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2013年01月01日

【AQUA249号】「遺伝子組換えナタネ自生の現状と問題点」

河田昌東 (遺伝子組換え食品を考える中部の会)

「第二二回BMW技術全国交流会にて、特別講演として河田昌東先生に「遺伝子組み換えの問題について」のお話しをいただきました。遺伝子組み換え植物がすでに日本の生態系へ深い影響を与えている事実は交流会参加者に衝撃的に受け止められたようです。今号では、特別に、河田先生の講演時添付資料を掲載いたします。」
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はじめに
 一九九四年六月に茨城県鹿島港周辺での遺伝子組換え西洋ナタネ(以下、GMナタネ)の自生が判明してから八年が経った。以来、遺伝子組み換え食品を考える中部の会(以下、中部の会)はじめ全国の生協や消費者団体が連携して、国内のナタネ輸入港周辺でのGMナタネ自生の調査を行い、毎年報告会を行ってきた。その結果、GMナタネ自生の原因や責任問題について、様々な問題点が明らかになった。

(一)GMナタネ自生の背景
 従来、ナタネ油は国内各地の畑で栽培されたナタネを近くの工場で搾油し利用してきた。因みに、一九五七年当時は二六万ヘクタールあったナタネ畑は、現在八〇〇ヘクタールにまで減少している。生活に使われる年間二〇〇万トンを超えるナタネ油のほとんどは、カナダ産のキャノーラ油である。キャノーラはカナダで開発された食用油用の西洋ナタネで、本来非組換えであったが、一九九六年に遺伝子組換えキャノーラが商業栽培されて以来、次第にその割合を増加させてきた。現在カナダ産キャノーラの九五%は除草剤耐性である。こうして消費者が気付かないままにGMナタネの輸入が増加した。こうした現状をもたらしたもう一つの原因は日本のGM食品表示制度にある。日本では食用油などの加工品は、原料の一〇〇%がGMでも表示する必要が無く、消費者がそれと知らずに、GMキャノーラ油を使わざるを得なかった。もし、日本もEU並に加工食品にも表示義務があれば、これほどまでGMナタネの輸入が拡大したかどうか疑問である。日本はカナダ産GMナタネの約四分の一を輸入する世界最大のナタネ輸入国である。日本の表示制度の欠陥がカナダのキャノーラのGM化を促進したともいえる。

(二)GMナタネ自生の原因
 直接の原因は、ナタネ輸入港から搾油工場までの輸送中のこぼれ落ちである。ナタネの種子は極めて小さく、トラックによる輸送途中でこぼれ落ちたGMナタネが発芽し自生するに至った。それは、輸入港から搾油工場までの往路にGMナタネの自生が多く、復路には少ないことからも明らかである。
 これまで、GMナタネの自生が報告されたのは、茨城県鹿島港、千葉県千葉中央港、神奈川県横浜港、静岡県清水港、愛知県名古屋港、三重県四日市港、大阪府大阪港、兵庫県神戸港、岡山県水島港、福岡県博多港、鹿児島県鹿児島港などである。これらの港周辺でのGMナタネ自生の情況は様々である。GMナタネ自生の原因がトラック輸送によるこぼれ落ちが原因であることから分かるように、輸送距離が長いほど自生頻度は高い。現在、三重県四日市港から運ばれるGMナタネは国道二三号線を南下して約四〇Kmもの距離にある古くからの搾油工場に運ばれるため、全国で最もGMナタネの自生が多い地域である。さらに、二〇一〇年には名古屋港の南の知多半島から四日市に至る国道二三号線沿いにも小規模ながらGMナタネの自生が見られ、伊勢湾を取り囲む約一〇〇Kmに及ぶ沿線がGMナタネで汚染されていることが明らかになった。原因は不明だが名古屋港から水揚げされるGMナタネが国道二三号を通って三重県に運ばれている疑いがある。
 中部の会のこれまでの調査の結果、別の意外な原因も明らかになった。ナタネ加工の殆どは食用油の製造だが、最近、例えば「事故ナタネ」の処理工場への輸送もこぼれ落ちの原因であることが分かった。愛知県豊川市内のO産業は、ナタネを輸送して来た船舶の船倉で湿気のためにカビが生えたり、埃などで汚染して食用にならない、いわゆる「事故ナタネ」を全国から集め、機械加工のための切削油を作っている。そのために、GMナタネの自生は、ナタネ輸入港周辺にとどまらず、内陸部でも起こっているのである。こうした事故ナタネ処理工場は全国で他にもあると推察され、輸入港周辺でなく、内陸部でのGM汚染を今後注意深く調査する必要がある。こうしたことは、政府がGMナタネの輸入を認可した一九九六年には予想されたことであり、その責任は重い。

