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2014年05月01日

【AQUA265号】「ドイツスタディツアー」オプション視察 オランダ「スマートアグリ」報告

 先月号に引き続き、二月におこなわれたスタディツアーの後編、オプション視察のオランダ報告をお送りします。
 ドイツでの行程が終わった翌日、今回のツアー参加者総勢二一名のうち、BMW技術協会会員メンバー八名はオランダへと移動しました。

オランダでの目的はスマートアグリの視察です。IT技術をベースに施設管理を自動化し、生産効率の向上を目指す植物工場、私たちの取り組みや考え方とは相反すると言ってもいいのでしょうか、土作りとは縁遠い世界。生産効率を上げるために施設栽培技術の研究を日々続けている研究所「GreenQ(グリーン・キュー)」を視察しました。
 視察報告の前に、なぜオランダでスマートアグリが進んできたのか、その背景には国土や気質、欧州の中央に位置するという立地などの好条件もあったようですが、そこには農家がかつて経験した大きな危機があったとのことです。約三〇年前、EUの前身・ECに農業大国スペインとポルトガルの加盟が決まり、安い農作物が大量に押し寄せる中、他のヨーロッパ諸国や海外に負けない競争力をつけることがオランダの農業で、農業だけではなく国そのものが生き残るための条件となりました。狭い土地を今まで以上に効率よく活用していくこと、その上でのハウスの大規模化、自動管理化、土に代わる人工繊維の畑、試行錯誤の末にたどりついたのが生産効率を高く維持する、スマートアグリということのようです。
 オランダの人口は千六百五十万人、うち農業者人口は三〜四%と言われていますがオランダ経済の二五%は農業生産物が占めています。国土は九州と同じぐらいの広さ、その半分が農用地で土地利用率九九%と言われる国土の中で約五〇%を占めています。日本の国土は約六六%が森林なので、国土利用率は約三四%、農地は国土全体の一二%なので利用されている土地の中での割合は三〇%くらいに相当します。オランダの農用地面積はドイツなどのEU諸国と比べて非常に小さく、耕地が約四三%、牧草地が約五一%、園芸施設は〇・五%、国内を移動中の車窓からは、園芸施設がかなり多く立っているように見えましたが、数字にするとそんなに少ないのかなと首をかしげてしまうくらい、辺り一面にぎっちり立っている印象を受けました。後でわかったのですが、園芸施設は都市部に多く集中しているようで、私たちは沿岸部を移動していたので、そのように感じたのではないかとのことでした。そうは言われてもドイツの太陽光パネル並みに並んでいる園芸施設群に圧倒されました。
 オランダの農業自体は花卉類、野菜、畜産が中心、特に花は世界シェア五割といわれています。野菜はジャガイモ、甜菜、麦、豆の輪作体系が主で、ジャガイモの輸出は世界二位(一位はカナダ)。その他は露地でキャベツやカリフラワー、ブロッコリー等の葉茎菜類、園芸施設ではトマト、ナス、パプリカなど、世界二位の野菜輸出を誇っています。たばこや牛乳などを輸出量と同じくらい輸入して、農産加工品としての輸出も多いです。いずれにせよオランダの農家は昔から路地栽培において狭い農地を可能な限り効率的に活用することを考えてきて、この経験や技術の蓄積がスマートアグリの発展に反映されているとも言えます。路地栽培も施設栽培も単収は世界でもトップクラスとのこと。
 日本と比べると面白いのは、畜産は国の補助金が多く活用されているが、野菜に関しては国からの補助金はほとんどなく、作物ごとに農業組合を作って共同出荷している場合が多いとのこと。ある文献では、オランダの農業の発展は国から押し付けられた農業をするのではなく、自分達で選択し、日々研究、努力を重ねた結果だと書いてあります。オランダ人のまじめな気質、細かいことまで倹約(悪く言えばケチ)する姿勢が根付いている、これも農業の発展の大きな要因のひとつだといわれていることにも納得できます。
 
