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『自然の野菜は腐らない』

河名 秀朗 著 (朝日出版社)

評者 竹内 周 (らでぃっしゅぼーや株式会社)

 この本は、自然食品店・ナチュラルハーモニーの代表の著者が、自然栽培について、氏の経験と、各地の生産者との出会いや考え方をまとめた本だ。
 表紙に「奇跡のリンゴの木村秋則さん推薦。腐りにくく、醗酵し易い。虫や病気にやられない。肥料を使わずにおいしい自然栽培の野菜とは?」との副題。自然の野菜とは、氏の言う「自然栽培」の野菜のこと。文中から拾うと、どんな農薬も肥料も、有機肥料さえ使うことなしに、土と種子の力だけで育った野菜、虫も雑草も敵にしない、自然の調和の中で育つ野菜、のことだ。

 すぐに思い浮かんだのが、不耕起、無農薬、無肥料、無除草と、とにかく何もしない農法で、今でも世界に影響を与え続けているといわれる、『わら一本の革命』著者、福岡正信さんの自然農法。そしてMOA自然農法。農薬化学肥料は認めないが、有機質の肥料や堆肥の施用を認め、厩肥も暫定的に認めて認証し、自然農法と呼んでいる。
 この本ではあえて「自然栽培」。自然界の植物が虫にも病気にもやられず健康に育つあり方をお手本に、人為的な施肥には懐疑的な立場をとるのが共通点と言える。いずれも一九八〇年代以降に意識され始めた、自然の営みが備える「質」を再現する考え方だったと記憶する。

 一九七〇年代以降、すなわち農業基本法から農業を始めた方々の、農業の手法や考え方についての現在までの変化は、どのようなものだっただろうか?
 生産から販売手法までの一連の流れを機械と石油の高度活用、規模拡大、流通網の一元化などで効率化を推し進め、それらのツケとしての健康被害や環境汚染、際限のない設備投資を強いられる一方で農業人口は激減、という大きな「疑問」の時代であった。
 その中で、より安全な農産物が欲しいという消費者ニーズに応える形で生産と販売手法が模索され、それらは有機農産物とか、環境保全型農産物という呼び名で、それまでの「ふつうの」農産物とは違う野菜と販売手法を伴って需要が拡大していった八〇年代後半から九〇年代。こうした流れは、いまや主流をなす勢いで、今後も流通構造の変化を伴い留まることはないように思える。

 が故に、量産を抜きには語るべきではない構造も準備された。肥料もそうだ。あまり顧みられなかったのが、技術の本質的な問題であったような気がする。
 残念なことに、この本に技術論はないが、野菜の質が、有機や特別栽培などの表示とは無関係であること、とりわけ「肥料」という存在が、生産の本質である「量」という生産の欲望の本質を象徴しているが故に、常に懐疑的であるべきことを訴えている。そしてもう一方の本質である「質」について、八〇年代当時の「疑問」に立ち戻り、あれから三〇年を経た今、技術者たる農業者の皆さんに、自然の営みが備える「質」を再現するという考え方について、再考を促している。
 畑・田んぼの営みを、物質循環と生態系との関わり、生物学的な酵素反応の連続と見做したとして、「肥料」はそこにどんなふうに働きかけたらいいのか、土はどのような状態であるべきなのか、気になるところだ。

Author 事務局: 2009年10月01日 13:46

 
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