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2012年03月01日

【AQUA240号】アフリカ・ザンビア農業指導レポート1

「栄養不足・貧困の解消と
 アフリカの食料安定生産を目指して」


㈲千葉自然学研究所   
 礒田 有治

 昨年、九月に一〇日間、一一月〜一二月に三週間ほど、アフリカのザンビアを訪問する機会を得た。訪問の目的は、ザンビアの中・小規模農家(*注1参照)の農業生産性を向上し、貧困からの脱却を図るための農業調査及び技術指導等である。協会会員で、農業マーケティング研究所の山本和子氏から、一度アフリカの農民の現状を見てほしいとの要請を受け、自身初めてアフリカ大陸に渡ることになった。今回の取組みは、山本氏が農林水産省から事業委託を受けている「途上国の農業等協力に係る現地活動支援事業」のアフリカの農民組織化事業の一環として、行われたもの。ちなみに山本氏は、私の昔の職場の同僚で、東南アジアや、アフリカの貧困層を対象に、貧困からの脱却方法等を指導する活動を長年にわたり、展開している。

土壌分析で判明した燐酸や
 ミネラルがほとんどない『極度に痩せた土』
 九月の訪問では、先ずザンビアの農業生産環境(気候、土壌、水資源等)や農業政策、現場での生産方法等を具体的に知るための調査を行った。
 調査では、中・小規模農家の生産圃場の土壌分析を簡易土壌分析器で実施したが、日本での分析ではこれまで経験したことのない数値だった。調査圃場の土壌には、可給態の燐酸がほとんどなく、このほかの必要ミネラル成分も著しく低い、極度に痩せた土壌であった(*表1参照)。日本では、むしろ土壌の燐酸過剰が問題となっているが、これとは、全く逆の結果となった。
 やはり、アフリカ大陸は、人類発祥の古い大陸であり、しかもザンビアは高原地であることから、地表面のミネラル成分は、長い年月の雨によって、溶脱してしまうという当たり前の現象が起きていることを実感した。
 また、土は、非常に固く、土壌団粒がほとんど形成されていないことが調査で確認された。明らかに土壌中の有機物不足で、化学肥料中心の栽培であることや、作物栽培前に、焼畑を毎年実施してしまうことが主な原因だ。
 ザンビアの主食は、トウモロコシ。主要作物として、最も広く栽培されているが、生育特徴として土壌養分の吸収力が高い。トウモロコシ栽培で圃場に投入した化学肥料成分も、ほとんど吸収されてしまうことも、この『極度に痩せた土』の要因の一つと考えられる。もともと痩せた土壌であるのに、投入した肥料成分以上に、土壌成分が吸収される自転車操業状態の栽培であることが見てとれ、このままでは、継続的な生産は難しいことが想定された。

『極度に痩せた土』が
  栄養失調や貧困をもたらす
 この土壌分析結果を受けて、九月の調査後、帰国してからは、ザンビアでの栄養状態や乳幼児死亡率等について調べてみた。化学肥料のみの投入で、有機物やミネラルがほとんどない状態の土での作物栽培は、作物の形状は同じであっても、栄養価の非常に低い作物になっている可能性が高いからだ。その影響が、栄養失調や免疫力の低下につながるのではという推測だった。
 はたして、結果は、栄養不足(*注2参照)や乳幼児死亡率、平均寿命等に如実に表れていた(*注3参照)。ザンビアの栄養不足人口比率は四五%で、五歳未満の乳幼児死亡率は、千人中一八二人、HIV感染者(*注4参照)は、一一〇万人。結核感染者も非常に多い。
 痩せた土壌では、当然ながら、多収穫も望めず、現金収入も少なくなる。政治・経済、保健・教育等、様々な問題も大きいが、この『極度に痩せた土』が、栄養失調や貧困をもたらす直接的な原因になっているのだ。

