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『食べ物としての動物たち』

「食べ物としての動物たち」 
〜牛、豚、鶏たちが美味しい食材になるまで
   伊藤 宏 著 (講談社ブルーバックス)


評者:秋山 澄兄(BMW技術協会 事務局長)

 この本は二〇〇一年に発行されていて、新しい本ではないので、ここでご紹介するには相応しくないかもしれません。ですが、畜産の基本知識として辞書替わりになるような本なので、同業多種の方や、農業者ではないBMW技術協会会員の方に是非、ご紹介させてもらいたいと思い、今回の寄稿に至りました。
 きっかけは昨年の一二月でした。西日本BMW技術協会の宮﨑事務局長と秦さん、協会研修生の永合と四人で、西日本エリアのプラント巡回をした際に宮﨑事務局長が是非にと永合にこの本を薦め、博多駅の本屋で一緒に捜していただきました。私もこの本の存在を思い出し、実際に本屋にはなかったので、私が持っているものを中古で渡そうということになりました。後日、私は本棚からこの本を引っ張り出してきて、事務所に向う途中でおそらく七〜八年ぶりに読みかえしてみたところ、これは意外と手放してはいけない本だなと思い、最後まで読み返したため永合くんに渡すのを忘れています。私にとってこの本は、鞄の中に常時入れておくとは言わないまでも、事務所の机の上にはいつも置くぐらいのものと思ったのでした。
 さて、本の内容は①「肉に命をかける豚」を皮切りに、②「産卵鶏という名の機械」、③「食べるために作られたブロイラー」、④「霜降り肉を作る黒毛和種という牛」、⑤「牛はなぜそんなに乳を出すのか」という五つのタイトルから構成されています。豚、鶏、牛の三大食畜産物が実際にどのように生産され、どのように商品となっていくのか、そしてどのように生の幕を閉じるのかまで説明されています。
 まずは五つのタイトルに入る前に、日本での肉食の歴史、消費量、生産量、自給率の推移が書かれていますが、日本人の肉食の歴史は浅く、戦後急激に延びていることがグラフでわかります。本編に入ると、それぞれの生態機能など基本的な情報から、関係者でも知っていそうで知らない食畜知識が満載されていて、データに関しては発行が二〇〇一年と、狂牛病や口蹄疫が見つかる前のもので、状況が大きく変わっている部分もあるかと思いますが、基本的な部分はあまり変わらないのと思うので、物流関係の方達、特に新人社員・スタッフや新しく畜産関係の部署に異動してきた方にはもってこいだと思います。その他にも、日本人は毎年平均一一kgの豚肉と鶏肉、八kgの牛肉、一七kgの鶏卵、四〇kgの牛乳を口にし、それとは別に五三kgの生乳が乳製品の原料として口に入るという消費量。私の体重でいうと約二倍の一四〇kg。日本人は自分の体重の二倍から三倍の「畜産物」を消費していることになっている。採卵鶏は日本人一人に対して一羽程度の割合で飼育されているなど、もちろん、各畜産農家の方々からすると飼育のされ方など、これが絶対ではないという部分もあるかもしれないので、これが全部現状だという認識をすることは良くないのですが、日本の畜産の基本知識というところで消費者の方にもお勧めしたい。
 私がBMW技術と農業を勉強させていただいた、山梨県北杜市の白州郷牧場に在籍していた時の話しですが、北杜市と連携して「教育ファーム」という取り組みを始めました。地域の保育園で、地域の有機農業生産者が月に一回、子供達に保育園の畑で野菜栽培を指導する、畑の管理も含め、時には実際に農場に見学に来てもらうという取り組みでした、おそらく現在も継続しています。ある時に保育園の子供達が先生と一緒に白州郷牧場を見学に訪れ、鶏舎で鶏とご対面を果たした時に、おそらく三〇代前半ぐらいの先生でしょうか、「私、生(で見る)のにわとり初めて!」と嬉しそうに言った時、私はそうとう複雑な思いと驚きを隠せず、「えっ今まで北杜(田舎)に住んでいて、鶏を見たことないのですか?」と思わず聞いてしまいました。するとそばにいた園長先生から「昔は鶏なんて珍しくもなく、家の庭や畑にいたけど、今は田舎でも飼う人はいませんよ」と言われ、これが現実、でも確かに考えてみればそうだなと。畜産は山に追いやられ、ウィンドレス畜舎など、あることは認識できても中は見えない。このあたりで見ることのできる畜産動物は牛ぐらいのものでしょうか。子供達に「鶏は一日に卵を何個生むか知っている?」と聞けば、「六個、一〇個」と答えが返ってくる、これはスーパーの卵パックの入り数だと気づく。こんなことを言い出せばきっとプロの方もきりがなくなると思いますが、食べる側の食材のルーツや生い立ちへの意識は低いなと、知らないものを食べさせられているのか、食べているのかと言わざる得なくなってしまいます。最後はため息ばかり出るようなくだりになってしまいましたが、とにもかくにも、ご紹介したこの本のようなものは必要だなと思っていますので、是非皆さん、読んでみて下さい。
 さて、研修生の永合くんには「大事な本だからこそ、自分で捜して購入しなさい」と偉そうに言ったものも、本人が手に入れたかどうかを確認していません。もしまだ未購入であれば、三月で研修が一区切りになり山形へと帰っていきます、その際に餞別に渡そうかと考えてみようと思います。

Author 事務局: 2015年04月01日 10:04

 
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