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2009年06月01日

タンチョウの里・釧路湿原の水と土を守ろう【AQUA209号】

タンチョウの里・釧路湿原の水と土を守ろう

パルシステム『こんせん72』牛乳の産地、北海道・厚岸町で「牛の健康と環境を考える学習会」を開催


 四月一二日、北海道根釧(こんせん)地区の酪農家(牛の健康と環境を考える会:石澤元勝代表)と、パルシステム生活協同組合連合会、BM技術協会の共催により「牛の健康と環境を考える学習会~牛の健康は、よい土、よい草、よい水から」が厚岸町で開催されました。JA釧路太田、厚岸町役場、標茶(しべちゃ)町役場、ホクレン釧路支所や、厚岸・別海・標茶・浜中・中標津各町の酪農家など約四〇人が参加しました。同学習会は、パルシステムの『こんせん72牛乳』を根釧地区から供給し続けていくために、流域の土と水を再生し健全な生産環境をつくる学習会活動の第一歩として開催されたものです(アクア三月号一面参照)。
 まず、参加者は、『こんせん72牛乳』生産農場でマイペース酪農(注1)に取組んでいる石澤牧場に集合し、昨年、レインボー・パル基金によって導入されたBMプラントなどの現地視察を行いました。㈱匠集団そらの星加浩二プラント事業部部長から、BMプラントの概要、牛の糞尿から悪臭をなくす生物活性水の効能などが解説されました。参加者からは、牧草への液肥として使用する場合の方法や、プラントの処理能力・コストなどについて質問がありました。
 続いて厚岸郡厚岸町の「本の森 厚岸情報館」に移動して、講演会となりました。

生協組合員との連携を基に環境保全型酪農を地域で進めよう
 はじめに石澤牧場の石澤元勝氏から挨拶があり、二八年前に「こんな牛乳を子どもたちに飲ませたい」とはじまった「こんせん牛乳」の産直運動と今学習会の趣旨説明がありました。「七二度一五秒の低温殺菌『こんせん72牛乳』(八七年)を実現するために生産者は牛舎の掃除や器具の洗浄、乳搾りのときに牛の乳房を拭くなど、清潔な環境と細菌の数の少ない生乳づくりを心がけてきた。生協組合員から牛の乳房を拭くためのたくさんのタオルが、そして組合員の子ども達から『いつもおいしい牛乳をありがとう』と手紙や絵が送られてきた。しかし近年はそうした産地と生協組合員のつながりが忘れられはじめていることや、根釧地区においても酪農からの糞尿が、環境汚染源となっていることを踏まえ、ここで環境保全のためにどう酪農家や行政が行動するべきか、根釧地区酪農の現状を考え直したい」と石澤氏は、話しました。

生産者との協力関係をより強固なものに
 次に「環境保全型農業を進める産直で、都市においしい牛乳を」と題し、パルシステム生活協同組合連合会の那須豊産直開発課長から講演がありました。
 パルシステムと根釧地区酪農生産者の関係と歴史、パルシステムのレインボー・パル基金二〇〇八年度助成活動対象として、BMW技術を利用した飲水改善プラントが石澤牧場に導入された経緯、『こんせん72牛乳』を根釧地区からこれからも供給し続けていくために、生産者との協力関係をより強めていきたいという展望が語られました。参加者からは今後の生乳の価格推移と消費者ニーズの変化について、生協としてどのように捉えているか、などの質問がありました。

流域の土と水の再生が牛の健康につながる
 続いて、礒田有治BM技術協会事務局長から「飲水改善で、牛を健康に 完全堆肥化と液肥で、よい草地に」と、BMW技術を利用した環境保全型酪農と、流域の土と水をどのように再生していくかについて講演がありました。
 「現状の一般的な酪農では、牛が食べる牧草の収量をあげるために化学肥料を使用していると聞いている。根釧地区の場合は、夏場に霧が多く発生するため、日照量も少なく、植物の光合成が充分にできないことが考えられる。そうすると硝酸態チッソが多く含まれた牧草になる可能性がある。そうした牧草を食べると母牛の体内で硝酸態チッソが血液中のヘモグロビンと結合し、酸素欠乏を引き起こすため、牛が貧血状態に陥る場合があり、牛の健康に影響を及ぼす。しかし、牛の糞尿を、BMW技術によって良質な堆肥と液肥や生物活性水にし、堆肥で先ず土づくりを行い、液肥や生物活性水を使用して、牧草栽培に利用すれば、環境への負荷が減少し、良質の牧草ができ、コストダウンも図れる。よい牧草を与え、飲水改善によって生命体にとってよい水を飲ませることによって、牛も健康になる。また、地域の資源を活用したミネラル豊富な堆肥も生産者の工夫次第で、開発できる。BMW技術を利用することで、根釧地区の土と水を再生し、酪農における多くの課題と流域の環境問題を解決できる可能性がある」という礒田事務局長の説明に参加者から多くの質問がありました。
 北海道の道東では、酪農業の糞尿をそのまま、土地に散布することにより、河川が汚染され、沿岸漁業にも影響を与えていると言われています。一番ひどいときには、河川を水源とする上水道まで影響を与え、人間の飲水はミネラルウォーターに頼るような深刻な状況になっていたそうです。
 農業と環境問題、経済の大きな矛盾の一端が、道東地域の酪農にうかがえますが、そのなかで、まず石澤牧場に導入されたBMW技術の果たす役割がこれから注目されそうです。
 アイヌ語ではタンチョウ(丹頂鶴)はサルルンカムイ(湿原の神)と呼ばれるそうです。日本最大の湿地、釧路湿原はタンチョウをはじめとした貴重な野生動物や植物が多く、国立公園に指定され、九四年にはラムサール条約の登録地域にもなっています。美しい湿原とその水を守る健全な酪農環境のために、行政、生産者、流通、消費者が協力して取組んでいく必要性が再認識された学習会でした。(報告:井上忠彦)

Author 事務局 : 2009年06月01日 01:41

 
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