(三)GMナタネ自生の現状
 GMナタネの多くは輸送路の近辺に自生している。我々が調査を開始した当初の二〇〇四年には、三重県四日市港のベルトコンベアーやサイロ周辺をはじめとする、陸揚げ施設周辺にも多数のGMナタネの自生が見られたが、問題が新聞などで取り上げられるようになってから、港湾施設周辺での除草は徹底的に行われ、港内では現在殆ど自生を見ることが出来ない。他方、港から搾油工場までの道路周辺には、現在も多数のGMナタネが自生している。我々は二〇〇六年から年一回~二回、市民参加による大規模な抜取り作業を行ってきたが、依然として絶える気配は無い。その原因の一つは、GMナタネの国内における世代交代である。輸送中のこぼれ落ちを回避するために、我々は工場側と話し合い、トラックの構造改善や、積載量の減少などこぼれ落ちを防ぐ対策を講じて来たが、以前にこぼれ落ちたGMナタネは、自ら結実し周辺に種を散布する結果、新たなこぼれ落ちが無くても、自生が続く結果となっている。当初見られた、多年草化し巨大化したGMナタネは減少したが、季節を問わず開花結実するGMナタネは、抜き取りをもっては、対処しきれない情況である。二〇〇四年には約四〇%だった自生ナタネのGM化率は年を経るに従い増加し、現在は約七〇%を占めるに至っている。GMナタネには、モンサント社のラウンドアップ除草剤耐性のもの(以下RR)とバイエル社のバスタ除草剤耐性(以下、LL)のものとがあるが、当初から比べるとLLの割合が増加傾向にあるが、カナダでの栽培面積は圧倒的にRRであり、自生GMナタネのLL増加原因は明らかでない。国土交通省は現在、道路管理に除草剤を使っておらず、その原因が除草剤散布でないことは明らかである。

(四)世代交代の結果起こったこと
 GMナタネの国内世代交代による自生の結果、新たな事態が発生している。はじめはRR耐性とLL耐性のGMナタネは別々に発見されたが、二〇〇八年以降、数は少ないもののRRとLLの両方に耐性を持つ多重耐性、いわゆるスタックGMが見られるようになった。これはRRナタネとLLナタネが混在して自生する結果、お互いの交雑によって、両方の除草剤に耐性の性質を持つに至った、と考えられる。
 さらに、二〇〇八年以降、試験紙による簡易試験では陰性であるが、PCR法によるDNAのチェックでは除草剤耐性の遺伝子を持つナタネが発見されるようになった。モンサントなど開発企業は勿論このようなGMナタネは販売しておらず、これは、国内での世代交代が進んだ結果、遺伝子(例えば、RRやLL遺伝子のプロモーターなど)に突然変異や化学的修飾がおこり、遺伝子はあるものの除草剤耐性蛋白質を作らない性質を持つようになったと考えられる。これらは、見かけ上、非GMの「隠れGM」とみなされ、調査の結果をゆがめるだけでなく、遺伝子汚染がより見えにくくなってしまう危険を示している。

