「ウンコに学べ!」

「ウンコに学べ!」有田正光・石村多門 共著 (ちくま新書)

評者 星加浩二 (㈱匠集団そら)

 まず題名が過激過ぎてカバーなしでは、通勤電車の中で読むのをためらってしまうほどストレートである。
 本書のテーマは「あなたのウンコはどこへいくのか」と問いかけ、水洗トイレのレバーひとつで目の前から消えるウンコは単にどこかへ運ばれて行っただけで存在そのものがなくなった訳ではない。 ウンコがどのように処理されてきたのかを処理の歴史を追いながら、パリやロンドンでの処理方法と江戸との比較を交えて説明し、最終的に分解してくれるのはバクテリアで、その分解処理する過程を浄化槽や下水処理場の仕組みを解説しながら、バクテリアの働きや活性汚泥とはどういうものかを丁寧に教えてくれる。しかし下水処理場では効率よく有機物の分解はできても、栄養塩であるリン・チッソの処は同じく微生物処理なのであるが難しく、河川や湖沼の汚染の原因となっている。これを処理する高次処理施設は高コストにより全国にもまだまだ広がっていないという。
 しかしその難しい脱リン・脱窒を行いさらに浄水処理まで行う高性能の処理施設として水田の浄化機能をあげ、夢の浄化槽、浄水場というのである。
 その機能をささえているのが、水田に湛水することで生まれる嫌気と好気条件で働くバクテリアである。
 この水田や畑に糞尿を撒いて肥料とすることによって江戸の町から糞尿が肥え桶によって近郊の農家へ運ばれ江戸の町の環境が整えられていたのである。幕末に日本にやってきたペリーは江戸の町が清潔なことに驚嘆していたという。その風景はつい最近まで銀座の昼日中、肥え桶を積んだ馬車がいくつも行き交っていたのである。
 日本では糞尿を田畑に還元して野菜やお米を作ってきた。その糞尿は肥溜めに貯めてバクテリアに分解されたものを撒いていたのである。その「糞」についても元禄時代の農学者宮崎安貞は農業全書の第一巻に、苗糞(なえごえ)、草糞(くさごえ)、灰糞(やきごえ)、水糞(みずごえ)、泥糞(どろごえ)の五種類に分類し、「作物に応じ土地に応じ配分や季節を考えながらよろしく用いれば」大収穫間違いなしと説いている。現代の有機農業ではその匙加減がわかりにくいので、土壌分析をおこない有機肥料の選択をしてる訳である。
 ウンコは何も人間や家畜だけでなく土壌のなかに棲むミミズもまた、土壌中の有機物を食べて排泄しているのである。この肥沃なウンコに注目したのがダーウィンである。

 前半は主として理系の立場から「ウンコ」についての薀蓄を語るのであるが、後半は文系の立場から「ウンコ」にまつわるドラマや文学が語られ、「外部不経済」といったエントロピー経済学にもつながる話が広がる。
 「ウンコ」をすることが人間として自立することになるのである。
 「ウンコができれば十分立派に生きていける。創造的な仕事よりも、持続的な生活こそが鍵である。起死回生の革命など夢想せず、ウンコをひればよいのである。」と著者は喝破している。

 ところでこの本のテーマ「あなたのウンコ」はどこへ行くのか、の答えは「それは大きな水循環のなかでめぐりめぐって私の口に入る」ということなのである。
 最近食育の大切さが声高に叫ばれ各地で実践されているが、食べることだけではやはり片手落ちで、生命にとってウンコ(排泄)に学ぶことも大切だということをやさしく教えてくれる一冊である。

Author 事務局 : 2010年12月01日02:42

 
Copyright 2005-2007 Takumi Shudan SOLA Co.,Ltd All Rights Reserved.