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『スローフード宣言!イタリア編』 

『スローフード宣言!イタリア編』 
ニッポン東京スローフード協会/編 木楽舎


 仕事なのか趣味なのか、自分が生産者の会に関わり始めた六年前に偶然出合った気になる言葉が〈スローフード〉だった。気になったのには理由があった。
ひとつはその頃の社会問題。雪印、BSE、東海村、ダイオキシン……。食品、食品業界のすべてが不安。信用できない! と消費者が訴えるに十分過ぎる事件が連続した。
法や制度でも有機JASが始まったし、HACCP、ISO、GAP等々、どうもこれからは認証や証明書が必要な時代になったゾ。このまま行くと生産者は証明書の洪水に溺れ死んでしまうのではないか、証明書があれば輸入も国産も関係なくなってしまうのではないか、とマジメに悩んでいたときに出合った言葉が〈スローフード〉だった。

 
 スローフードというのは、イタリアに本部を置く国際NPOの名前で、その協会が世界で進めている運動の名前だ。小さな生産者、良質な食材を守り、味覚教育を進める事を柱として、食の世界遺産ともいえる世界の食材のカタログ作り(味の箱舟と呼ばれている)と支援、州や地元自治体との食科学大学設立、二年に一回開催の世界生産者大会など、世界を相手に様々にアプローチし、年々支援会員を増やしている。私もRadixの会の生産者と共に三回ほど通わせていただいた。
 今回紹介する「スローフード宣言」は、それをほんの入口で概観できる本。協会の事も書いてあるが、イタリアの食についてより多く紙面が割いてある。オリーブやチーズ等の生産者や現地レストランの紹介もあり、全部カラーだから見るだけで楽しめるガイドブックとなっている。
 さて、スローフードの事を話すと「俺らが昔からやってる事と同じ」「新手の地産地消」「グルメ」と一刀両断され恐縮してしまう事も多いのだが、それとはどうも違うようだ、と勘づいている方もおられると思う。
 そんな方々にお奨めしたい本は『スローフードバイブル』(カルロ・ペトリーニ著・日本放送出版協会)『スローフードな人生!』(島村菜津著・新潮社)それと私の所属するRadixの会の会報『Radix News Letter』のバックナンバーだ。
 「バイブル」の方は設立者本人がその経緯、理念、社会的位置づけから未来に至るまでを書き下ろした本だから読み応えがあるし、「人生!」の方は組織論ではなく、スローフード協会から食を通じて生まれるいろんな人間関係を含めて〈おいしいこと〉を紐解くノンフィクションだ。
 彼らは〈おいしい〉を追求した挙句、お皿の外のことも考えないと〈おいしく〉食べることは出来ないゾ!と行動するようになった都市生活者グループなのだ、と聞いた事がある。ヒッピー崩れでも脱サラでも学生運動上がりでもなく〈食卓派〉という新手の人種(?)達だという点。発想が新しい。
 それぞれが違う事を自らのアイディンティティとしている(らしい)ヨーロッパにおいて、〈食文化〉〈地域性〉というテーマに、正面から向き合っている彼等。
 例えば、それぞれに違う文化が、その違いを超え淘汰を重ね普遍化されたものを仮に文明とすると、世界共通の石油を使って機械を操り、共通の品種を蒔き、共通の基準で認証を受け、グローバルに行き渡る共通の物流網を利用する事が可能な時代に、私たちはその文明の恩恵を受けつつ、良くも悪くも、ビジネスとしても、個人としても、家族としても、他者(社?)との違いを見つけ出さないではいられないと思う。
 昔、「なんでも見てやろう!」と世界を駆け回った方がいた。スローフードに限った事ではないが、主体を自分に引き寄せて、知識や見聞を広げていくのもいい。二一世紀初頭の反省から、基準・認証を始め様々な制度が整備されてきた。有機農業推進法施行も含め良い面も生まれてくると同時に、これからは地域の文化、つくり手、担い手の個性が改めて(これまでとは違ったかたちで)見出されていく時代になるのではないだろうか。 

評者 竹内 周 (Radixの会)

Author 事務局: 2007年05月02日 11:04

 
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