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2014年11月01日

【AQUA271号】二月の関東甲信大雪害から、その後

 今年二月一四日から一五日にかけての関東甲信地域の大雪は観測史上一位の記録的な大雪でした。記録的な大雪が農業に与えた打撃は大きく、加温していたビニールハウスをはじめ、多くの樹木や施設が倒壊しています。協会会員も大きな被害を受けました。
 大雪当時から、その後の復旧・復興について、山梨県白州郷牧場代表(BMW技術協会元常任理事)椎名盛男さんにお話をうかがいました。


 二月一四日は、とにかく雪の台風のようだった。ハウスの雪下ろし作業はもちろん進めていたけども、降る雪量が圧倒的でとても間に合わなかった。雪の爆撃を受けたようというか。ほんと、ハウスの直径五センチのパイプがみるみるうちに曲がっていくんだから。これは壊滅的だということはすぐにわかった。というか牧場をはじめてから三〇年になるけどこんなのはみたことがない。結果的に、山梨では過去百年で一番の大雪ということだった。
 しばらくは雪に埋もれたままで鶏舎やハウス施設に近づくこともできなかった。幹線道路である国道二〇号が通行止めになってしまったため、雪かきの重機も入ってこれなかった。
 まず、被害状況を確認した。つぶれた鶏舎の中でも雪解け水を飲んで鶏は生きていたけど、ストレスで卵を産まなくなった。廃鶏にせざるを得なかった。ハウスのほうもめちゃくちゃ。ダメージから職員もなかなか立ち直れない。今年度は野菜も鶏も、例年の五割くらいかな。県内のぶどう農家なども復旧できるところは少ないんじゃないか。諦めた人は、ハウスを撤去したあと、ソーラーパネルを入れて発電所に変えたりしている。
 作業を手伝いに来てくれたボランティアは四月末で三百人は超しています。それで、うちはあっという間に撤去できた。生協関係ややまなし自然塾からもボランティアが来てくれました。そういうネットワークをもっていないところはハウスの撤去作業はきつかっただろうと思う。業者もいないし、間に合わない。撤去費用も補助金がおりるのかわからなかったし。
 なにか復興のシンボルになるものをつくろうと思った。それで、山梨県の森林組合の間伐材を使って、自分たちで丸太の鶏舎をつくろう、と。木材のほうがパイプよりはるかに強いし、コストも安いんじゃないかな。前から丸太でつくる鶏舎のアイディアはあって、作り方を、グリーンファーム久住の荒牧洋一さんに教わったことがあった。でもつくったことないからね、うちの職員も。結局、二週間くらいでつくれたけど、いろいろな意味でシンボルだよね。木材の鶏舎だと、生き物との親和性が高いから。べつに鶏だけじゃなくて、他に、ハウスでもなんでも丸太の方がいいと思うよ。そういえばパルシステムのテレビCMにも、うちの丸太鶏舎がでたね。
 鶏は今すごく元気だよ。うまくいえないけど、木の方が生物になじみやすいと思う。雪害後に導入した雛鶏は、元気に卵を産み始めています。野菜用のハウスの復旧も残り二区画で、ハウスで育てる予定のサンチュの種まきもした。
 山梨県からの補助金は、ハウスや鶏舎の復旧に対しておりるということだから、丸太鶏舎にすると元に戻すんじゃないということで、おりなかった。県の職員とかもわからないからね。いままで事例もないから。たぶん日本でも荒牧さんくらいじゃないかな。県のいう、元通りに「復旧」って考え方は、前と同じように建てろってことでしょ。だったらまた同じような雪が降ったら壊れてしまう。今回の経験、いままで農業をやって得た知見というものが無視されている。
 後で知ったけど、山梨県には除雪車が一台もなかったらしいね。あちこちでユンボがひっくりかえっていたし。でも、普通のハウスでも雪で倒れていないところがある。それは明治からのやり方を知っている人たちで、ちゃんと雪に強い組み方がしてある。知見だね。
 知見、歴史に学ぶということでいえば、山梨は、山国であって平野ではないわけ。だから山国の養鶏、山地の農業っていう方向があるべきだよね。もっと自然に溶け込んでいる農業、もっと鶏の力を引き出す養鶏。北海道の「マイペース酪農」のような養鶏っていうか。うちはもう、そっちにいくしかない。どういったやり方があるか、これから考えて行くけどね。例えば傾斜地の雑草を利用するとか。
 うちは今回いい勉強になったけど、今度のような災害で、どれだけの人が「待てよ」と思うかでこれから変わっていくと思う。日本でこれからも異常気象による災害は続くだろうから、知見を活かす、思想を持つ、ということが必要になる。今いった、地域にあった山地養鶏のような自然に沿った無理のない農法があるはず。身近なところでいえば、黒富士農場は早いうちから農場を草花で覆ったり、自然に溶け込もうという思想を持っていた。時間がかかるかもしれないけど、これから向山さんの農業、荒牧さんの農業の方向に変わっていくんじゃないかな。だからBMW技術協会の会員はもっと自信を持たないと。実験にしても経験にしても、今までこれだけ積み上げてきたものがあるんだから。

