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2013年07月01日

【AQUA255号】BMW技術ベーシック#1長崎浩顧問講演

 ときに難解ともいわれるBMW技術を、初心者もわかりやすく理解するために「BMW技術ベーシック」として、過去の記事や講演記録から抜粋してご紹介いたします。
 今回は、BMW技術協会顧問、長崎浩先生の一九九七年「土と水をつくる人々の会」学習会における「BMW技術の基礎知識」講演内容を掲載いたします。

 今日は家庭での生ゴミ処理の背景にある理論的なことについてお話します。家庭の生ゴミ処理の基本的な特徴は、バクテリアという他人に処理してもらう「他力本願」な所にあります。当たり前だというかもしれませんが、工業製品は違います。これは、最後まで人間が処理しなければなりません。なお、この他力本願という特徴はBMW技術そのものも持っていますし、生き物相手の技術は基本的にこういう面があります。

 まず、バクテリア、微生物の世界の話から始めます。
 約三六億年前、地球上に誕生した最初の生命がバクテリアです。現在のように多様な生命が出現したのは、ずっと後で五〜六億年前。微生物は由緒のある歴史の長い生物で、現在も変わることなく生きています。
 この微生物の働きですが、一つは病原菌、つまり人間に病気をもたらす働きがあります。最近は、O157など病原菌が問題となって、社会全体に減菌思想が広がっています。しかし、この働きをする微生物は種類も数もごくごく少数なのです。
 もう一つの働きに発酵があります。実はこの働きをする微生物が家庭の生ゴミ処理の主役になっています。でも、これもごくごく少数です。
 じゃ、大部分の微生物は何をしているのかというと、もっともポピュラーなものは腐敗です。
 以上は割と知られていますが、もう一つ非常に大切な働きがあります。あまり注目されていませんが、簡単に言うと土をつくるということです。
 土といっても造成地にある石と砂のような土では作物は育ちません。作物を育てる土を仮に土壌と呼ぶと、それは石や砂にもう一つ土のエッセンスが加わっているということです。土のエッセンスとは、まさに微生物が作り出した腐葉土のことです。腐葉土のエッセンスのことは腐植と呼びます。
 微生物には、以上の四つの働きがあります。
 今度は、具体的に生ゴミの処理のことを考えてみます。今は専用の容器があり、毎日水を切った生ゴミを入れて菌体を混ぜ、一〜二週間経ったら土に戻すということをしてると思います。
 容器の中で何が起こっているかというと、微生物が生ゴミをエサとして食べているわけです。臭いが出るのは腐敗の方向に行っているからです。これをどう防ぐかというと、発酵の働きを使うのです。野菜を漬け物にすると腐らず保存食になりますが、これと同じです。発酵過程に入れて生ゴミを一時保存する。菌体は微生物のエサの補助、呼び水というわけです。
 何故、こんなことをするのか。 毎日土の中に入れられればいいのですが、都会生活ではそれができません。日曜日にまとめて洗濯するようなものです。そして最後は土に戻す、土をつくる働きの所に戻してやります。何故かこの方が土に戻る時間が早く、割といい土ができます。
 なお、発酵の過程、漬け物の過程のことを嫌気的な働きということができます。発酵は嫌気的であり、空気を入れることは腐敗の元になります。従って容器のフタをします。
 微生物の活動能率からいうと、空気があった方が二〇倍ほど効率がいいんです。処理の観点からみると、発酵は能率が悪く、一〜二週間ではカサが減りません。土をつくる過程が一番能率がいいんです。
 でもそれができないから発酵の働きを通じて二段階作戦でやっていく。というのが微生物の働きからみた生ゴミ処理ということになります。

 廃棄物という観点からすると、BMW技術は広い意味で廃棄物の処理、資源リサイクルの技術といえます。その副産物として、健康で安全な農産物ができるということがあり、これは農家が行っています。私達はこの技術で農家の補助をし、できるだけよいものをリサイクルしてもらおうとしているわけです。
 ところで廃棄物はエネルギーの消費に伴って必ず出るもので、これをエントロピーといいます。また廃棄物は大きく二つに分かれます。一つは生物系廃棄物で、もう一つは産業系廃棄物です。先ほどいいましたように、生物系は微生物が処理する能力を持っていますが、産業系は人間が処理しなければなりません。
 生物系廃棄物ですが、地球全体で考えると森林や植物の枯れ葉や落ち葉が圧倒的な量を占めています。これが五〜六億年も続いているのですから、もし微生物が処理できなかったら、地球を覆い、海も埋まっていたはずですが、そうはなっていない。つまり大量廃棄にも関わらず、一年単位で土をつくるということが行われてきたのです。
 別の言い方をすると、地球上では生物系廃棄物を処理する能力を地球自身が持っていた。その結果、廃棄物の過不足のない定常状態が長年続いてきたというわけです。
 しかしここ数十年、都市に人口が密集し、生ゴミなどあらゆる廃棄物が膨大に集中することによって食べ残してしまうようになった。こうなると腐敗の過程に入り、メタンなどの臭いが出てきます。文明社会における生ゴミ処理問題が発生してくるわけです。ただこれは都市文明というローカルなところの問題なのです。
 これに対して産業系廃棄物は、人間がたかだか200年で作り出したのです。だから地球はこうしたものを処理する能力がなく、ただビックリというわけです。

