機発酵資材を入れること。もう一つは、苗づくりです。成苗4.5葉~5葉の健苗をつくることです。

―――発酵させるときに、特定の菌は使うのですか。

田崎 特に使用していません、水分調整をするだけで、もともとそこにある菌で発酵させます。

―――そうすると、これは、理論ということよりも経験科学というか。イトミミズやユスリカを見て、経験的に米ヌカを使うとよいというのが、分かってきたということですか。

田崎 そうですね。イトミミズ、ユスリカがトロトロ層をつくるところから裏返して、トロトロ層は何でできるかという時に、イトミミズ、ユスリカだけでは難しいだろうということで、稲葉さんは乳酸菌から酵母菌と色々と菌が変遷すると、話しています。「生きもの調査」を加えて確認、修正を図っていくことになります。

―――そうするとイトミミズがいて、これがトロトロ層をつくる。この現象を帰納的に考えていくと発酵した有機物を田んぼに入れてやるとイトミミズが出てくる。つまりイトミミズが再現してくるということが分かってきたということですね。

田崎 そうですね。だから、イトミミズ、ユスリカのカウントをすると、トロトロ層がどれ位できているかのメルクマールになり、トロトロ層が3センチになれば、コナギ(水田雑草)の種子が沈み、種子が表層にあって、芽を出したものは、浅い代掻きをして、埋め込んでしまえば抑草できるということです。代掻きについては、昨年までは、2度代掻きと言われていましたが、今年当りは、3度代掻きで、完璧に抑草できると、生産者は言っています。

―――畑なども、雑草対策として、7回程度、ロータリーをかけてやると、ほぼ、うまくいくのですが、少し発芽した雑草を3回程度代掻をし、埋め込んでしまうというのは、雑草の総量を減らすということで、この理論とは、関係ないですよね。

田崎 直接は関係ないですが、草を邪魔にしないで栄養素にし、微生物、イトミミズ、ユスリカという生きものの指標を見ながら、仮説を立て、再現し、農法に結びつけていくというのが現実です。

―――発酵した有機資材を投入するとトロトロ層ができるというのは、再現性があるのですか。

田崎 冬期湛水や早期湛水と導入することで再現性が安定してきています。

―――これは、除草剤とか、その他の農薬等は使わないのですか。

田崎 基本的に使わないで成功しているところと、失敗しているところがあります。米ヌカは田んぼに水を入れる時期に投入しますが、再度、田植えの時期に投入すると、急激にヌカが発酵して有機酸を出します。この有機酸が種子の発芽をしにくくし、かつ稲は成苗を植えてあるので、稲に対する被害はほとんどなく、抑草できるというものです。

―――生物多様性というのは、結果ですよね。田んぼの生きものが多様に発生してきて、命が保全されるという環境をどうつくるかという発想の方が、我々BMをやってきた者には馴染み易いのです。つまり、生物多様性をやるのはどうすればよいのかという目的意識の注入ではなく、その環境をどうやってつくったらよいかというのが、BM的な考え方です。基本的に水のないところに命はなく、生物が多様に発生して、命が保全されるような環境をどうつくるかといった時に、水の問題が最も大きな問題になってくると思います。もちろん、土もそうですが。例えば、家庭雑排水が流れてくるような水が入ってくる場合、あるいはきれいな水が入ってきたらどうなるのかというような実験データはあるのですか。

田崎 そうしたデータはありませんが、江戸時代に書かれた会津農書によると、汚れた水を田んぼにかける、つまり、有機物が含まれた水を田に引き込むということは、書かれており、湧き水のような水は、ミネラルは含まれていても有機物が少ないので、それだけでは無理だという話になっています。だから、湛水とともに堆肥や米ヌカを入れたりするのではないのでしょうか。

