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2008年05月01日

「有機認証取得がはじまりました。」第7回 【AQUA196号】

山形県米沢市  遠藤保彦さん

 BM技術協会では、これまで、自然生態系の保全・回復を目指し、資源循環型の農業技術の普及に取組んできました。二年前から会員の各産地で取組まれている~自然学を実践する~「土と水の学校」有機栽培講座では、BMW技術を活かし、有機栽培技術の確立を図ろうとしています。アクアでは、有機農業に取組み、有機JAS認定を取得している協会会員・産地にJAS認定取得の動機や経緯、現在の「有機農業」を巡る動きについて、どう捉えているかインタビューを行っています。第七回は、山形県・(有)ファーマーズクラブ赤とんぼで稲作に取組む遠藤保彦さんです。 (まとめ:礒田有治)

 ――はじめに稲作で、有機栽培を始めたきっかけをお聞かせください。
遠藤 動機は、安全、安心です。地域の環境的な問題はもちろん、安全は、ちゃんとした生産の履歴とか、ちゃんとした農産物であるということを第三者機関によってきちんと認証をしてもらい、それを食べる人に伝えるということです。
 農薬を使用すれば、七〇年とか八〇年とか人が生きていく中で、何万分の一の確率であっても、食べる人や自分の体に、何らかの形で影響が出る可能性があります。安全性とは、そういう食べ物をつくってはいけないということです。栽培者自身も、農薬を散布することによって、自分の体がダメになります。慣行栽培で栽培面積が大きければ、農薬の使用量も余計になり、生産者の体にも大きな影響がでると思います。
 安心というのは、自分のつくった農産物を、あの人のものだったら、安心して買えるという、安心と信頼です。なおかつ、自分の名前で生産履歴を出して、JAS有機の認証を取得していれば、消費者の方、栽培者の顔が見えるように思えます。地域環境、食べる人、生産者という関係性の中でやはり、安心・安全を掲げて有機のものをつくろうと思ったのがきっかけです。
――いつ頃から取組み始めたのですか。
遠藤 減農薬・減化学肥料栽培は、父がすでに取組んでいましたので、分かりませんが、自分は一四、一五年くらい前から、減農薬減化学肥料から始め、赤とんぼで言うA4基準(※注1参照)の除草剤一回栽培を経て、無農薬A3から有機A1へと、徐々にステップアップしていきました。無農薬にしたのは一〇年くらい前だったと思います。ちょうど、赤とんぼの設立と同じくらいだと思います。その時、無農薬米を本当につくれた時の自信というか、今も本当につくれたときの嬉しさの感激が、忘れられません。無農薬栽培最初の年の収量は六俵でしたが、本当にできたという自信が持てました。無農薬栽培では、当然、苗も無農薬でつくれなければいけない。その苗をつくることができたということがうれしかった。今でも課題はありますが、とりあえず本田に植えられるだけのものはできるようになりました。
――有機栽培をやっていて、どんな点に難しさを感じますか。
遠藤 やっぱり親父みたいに、熟練して、能力や技術があっても、長年、農薬を使ってやってきた人には有機栽培は無理だと思います。これから無農薬を始めるというのは、多分、技術的にも考え方としても難しいのではないか。かえって何もわからない人、新規加入で、まず農業を全然知らない人の方が、やれるのではないかと思います。チャレンジが出来るし、新しいこともできると思う。親父のようにやってきた人には農薬を使わなければ、つくれないっていう頭があるから、色々な人に勧めても、俺は出来ないって言われます。
――有機認証を取る上で苦労や難しさはどんな点ですか
遠藤 認証は、赤とんぼに、ご指導ご協力をいただいたおかげで、できたと思っています。多分、個人では出来なかったと思います。赤とんぼでは、専用の農業機械を生産者に貸し出したり、様々な面で生産者をサポートしてくれています。例えば、温湯による種子消毒や種まき等も、農家同士と職員とが共同で行ったり、培土づくりも赤とんぼでやっています。私はポット育苗も行っていますが、有機栽培専用の種まきの機械や、紙マルチとポット用の田植え機も、すべて赤とんぼに、借りています。それらを個人で揃えるのは経済的に難しいし、サポート体制があったから、認証がとれたと思います。
