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2014年04月01日

【AQUA264号】ドイツスタディー ツアー報告

「ドイツのエネルギー転換と有機農業」スタディツアーの報告

 二月二日、ドイツとオランダへ向けて、伊藤幸蔵BMW技術協会理事長を団長に成田空港を出発しました。BMW技術協会から参加の八名をはじめ、二本松有機農業研究会、NPO法人APLA、無茶々園、JA広島、愛媛大学、協同総合研究所などから総勢二一名となりました。日程は二月八日まででしたが、BMW技術協会のメンバーはさらに足をのばしてオランダへ、スマートアグリの現状を視察して二月一〇日に無事帰国の途に着きました。

はじめに〜
 BMW技術協会では二〇一一年の東日本大震災以降、「脱原発」を宣言し、代替エネルギーへのアプローチを続けてきました。フィリピン・ネグロス島のカネシゲファームにおける「バイオガス発電実験」や茨城県の茨城BM自然塾が進める「涸沼生態系再生プロジェクト」の太陽光発電利用、平成二六年度には、山形県の米沢郷牧場にてバイオガス発電の実験が行われる予定です。
 今回のこの視察は「ドイツ・スタディーツアー」ということで、協会会員であるNPO法人APLAと共同で企画し、愛媛大学客員教授・村田武氏の多大な協力を得て開催に至りました。脱原発を決断し、再生可能エネルギーへの転換を国として推進するドイツでは、農村を中心に「再生可能エネルギー一〇〇%地域づくり」で地域経済循環の再生をめざす運動が全国で広がっています。今回の視察先、南ドイツのバイエルン州やバーデン・ヴュルテンベルク州ではエネルギー協同組合づくりが盛んで、多くの有機農業者と有機農業団体が重要な役割を担っています。

 ドイツ・バイエルン州におけるバイオガス発電は二、三七二施設あり、これらの出力合計は六七・四万KWに達していると言われています。これは原子力発電所一基分に相当するそうです。注目すべきことは、ドイツにおける再生可能エネルギーの取り組みが各地域の農村、農家が独自に出資し、再生可能エネルギー協同組合を立ち上げて自分達の地域の環境バランスを考えた上で取り組みを行っていることです。二〇〇〇年以降、大手電力会社や多数の企業が、メガソーラーや風力発電施設、バイオガス発電施設を農村の土地を取得しながら進めていましたが、地域の環境を無視する形で、燃料となるデントコーン栽培を異常拡大させたりする事態となっていったのでした。近年はこれらに対抗する形で地域資源を自分達の手でエネルギーに変え、地域全体を再生可能エネルギーでまかなおうということで、市民、村民が出資し、それを地域協同組合金融機関が助ける形でエネルギー協同組合を設立し、この農村や農民が中心となった取り組みが多く見られるようになったようです。
 また、その根底には二〇世紀初頭からドイツでは電力協同組合が農村電化を担い、一九三〇年代には約五八四一の組合がありました。ヒトラー・ファシズム期にて公有化されたため急激に減った時期もありましたが二〇世紀末には約四五〇〇の電力協同組合があり、その大半は農村にあったという背景も忘れてはいけないと思います。
(参考文献:ドイツ農業と「エネルギー転換」〜バイオガス発電と家族農業経営 村田武著 筑波書房ブックレット)

①グントレミンゲン原子力発電所
 バイエルン州南部の大都市、ミュンヘンからバイエンルン州レーンクラプフェル郡を目指す道中、バスで約二時間の所にある、ドイツ最大の出力を誇る原子力発電所。現在稼働中の二号機は二〇一七年に、三号機は二〇二一年に稼働を停止する予定。インフォメーションセンターにはここの原子力発電所の仕組みの説明や原子炉の模型展示などがありました。ここは沸騰水型原子炉で日本の福島第一原子力発電所と同じ型のものですが、案内してくれたインフォメーションセンターの責任者の方は、福島の事故について「管理する者のレベルの違い」という認識を強く持っていたのが印象的でした。

