『葉っぱのふしぎ』

田中 修 著 (ソフトバンククリエイティブ)

評者:星加浩二 (㈱匠集団そら)


 ふだん目にしている植物の葉っぱはなぜ緑色(もちろん緑色でない葉っぱもたくさんあるけど)に見えるのか? そのむかし理科の授業で、「それは緑色の光線を反射・透過するから」と教わった記憶があるような無いような。葉っぱのもつ重要な機能とはなにか? すぐ思いつくのは「光合成」を行うこと。これも理科の授業で習った。でも科学的にきちんと説明できるかと言うとなんかうろ覚えであたふたしてしまう。そんな人たち(自分も含め)にとって、この新書は図版を使って分かりやすく解説してくれる一冊です。

 第一話は九月の台風のあと桜の花と紅葉が神戸市内で見られた現象から、葉っぱが持っている能力の導入となっている。それは葉っぱが作るアブシシン酸というホルモンが桜の花芽に影響を及ぼしているのだ。桜の花芽は夏に作られ、そしてこのアブシシン酸というホルモンが花芽を冬の寒さから守る越冬芽という冬眠状態に変えて冬を越して春に花が咲く。しかし台風で葉っぱが飛ばされてこのホルモンができないと、花芽は越冬芽にならず秋の暖かさで九月に咲いてしまうことになる。この現象から葉っぱは季節の移り変わりを夜の長さの変化を測って認識しているそうだ。
 この第一話から第二話の「時を刻む葉っぱ」へとつながっていく。葉っぱのふしぎのひとつに「時間を計測する」という能力がある。葉っぱは夜の長さを正確に測っているのだという。いわゆる植物の短日植物、長日植物と言ってわれわれも知っている。
 ではなぜ葉っぱが夜の時間を測っているのかというと、季節を知ってつぼみを作るか作らないかのタイミングを知るためだ。アサガオは一度でも一六時間以上の暗黒の夜があるとつぼみを作り始めるのだという。そしてこの一六時間の間に数分間でも光が当たるとつぼみを作らないという。では、アサガオはどのくらい正確に時間をはかっているのだろうか?実験によるとアサガオは夜の時間が九時間一五分以上だとつぼみを作るが九時間だと作らない。この一五分の差を葉っぱは感じることができる。人間でもある程度は時間の感覚は備わっているだろうが、真っ暗やみの中で九時間と九時間一五分を正確に当てることなど現代人はほとんど不可能ではないだろうか。でもアサガオはそれを測らないと子孫を残せないのだ。植物の進化の過程でこんな能力をみにつけたのだろう。生きものに備わっている体内時計にも精度の差はあるのだ。そしてこのつぼみを作れという葉っぱが作っている物質を、一九三七年ソ連の学者チャイラヒアンがフロリゲンと名付けた。この物質が葉っぱで作られて芽に運ばれてつぼみが作られる。この物質を探し出すためにいろいろな実験がおこなわれているが、これまでに特定の植物に効果を示す物質(ジベレリンなど)はいくつか見つかっているが、すべての植物に効果が出るフロリゲンはまだ見つかっていないという。まだまだ葉っぱにはふしぎなことがいっぱい残っているのだ。
 第四話働き者の葉っぱには、葉っぱの重要な機能である「光合成」と「呼吸」にまつわるふしぎが紹介されている。
 以前協会で開催していた有機栽培講座「土と水の学校」でも光合成については毎回説明がなされていたが、本書でも図入りでやさしく説明されている。根から吸った水と空気中の二酸化炭素を材料に光のエネルギーを使ってブドウ糖やでんぷんを作り酸素を出している。
 こんな現象を、二〇〇年以上前の科学者は実験方法を考えてつきとめている。葉っぱから出てきた酸素が、葉っぱが吸収した空気中の二酸化炭素からではなく、根っこから吸収された水からの酸素であることまでつきとめているのである。
 それから現在までの科学力を持っても、水と二酸化炭素と太陽光を使ってブドウ糖やでんぷんを作る装置を作れないのです。著者は、一枚の葉っぱの前で謙虚になって植物から多くのことを学ばなければいけないと説いています。
 このほかにも、第三話 光の色を見分ける葉っぱ、第五話 葉っぱのパワー、第六話葉っぱの悩み、第七話 葉っぱの運動 と興味ぶかいふしぎが盛りだくさんとつまっています。
 著者は丸ごと一冊「葉っぱのふしぎ」について語っているのだが、その冒頭で「そのふしぎを支えているのが実は土の中の陽の当たらない根っこが頑張っている」のだと。その根っこのガンバリにも思いを馳せて本書を読んで欲しいと願っている。

 自然が持つ生態系の技術に触れている私たちは、生きものがらみの現象に向き合う時には、植物や動物だけでなく微生物にいたるまで「ふしぎ」なことばっかりで今だにわからないことがたくさんあるということを、謙虚に認めることからはじまるのではないでしょうか。

Author 事務局 : 2012年04月01日22:37

 
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