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2007年11月15日

土こそ命:(Soil Stewardship) 【190号】

土こそ命:(Soil Stewardship)

 土くれは多くの凡人には考えの片隅に捨て置ける些事である。だが土壌が黄金より尊いとする先人も昔からいた。科学の解明力が邁進するにつれ、自然循環ダイナミズムの実相が想像から現実の親密な関係で認知できるようになってきた。地球儀的規模での土壌の悪化や侵食が、気候変化を突進させる温室効果ガス放出原因の30パーセントを担っているという計測が出された。さらに土壌の劣化は食物生産と水供給にも損害を与えている「静かなグローバルな危機」になっている事が明らかにされてきた。

 『土壌・社会・地球変動に関する国際フォーラム』開催

 「我々は地球のあらゆる生命の基礎としての土壌をないがしろにしている。土壌と植物が地球全体で脅威的な速さで消失している。それは次には食糧生産に破壊的な影響を与えて、そして気候変化を加速させている」と、『アイスランド土壌保護サーヴィス(The Icelandic Soil Conservation Service)』副所長、アンドレス・アーナルズ(Andres Arnalds)氏が述べている。この発言はアイスランドのセルフォス(Selfoss)で2007年8月31日から9月3日まで開催された『土壌・社会・地球変動に関する国際フォーラム(The International Forum on Soils, Society and Global Change)』で述べられたものである。アイスランドは自然や環境に先駆的な理解と実践の歴史を持って来た国である。アイスランドが多くの他の国際的な組織と協力してこの国際フォーラムに世界から学者や専門家達を結集させた。またアイスランドにとっては他国に先立った土壌保存活動の百年目を記念する行事にもなっている。この国際フォーラムは、アイスランド大統領オラフュール・ラグナー・グリムスン(Olafur Ragnar Grimsson)に後援され、3つのアイスランド政府機関、18のインターナショナル組織や大学が協力している。科学者、政策立案者、土地利用者、民間部門代表者を含む約130人の参加者が研究発表や討議を行い、共通理解と実践目標を討議した。さらに多岐な専門分野を持つ参加者達は、土壌保護と植物再生の相乗的な役割を明らかにして、地元や地域さらに世界の環境問題と社会問題に立ち向かえる統合的知識と理解を求めた。この会合の内容は、研究発表、全員参加討議、実働グループの討議で成り立っている。全体セッションは以下の主要テーマに焦点を合わせて発表されて、それらのテーマは実働グループの討議にさらに取り入れられている。①土壌と社会とグローバル変化 ②健康な土壌:食物安全支援、水供与、貧困削減と生物多様性 ③衰退した土地の蘇生による天候変動の緩和 ④強い自然力を取り戻した環境の創生。さらに5つの実働グループが以下の課題にも取り組んだ:土壌保護責務とランドケア(soil stewardship and landcare)、土壌マネージメント、多国間環境協定、炭素固定、炭素市場、土地回復、知識マネージメント、土壌マネージメントに於ける立法と政策開発の能力を作りあげる事。

砂漠化と土壌衰退が水不足を増大させる

 毎年およそ10万平方キロに及ぶ世界の土地がその植物を失って、地表が悪化した状態になり、砂漠化している。「土地の衰退と砂漠化は静かな世界の危機と見なされ、人類の未来に対する真なる脅威である」とアンドレス・アーナルズ氏は言っている。食糧生産を1980年から2000年の間に50パーセント増大させて人口増加による需要に対応してきた。しかし推定人口が30億人に達するとされる2050年に地球上の人間を食べさせる十分な食物があるかどうかは未知の問題である。国連大学のカナダにある「水・環境・健康・国際ネットワーク(International Network on Water, Environment and Health)ディレクター、ザファール・アディール(Zafar Adeel)氏はこう述べている:「1ヘクタール当たりのグローバルな食糧生産力はすでに低下している。この衰退には多くの理由があり、それには土壌の衰退が水不足を増大さしている事実を含んでいる。土壌と植物は水を保留させ、そして徐々に水分を放出するスポンジの機能を果たしているのです」オーストラリアで設けられた初の「ナショナル・ランドケア・促進者(National Landcare Facilitator)」、アンドリュー・キャンベル(Andrew Campbell)氏はこう述べている:「食糧生産と土地と水資源保存の最も新しい困難な課題は、植物に依拠した生物燃料ブームである。あちこちの土地が以前のどの時期よりも大きなプレッシャーの下にある。世界中の政府が生物燃料を生産する農作物に補助金を進んで提供している。世界の農地の何億平方キロメートルがまもなく、世界の急増する燃料枯渇の小さな部分を満たすために使われていくだろう。燃料作物は実際の環境保護への恩恵を提供する事はほとんどないだろう」。生物燃料への殺到を敬遠するもう1つの理由がある。それはバイオ燃料作物が多くの水を使うという事実である。将来には、我々が必要とする食物を栽培するのに十分な水がなくなるだろう、と彼は言う。山林伐採と土壌損失を防止することは、温室効果ガス排出を減らす最も早い、容易な方法である。逆説的だが、気候変化の環境問題が、もう1つの長期的な基本的環境問題-即ち土壌の保護-に対して世界をやっと行動に駆り立てる事になるかもしれない。
 オハイオ州立大学の研究者、ラッタン・ラル(Rattan Lal)氏の計測によれば、土壌の衰退と砂漠化は世界の温室効果ガス放出の約30パーセントをも起因させている。土地に起きているこの衰退は、また地球の水、温度、エネルギー収支にも変動を起こしている。さらに気候変動が、極端な天気を引き起こす降水変化と蒸発増大を通じて、この土地衰退をさらに悪化させ、そしていっそう規模を拡大させている。二酸化炭素は主要な温室効果を起こすガスである、そして「炭素分子を土地と森林と草原に保留させることが最も速く気候変化に対処できる、さらに経費に見合う最善の措置である」とアディール氏も言っている。

