『腸!いい話』~病気にならない腸の鍛え方

伊藤 裕 著 (朝日新書)

評者:星加 敦子(団体職員)

 正直言って、私は腸をばかにしていた。ウンコを製造しているからだけではない。焼肉のホルモンは、なんとなく気持ち悪いし、見た目もちょっと…。ところが、この腸、ウンコ製造工場のみならず、大事な情報発信の場として、分泌物質を出しており、何とそのホルモンが、糖尿病治療に効果抜群!というのだから放っておけない。その知られざる腸のはたらきとは…。

 はたらきその1―それは免疫物質の半数を、この腸が分泌しているという事実。免疫と言えば、最近はもう逃れられないのだと悟るしかない放射能から身を守る最後の砦である。その免疫物質の多くを、腸が分泌しているなんて聞けば、腸様々。ばかにしていた自分を悔い、丁重(腸?)に謝らなければ申し訳ない。
腸からなぜ免疫物質が?という疑問が湧くが、外敵が一番入りやすいところは、食べ物に関わる消化器系なのだそうだ。なるほど納得。食べ物には、常に危険が潜んでいるのね。

 はたらきその2―腸からは、インクレチンというホルモンも出されている。これが優れもので、食べ物が体内に入った事を察した腸は、このインクレチンを分泌して、脳にはこれ以上食べるなと命じ、胃には、これ以上食べ物を小腸に送り込むなと命じ、すい臓にはインシュリンを分泌するように命じるだけでなく、血糖値をあげるグルカゴンの力を抑えることもできるというのだ。このはたらきを利用した薬剤が、今、糖尿病治療に革命をもたらしていると言う。インシュリンを強制的に投与して血糖値を下げるのではなく、すい臓が自発的にインシュリンを出したくなるように仕向ける治療薬なのだそうだが、ちょっと待って…。「自発性」を促す?ホルモンって、人間?
そう。腸の意外な働きを知るのと同時に、臓器やそこから出されるホルモンが、まるで人と人の関係の様に、相互作用の中にあり、そして、あちら立てればこちらが立たずというバランスと中庸の世界にあるということに驚かされる。インシュリンは効きすぎると寿命が短くなるし、生きるために不可欠の酸素も、有効利用されなければ活性酸素となって「老化」や「がん」の原因になる。過ぎたるは及ばざるが如し。ちょうど良いの難しさ…。われわれの日常の教訓は、そのまま体内のしくみにも通用する様だ。

 さて、著者も言っているが、今の様に、食べ物があふれている時代は人類史上無かったはずだ。私たちの体は、ずっと食べ物が無い時代を生き抜き、進化して来たことを考えると、あまりにいきなりの変化に対処しきれず、悲鳴を上げ、とうとうバランスを保ちきれなくなった状態が、糖尿病やがんといった生活習慣病なのかも知れない。
 そう考えると、この本の主旨、「腸を鍛え、病気とおさらばしよう!」は、決して腸が万能であると言っているのではなく、年がら年中食べ物を受け入れ、その都度、こまめに情報を発信している腸に負担をかける生活習慣を見直せ!と言っている様にも読み取れる。情報を伝達し合い、バランスをとりながら繊細に保たれている私たちの体の中の、それぞれの臓器からの小さな「囁き」が、ちゃんと聞こえるだけの情報量(食事量)に留めておけと。ふむふむ。そうなると、情報過多って、心にも体の中にも良くないってことか…。腸!いい話 聞けちゃった!

Author 事務局 : 2012年05月01日22:38

 
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