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2011年11月01日

【AQUA236号】原発問題レポート(北海道)

北海道・泊原発――孤立を恐れず闘う斉藤武一さん
「日本のすべての原発を止める時が来た」

 八月一七日午後、経済産業省原子力安全・保安院は、定期検査の調整運転を行っていた泊原発三号機について、北海道電力に対して検査修了証を交付しました。これは、高橋はるみ知事が泊原発三号機の営業運転再開を容認したことを受けてのものです。3・11以来、原発への信頼が地に落ちる中、あえて運転を再開した泊原発に対しては道民の反対も多く、八月二一日には札幌市内で再稼動に抗議のデモも行われました。北海道電力が運営する泊原発は、北海道・積丹半島の西側の付け根にあります。小樽市の西方四〇キロ。小樽市からはバスで約一時間三〇分。泊原発のある泊村、そして近隣の岩内町、共和町などの地元ではどう反応しているのか。実際に泊村、岩内町の現場を訪れてみました。

巨額の財政援助で反対運動を押さえ込んできた、国と北海道電力
 「地元の反応に目だった動きはありません」。そう肩を落とすのは、地元で数少ない仲間と原発反対運動を続けている斉藤武一さんだ。斉藤さんは、岩内原発問題研究会を主宰するかたわら、各地を訪れて泊原発の危険を訴える講演活動を行っている。
 「原発の地元誘致が決議された一九六九年当時は、いまでは考えられないほどの反対運動が起こったのです。漁民も農民も町民も当初は反対しました。しかし、国からの交付金や北電からの寄付金などで住民は徐々に懐柔されてしまったのです」
 原発立地に協力した泊村をはじめ、近隣の岩内町、共和町、神恵内村の地元四町村には、電源立地の名目で多額の交付金がばらまかれた。泊村は約一九〇〇人の人口で、二〇一〇年度の予算規模は約五六億円。そのうち国の交付金が一八億円、北電関連の固定資産税が二六億円。つまり原発関連の村予算に占める額は四四億円(七八%)にもなり、もはや泊原発がなければ村の存続はないほど、特殊な村財政となってしまった。
 「私の住む岩内町では、漁業は壊滅してしまいました。もともと岩内はスケソウダラ漁の発祥地で、日本一の高品質というタラコの大産地でした。最盛期にはスケソウ漁の漁船が一〇〇隻以上だったものが、今年中にはたった二隻に減ってしまいます。理由は漁獲量の減少ということもありますが、お金に釣られる体質が地元に根付いてしまったからです。岩内の漁師には漁業補償金が配られたのです。総額で二五億円、組合員六〇〇人で分けると最高でも一五〇〇万円。一過性の補償金が消えると、漁業を捨て、現金収入を求めて原発の作業員として働く人、定期点検に全国から訪れる点検作業員を当て込んで民宿を開業する元漁師など、この三〇年間で岩内の漁業は壊滅してしまいました。町の人口は、原発の地元誘致が決まった一九六九年には二八〇〇〇人でしたが、今は一五〇〇〇人を割るほどになってしまったのです。今、岩内町の借金は二〇〇億円です。それでも財政破綻しないのは、原発立地の自治体を赤字団体にしない程度の国の支援があるからです。原発があれば町は永遠に発展するといっていたバラ色の幻想の成れの果てがこの始末です」
 斉藤さんは、淡々と岩内町の経緯を話してくれた。国とエネルギー産業によるハゲタカのような地方食い潰しは、この過疎地域にも及んでいた。
 「原発はエネルギーの問題でも電気の問題でもなく、金儲けの道具にすぎません。お金をむしりとる『たかりの構造』となっています。資源がないから原発というのは、金儲けを隠すための方便にすぎません」。泊原発をめぐる利権構造を目の当たりにしてきた斉藤さんの実感だ。