さて、やっと本題に移りますが、私たちが視察をしたところは、農家ではなく研究所です。しかも、ただの施設栽培技術研究所ではありませんでした。元は園芸施設の建設業者だったとのことで、現在は次の五つの事業を軸に展開しています。
①施設の建設。
②農家への実践向けの栽培研究と農業大学、種苗メーカーなどとの共同研究。
③農園のマネージメントや栽培に関するセミナーなどの開催。
④投資家や農業経営者向けのコンサルト。その土地にあったやり方を調査してから的確なプログラムを展開して行く。
⑤農家への栽培アドバイス。技術や作物ごとの経営コンサル、市場調査など、これは施設栽培に関らず、路地での土耕栽培や酪農、その他畜産も含まれます。
 研究所の入り口でこのような概要説明を受け、防疫服を着用して施設の中へと入りました。施設の総面積は一〇ヘクタールの中に面積は色々ですが約一六〇のコンパートメント(連棟施設)が設置されているとのこと。
 はじめにアマリリス、そしてトマトの施設へと案内されました。各施設でテーマ(実験内容)が決まっているとのことでした。アマリリスは養液排水の再利用や土台となるベースの実験がおこなわれていました。養液排水の再利用は、養液を添加する水耕栽培では通常排水を捨ててしまうそうですが、イオン分解などで再利用できないか、ロックウールに代わる土台(ベース)の実験が赤玉土などを使って実験されていました。トマトの施設は凄いことになっていました。クリスマスイルミネーションよりも凄いLEDの照明。このLED発光による生育促進、光合成を高めるために各生育ステージで光の強さを変えていく試みや、害虫防御などに効果があるかなどの実験をおこなっていました。施設はどの棟も全く同じ形状で色々な作物に対応できるようになっています。トマトの施設では畝間に暖房用の温水配管が設置されていて、その配管がそのまま作業車のレールとなり、その作業車はもちろん人が乗ることができ、リモコンで上下左右に動けるようになっているのでとても便利そうでした。二酸化炭素のエアバックが畝にそって設置されていました。コージェネを利用した二酸化炭素の活用・削減の実験をはじめ、バイオマスなどエネルギー実験の取り組みもおこなっていました。
 また、この他にも特許や企業機密の問題で見ることはできませんでしたが、大学や種苗メーカーなどと共同に実験をおこなっている施設がたくさんありました。このような実験は大きなプロジェクトだと約一〇年間も続けておこなっていくそうです。セミナーは各種合わせて年三〇回程度、視察の受け入れは年間一五〇団体ほど、現在コンサルしている農家は四〇農家で、これらの数字は毎年内容や相手先が変わるものの、ほぼ一年間変わらないとのこと。
 ちなみに園芸施設の建設コストですが、基本セット(栽培装置、暖房装置、選果機などすべてを含む)の設置コストは、一ヘクタール規模で一平方メートル当たりの単価は約一万円、二ヘクタールでは約七千円にまで低下するとのこと。日本の実情の1/2〜1/3と言ってもいいのでしょうか、オランダで使われる温室は軒高四〜五メートルのガラス温室で、しかも仕様が全部統一されているため、最小単位の構造を縦、横に自由に伸ばすことで、いかなる大きさの園芸施設も建設できるようになっています。栽培のノウハウに関してもほぼ共通でわかりやすいマニュアルもついているのが普通とのことです。

