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「おいしい『日本』を食べる」

中澤 満正 著 (KKベストセラーズ)


〈本物を継承する難しさ〉
 中澤さんは、パルシステムの元理事長であり私たちの先輩としてパルシステムを育成してきた人である。その中澤さんの著書を書評することは大変難しく、正直困った。一読してこれほど食への深い思いが述べられていることに驚く。いまのパルシステムの現状はまったくついていけていない。残念ながら職員たちには、こうした食への哲学が浸透していないのが悩ましい現実である。そこから考えざるをえなかった。

〈食の哲学〉
 中澤さんの食の哲学を要約させていただくと以下のようになる。

 「世界の文化は、それぞれの土地の環境と切り離せない。どんなに過酷な環境でも、住んでいる土地の温度や湿度にあわせて住まいの素材や構造を、また民族独自の衣類を作り出してきた。
 私たちの祖先は、生き延びるために、そして自分たちの種を存続させるために、驚異的な知恵と労力を費やして自分自身を変化させ続けた。」
 「食糧生産は、その国の風土の中で成立する。風土と食を切り離し、コストと収益のみに着目して農業の経済的な生産性を議論することからは、人類や民族の未来へのメッセージを感じることができません。それは、人間の心の豊かさとは無縁の理屈で、そこから私たちが安心して暮せる未来は描けないでしょう。」
 
 中澤さんは、商品を栄養機能や価格や使いやすさで考える前に、人の歴史と環境と文化で深く捉えていく。食を生み出してきた人間の英知として、これを継承することを重んじている。ここが、理解されないと食は単なる「いち商品」と堕して売らんかなの手段とされてしまう。こうなると果てし無い小売競争への転落がまっている。この本では、マーケッティングだとかマーチャンダイジングなどのカタカナ言葉による販売戦略など片鱗も出てこない。そこが並みの食品本とはまったく異なる。

〈中澤さんに助けられたこと〉
 じつは私は、昔小さな生協で働いていたときにその隣接する北多摩生協当時の中澤専務に助けられたことがある。中澤さんが私を指名し、北海道の牛乳産地へ同行させてくださった。そのころ私の所の生協は赤字で北海道出張などとても無理だった。中澤専務の配慮で負担してくださった。当時としては北多摩生協でもけっして軽くない負担だった。
 この旅で牛乳への熱い思いが語られた。根釧地方を巡りながら草地型の酪農生産の優位性と殺菌温度問題、不足払制度の問題などを教えていただいた。これをきっかけにして私は、連合会の牛乳委員会に加わり牛乳運動を担うこととなったのが生協運動へのめりこむきっかけとなった。

〈商品開発への思いの深さ〉
 中澤さんが先頭に立って開発した産直の柱が紹介されている。こんせん牛乳とJAささかみの米である。どちらも今もパルシステムを支える基幹となっている。組合員の加入に際しての説明や職員の研修において最も効果があり元気が出るものとなっている。
 この商品にかけるプロとしての思いを「夢を持つこと、商品の価値とそれを開発する喜びや感動を知っていること。自分がその商品に出会った時と同じ感動を組合員に届けること。」と記している。

 「売るために行われる商品作りは、結局利用者(組合員)の継続的支持を得られず、商品寿命が短くなる。」
 「商品の生命力は、開発にかけた情熱、努力、エネルギーに比例する」
 「食の荒廃は人の心の荒廃に直結する。食は人のこころそのもの」

 こうした中澤さんの熱い伝言を受け継ぎ、こころに深く落としながら食と農にかかわり続けていきたいとあらためて思った。このことを伝え体得する組織作りに努力することが、私たちの仕事だと思う。


評者:山本 伸司 BM技術協会常任理事(パルシステム生活協同組合連合会)

Author 事務局: 2011年02月01日 21:32

 
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