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『リンゴが教えてくれたこと』

木村 秋則 著 (日本経済出版社)

評者 石澤 直士 BM技術協会常任理事(常盤村養鶏農業協同組合)


「かまどけし 呼ばれても 明日の農業 道開く」(兵庫県在住歌人が木村さんを詠んだ)
「私には夢があります。日本の農を変えることです……」(木村さんの手紙より」
木村秋則さんの講演を聞いたのは、今から三年前の二月頃だったと思う。あの時の感動は、今でも忘れられない、ちょうどNHKで「奇跡のりんご」が放送されて話題になっていたのだが、青森県内での評判は、あまり良くなく、農薬を使っていないので木村さんの畑の周囲の方は、あまり良く思っていないとか、周りの農薬がかかるので無農薬をやれるのだとか、あまり良い噂は聞こえてこなかった。でも、どういう訳か私の父からは、「木村さんは面白い人」とは聞いていた。私も数年前にお会いしているのだが、その時は、私自身、心ここにあらずだったので(リンゴは農薬なしで出来るはずがないとの固定観念があった)そんなに、印象には残らなかった。ところが、映画「白神の夢」が問いかけている事、それに伴うBM技術協会が取り組んでいる山・川・海の循環システム、これをどの様に具体化させて行くのか、その絡んだ糸を見事に解してくれたのが木村秋則さんの講演会だった。確かに父の言うとおり「面白い人」である。その面白さの裏側には、木村さん自身が敢えて挑戦した、今までの筆舌に尽し難い生き様を、本書の第一章から第三章までが物語っている。
しかし、木村さんとお会いするとその明るさと面白さの原点は、その苦難の時期に醸成された屈託のない本物の笑顔と本物のお話がもたらすものなのだと言う事がよくわかる。それは、第三章に詳しく書かれている。大切なのは、自然をよく観察する事にあり、自然栽培と放任栽培が全然違うものであることがわかる。
講演会では、木村さんは、リンゴが一つもなっていない園地ですることが何も無く、もし自分がリンゴだったらと考えている時、黙って上を向いていると口の中に虫が入って思わず噛んでしまった経験を話す。そこで、木村さんは、「皆さんは虫を食べた事が有りますか?」と、参加者に問いかける。すると会場からの返事は「ありません」。すると「どんな味がすると思いますか?」とさらに問いかける。参加者からは、様々な反応があるが、誰も本当に食べたことが無いものだから、確たることは言えない。そこで、しばらく間を置いて木村さんは「そうです。苦いんです」と語る。ここで笑いが巻き起こる。また、皆さんは「葉の落ちる音を聞いたことがありますか」と、本物の葉をひらひらと落としながら問いかける……「パサッ」。「この音が私にはバサッとかガサッと聞こえました」この言葉の響きはとても重いのだが、木村さんがお話しするとなぜか笑みがこぼれる。決して笑ってはいけないのだが、この辺が面白い人の所以である。
「自然のものは枯れるが人の作ったものは腐る」この一言も重い。第四章にそのことが書かれている。BM技術協会の皆さんはこの意味がよくわかると思うので、詳しくは本を読んでみて頂ければ、納得されるのではないだろうか。
本書を読む方へのメッセージとして、木村さんは、「すべては観察から始まる」そして「死ぬまで探求」と語っている。

Author 事務局: 2009年09月01日 20:09

 
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