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「リフレはヤバい」

小幡 績 著 (ディスカヴァー携書)

岡田哲郎 (NPO支援センターちば・理事)

 著者は、九二年東京大学経済学部卒業、現財務省入省、九九年退職。二〇〇〇年IMFサマーインターン、〇一年ハーバード大学経済学博士(PhD)、〇三年まで一橋大学経済研究所専任講師、現在、慶応義塾大学大学院経営管理研究科准教授で財政再建に熱心です。
 さて、著書は「リフレはヤバい。最悪だ。」から始まる本文からも明らかなように、所謂「アベノミックス」に物申す内容になっています。「リフレ」とは、リフレーション(reflation)のことで「通貨再膨張」と訳され経済が停滞から回復しつつある状態をさすが、リフレを目指す政策(リフレ政策)そのものを意味することもあり、デフレで停滞している経済を正常に戻すために適正なインフレ率を目指す金融政策のことを指し、財政拡大を含む広義の景気回復策を表す言葉としてここでは使用されています。
 昨年末の衆議院議員選挙の方針として、安倍晋三自民党党首が主張したこの金融政策を支えているのが、リフレ派と呼ばれるエコノミストや経済学者であり、メディアは、このリフレ政策を中心とする安倍首相の経済政策をアベノミックスと呼んではやし立てているというのが現在の状況であると著者は主張しています。
 内容としては、第〇章で、「リフレ政策とは何か?」について概説し、①インフレターゲット、②マネーの大量供給、③「期待」に働きかける、④日銀法改正をも視野に入れて、その政策実現のため安倍首相は強力にデフレ脱却を目指していることを解説しています。しかし、著者は、第一章で「そのとき日本経済に何が起こるか?」とし、「リフレ」政策でインフレは起こせない、物価が上がっても給料は上がらないと疑問を投げかけています。第二章は、インフレが起こる前に始まる円安についての影響で国債価格の下落、すなわち名目金利の上昇で、この円安を手放しで喜べないと指摘しています。第三章は、円安と同時に起こる日本の金融市場と経済の危機についてです。円安それ自体が国債価格の暴落を意味し、国債暴落による銀行危機、政府財政危機に連結し実体経済に波及すると指摘しています。第四、五章は、リフレ派の二つの根本的な誤りについてとりあげていますが、著者は、インフレは望ましくないという立場であり、インフレは金融政策で起こすことはできないし、所得増なくしてインフレなしと言っています。第六章では、政治家、経済学者、エコノミストが何故必死に主張するのか。ヘリコプターマネーのような「期待」でインフレを実現できるのかと著者は言います。第七章リフレ政策を正しいとする論者の理論的背景について、著者は、高度成長期のように期待できない。第八章で、インフレと並んで円安も日本経済に悪い影響を与えること、さらに円安戦略は過去のものと切り捨てます。
 最後に「おわりに」で、著者の日本経済への処方箋として、今必要なのは「雇用」であり、「人間こそが、経済を動かす力であり、社会を豊かにするもの」とし、新しい現在の世界経済構造の中で役割を果たすよう改革すること、そのためにグローバル社会での人材育成、管理者としての技能及び企業力等の育成・強化することと提言し、著者の主張が「当たらなかったなと、批判を受けるシナリオ。そちらのほうのシナリオが実現すること。それを強く願って、本書を、安倍首相とかれの愛する日本に捧げたい」と書添えがあります。
 この本は、株式会社デイスカヴァー・トゥエンティワンが電子書籍として製作し、同時に「ディスカヴァー携書」として出版されたもので、同社は「デイスカヴァーブッククラブ」というウェブサイトを持ち、本について語り合う読書会や著者の講演会などイベントを開催し、先行予約やオリジナルグッズなどの特典がある会員組織となっており、読者参加型のメディアの一つの形かもしれません。

Author 事務局: 2013年06月01日 18:55

 
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