九日間の日程はあっという間でした。日本では関東地方を中心とした大雪のニュースが届いていたが、まさか帰国後にさらに凄いことになるとは思いもしなかったです。まずは特にトラブルもなく皆で無事に帰国することができました。
 参加した皆さんの話を聞くと、各自、たくさんのことを学べたのではないかと思います。日本で情報だけ得るだけではどうしても見えてこないことが多々ありました。現場に行き、この目で確かめ、直接当事者に聞いて確かめてという作業はとても大切な事だとあらためて思いました。日本の自分達の場所で、視察したバイオマス施設やスマートアグリ施設を直接取り入れるかどうかは別として、現地に行くことの大切さと、それを仲間で共有し、議論することができたことも良かったです。
 ドイツのエコの取り組みは先進的ではあるものの、いささか疑問に思うところも多々ありまし。デントコーンをバイオマスプラントのためにわざわざ栽培し、バンカーサイロで発酵させ、一日の投入量は一〇トン以上にも及ぶなんてことは、本当にエコなのだろうか。太陽光パネルも農村の家々の屋根にかなり多く設置されていますが、景観として少し寂しく感じてしまった。日本でも私の住む山梨県北杜市は、日照が長いことでも有名だからか、耕作放棄地や山林を切り開いて、強引に太陽光パネルが並び始めています。これは地域のためになるのか、いやそういうものではないような感じで(地域づくりのためにずっと前からやられている方達もいる)、北海道も同じ状況になっているでしょう。ドイツの景観はともかく、地域に還元される再生可能エネルギーの在り方、作り方は各地域で農民・住民主体で見直されている現場を垣間見ることができたのは幸いだったかもしれません。BMの仲間ではフィリピンのカネシゲファームをはじめ、米沢郷牧場やポークランドがメタン発酵のバイオマス取り組みの実験を進めているところであり、米沢郷牧場の場合は準備が始まっています。コストの問題や設置可能面積、消化液(スラッジ)の処理など課題は多いかもしれませんが、地域のために再生可能エネルギーの取り組みになると思いますので、日本的な地域に適したモデルとなってもらえればと期待しています。
 BMW技術協会では、二〇一四年度も日本を飛び出して、皆で学ぶ場を作っていきますので、是非、参加していただきたいと思いますし、行き先や内容について活発なご意見・提案等をいただければ、より良い研修になっていけると思いますので宜しくお願い致します。
  (報告:BMW技術協会 秋山澄兄)
   ※写真提供:協同総合研究所 管 剛文氏
注 スマートアグリ:農業の技術がIT技術によって蓄積され、温度、湿度、養分その他のセンサーネットワークと連携して自動化し、省エネで再生可能エネルギーなども利用しながら、 植物工場に代表される高度に自動化された農業技術で、農業に新たな産業革命をもたらす技術。

「ドイツ・スタディツアーに参加して」ツアー参加者の感想

山形県 ファーマーズクラブ赤とんぼ 北澤正樹
 予想通り寒かったドイツに到着したのは、現地時間の夕方五時三〇分。翌日からバイオマスエネルギー発電に取り組む農村・農場の視察が始まる。楽しみな気持ちを膨らませながら、ドイツ料理とビールをいただき、眠りに就いた。
 翌日からバスでの移動、ドイツの高速道路であるアウトバーンを走ると、いたる所に風力、バイオガス、太陽光の発電施設がある。大きな畑に広がる太陽光発電施設は、まるで「ソーラー畑」と言ったところだ。二〇二二年に原発を廃止にすると決めたドイツ、たくさんの再生可能エネルギーの発電施設が平らな農地に設けてある。農村の多くの住宅や倉庫の屋根にはソーラーパネルが設置してあり、エネルギー問題・自給を国民が理解していると感じられる光景だった。
 ドイツの農業は日本と同じく高齢化し、後継者不足という状態で、一戸当たりの経営面積は五〇ha〜一〇〇ha、それ以上の規模になってきている。そこでジャガイモや麦などが作付されているが、近年はバイオガス用のデントコーンの作付けが増えている。地域によっては、農地の五〇%がデントコーンになっているという。ウンスレーベン村が運用しているバイオガス発電施設では一日当り何tものデントコーンを原料として使うため、広大なデントコーン置場があり、そこに一年分の原料をストックしていた。いつか農地・原料の奪い合いが起こるのではないかと思った。
 シュベービッシュハルの養豚農家が経営する「直売所」を見学したが、日本にある直売所なんてモノではなく、「スーパー」と言った方が伝わり易いと思う。それくらいの品揃え(四〇〇〇アイテム)があり、農畜産物は地域内のモノを販売し、加工に使うスパイス類はインド・セルビア産を使い、地域内外から適正価格(フェアトレード)で仕入れていた。特に肉とソーセージなどの加工品が充実していて、有機畜産物も充実していた。ちなみに有機たまごは一個六〇円位で売られていた。直売所の隣では地域内の農畜産物を料理したレストランも経営していて、平日にもかかわらず多くのお客さんで賑わっていた。そのほか直売所では、有機(BIO)認証の会社、と畜・加工会社など、幾つもの会社を経営していた。いろんな形で地域内の農産物を食べてもらえる工夫をしていて、直売所というものにとても関心が湧いた視察だった。
 ドイツからオランダに渡り、スマートアグリを視察。「GreenQ」という、ハウス栽培の研究・コンサル等を行っている会社を訪問し、見学をさせてもらった。敷地面積もそうだが、高さのある広大なハウスで、アマリリス・バラ・トマトなどの栽培研究をしていた。全て養液栽培で、温度・湿度はもちろん、LEDの人工光量と太陽からの光(遮光)までコンピュータで管理し、工場で発生するCO2をタンクに溜めてハウス内の植物に使っていた。工夫に工夫を重ね、実験に実験を重ね、小さな規模で大きな収益を生み出す仕組みをオランダは持っている。輸出額世界第二位に納得した視察でした。
 たくさんの視察をしてきたが、それぞれが思いを持って実行し、実現していた。ドイツ・オランダの規模を実現するのは難しいが、視察で見てきた何かは応用することが出来るはず。整理整頓して考えて、何かを実行したい。