―――発酵した米ヌカなどにある代表的な菌は、酵母ですよね。酵母を大量に入れることによって、田んぼの水を浄化しているということは言えると思うのですが。

田崎 長野県の研究者で、水田の層を浄水器と同じように見立てて、生物濾過した水を飲むという方がいます。多様な生物がいる田んぼには水の浄化機能があると思います。

―――何故、水かというと、今度のBMの全国交流会で、畠山重篤さんが講演してくれるのですが、「森は海の恋人」という基本的な考えは、山や森に降った水は、腐葉土が持っているフルボ酸が鉄をつかまえて、フルボ酸鉄という有機と無機がくっついた形の錯体が含まれた水になり、この時はじめて、命が使えるものになるというもので、まさにBMの理論です。松永勝彦先生が発見しました。そういう生きものを育む水に関しては、研究はされていますか。

田崎 まだ、そこまではされていません。

―――BMW技術は、畜産から始まった技術なので、そこで得られた堆肥や生物活性水をつくって、どうなってきたのかということと、水の研究についての蓄積は持っています。ここ2~3年は、「土と水の学校」で小祝政明先生と一緒に、耕作農業の学習をするようになって、田んぼもそうですが、色々な作物で、我々が成否のメルクマールにしているのは、『白い根』です。白い根が田んぼの稲で再現されているかということが、かなり重要なポイントになると思いますが、生きもの調査を実施している田んぼの稲の根は白いですか。

田崎 白い根となったときは成功しています。米ヌカをやりすぎて、失敗している場合は、根腐れ等を起こしている場合があります。

―――白い根と、イトミミズが関連しているのかどうか。例えば、大腸菌や腐った水というのは、共生関係を持っています。良い意味で言うと、白い根と酵母菌とイトミミズが関連しているのではないか。というのは、BMW技術の排水処理や生物活性水のプラントの中に汚泥が溜まりますが、その汚泥には、膨大なイトミミズがいます。プラントの底は、沼の底土のようになるので、そこにはイトミミズもいるし、場合によっては、大きなミミズも大量にいます。そういう意味で関連があるのではと思ったのです。

田崎 例えば、岩渕さんが、コナギが大量に発生し、イトミミズがいないような田んぼと稲の根と、トロトロ層ができて、イトミミズが300万程度いる田んぼ稲の根を比べると、主根やひげ根を含めて違うということをパワーポイントで見せています。確かに稲の穂が黄金色になっても、根がしっかりしているときは、白い根になっています。

―――BMから見て、トロトロ層は、直感的に言うと、汚泥だと思います。例えば、アフリカ当りで、カバが池に入って、泥だらけになって、水の中が濁りますが、カバが出ていくと、スーと泥が沈み、またきれいな水に戻ります。トロトロ層は、そういう機能を持っているのではないでしょうか。つまり、沼の底の土が,静止状態の水の中に色々な有機物が入ってきても、水の中が腐ったりしない、そういう状態になっているのではないでしょうか。

田崎 大潟村の水田は、土そのものが、肥沃になっていると言われています。肥料をほとんど入れなくても電気伝導度が非常に高く、トロトロ層は、非常に栄養的に高いものと思います。

―――理論的なメルクマールになるものとして、白い根の話をしましたが、もう一つ、トロトロ層で米ヌカなどを発酵させると、どうなるかというのを見てみると、面白いと思います。

田崎 確かにトロトロ層が一度できた田んぼの発酵の速度は非常に速くなります。雑草も、春に表面の草がでてきても、簡単に埋め込むだけで、抑草効果は高くなります。また、米ヌカの投入量も、年々、減らしていくようにしています。そういう意味で経験的なところで、再現性もできているのではないかと思います。

―――イトミミズもそうですが、田んぼの中で、生きものがどんどん増えていきますよね。そうすると、彼らの糞尿はどのように捉えられていますか。彼らの出すものはかなり、膨大だと思うのですが、それが肥料になっていくと思うのですが。

田崎 最近、岩渕さんがよく引用する話は、ダーウィンが晩年に研究していたのがミミズだという話です。ミミズから出る糞の性質が土壌の表層をつくっているというのがダーウィンの最後の研究だったそうです。研究によると、年に6ミリ、ミミズが土を高くしていくそうです。田んぼの場合、イトミミズは年に土を7センチから、10センチ高くしていくと、岩渕さんは言っています。