 偶然、「天皇の牧場を守れ〜鳥インフルエンザとの攻防」(横田 哲治著 日経BP社)という本をみつけたの。それで、自分たちの目指している農業は、皇室の御料牧場じゃないか、と思うようになった。御料牧場は、循環農法でやっていて、環境にとっても人間にとっても無理がない。思想が同じだと思う。本の内容は別にたいしたことをいっているわけではなくて、無理をしない農業をやっていくということなんだけど。御料牧場の卵のクオリティも白州の卵と同じだと思う。
 御料牧場というのは明治維新後にできたものだけど、昔の元勲はみんな「○○家の農場」みたいなものを持っていたわけ。でも今、日本の庶民は自分や家族が食べるものをつくる安全な農場なんて持っていないでしょう。生協組合員にとっての契約生産者というのとも違う。自分たちが食べるための循環型牧場を持つという、御料牧場の発想は、いろいろなものを変える力を持っていると思う。マクドナルドも期限切れ鶏肉問題のあと、売り上げ二五%減から復活しないらしいけど、それは当たり前だろう、と。世の中、みんなウィンドレス鶏舎になったから割っても臭くて顔を近づけられない卵が増えているし、みんなひっくりかえるよ。
(取材:一般社団法人BMW技術協会
  事務局 井上忠彦)

BMW技術協会で集めさせていただいた雪害義援金をお渡しした被災会員の方から、お手紙をいただきました。ご紹介させていただきます。


田辺養鶏場 代表 田辺良一・幸子
 BMW技術協会からの心温まる義援金をいただき、やっぱりひとつの団体というのはすごいな〜、皆困った時は助け合うという心を、本当に家族主人共々喜びあった次第でした。
 二月の初旬に雪が降り、七〇〜八〇センチぐらいだったと思います。そして、その雪が溶けないうちに、また雪が降り、合わせて二mもの雪が積もってしまいました。鶏舎が傾きエサがいかなくなりました。空いている鶏舎に鶏を移動し、入りきれない鶏は泣く泣く、まだ若いのに廃鶏に出さざるを得ませんでした。
 本当にこれからどうしようというときに、皆様からの暖かい言葉やご支援のお陰でやる気をなくしていた主人がやる気を起こして成鶏を増やして、また頑張ってやってみようという気を起こしたのです。また、傾いた鶏舎は、業者に来てもらい建て直し、あっという間に再建ができたのです。本当に何事にも代え難い暖かいご支援や皆様方の暖かい言葉、主人にやる気を起こさせ、前向きにさせていただいた事が何よりの感謝の気持ちとありがたい気持ちでいっぱいです。

生活クラブたまご
代表取締役 吉野訓史
 この度の関東甲信大雪に関しましては、心温まるご支援並びにご協力を賜り、心から感謝とお礼を申し上げます。
 さて、二月一四〜一五日未明にかけて関東甲信地方をおそった大雪は、埼玉県熊谷市で六二センチと過去最深積雪を記録し、当社の二農場ある埼玉県に甚大なる被害をもたらしました。
 僭越ながら当社の被害状況を申し述べます。坂戸農場(所在地は毛呂山町)が、ノコギリ鶏舎四棟が、全壊、鶏糞発酵槽の屋根が陥没、残った高床鶏舎の主柱が傾くなどの被害がありました。岡部農場(深谷市)は、鶏糞発酵乾燥ハウスの屋根が陥没、高床鶏舎の梁が外れるなどでした。特に坂戸農場の四鶏舎全壊は、飼養していた鶏約四万一千羽のうち、三千羽は同農場内の高床鶏舎の空きゲージへ移動させることができましたが、残り三万八千羽は全滅しました。その鶏の取り出し並びに移動に際しましては、多くの関係者皆様のご協力をいただきました。
 回復の進捗状況につきましては、二農場の発酵鶏糞関係の施設の修繕はすべて完了しました。二農場の高床鶏舎の修繕は現在進行中です。もっともエネルギーを費やした坂戸農場の全壊した鶏舎あとの撤去作業は、現在残骸物の片付け作業をしているところです。
 当時、マスコミで報道された行政の補助金につきましては、申請手続きのための書類提出が終わった段階で、はたして補助金がおりるかどうか不透明な状態です。
 ただ、現在の二農場飼養規模と、主力の出荷先であります、生活クラブ生協の鶏卵受注動向がほぼ等しいところにあるので、加工や業務向けで出荷を再開できないところがあるものの、多大なご迷惑をおかけすることはどうにか回避できている状態です。
 お寄せいただきました義援金は、もっとも被害が大きかった坂戸農場の撤去作業の諸費用に活用させていただきます。皆様方のご厚情に感謝し、株式会社生活クラブたまごの採卵鶏飼養と鶏卵出荷が順調に行くよう、全力を尽くしてまいりたいと存じますので、今後ともお力添えを賜りますようよろしくお願い申し上げます。

