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2008年09月01日

有機認証取得がはじまりました!第10回 【AQUA200号】

第10回 新潟県・謙信の郷
富永幸司 さん
 BM技術協会では、自然生態系の保全・回復を目指し、資源循環型の農業技術の普及に取組んできました。三年前から会員の各産地で取組まれている、~自然学を実践する~「土と水の学校」有機栽培講座では、BMW技術を活かし、有機栽培技術の確立を図ろうとしています。有機農業に取組み、有機JAS認定を取得している協会会員・産地にJAS認定取得の動機や経緯、現在の「有機農業」を巡る動きについてどう捉えているかインタビューを行うシリーズ、第十回は、新潟県の謙信の郷で稲作やイチジクに取組む富永幸司さんです。  (まとめ:井上忠彦)

 ―――有機認証を取得しようと思った動機をお聞かせ下さい。
富永 高度成長期、この辺りの山に産廃施設やゴルフ場の建設をする話が持ち上がって、その反対運動を地域でやったことが環境や有機農業について考えはじめるきっかけになったかもしれないですね。当時は右翼や機動隊なんかが来たりして大変でした。ここの水源を守っていくこともそのころから考えはじめました。
 山を守る応援をしてくれた「緑の学校」の長谷川先生の話をみんなで聞いているうちに仲間意識もできてきたのかな。ごく自然に有機農業になってしまいましたね。
 そして平成四年頃、特栽米制度ができて農協などを通さずに自分で米を売れるようになったじゃないですか。それなら有機の米をつくろうと思いまして。米はただうまいだけじゃだめなんじゃないかと。
―――有機で稲作されてきて、いままでどんな取り組みをされましたか?
富永 岡山大学の岸田先生が鴨農法をやられているということを聞いて、わざわざ見に行ったりしました。やっぱり関東とこの辺は土が違うんですよね。ここはもともと粘土が強いところで、トロトロ層もしっかりしてない。
 有機稲作もはじめのうちは、米糠とくず大豆だけでいいんですよ。何年かはいい状態でいける。でもそのうち面積が増えてきたりすると管理がおろそかになって失敗する。わたしも地区の役をやっていて忙しかったときにやりました。
―――今年も鴨農法をやられていますね。
富永 マルチとかいろいろ試してきましたけど、長くつくってきてやっぱり鴨かなというのがひとつの結論としてあります。
 鴨は田んぼに入れた資材を足で攪拌してくれたり、稲の根腐れのもとになるようなことの緩和をしてくれます。ガスが沸くような状態だと稲の根が出にくいですから。鴨を入れてもイトミミズやユスリカを減らしてしまうというようなことはないでしょう。土壌条件はそんな簡単なものじゃない。でもオタマジャクシやタガメは鴨が目の敵のように食べますね。
―――「土と水の学校」も謙信の郷で定期的に開催されていますね。どんな効果がありましたか?
富永 いい苗をつくっても、いい圃場条件をつくらないとだめだと、小祝先生によくいわれます。こんなに根が赤い稲じゃだめで、粘土質をつきやぶっていくような稲をつくらなければ、と。それぞれの土地にあった有機農法があるし、いろいろ技術的なことはあるんだけど、問題は有機だと収量がなかなか確保できないことです。
―――今後、有機栽培米の販売価格は変わるとお考えですか?
富永 まぁ、横ばいじゃないですか。問題意識のある主婦なんかはすこしづつ増えていくでしょうけど。
―――生物活性水はどのようにお使いですか?
富永 「謙信の郷」の井澤さんのところから持ってきて生物活性水を十日に一回くらいイチジクに散布しはじめています。やりはじめたのは今年からなので、去年おととしと比べてどう変わってくるかを楽しみにみています。病気の入り方とか。
 田んぼの方は活性水をぽたぽたと点滴のように落とすことを以前やってみました。でも蛎殻を入れたり、いろんなことを同時にしているので、単純にAB比較ができないんですよ。
 野菜の場合は、いろんな研究事例からすごくよくなったのがわかるけど、米の場合収量や食味がすごく変わったかといわれるとはっきりわからないところがある。いろんな取り組みを一緒にやっているからどれの効果なのか。
―――行政に対してどんな要望がありますか。
富永 老後の楽しみの農業、小さな規模の農業だって切り捨てないでほしいですね。大規模化して借金に追われたくないですよ。後継者がいるところは大規模にやっても維持できるでしょうけど。
 有機の堆肥だってなかなか手に入れられません。農協が粉砕したもみがら堆肥を買って入れてる人もいますけども絶対量が少ない。 昔は牛、山羊、豚、馬、鶏などをみんな飼っていたし、臭くても当たり前に糞をつんで残飯残滓も入れて堆肥をつくっていたんですけどね。
 一年のサイクルも決まっていて、冬は俵を編んだり縄をなったり、酒屋に出稼ぎに行ったり。そんな中で農業で生きていく伝統みたいなものが受け継がれてきたのかもしれないですね。
 今は鶏を飼おうと思っても近所から鳴き声がうるさいといわれるし、薫炭をつくりたいっていうとぜんそくの子がいて煙がだめだとか、洗濯物が汚れるといわれてしまいますよね。さみしいところもあります。
―――有機農業の今後のあり方についてはどう思われますか?
富永 妻は、なんでこんな苦労してるんだろう、いったい誰のためにやってるんだろうといったりします。ここまで身を削ってやる必要があるのかと追い詰められたりもしました。作業はきつく、収量も少なくて、われわれのこの苦しみは米を食べてもらう不特定多数の人にわかってもらえていないと思う。二、三年前がそんな深刻さのピークで、その後ちょっと面積を減らしました。
 有機の人は働き過ぎだっていわれますよ。他の人は田んぼにでていないのに、うちは一日中田んぼの見回りをしたり鴨をかまったり。でもわたしは自分の生き方はこれでいいんだな、とごく自然に思えます。いつの間にかそうなりました。
―――これからの抱負はどんなことですか。
富永  今年は「究極の米」をつくろうとしています。有機JASで鴨農法無農薬の「はさ掛け米」(※注1)を。
 自分としては今も十年前も二十年前も同じですね。温暖化でこのままじゃ大変だ、壊滅的だとか今はいってるけど、オイルショックの時だってトイレットペーパーを必死に探したりして、これからいったいどうなっちゃうんだ?って感じだったでしょ。
 でも、大変なことはいっぱいあっても、まんざら捨てたもんじゃないっていうのが世の中なんだと思います。

注1:「はさ掛け米」  昔ながらの稲の乾燥方法で、横に渡した竿に稲を掛けて天日と風で自然乾燥させるもの。米の水分量を適度な状態に保ち、過乾燥させることがない。香り、甘みがあり冷めてからも味が落ちない。

Author 事務局 : 2008年09月01日 20:00

 
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