(五)様々な交雑種の発生
 GMナタネの自生は、国内農業と環境への影響が大きいことは明らかである。アブラナ科の植物は、その特殊な進化の結果、異種の植物同士の交雑が起こりやすく、容易に雑種が出来ることが知られている。事実、カナダ政府はRRナタネ(Brassica napus)の栽培認可に当たって、他のアブラナ科植物である西洋カラシナ(Brassica juncea)や、我々が在来ナタネと呼ぶBrassica rapa種との種間交雑が起こりうることを認めている。アブラナ科ゲノムの構造から、キャベツやブロッコリー(Brassica oleracea)とも交雑可能である。実際、我々は事故ナタネ処理工場のある愛知県豊川市内で、在来ナタネとGMナタネの交雑種、西洋カラシナとの交雑種を、また、三重県津市内の空き地でブロッコリーとの交雑種と見られる株を採取している。こうした雑種は、はじめのF1個体は稔性が悪く、結実の度合いも低いが、その種子が発芽し成長してもとの親(西洋カラシナ、在来ナタネ、ブロッコリー)と再び交配するようなことが起これば、組換え遺伝子は安定化し、急速に周辺への遺伝子汚染を拡散させることになろう。これは、交配による品種改良では良く使われる手段で「もどし交配」という、導入遺伝子を安定化させる手段である。

(六)野生植物の遺伝子汚染
~新たな展開
 二〇〇九年以降、三重県の国道二三号線沿いで、西洋ナタネとはまったく様相がことなるにも関わらず、ラウンドアップ耐性とバスタ耐性をもつ植物がみられるようになった。多くは中央分離帯で、その近辺には野生雑草であるハタザオガラシ(Sisymbrium altissimum)が自生している。ハタザオガラシもアブラナ科植物ではあるが種は違う。雑種とみられるGM個体が見られる時期にはハタザオガラシの多くはすでに枯死している。この雑種(?)は、多くの場合不稔性で実は付いていないが、中には西洋ナタネと同じ大きな実鞘をつけているものもある。RR(+)のものもLL(+)、あるいは両方耐性のものもある。この雑種(?)はRR又はLL遺伝子をもつことから、一方の親はGM西洋ナタネであることは明らかである。相手がハタザオガラシであることが事実であれば、属間雑種(SisymbriumとBrassica)ということになり、ハタザオガラシが九州から北海道にまで広く分布する外来雑草であることから、これまでの栽培作物との交雑とは次元の違う問題で、生物多様性にとっての大きな懸念材料である。文献調査によればこれまで世界的に西洋ナタネとハタザオガラシとの属間雑種の例は見当たらない。

(七)GM汚染は農業と環境に大きな影響
 これまで述べてきたように、自生GMナタネの問題は、我々の予想を越えて広がりつつある。GMナタネの商業栽培が始まったのは一九九六年だが、カナダやアメリカ、日本などGM輸出国も輸入国も、栽培は人間の管理下で畑で行われるものであり、他の栽培作物や野生植物への遺伝子汚染は問題視していなかった。日本の農水省は現在もGMナタネの自生が危険だと考えていない。しかし、世界的にはカルタヘナ議定書が二〇〇〇年に成立し、生物多様性の中で遺伝子組換え生物を特別な取扱い対象とすることになった。二〇一〇年には名古屋でCOP10(第一〇回生物多様性条約締約国会議)とMOP5(第五回カルタヘナ議定書締約国会議)が開かれ、日本でのGMナタネ自生は世界の参加者の注目を浴びた。そうしたさなか、三重県はそれまで県内で栽培するナバナ等ナタネの種子の自家採取をやめ、種子を県外(国外?)から調達すると発表した。これは、MOP5で焦点になった「GM作物による損害」の国内最初の事例である。GM作物の世界的な拡散は世界各地にすでに多数の損害をもたらしており、この九月~一〇月にかけてインドで行われるCOP11/MOP6でも大きな争点になるだろう。日本政府はGM汚染問題に関しきわめて後ろ向きで、GM汚染による被害の対象に栽培作物を含めない、としており、また環境省は野生生物のGM汚染は一〇〇年以上前から国内に自生していた植物のみを対象とする、とする時代遅れの政策をとっている。一方、日本の農家はこれまで国が栽培認可しているすべてのGM作物(GMナタネも含む)を栽培していない。これは消費者と生産者のこれまでの活動の成果であり、GM汚染がさらに深刻な段階に進まないように今後も連携していかなければならない。

Author 事務局 : 2013年01月01日 15:27

 
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