統合的な理解とソイル・スチューワドシップ(soil stewardship)

 土壌と植物に炭素を固定させ、保留させる事によって、新しい「炭素市場」に於いて利益を上げる事ができる。現在から2050年までの間に予想される化石燃料排出の約20パーセントがそのようにして保留することができる、と、『国連開発プログラム(U.N.Development Programme)』のマリアム・ニアミール- フラー (Maryam Niamir Fuller)氏が述べている。人類の未来の生き残りを確保するため、土壌と植物の保護、また悪化した土地の蘇生、を実現するには多くの他の基本的な政策変更もまた必要である、と、エキスパート達が述べている。米国やヨーロッパ等北半球での推定300億ドルに上る食物助成金を中止する事はそのいい手始めになるだろう。その助成金は、アフリカや他地域の土地の衰退を引き起こし、そして貧しい農民が対抗するため高農薬使用等の生産強化農業を強いられている、とアディール氏が述べている。「ナショナル・ランドケア・促進者」のアンドリュー・キャンベル氏はこう提言している:土壌再生には土地の使用の仕方を決定する場合、政府のあらゆるレベルで、全面的な変更が必要である。土壌、水、エネルギー、気候、生物多様性、食糧生産はすべて生態的に緊密に結びついている、だから土地利用には統合された政策決定が必要なのである。現在では、国の決定や諸政策は異なった部門や機関で別々に行なわれていて、他のセクターへの影響にはほとんど考慮が向けられていない。先進国のエネルギー担当省は、生物燃料に、その為の水がどこから来るか、あるいはそれがどのように土壌、生物多様性、食物価格に影響を与えるか心配しないで、何十億ドルの出費も許すだろう、と同氏は警告している。また世界の土壌を保護する事ではなんら公式の合意が成立していない。
 アイスランドのこの国際フォーラムに結集した世界各地からの代表者達は、「ランドケア国際年International Year of Land Care」と呼ばれる土壌への国際的な認識を持つ為、「土壌責務遂行」(soil stewardship)に焦点を合わせた「提言」を討議した。それは「土壌保護の責務を果たす事」が世界全体の食物と水の保全に影響を与えるからである。アーナルズ氏は経験からこう述べている:「我々はアイスランドにおける非常に深刻な土壌劣化と闘ってきた、それは対応するのにこれまで100年かかってきた闘いである。その土壌衰退はアイスランドの10,300平方キロの3分の1を今でも砂漠にしたままである。アイスランドは他の国々への警告、また十分のリソース(資力・知力・人力)があれば悪化した土地を復活させることも可能であるという希望を与える役を果たすだろう。土壌は蘇生させるよりも保護する方がずっと良いのです」。

土壌と水危機と健康

 「水・環境・健康に関する国連大学国際ネットワーク(United Nations University International Network on Water, Environment and Health)」のザファ・アディール(Zafar Adeel)は、土地の衰退と水資源の持続可能なマネージメントを議題にして、砂漠化の大きさとグローバルな水危機を強調した。彼はその水危機が貧困と人間の健康へ与えているインパクトを指摘しこう述べている:水不足は政策の失敗によって影響を受けている、そして乳児死亡率と強い相関関係がある。彼は内陸のアラル海の破滅を挙げて何千という人々の暮らしへのインパクトを説明した。彼は持続可能性を保証する適切な対応は、水資源と土地使用パターンを統合的に査定して、政策決定を行なう必要がある。そしてより広範囲なマネージメントアプローチを確定していくべきである。彼はエジプトとパキスタンに於ける生物圏保護の肯定的な実例を提供して、開発共同体でのパラダイムの転換をよりよい活動の統合に向ける必要があると結びで述べた。
 この国際フォーラム報告のウエッブサイトに自然保護活動家ダグラス・バーンズ(Douglas Barnes)氏は以下の意見を寄せている:「私はこの土壌衰退という最大の環境危機がやっと世間の注目を浴びてきたのを見るのがうれしい。土壌の衰退は嬉しい事ではない、そしてたいていの人は人間の健康と土壌の健康の間を結び付ける事はない。しかし現実は健康な土壌は、ホモ・サピエンスを含んだ多くの種の生命の基礎になっている。我がホモサピエンスの農業の最初の試みが、人によって作られた最初の砂漠を作りだし、文明社会の最初の崩壊も生みだした。この傾向は今日も続いていて、中国の土地の19%が土壌悪化で塩化されて、年に1ヘクタール毎に土壌40トンを失っている。米国では植物栄養分の損失は1年に200億ドルに昇っている。またカナダでは大草原の38%が塩化で厳しい影響を受けている。土壌破壊による損失はこれらの国で止まるわけではない。
 アイスランド農民協会(Icelandic Farmers Association)から会議に参加したシグルゲール・ソーゲルソン(Sigurgeir Thorgeirsson)氏はこのフォーラムの結びにあたってこう強く述べた:「土壌は農業生産と人間の暮らしにとって根本的に必要な条件です。農民は土地の最も重要な使用者です。ランドケアに於いては農民の理解と参加が必須なのです」。

参考資料;
◎Common Dreams NewsCenter
Dirt Isn't So Cheap After All September 18, 2007
◎Summary of International Forum on Soils, Ssociety and Global Change
Vol. 144 No. 1 Friday, 7 September 2007
◎Soil erosion is the "silent global crisis"
Inter Press Service  7 September 2007

Author 事務局 : 2007年11月15日 08:52

 
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