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『不都合な真実』

『不都合な真実』
アル・ゴア著 枝廣淳子訳 ランダムハウス講談社


アメリカという国は、いわゆる先進国の中でも、政治を意識する機会がかなり多い。たとえば政党のシールが貼られた自家用車や、政治の話が好きなタクシー運転手にたくさん出会う。また、国を挙げて1年以上続くショーである大統領選挙をはじめとして、政治に関連するイベントがいつも行われている。かくいう私も、ジョージ・ブッシュが大統領に再選されたとき、ワシントンDCで行われたパレードには、たまたまそばに住んでいたこともあって、雨が降っていたにもかかわらず見物に行ってしまった。

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しかし、では人々はこのイベントの連鎖から何を得ているかというと、おそらく最大の目的は情報の消費だという印象を受けていた。つまりイベントに行く理由は、いわばディズニーランドに行くように、政治を1日楽しむためである(もちろんそうでない人もいるが)。政治の頂点に立つ大統領は、常に新しく面白いショーの役者であることが期待されており、言っていることがつまらなくなると飽きられてしまう。政治だけに限らないが、ものごとを地道かつ長期的に考えて実行することが、これほど難しい国もないかもしれない。
その国で副大統領および次期大統領候補を務めてきたアル・ゴアの今の肩書きは、政治家ではなく実業家である。彼はかつて将来ある政治家だった時期に世界中を旅行して、地球環境の将来を予測するデータを科学者たちが得ている現場を訪ね歩いたことがあった。彼がそのような行動を取った理由は、本書の最初に登場する、彼が学生時代に指導を受けた科学者の影響であろう。彼の師は、地球温暖化という考え方がまだ存在しない時代に、ハワイの高さ4,000mの火山のてっぺんで、二酸化炭素濃度の測定を毎日行なうことを開始した。そのデータは50年後の今に至るまで継続的に得られており、いまや地球温暖化のプロセスを調べる上でもっとも信頼性の高い指標であって、世界の科学者が毎日の議論に使っている。
「不都合な真実」は元政治家が著した本であり、そのためにショーのように構成が衝撃的でわかりやすく、知らない間に全部を読みきってしまう迫力がある。またその反面として、多少の事実についての単純化がされているが、これはやむを得ない範囲だと思う。彼は問題解決のために政治の力が必要であることを意識しており、地球温暖化という現象をアメリカ人が正面から理解するために、政治家としての技術と経験を本書に注入したのだと思う。「この問題は政治ではなく科学の問題なのです」という彼の主張は、私もそのはしくれである科学者にとっては、議論の余地もないごくあたりまえのことだ。しかしアメリカはそれがあたりまえにはならない国である。ごく最近になって、やっと温暖化防止対策を多少とも議論し始めたアメリカの世論形成に、この本や、同タイトルの映画の存在が多少の役割を果たしていると確信している。日本の読者にもぜひおすすめしたい一冊である。

評者 奥地拓生(名古屋大学環境学研究科)

Author 事務局: 2007年07月26日 20:49

 
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