 また、普通の田植え機で無農薬栽培を行っている水田もありますが、それだと、横の株間は、機械では除草できません。しかし、ポットで栽培した苗で一坪当り三八株植えにすると、株間を縦横、除草機が使用できるので作業が楽になります。
――そういう栽培技術についても、赤とんぼでサポートしてくれるのですか。
遠藤 そうですね。マニュアル書があるので、一定に技術は確立しています。あと肥料や土壌改良剤も全部ではありませんが、統一になっていて、だいたい皆、同じような米ができると思います。
――有機栽培では、どんな点にやりがいがありますか。
遠藤 サッカーとかバレーボールとか陸上駅伝とか、色々なスポーツを見ていますが、何にでも、頂点ってあるじゃないですか。私の頂点は、有機栽培で、自分が納得するくらいの収量と食味があるのが自分の頂点だと思うので、そこを目指しています。まだ技術が足りない部分がかなりありますし、毎年、天候にも左右されるので、その辺を色々考えながら、自分の目指すところを極めたいと思います。そういう意味では、とてもやりがいがあります。
――課題はどんな点ですか。
遠藤 課題は山積みです。昔の人は苗半作と言いましたが、育苗が課題です。やはり、苗がいいと活着がいいし、田んぼの土壌の状態がある程度悪いところでも、そこそこ、よく育ってくれます。苗と、土壌の状態が良くないと、最初の出足がよくなくて、うまくいきません。土づくりも課題です。調子の悪い田んぼは、前年度の秋から堆肥をまいたりして、秋耕するように心がけてやっています。有機肥料もコントロールが難しく、肥料をまいても、すぐには効いてきません。すぐに効いてこないので、施肥量を増やすと、今度は多すぎたりしてしまいます。その辺が、なかなか難しい。
――田んぼの状態は変わってきましたか。例えば何か、生きものが増えてきたとか。
遠藤 カブトエビですね。五、六年前から住み着かないかなと、堆肥が沢山入っている田んぼにカブトエビを三〇匹くらい放しました。でも、その放した田んぼの反対側の田んぼに、どんどん跳ねていって、そっちの方で二、三倍に増えていました。去年あたりから田んぼのあちこちで見えるようになってきて、今年はかなり増えてきています。赤とんぼは大発生しています。その他にトノサマガエルやツチガエル、ドジョウ、フナ、コイ、カジカもたまに見かけます。マムシ、ヤマカカシの等の蛇もいます。
――大手量販店で有機農産物取扱い拡大の動きがありますがどう思われますか。
遠藤 量販店で、果たして、自分達の思いや苦労が伝わるのか疑問です。でも、きちんと情報が伝わり、評価して買ってもらえるなら良いと思います。やっている農家の人たちは皆、本当に草取りとか、苗を作る段階とかで、辛い思いしていると思います。それを評価してもらい、それに見合った価格でなければ、農家の人たちは、たぶんつくらないと思います。
――県とか行政とかに対しては、要望はありますか。
遠藤 米沢市では、減反のカウントに際して、特別栽培は書類がなくても認めてもらえますが、無農薬については、書類を提出しなければ認めてもらえません。また、土づくりには堆肥が必要ですが、堆肥を購入し散布すれば、ダンプや散布の手配にも、かなりの経費がかかります。できれば堆肥を散布する人に対して、補助制度ができないのか、また、耕作面積に対する補助制度があれば、様々な面で、活用できるとは思います。
 しかし、何でも農家に補助金を出すのはダメだと思います。米の値段も安くて、補助金が打ち切られたら、みんな終わりになります。国は、方針がコロコロ変わるから、自分は、補助金に余り頼りたくない。むしろ、補助金制度より、米の価格を、最低限の見合った価格、昔で言えば、生かさず殺さずの価格くらいに設定してもらえばよいと思います。国は一〇町歩くらい米を生産している普通の農家の実態と、声を聞くべきですね。成功していない人がほとんどだから。農政は、補助金を出すので無く、平等に米の価格を配分するべきだと思います。
 (注1:)ファーマーズクラブ赤とんぼの米の格付け。A1は有機、A2は転換期、A3は無農薬、A4は除草剤1回

Author 事務局 : 2008年05月01日 00:56

 
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