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「科学の扉をノックする」

小川洋子 著 (集英社)

長野 広美(西之表市市議会議員・沖ヶ浜田黒糖生産者組合)

 南の島の夏。夜になると、島風が昼間の暑さを優しく癒してくれます。見上げる夜空は天空から星々がこぼれてきそうなほどキラキラ輝いています。「コスモ」とか、「ギャラクシー」とか、「宇宙」という言葉をはるかに超えて、地表に立つ私は何億光年という膨大なエネルギーの、しかし圧倒的な静けさの中に吸い込まれてしまいそうになります。
 宇宙に対する私の好奇心はホーキング博士、火星探査機キュリオシティ、ダークマター、ニュートリノ、カミオカンデなど次々に広がり、科学雑誌「ニュートン」の立ち読み読者だったりします。宇宙論についてはビッグバン以前のことがちっとも話題にならないことが不満の一つですが、例えば「宇宙に質量」という最近の研究を聞いたりすると、宇宙神秘を再認識すると同時に科学者たちに象徴される「ヒト」が持つ探究心と科学力にも感嘆してしまいます。
 また一方で宇宙は、例えば時間軸と空間軸があまりに非日常的単位となり、また宇宙理論は近寄りがたく、太陽一つさえ、実感できるかというと心もとない一面もあります。小川洋子著「科学の扉をノックする」を読むと、科学に対する彼女の「実感」視点がこれまでのどんな科学書にもないわかりやすさを伝えていて、迷える私の科学思考すらすーっと筋道が見えて「なるほど」と満足できます。
 小川は言います。「結局、一度誕生した物質は、無にならない」。宇宙の誕生から地球ができて、地球誕生からヒトが進化し、そして「ヒト」である私たちはやがて宇宙エネルギーとなって循環するということに深く納得します。決して実感できるはずがない宇宙誕生から今この瞬間の「私」と、土成分にまで分解されてしまう自分の死後からさらに永遠に続く宇宙の未来までもが一気につながり、心に安らぎすら感じます。さらに小川がノックする科学の扉は、地殻を成す鉱物、生命のDNA研究、大型放射光スプリングエイトから粘菌など、多岐に広がっています。例えば「大腸菌から人間まで、すべて同じ遺伝子暗号と同じ遺伝子暗号解読表を使っている」などのわかりやすい説明とともに、自然科学に精神性や物語性を感じるという小川の「実感」視点は、自然界とそれらに向き合う科学者たちを温かく愛おしく包んでいます。
 さて、一一月にBMW技術全国交流会in高知が開催されました。全国からの貴重な実践報告など充実した交流会でしたが、私のアンテナがグッグーと特に反応したのは最初に基調講演された若い科学者による地球と生命のお話。ヒトが必要とするミネラル分と鉱物との比較で納得しました、今なぜBMW技術なのかと。
 岡山大学準教授の奥地先生のお話は、まずは地球から始まりました。地球を知ることが生命を考えることであり、岩石や土壌を生き物との関係性で理解すると、必然的にBMW技術につながるとの説明。マントルの動きに連動する地殻変動によって日本では最も新しい地形になる高知県の地でBMW技術の普及が進んでいる理由も少しわかったように思いました。
 昨今原子力発電や遺伝子組み換え技術など科学の最先端は自然界を「消費と浪費」しているようで、科学が嫌いになるところでした。奥地先生や、小川が紹介する科学者たちは、自然界にどのように私たちが生かされているのかを知ろうすることが「正しい」(独断的ですが)科学だと言っているように思います。

Author 事務局: 2013年02月01日 18:52

 
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