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2009年09月01日

【AQUA212号】「筑波山系及び涸沼川流域岩石調査」を実施

筑波山系「流域生態系保全・再生」調査研究・学習プロジェクト

「筑波山系及び涸沼川流域岩石調査」を実施
一億年の岩石タイムスケールの上に成り立つ、わたしたちの生態系

 茨城県を象徴し良質の水をつくる花崗岩を産出する筑波山。その山系を水源とする流域に沿って、生態系や、それに基づく農業・漁業等の現状を調査していく、~筑波山系「流域生態系保全・再生」調査研究・学習プロジェクト~は、第一九回BMW技術全国交流会の研究活動の一環としても位置づけられています。
 七月五日(日)、同プロジェクトによる「筑波山系及び涸沼川流域岩石調査」が行われ、茨城BM自然塾、茨城町水と自然を守る会、生活協同組合パルシステム茨城、パルシステム生活協同組合連合会、BM技術協会等から三一人が参加しました。講師には岡山大学の奥地拓生准教授をお迎えしました。

涸沼から水源地までの地層、岩石を調査
 当日、茨城町上石崎の涸沼親沢公園に集合した参加者は、まず涸沼湖畔を観察しました。山から流れ出るミネラルと海水の塩分が混じり合う汽水域は、たくさんの生物の住み処となる場所です。涸沼の水辺には多数のシジミの殻が沈んでいました。
 涸沼川下流から上流へ向かって一行は移動し、まず涸沼周辺の地層露出部で、地層の観察をしました。火山灰の関東ローム層、群馬県赤城山の噴火による鹿沼土・軽石の層、石れきの層などを判別し、「不整合」といわれる、隆起などによってできた地層のずれ(時間の断絶)や各層の成り立ちなどについて奥地講師から解説がありました。
 続いて、笠間市本戸の石灰山で石灰岩の観察をしました。石灰岩は炭酸カルシウムともいわれ、重要な農業用資材のひとつです。「石灰岩は南の島で珊瑚が堆積したものが一度地下に潜ってまた地表にでてきたもの。海の生きものは、海水を取り入れて体内のカルシウム濃度を調整するが、人間は身体の中に骨をもっている。骨は身体のなかの海だといえる。山から削られた岩石のミネラル分が海に流れる途中、生き物はそのミネラルを体内に取り入れて生活するという循環が行われている。生命は広い意味でのミネラルの循環に依存している」と奥地講師の解説がありました。
 次に、吾国山の洗心館という施設の敷石を観察しました。鉄やマグネシウムを多く含んでいる筑波石(はんれい岩)や花崗岩、その他、海外から運ばれたと思われる石材などが敷石として使用されており、さながら岩石見本となっているようでした。
 昼食の後は、吾国山の岩石調査をしました。約一億年前にできたチャート(深海プランクトンの死骸が千年に一ミリ程度堆積したものが、地下で高熱になって固まったガラス質の岩石)がみつかりました。チャートと石灰岩はセットで現れることが多いそうです。吾国山の森は、水源かん養保安林に指定されています。参加者達は、涸沼川の源流である、吾国山の湧き水でのどを潤しました。湧き水は、ミネラル成分を感じるおいしい水でした。
 最後に、笠間市の中野組石材工業㈱に移動し、日本一の花崗岩採石量を誇る稲田石(花崗岩)の採掘場を見学した後、中野組石材の会議室にて、今回の学習会のまとめを行いました。

稲田石は、世界で一番若い花崗岩
 はじめに視察を受け入れていただいた、中野組石材工業㈱の中野剛弘代表取締役から「国産石材の価格は以前に比べかなり下がったが、それよりも安い中国産の石材がたくさん輸入されてくる。稲田石は六千五百万年前(ジュラ紀)にできた、世界で一番若い花崗岩といわれる。つくばの独立行政法人、地質学研究所によると、中国産の一~二億年前にできた石材には石理(せきり)に対してマイクロクラックが入っているので水を吸うと水分が抜けずに風化しやすいが、笠間の稲田石は濡れてもすぐに乾くので劣化しづらいそうだ。近年、だんだんと国産石材への回帰がいわれるようになってきた。また、ミネラル分を多く含んだ土地でつくった『石屋のトマト』はおいしいと評価が高いが、同様にして稲田石を活かした『稲田のおいしいお米』もできるかもしれない。安心安全な農産物づくりに稲田岩が寄与できればうれしい」と稲田石に関してのお話がありました。

新鮮な岩石で磨かれた水で、
多様な生物が生まれる
 奥地講師からは、本日の学習会のまとめが行われ、
 「日本列島の岩石の特徴は多様性。岩石の生成された時間の多様性と、岩石の種類の多様性。つくられては消えていく、たくさんの種類の岩石を日本は活かせる環境にある。車を数分走らせただけで、違う種類の岩石が何種類も現れるのは特殊なことで、日本は岩石の多様性においては世界的に見ても、〇・一%程度に入る、とても恵まれた地域だ。BMW技術は日本で生まれるべくして生まれたといえる。
 筑波山の頂上から下はずっと花崗岩だ。笠間にはおいしい日本酒があるという。花崗岩があるところにはかならずいい酒造がある。そして水を磨いた花崗岩は傷んで砂になっていく。また、新鮮な岩石で磨かれた水があるところには、多様な生物が生まれる。そうした水が流れ着く涸沼は、本来、生き物が豊かなはず。
 数千万年間、花崗岩は水をつくり続けるが、花崗岩は宇宙の中で地球にしかない。花崗岩が陸地の骨格になる。大きなタイムスケールの岩石の循環が働いていて、我々は一億年以上前にできた岩石のお世話になっている。人間の体内のミネラルと、地球の地殻のなかにあるミネラル、海水内にあるミネラル、は成分がよく似ている。岩石の時間の流れの中で生き物は生きている」と締めくくりました。  (報告:井上忠彦)

Author 事務局 : 2009年09月01日 20:27

 
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