「地球生命は自滅するのか?」

「地球生命は自滅するのか?」
ピーター・D・ウォード 著 (青土社)

評者 竹内 周 (らでぃっしゅぼーや株式会社)


 まずナナメ読みして拒絶感があった。決定論的なのだ。「地球を救えるのは工学技術」としかない。熱く語られる宇宙への植民移民の話。しかもその技術系の検証結果は「当面不可能!」で、結びは、ねじりはちまきで技術者にハッパをかけよう、未来は開ける!……
 こりゃ読みたくないナと思いつつ、しぶしぶ細かく内容を辿ってみる。
 全体の組み立ては、レイモンド・ラブロックらによって提唱された「ガイア仮説」への反論として「メデア仮説」の主張。これがヨコの軸。主題である「生命」の性質を俯瞰すべく、星・宇宙のタイムスケールと地球の地質年代を対置させ歴史を辿るというタテの軸。タテヨコ織り込みつつ、果たして生命はガイア的なのか、メデア的なのかを論じていく。
 浮上してくるのは、生命繁栄の前提が地球の非生命的な循環運動にあるという点。地球でのCO2の出し入れなどを含めた大気の組成が、マントルを覆う岩石プレートの循環運動に決定的に支配されているという。そして生命は、その地質学的変化を契機にしてある種の単一生命が増殖し、それは必ず正のフィードバックとして大気の組成、気温(温暖化、寒冷化など)に大きく作用してしまう結果、生命全体に壊滅的な破壊をもたらすという。この生命のエゴイスティックかつ破壊的な側面を「メデア的」と呼び、この性質が将来重篤な打撃を地球生命全体に及ぼすと予測する。
 こうした理由により著者は、生命は単体では競争的に見えるが、全体としては共存的に環境と親和し、ある調和のもとで永続的な関係をもたらすとするガイア仮説に反論する。そんな甘いモンじゃないんだヨと。生命というのは行くとこまで行かないと止まらんのだヨと。
 地球生命の太古を遡って、黎明の頃確実に存在していただろう非DNA的生命を駆逐した地球上単一の生命体が現在の生命として君臨した事実も、植物の増殖によって大気中に酸素を充満させ、嫌気的生命を追い出していった事実もすべて「メデア的」の証左、何回も訪れた寒冷化による大きな絶滅も、生命が大気に影響を与えた結果であり、さらには現代、人類が地球環境に大きく影響を与えているのもその現われであると。
 そして、そもそも地球生命は遅かれ早かれ太陽の超新星化により、また、そこまで待たずともプレートテクトニクスのもたらす長期的な寒冷化作用によってもっと早く死滅する運命にあるが、その作用をさらに増幅させるのが生命の「性(さが)」だから、これを制御できる人間だけが、神に与えられた知をもって、工学技術によって、その作用を無効化させ得るはずだと説く。
 極めつけは、それでも限界があるだろうから、地球を捨てて生存可能な別の星に移民することが必要だ、今の技術を発展させて核融合エンジンから反重力云々と、可能性を開陳したあげくに、やはりこれらもムリであろう、で冒頭の「ねじりはちまき」が最終の結論となったのだった。
 ねじりはちまきって陳腐な結論しか導き出せないのなら、どうしてそのエネルギーを宇宙移民の不可能性じゃなくって、地球でなんとか生き残る可能性に知恵を絞ろうとしないんだろうかこの人は。
 ボクは、こうしたひとつひとつが本当かウソかを確かめる手立てを持たないので、とりあえず個々の事例を諾とするとしても、科学者にも許されている「仮説」というものが、また各々の事例や観測結果実験結果に対する「解釈」というものが、こうまでとらえどころがないものだという事実に、いささか唖然とした。「仮説」とはたぶん、細かな事例を積み上げ解釈を累積した末のある程度体系的な仮構造物、仮構(?)なのだとは思うが、細かな点個々の解釈のズレが「仮説」同士まったく折り合わない、すなわち敵対的な関係をも構築してしまうことにも唖然である。
 科学であるから、細かな事例(実験、検証の結果など)のそもそもの出発点で疑義がある訳はないはずだろうし、あるとしたらそれこそ科学って一体何なのかとさえ疑ってしまうことになる。すると「解釈」のズレだけが敵対的な両論を生み出すことになるのだが、果たして科学者に許されるこの「解釈」のズレというものは、いったいどんな動機、動因を背景にするんだろうか。感情的な軋轢は人間関係によくあることであまりに卑近。ならば故意?本の発行が2010年1月だし、著者のピーター・D・ウォードはもともと古生物学者で現NASA所属の宇宙生物学者だっちゅうんだから、オバマ大統領が火星有人計画ブチ上げたことと関係あるかも? っていうのが一般大衆にとってはとってもわかりやすい結論なんですが。わざと?

Author 事務局 : 2010年08月01日01:10

 
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