三四年間、泊原発近くの海水温を測り続ける斉藤武一さん
 「泊原発の温排水から故郷の海を守りたい」という思いから、斉藤さんは、今年で三四年、ほぼ毎日、泊原発を真正面に臨む岩内港の防波堤で水温を測ってきた。今回、筆者も斉藤さんの測定の様子を見せてもらった。防波堤に梯子で登り、水面まで七メートルはあろうかという高さから、ヒモの付いたバケツをポーンと投げ入れた。作業を続けながら温排水の仕組みを説明してくれた。
 原発は、ウランの熱で水蒸気を作り、タービンを回して電気を作る。そこで発生する水蒸気の熱で冷却水として利用された海水は温まり、約七度高くなって放水されるといわれている。泊原発の場合、一号機から三号機までの合計で毎秒一五〇トンの温排水が放出されているというのだ。
 「原発は、ウランの熱のうち、電気になるのは三分の一(三三%)で、残りの三分の二は海に熱を捨てているのです。排水にはわずかとはいえ放射性物質が含まれています。つまり原発は海を汚染し、海を温め、環境に負荷を与え、海を殺し続けているのです」と斉藤さんは話す。そこで一九七八年、斉藤さんが二五歳のときに、海水温のモニタリングを始めた。最初は軽い気持ちだった。一九八九年、一号機が営業運転を開始。九一年には二号機も運転を始めた。斉藤さんは二〇〇八年、測定開始から三〇年を迎えるにあたり、温排水の測定論文を発表した。測定の記録を公表して、岩内の海が死滅しつつある現実を知らせたいと思ったからだ。
 「岩内町から二五キロは離れた余市町の水温などと比較すると、原発の運転開始後、岩内町の海水温度は〇・九度も上昇しています。私は、稼動前の一〇年間のデータを持っていますので、比較することができる。その結果、少なくとも〇・三度は上昇したと言っていいと思います」
 
 海水温が上昇するということは、海の生態系に変化をもたらすことである。スケソウダラはもともと水深一五〇メートルの付近で捕獲できた。しかし、いまでは水深三〇〇メートル以下にいる。低い水温を求めてのことだ。
 「魚が深くに回遊していると、網の量や長さが必要で網の値段は高くなり、巻き上げ時間の増加など、スケソウダラ漁のコストは合わなくなった。漁業衰退の一因にもなっているのです」
 それでも北電は、自ら海水温をモニタリングすることなく、温排水の影響を否定している。斉藤さんは、これまでの調査の結果をこうまとめる。
 「泊原発の運転前後で、岩内水温が全体で〇・九度上昇しました。自然の変動分が〇・六度です。温排水で〇・三度上昇しています。〇・三度の上昇というと小さいと思われるかも知れませんが、自然変動の〇・六度から見ると五〇%増となります。つまり、泊原発から四キロ先まで、長期的に見て、温排水が拡散していることになる。ついに、温排水で何度上昇しているかが明らかになりました」(詳細は、「岩内原発問題研究会」のホームページ【http://www.geocities.jp/iwanaigenmonken/】の温水データを参照)
 さらに、斉藤さんが疑っているこんな事実もある。科学的に立証はできないが、と前置きして、
 「地元の保健所でもらった資料なのですが『北海道における主要死因の概要』という統計の本です。そこに乳がんの死者数が出ていて、泊原発から一六〇キロ離れた十勝地方と比べると、泊のほうが11ポイントも高い。このポイントはSMR(標準化死亡率)といって、他の町と比較できるように年齢構成などを考慮した数値です。ただ、泊は他の地域に比べて原発ができる前から乳がんの発生率が高い。だから、一概にはいえませんが、泊から四〇キロの小樽市、さらに六〇キロ、一〇〇キロと、泊から離れるほど、乳がんの発生率が低くなっています。医学的には解明されていませんが、今後はもっと専門家なり、研究者なりに突っ込んで調べてもらいたいですね」と話す。
 泊原発の影響はまだ未調査だが、米国では統計学者であった『死にいたる虚構』の著者、M・グールド氏の調査がある。一九五〇年から四〇年間、米国の乳がん死亡率が過去と比べて二倍になったという米国政府の報告に着目、原発から半径一〇〇マイル(一六〇キロ)以内と以外に分けてみると、死亡率の高いのは原発のある地域であり、他の地域は増加していないことを証明した。日本の場合、各地の原発の立地から一六〇キロ圏を日本地図に重ね合わせると、北海道の東半分と沖縄を除くすべての地域が「一六〇キロ圏内」なのである。まさに「汚染列島・日本」の実像が浮かび上がる。