新潟県 謙信の郷 金谷 武志
 ドイツ国内でのバス移動中、次々現れる風力発電の風車、広大な農地と住宅や農舎等の屋根に敷き詰め設置された太陽光発電パネルの数々に、脱原発を掲げたドイツの本気度を実感し、ドイツ国民の環境問題と真摯に向き合う姿勢に心打たれました。
 また、穀物サイレージを主原料にしているバイオガス発電施設では、事業収支の詳細な話も伺うことができ、日本においての実現可能性の検討にも大変役に立ちました。もちろん、ウインナーとビールの旨さにも感動!ドイツの後に訪れた、オランダのスマートアグリの効率的な農法もとても参考になりました。最後に、今回の視察研修の旅を実のある物にしていただいた村田教授、事務局の秋山澄兄さん、吉澤真満子さん、ご同行の皆様、本当にありがとうございました。

新潟県 謙信の郷 福原 弥
 ドイツでは原子力発電所の稼働停止→廃止に伴い、再生可能エネルギーへの大幅な転換中である、と、移動中に多くの風力発電所、太陽光パネルなど、様々な発電施設を目にすることで実感した。その中でも視察訪問した養豚場のバイオガス発電、熱エネルギー施設は、国等の補助ではなく資金借入のみで施設を作り、自家消費と地域の熱消費に利用されていることが素晴らしい。現実的に私たちの現状に合わせてみると、新潟では水稲栽培のみでバイオガスの原料も土地もなく、やるとすれば国の助成なしでは考えられない。太陽光発電は身近な再生可能エネルギーとして重視したい。
 また、宿泊したホテルはどこも照明の光量が日本に比べて圧倒的に暗く、一般家庭でも同様に消費電力が少ないと感じた。これもポイント。日本は電化生活に甘んじていると、自分達の姿勢について考えさせられた。
 終わりの二日間はオランダへ移動。トマトの施設園芸栽培を視察したが、大規模化かつ合理化が進み、多面的自動制御管理に驚いた。特にハウス内の温度管理に地下一〇〇mからの蓄熱を利用できることに感心した。農家へのコンサルティングサービスも充実していたが、これをやるには莫大な投資にもなるなと思った。
 全体を通して食文化の違いがあるとは言え、「じゃがいも」はしばらく食べたくない。帰国後の体重は五kg増加し戻る気配が無い。英語も話せるようになりたいとも思った。最後に視察研修に参加された方々に感謝申し上げます、ありがとうございました。
 
新潟県 謙信の郷   佐藤 清繁
 ドイツの農業はもっと大規模で企業的な経営体を想像していました。視察先は確かに大規模ではありましたが、想像よりもはるかに小規模なものでした。しかし環境に対する意識の高さや、原発ゼロに向けた取り組みの素晴らしさに感銘を受けました。 

Author 事務局 : 2014年05月01日 19:47

 
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