②E・レーダー農場(養豚)
 〜バイエンルン州レーンクラプフェル郡 メルリッヒシュタット
 レーダー農場は養豚・肥育のみ年間二五〇〇頭出荷の規模。バイオガス施設は二五〇kw/hの電力と二六〇kw/hの熱の出力。電気は自家消費と売電、熱はメタン発酵槽の加温や木材チップの乾燥(チップは熱源として販売)と地域の温水暖房に利用されている。バイオガスの原料はバンカーサイレージで醗酵させた牧草が六〇%、豚舎から出る糞尿の混ざった藁床三〇%、デントコーンが一〇%を合わせた原料を発酵槽に毎日一五t投入している。施設は約一、五〇〇tの発酵槽が二つ、二、二〇〇tのスラッジ(メタン発酵を終えた抽出液〜液肥として利用)貯留タンクが一つ。スラッジは畑に還元している。総工費は日本円で二億八千万円、プラント収益は年間二八〇〇万円とのこと。ちなみに売電価格は一kwにつき〇・二一ユーロ、熱は一kwにつき〇・〇六ユーロだ。原料は豚の糞尿のみと思っていたらそうではなく、牧草が主(約六〇%)な原料となっている。この原料を確保するためにレーダー氏は一四〇ヘクタールの圃場を所持または借り受けて、牧草やデントコーンを生産している。

③アグロクラフト社〜バイエンルン州レーンクラプフェル郡 バートノイシュッタト
 ドイツには日本のように国と直接的につながっている農業協同組合がないが、各地域に独自の組合や農業者同盟があるとのこと。アグロクラフト社はバイエンルン州農業者同盟のレーンクラプフェルト支部の二人のリーダーが設立。一人は養豚業を営むクレッフェル氏、そしてもう一人は今回の視察をドイツ国内にて段取りしていただいたディーステル氏。農村・農民が主体となってエネルギー協同組合を設立、運営するにあたって、コンサルタント業務ができる組織が不可欠だと二人は考え、地元のマシーネンリンク(農業自助組織)と共同で出資し、再生可能エネルギー分野で市町村における独自のプロジェクトの構想を提案、事業の具体化などをおこなうコンサルタント会社を設立しました。②のレーダー農場のコンサルもおこなっているとのことでした。彼らは大手発電会社や多国籍企業による発電施設の乱立に対抗し、地域の自立にそえる形で未利用資源を有効活用した発電の取り組みを発案しています。

④村で運用するバイオガス発電施設
 〜バイエンルン州レーンクラプフェル郡 ウンスレーベン村
 施設全体の面積は一二ヘクタールという大きなウンスレーベン村のバイオガス発電所。六二五kw/hの電力と七〇〇kw/hの熱の出力、巨大な発酵槽やスラッジ貯留槽がいくつも並び、原料を作るバンカーサイロも大きい、主な原料は牧草とデントコーン。ここには純正のメタンガスを作るプラントも設置されていた。運営は村でおこなっており、従業員はそれぞれ自分の仕事をしながらローテーションを組んで従事しているとのこと。

⑤シュベービッシュハル生産者協議会 ホーフェンローレン州シュベービッシュハル
 一九八六年創立一四五〇の養豚農家が会員となり、絶滅寸前だった地域固有種の豚を復活させ、と畜場から食肉加工場までを経営、ドイツ全体に販売網を持っている。さらにはオーガニックにもこだわり、約四六〇の農家がBIOの認証を持っている。また、加工用に使う胡椒はインドの生産者とフェアトレードでの取引を実現している。直売所レストランのレバーやウィンナーはとても美味しく、肉だけではなく野菜もたっぷりのメニューとなっている。生産者組織というより大きな企業のような印象も受けるが、組織としては小規模の家族経営農家での生産を保っていて、自分達の手だけで産直を実現している。背景には一九六〇年代に始まった農業多角経営化や小農民を集約した希望拡大化というドイツの農業政策に対抗する運動があるとのこと。

  ※写真提供:協同総合研究所 管 剛文氏
  ※オランダの視察報告と参加者の感想は次号にて。
     (報告:BMW技術協会 秋山澄兄)

Author 事務局 : 2014年04月01日 12:38

 
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