泊原発の沖合に「海底活断層」の指摘
 いま、道民が注目する新たな指摘が浮上した。二〇〇九年、東洋大の渡辺満久教授(変動地形学)は「泊原発の一〇キロ~一五キロ沖合に、これまで確認されていなかった活断層がある。」と指摘したのだ。渡辺教授は、海成段丘面と呼ばれる階段状の地形を調査。長さ六〇キロ~七〇キロに及ぶ海底の活断層が延びているのではないか、と推定している。この活断層で引き起こされる地震の規模は、マグニチュード七・五以上になるという。
 こうした指摘にもかかわらず、北電は「付近に活断層はなく、耐震安全性に問題はない」と発表(二〇〇九年一一月)。地震の想定や耐震評価に変更を加えようとはしない。
 さらに最近では、泊原発の近くにあり、渡島半島を縦断する黒松内低地断層帯が「半島の陸域内で途切れる」とする北電の見解と異なり、太平洋の海底まで達する、より規模の大きい活断層群であることが、独立行政法人・産業技術総合研究所(茨城県つくば市)などの調査でわかったと報じられている(八月一三日付朝日新聞)。
 北電の「無視」にもかかわらず、複数の活断層が集まり、日本海側の寿都から黒松内をへて長万部へと続いている。国の地震調査研究機関でさえ、長さ三二キロ以上で、マグニチュード七・三以上の地震が起こる可能性を否定してはいない。泊原発への影響分析はこれからだが、独立行政法人・産業技術総合研究所の研究員は、
 「マグニチュード七・五級の地震がいつ起きてもおかしくない」という。

 ここで、週刊誌のスクープ記事を紹介するのはふさわしくないと思うので、内容には踏み込まないが、六月一八日号『週刊現代』に、泊原発の三号機では、独立行政法人・原子力安全基盤機構の検査員が「泊原発三号機の検査結果は真っ赤な改ざんです」と告発する記事が載った。たまたま良心的な検査員の告発だったが、原子力資料情報室の共同代表の伴英幸氏によると、原発の検査は、原発の推進の元締めである経済産業省の外局である原子力安全・保安院の、そのまた下請けである原子力安全基盤機構に検査が丸投げされているという話だ。原子力安全基盤機構は、技術的にはプロ集団だが、正直な検査結果を保安院にあげても通らないことがわかっているので、改ざんは日常的に行われているという。国策としての原発推進であれば、原発の稼動に障害となるものはすべて排除するという姿勢は徹底されているといわざるをえない。九州電力のいわゆる「やらせメール」事件をはじめ、北電でもプルサーマル計画シンポジウムでの「やらせ」が発覚、結局のところ、日本の電力会社のほとんどが虚偽・隠蔽の実行犯だったことが暴露されつつある。もはや原発という技術の問題を超えて、日本のかかえる深刻な社会問題なのだ。

―コラム―
 泊村にも北電の運営する原子力PRセンター『とまりん館』という立派な四階建ての施設が作られていた。「もっと自然に、もっと身近に、原子力」というキャッチフレーズを掲げ、原子力発電の仕組みを小学生にも理解できるように展示物が並び、親切なガイドさんの説明で楽しみながら学ぶことができる造りだ。実物大の泊原発三号機体感ルームなどは、見る人によっては卒倒しかねないほど精巧に作られている。なぜか立派な屋内温水プールまであって、近隣の子どもたちを呼び込みたい意気込みが感じられる。近隣の町村の豊かな自然環境の紹介もちりばめられていて、斉藤武一さんが皮肉を込めた「バラ色の未来」がいまだにPRされていた。


周辺地域に広がりを見せ始めた泊原発反対の声
 「福島の事故後、泊村、岩内町など地元四町村では、大きな運動の盛り上がりはないのですが、3・11の原発事故の実態を目の当たりにして、むしろ、遠隔地域の反応が大きいと思います。なぜなら、原発は一度爆発を起こすと、遠隔地でも他人事でないことがはっきりしたからだと思います」
 例えば、余市町など三〇キロ圏内の地域の農業者たちが、七月に「泊原発を止める会」を結成、斉藤さんは講演者として招かれ、四五〇名もの参加があったという。余市町はフルーツの町といわれ、若い農業者も多く、福島の農作物の汚染の実態に危機感を募らせるのは当然のことだ。岩内町でもこの四月の町議選で、斉藤さん同様「脱原発」を訴えてきた町議が初めて当選した。
 「原発に賛成する人から、議会には原発に反対する監視役のような人も大切だといわれました。こんなことを聞いたのは初めてです。町の中でも泊原発について、話しかけてくる人も少なくない、嬉しいですね」
 斉藤さんの長年の孤軍奮闘がいま、少しずつ実り始めているのかもしれない。

BMW技術協会 事務局 大田 次郎

Author 事務局 : 2011年11月01日 12:09

 
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