―――協会の常任理事をしている茨城の清水澄さんが設計した田中一作さんのお宅では、家庭雑排水を原料に生物活性水をつくり(注1)、その生物活性水でお米をつくります。生物活性水が流れ込む田んぼには、暗渠排水が設置されていて、稲を育てながら、田んぼで浄化された水で鶏を育て、この他の生物活性水は、家庭菜園に利用するという体系づけられた形になっています。その田んぼには、ドジョウやコブナやタニシが沢山生息しています。

田崎 浄水場の原理も微生物を使って、水を浄化するものですが、浄化する過程で溶存酸素も増えてきて、藻類が発生してきます。そうした水の浄化の原理は、生きもの調査でも説明します。理論的に順を追っての説明はしていませんが、つなげるとBMと同じような話ができると思います。

―――その他、生物活性水を小川などに流し込む実験を清水さんが行いましたが、ホタルとかドジョウもかなり再現してきます。

田崎 清水さんにも聞いたことがありますが、多分、水の浄化の話と稲の生長を保障する原理は、同じだと思います。

―――藻類が増えてくると、BMの実験では、田んぼは、磯の香りがしてきます。

田崎 もともと、海と繋がっていたような湿地を田んぼにしたところには、シジミも発生してきます。藻類はアミミドロやサヤミドロ等が発生してきますが、藻類が発生することは、水の浄化と、日陰をつくって、雑草の発芽の抑制の効果があると説明しています。現在、アミミドロの発生を1つの指標にしています。

―――青森県藤崎町の農業集落排水施設にBMW技術が導入されています。協会では、この排水処理施設から出る汚泥(堆肥)を田んぼに活用して、生態系を回復する実験をトキワ養鶏グループで始めています。集落排水というのは、人の暮らしから出る生活雑排水を処理するものですが、この集落排水では、汚泥の質を変えています。汚泥は、有機物が腐っていく方向と、土壌になっていく方向の2通りがありますが、BMでは、土壌になっていく方向に切り替えて、悪臭等を絶っています。その汚泥からできた堆肥を田んぼに入れて、生きもの観察をしていくという流れになっています。「人の暮らし」と「農」を結びつける試みでもあります。実験そのものは、すでに家庭雑排水を処理している茨城の田中さんや、米川修さん、島根県の池田健二さん、栃木県の松井眞一さんのところで、すでに実証されていますが、これを大規模にやろうというのが、今回の藤崎町での計画です。

田崎 多分、米ヌカを発酵させたものを田んぼに入れることと、汚泥を田んぼに入れることも同じ発想だと、思います。JAささかみで石塚美津夫さんが試みた汚泥と生物活性水を大量に田んぼに投入したことは、微生物の力を使うということに思い至ったからだと思います。その時に見た稲の白い根には、感激しました。その圃場だけ、稲刈り後、水を張った後に雪が降っても、稲の切り株の周りは、雪が解けてしまうのです。冬でも根が生きていたのです。ちなみにハクチョウは、この白い根を狙って食べるそうです。

―――先月、日・韓・中環境創造型稲作国際会議があったそうですが、韓国を代表する有機農業の産地はホンソンですね。そこに韓国のBMの拠点となっているプルム農学校もありますが、ここで取組まれているのは、アイガモ農法ですよね。

田崎 今は、アイガモとジャンボタニシが主流です。しかし、ジャンボタニシは、稲に食害があり、外来種であるということ、アイガモは、糞による窒素過多で食味が落ちるという弊害があるようです。

―――アイガモと結びついていくということはないのですか。

田崎 アイガモを全否定はできませんが、羽数を減らしたり、期間を限定するなど、対策は必要です。今年の動きとしては、生協の連帯活動として、日本側から生きもの調査と、この農法を呼びかけたところ、ホンソンの三つの生協がこれに応じて、先方の連合会に生きもの調査チームがつくられ、今年から取り組みが始まりました。6月に研修会が現地で実施され、今回は日本で生きもの調査が行われました。広がりは非常に早く進むと思っています。そういう意味では、アイガモ、ジャンボタニシから切り替えが、進むのではないでしょうか。

―――ありがとうございました。


注1:茨城県の田中一作さんのBMWシステム導入事例は、BM技術協会ホームページの「BMW技術のある暮らし」を参照。

Author 事務局 : 2007年10月01日 14:55

 
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