 生物系廃棄物処理のことをもう少し詳しくいうと、これらは有機物でできています。有機物は基本的に炭素、水素、酸素、窒素の四つの元素を持ち、なかでも炭素があることが有機物の原則となっています。
 炭素でみると、例えばでんぷんなどの炭素化合物が微生物に処理され、大部分は二酸化炭素として空気中に放出されます。これを植物が炭酸同化作用で取り込みます。そして廃棄物となり、再び微生物のエサとなる。つまり地球全体でみると、炭素という物質は気体や有機物の形で循環しているのです。
 ところがこの炭素の地球リサイクルが、ここ二千年ほどの間に人類が石炭や石油を燃やすことによって乱されてきています。これまで出ていなかった二酸化炭素が産業廃棄物の側から付け加えられているのです。つまり産業廃棄物という形で地球の処理能力以上の、あるいは全然種類の違う負荷をかけたため、それが溜まってきているわけです。
 炭素以上に問題なのが窒素です。空気中で圧倒的な量を占め、量はそれほどでなくとも私達の身体にとってタンパク質の構成元素としてなくてはならないもの。これは作物にとっても同様で、窒素肥料や硫安肥料として与えることで現在のような農業が可能となったのです。
 この窒素についても地球規模での循環があります。問題なのは、過剰になると河川を汚染することです。河川に過剰に放出されると微生物が異常繁殖し、赤潮や青潮となって水を汚すのです。
 家庭から出される雑排水も原因の一つです。しかし、何といっても最大の原因は、大気中の窒素をアンモニアの形で取り込む技術がドイツで確立されたことにあります。これを原料にして肥料がつくられるわけですが、これは僅かここ百年の出来事で、まだ少ないとはいえバランスが崩れはじめています。
 以上のように廃棄物、特に生物系廃棄物を広くとらえてもらうと微生物の働きが見えてきます。そして、このミニチュア版が、家庭の生ゴミ処理なのです。
 最近は減菌グッズなどが流行し、微生物が悪役ととらえられがちです。O157などの病原菌はたたかないといけませんが、これらは微生物全体からするとマイナーな存在です。広大な微生物の世界とその働きにもっと注目して下さい。
 先ほど人間のここ二百年の活動がアンバランスを作り出しているといいましたが、微生物の世界も同様です。アンバランスにした反動として、O157など新しい病原菌の反逆といっていいような事態が起こっていると考えられます。

 最後にBMW技術のことですが、元々は人間のし尿や家畜の糞尿、食品工業などの排水を処理してきれいな水をつくる技術から出発しています。この技術を中心に、生物系廃棄物をリサイクルし、公害を防止し、できたものを資源として再利用したいということから始まったのです。
 最近では埼玉県にある生協、ドゥ・コープで中水利用施設が完成しています。事務所で働く人達のし尿、つまり生物系廃棄物をきれいにする装置です。処理された水は水洗用に戻すだけでなく、花壇や熱帯魚の水槽でも使われています。
 つまり単にきれいな水になるだけでなく、生物にとっていい水になる。だからリサイクルするだけでなく、資源として有効に利用する。こうしたことが都市生活の中でも実現できるようになっています。これは微生物の土をつくる働きによってできるのです。
 次はミネラルですが、元々は鉱物という意味で、石を造っている結晶のことをいいます。このミネラルが土を構成しています。微生物が廃棄物を土にするのはこの土の中、すなわちミネラル工場の中でするわけです。ですからミネラルの建て屋をつくってやろうということで石を加えるのです。
 そして水です。廃棄物を土にするということは、同時にきれいな水、生物を育てる水をつくる過程であるといえます。昔から生き物が飲んできた水は土の中を通ってきた水です。この水は微生物やミネラルを豊富に含んでいた。これが生き物にとっていい水であって、衛生的にきれいな水とは別のものなのです。
 一度土の過程をくぐらせるということは、生き物によい水をつくること。別の言い方をすると、廃棄物を処理することであり、、環境をよくすることであり、農業にとっての再利用資源を生み出す過程であるともいえます。
 こうしたことを総合的に、しかも地域単位で皆さんと一緒にやっていこうという理想を持って取り組んでいるのがBMW技術です。 (「アクア」一九九七年六、七月号掲載)

Author 事務局 : 2013年07月01日 20:26

 
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