北見畜産有限会社      北見 則弘
 先日、BMW技術協会会員の皆様より雪害に対し、義援金をいただきましてありがとうございます。わたしどもより被害が大きかった方はたくさんおられたと思いますが、思わぬ義援金をいただき感謝すると同時に大事に使わせていただきます。
 千葉県でも私どもの地域は毎年、雪が積もる地域(半径五キロ)で、今回は一週間で二度大雪が降り、被害が大きくなってしまいました。
 まだまだ、そのままにしてあるところもありますが、糞発酵乾燥施設の建屋工事は七月に完成して稼働しています。他はこれから少しづつ撤去して直します。前向きに頑張っていきたいと思っています。

株式会社 白州郷牧場
代表取締役 椎名 盛男
 この度の当地を襲った雪害に際しまして、ご厚情あふれるお見舞いを賜り、お礼申し上げます。
 今回山梨に降った豪雪は、一二〇年前からの観測史上にないもので、なすすべもなく皆倒壊の事態となりました。県レベルではまだ五〇%くらいしか片付いていません。私達の場合は、皆さんのご支援のおかげで、いち早く撤去が進みました。現在、鶏舎と野菜ハウスの再建に取り組んでおります。

やまなし自然塾  前田農園 前田克己
 この度は、雪害義援金をいただきましてありがとうございます。
 私は、「やまなし自然塾」の前田農園の前田と申します。私の住んでいる山梨の甲府は、台風もめったに来ないし、雪もせいぜい五〇Cmしか積もりません。従って、自然災害とは縁のない地域でした。
 しかし、二月一五日には、一二〇Cmの雪が積もり、一二棟のハウスの内一〇棟(約四〇〇〇平米)が倒壊してしまいました。二月一六日は、無残にも潰れたハウスに恐る恐る潜り込むと、その中に大きく真っ赤なイチゴが真っ白な雪に埋もれていたり、潰れていたりしていて、これまでの私たちのイチゴ栽培の歴史を否定されたような気がして、只々立ちすくむだけでした……。
 突然自分の身に降りかかった、まさかの災難に驚き・嘆き・戸惑うばかりでした。再建するには、四〜五千万円のハウス建設費がかかります。一番困ったのは、一年間の収入一千五百万円を失ったことでした。六五歳と言う年齢を考えて、一時は農業を止めようとも思いました。しかし、お客様から「何としても前田さんの美味しいイチゴがもう一度食べたい。頑張ってほしい」など沢山のメールやお電話をいただきました。半月後には、私の残りの少ない人生をもう一度イチゴ栽培に打ち込もうと思うようになりました。
 三月四日から解体作業を始め、三月二三日と四月六日には、沢山の皆さんにボランティアに来ていただき、いちご狩りハウスの再建作業の第一歩を歩み始めました。ハウスの建設は、消費税増税前の駆け込み工事・ソーラーシステム建設・公共工事などと競合し、着工が五月に遅れ、いちご狩りハウスが完成したのが、七月でした。新聞では、再建したハウスは現在全体の一五〜二〇%と言われています。
 現在は、育苗ハウス二棟の解体作業を進めながら、苗採りをして定植を始められる段階まで来ました。九月に定植が終われば、例年通り一二月から収穫を開始できます。
 三月から一二月までの長い長い一〇か月間ですが、ここまで頑張れたのも、お客様を始め沢山の皆さんのご支援・激励のお言葉・義援金のお蔭と思っております。人生で初めて被災者となり、自分一人で生きているのではなく、沢山の皆様に支えられていると言うことを、現実として受け止めました。
 この度は、思いもよらず義援金をいただき心からお礼申し上げます。
 一二月の収穫を前に、蓄えも切り崩している中、本当に助かりました。

やまなし自然塾       向山 洋平
 七月にBMW技術協会を通して、会員の皆様から多くの義援金をいただきまして、やまなし自然塾メンバー一同、心からお礼を申し上げます。
 やまなし自然塾のメンバーでは特に被害の大きかったのは、前田農園、萩原フルーツ農園、宿沢農園、向山農園の四カ所でした。
 二月の雪害以降すぐに、やまなし自然塾のメンバー三〇名ほどで甲州市の宿沢農園、向山農園の倒壊したハウス撤去作業の応援をおこないました。倒壊したハウスの中には、まだ生きているぶどうの樹があり、それをよけながらの撤去作業は手間と時間がかかるものでした。その後も、甲府市の前田農園、北杜市の白州郷牧場のハウス、鶏舎などの撤去作業の応援をおこないました。
 私たちのメンバー以外にも大勢の方達が応援に駆けつけていただき、現在では復興への道もだいぶ見えてきている現状です。今回のことで、全国のBMW技術協会会員の皆様との絆をあらためて感じました。皆様の温かいご支援にお応えするためにも、前向きに、皆で力を合わせて頑張っていきたいと思いますのでこれからも宜しくお願いいたします。

Author 事務局 : 2014年11月01日 08:58

 
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