アフリカの一大生産基地へと
  期待される農業生産潜在能力
中国やインド等新興国・
  アメリカが大きな関心
 ザンビア訪問前、山本氏から「この国は、アフリカで唯一農業生産拡大が可能な国」と、聞いていた。実際に調査に入ってみると、確かに痩せた土壌が多い反面、土地利用状況や気候条件面で見た農業の潜在能力は、非常に高いということが肌で感じられた。国土の五八%(約四千二百万ha)が多様な農業生産に適していると言われているものの、現在の耕作面積は、わずか一四%にすぎず、今後も国土の約四〇%は、農業生産への利用が可能とされている。気候は、一二月〜四月が雨期、五月〜一一月が乾期である。年間平均気温は、二一℃前後で、最高温度と最低温度の差が常に一〇℃以上あり、降雨量は八百〜千四百ミリとなっている。地下水も豊富で、表流水と併せ、南部アフリカの水資源の四〇%を保有していると言われている。しかし、灌漑設備が未整備のため、乾期には、大規模農場以外は、ほとんど耕作が行われていないのが現状だ。結果、ほとんどの農地は半年以上、未利用(休耕状態)である。
 この農業生産潜在能力を活かすためには、痩せた土壌の改良及び灌漑設備の整備を地域状況に即した形で進めることが最大の課題と言える。けれども、これらの諸課題をクリアできれば、ザンビアはアフリカにおける一大農業生産基地となる可能性は非常に高い。しかも、ザンビアでは、雨期であっても、降雨は、スコールが中心で、天気はすぐに回復する。このため、年間を通して日照量は多く、湿度が、五〇%を超えることはない。つまり、高品質の農産物が生産できる条件が揃っている。
 ザンビア政府は、雇用創出と農村開発を目指し、小・中規模農家及び大規模農家を共存営農させる一カ所十万ha規模のファームブロック構想をすすめている。しかし、これにいち早く反応し、関心を示したのは、中国やインド等、自国の食料難が危惧される新興国だった。また、EU諸国やアメリカも、ザンビアの農業潜在能力に大きな関心を寄せている。とりわけ、アメリカは、世界食糧危機戦略にもとづいて、五年間で一五〇億ドルを拠出する農業支援プログラムを始めている。これはトウモロコシや野菜の栄養価を高める品種改良プログラムとされており、問題の本質である土壌の改良ではなく、植物そのものを変えてしまうという、いかにもアメリカらしい発想だ。だが、これには、ザンビアの国策である非遺伝子組み換え(Non-GMO)生産を、なし崩しにする危惧も感じられる。
  (以下、次号に続く)


*注1:ザンビアでは、耕作面積五ha以下を小規模農家、五〜二〇haを中規模農家、二〇ha以上を大規模農家と分類している。
*注2:●ザンビアの栄養不足人口…四五% (世界七位):二〇一〇年FAOハンガーマップ
*注3:●ザンビアの新生児死亡率…二四人/一〇〇〇人当たり 
WHO加盟国一九三カ国中二四位(日本一人、一八八位):二〇一一年WHO世界保健統計
●ザンビアの乳児死亡率…八六人/一〇〇〇人当たり
WHO加盟国一九三カ国中一六位(日本二人、一八七位):二〇一一年WHO世界保健統計
●ザンビアの乳幼児(五歳未満)死亡率…一八二人/一〇〇〇人当たり 
WHO加盟国一九三カ国中一八位(日本四人、一八二位):二〇〇五年ユニセフ世界子ども白書
●ザンビアの成人死亡率(一六〜五九歳)…五一五人/一〇〇〇人当たり 
WHO加盟国一九三カ国中五位(日本六五人、一八三位):二〇一一年WHO世界保健統計
●ザンビアの平均寿命…四八歳
WHO加盟国一九三カ国中一八八位(日本八三歳、一位):二〇一一年WHO世界保健統計
*注4:●ザンビアのHIV感染者…一一〇万人、一五歳以上の七人に一人が感染:二〇〇八年国連合同エイズ計画(UNAIDS)推計

ザンビアと農業の概要 
 アフリカ南部に位置するザンビアは、コンゴ、タンザニア、ジンバブエ等を隣国に持つ内陸国である。標高七百m〜二千mの高原地帯にあり、面積は、日本の約二倍の七五万k㎡、人口は日本の約十分の一の千三百万人。一九六四年の独立までは、英国の植民地『北ローデシア』として、長く直轄統治されていた。
 全人口の六割以上は、一日一ドル以下の収入の貧困層となっており、貧困層の約七割が農村に居住している。農村部の貧困は深刻で、農村人口の八割が貧困層であるとともに、生産者の九割は、小規模農民で、畑をクワ1本で耕す生産から抜け出せない農民が大多数を占める。この貧困等を要因として、とりわけ農村の保健・衛生、医療、教育体制と質は極めて貧弱だ。栄養状態も問題で乳児、乳幼児死亡率は世界的に高く、平均寿命は、常に世界で最下位を争う状況になっている。
 ザンビアの基幹産業は、植民地時代に開発された鉱業で、銅をはじめとした鉱物の輸出が、現在でも輸出額の約七〇%を占める。鉱山及び鉱物輸出周辺産業を背景に発展する都市部と農村部との所得やインフラの格差は、非常に大きい。また、生産者の中でも、植民地時代の白人入植者の大農場に起源を持つごく少数の大農場主と、大多数のアフリカ人の小規模家族農業といった二重の格差構造があり、その格差も是正されていない。農民の貧困の解消とともに、鉱物資源輸出一辺倒に変わる産業として、農業をどう育てていくかが、国の大きな課題となっている。
 ザンビアの主食は、トウモロコシ。一六世紀にポルトガル商人によって、南部アフリカに持ち込まれたといわれている。今日では、穀物栽培面積と摂取カロリーの約七〇%を占めている。
 なお、ザンビアでは、国策として非遺伝子組み換え(NonーGMO)での生産を行なっている。

Author 事務局 : 2012年03月01日 22:05

 
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