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『小石、地球の来歴を語る』

ヤン・ザラシーヴィッチ 著 (みすず書房)

評者:星加浩二 (株式会社 匠集団そら)

 十和村(現四万十町)のプラント点検のおり、四万十川の河原に立つと、つい平べったい小石を手にして水切りをしたくなってしまう。手にしっくりとくるなるべく平らな小石を探しまわってしまう癖が抜けないでいる。そんなとき手にした小石をみつめて、どうやってこんな小石ができたんだろうと不思議に思うことがある。BMWプラントで使う花崗岩や軽石などの小石は、初めはでっかい岩が川を流れ下ってくる間に砕け、角が取れて小さくなり手のひらにあるのが何千何万年という時間が通り過ぎてきたのだとなんとなくわかる。でも青や緑や赤や白などきれいな色をした小石はどこからやってきたのか分からない。この疑問にこの本は答えてくれるのである。

 著者はイギリスのウェールズ地方の海辺や丘陵で石のなかに隠された長い歴史を解明してきた地質学者である。一三章の物語で小石の誕生から未来までの道を案内してくれる。
 小石の謎を宇宙の起源―ビッグバン―までさかのぼって、小石に含まれている元素から物語が始まるのである。
 プロローグは、手のひらに乗っている小石には、ありとあらゆる元素がふくまれているらしいところから始まる。一番多いのは酸素で、その半分を占めている。残りのほとんどがケイ素、アルミニウムという。一番多い酸素はケイ素やアルミニウムなどにがっちり取りこまれ固く結びつきケイ酸塩となって岩石をつくる鉱物の骨組となっているのだ。そのため小石を酸素ボンベとして使うことはできないのだ。また小石のなかには金や銀、プラチナなども原子レベルではなんと何百万個も含まれているらしい。モルや一〇の何乗個だとか数字がでてくると、ちょっと取っつき難いかもしれないが、小石の成り立ちを宇宙史から解き明かすのである。
 地球の誕生――マグマオーシャンが冷えて地殻が出来てからようやく我々の小石の元が現れるのだが、小石になるまでにはまだまだ気の遠くなるような時間が必要なのだ。海ができてからようやく生命が小石のなかに痕跡を残すようになる。それは、プランクトンや筆石などからできているのである。その流れ去っていった時間と小石ができた場所を教えてくれるクロノメーターが、われわれの小石のなかには一〇種類もあるのだと丁寧に記述されている。
 著者は小石のなかに含まれる元素から、一つずつ丁寧に物語を語ってくれる。それは生き物であり、金であり、油田であり、いま騒がれているメタンハイドレードやレアアースである。それがどうやってできたのか、地球史を紐解いてくれる。

 今年の八月に高知大会に合わせて開催された高知の岩石調査で、海岸や山に行き小石を手に取り地層を触って奥地准教授から解説を聞いたときに、今まで何回か参加した岩石調査ではイメージできなかった小石の歴史がちょこっとわかった気がした。今こうして小石を手にしている生きている自分のなかにも小石と同じ元素があるのだと思うと、小石が愛おしいものに感じられてくる。

 この一三章のエピローグは、われわれの未来よりもっともっと長く有り続けるであろう小石も、五〇億年という時間ののちには、太陽に飲み込まれたわれわれの地球もろとも蒸発し、再び宇宙空間に還っていき、そしてまた宇宙のどこかで恒星系に組み込まれ、新しい物語が始まるかもしれないと、永遠の環(サイクル)を暗示して終るのである。

Author 事務局: 2012年12月01日 16:01

 
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