『世界金融経済の支配者』

世界を支配し、動かしている「勝ち組」は誰か、そして、「負け組」の実態は

「世界金融経済の支配者」 東谷 曉 著(祥伝社新書)
「世界を動かす人脈」   中田安彦 著(講談社現代新書)
「ルポ貧困大国アメリカ」 堤 未果 著(岩波新書)

評者 岡田哲郎(NPO支援センターちば)

 「市場原理主義」、「金融(カジノ)資本主義」は、世界中に格差社会を作り出し、極少数の巨万の富を持つ「勝ち組」と圧倒的多数の「負け組」を生み出している。その構造を作り出す社会の仕組みを以下の書籍を通して探って見る。
 【世界金融経済の支配者/東谷 曉】では、世界金融経済の「支配者」は誰か?を陰謀説で無く、あらゆる資産が「証券化(セキュリタイゼーション)」され、企業が市場から資金調達を行ったり、サブプライムローンなど住宅ローンや債務・不良債権までも証券化され、「資産がリアルな世界から切り離され」、ファンドマネーやM&Aなど金融が経済を支配している世界のカラクリを多様なセクターや要因から分析している。
 「証券化」がキーワードの金融経済にあっては、いかにコンピュータが発達し金融工学が精緻な計算したとしても情報の恩恵に預かれない人々をリスクの高い投機に駆り立て損失を負わせ、儲けの大部分は金融関係者で山分けするシステムであり、著者は証券化した金融経済は、結果として「カジノ」であり、分かりやすくイメージすると胴元が存在しなくなった「賭博場」と同じであるとしている。
 【世界を動かす人脈/中田安彦】で著者は、八十年代以降、金融資本が国境を越えて駆け巡り、石油などエネルギー資源を持つ中近東、ロシア、中国などの新興国グループの一握りの人々に富が集中し、世界的な資産家たちも加わる新たに金持ちのネットワークが形成され、「分配」における格差が世界的に拡大した「勝ち組」の形成を明らかにしている。
 その人々を「グローバル・エリート」と言い、世界の政治・経済・金融に大きな影響を与え、まさに世界を動かしている人々で、「富と権力」及び「ネットワーク力(人脈力)」で、多国籍資本の企業活動を牛耳り、政治家や国家指導者と連絡が取れる人々と規定している。
 また、二〇〇一年以降中国・インドの台頭や中東に生まれた「独自の経済圏」の出現で多元的で「フラットな社会」が生まれる可能性を示唆しつつも、グローバル経済の行方は二〇二〇年くらいまでに混乱の二一世紀半ばを迎えるのか、グローバルな「世界単一市場」の進展を迎えるのか、いずれにせよその鍵を握っているのがこのキーパーソンたちとしている。
 一方、【ルポ貧困大国アメリカ/堤 未果】は、アメリカで現在進行している現象を通し、「負け組」の人々の残酷な生活をルポしている。メキシコからの移民家族が「サブプライムローン」の支払い延滞で「家」を失うなど、働いてもローンの残高が減らず差し押さえられ最底辺に転落してしまう人たちの悲劇が次々と登場する。その主たる原因を「民営化」にあると、著者は分析している。
 災害対策が民営化され堤防補修ができず大型ハリケーンの災害が起こり、病院が株式会社化され高い医療費が払えず病気も治せない、トラック運転手が稼ぎがよい仕事に転職し派遣されたのがイラクで軍事物資を運ぶ仕事であり、軍事訓練を受けた「傭兵」ではなく、あくまで「派遣社員」としてイラクに送られる。
 学校では、勉強やスポーツができる貧しい青年をリクルートし、軍に入れば奨学金、医療保険や帰国後は永住権がもらえるなど、経済的な徴兵まがいが行われている。金持ちを除き大多数のアメリカ人がおかれている悲惨な状況であり、このルポは日本の近未来を予感させる。
 折しも、協同組合に関る者として、賀川豊彦献身一〇〇周年(二〇〇九年)を迎えるに当たり、弱肉強食を奨励し、セーフティネットを破壊し、社会の二極分化を推進し、多数の人々の生存権を脅かす「市場原理主義」、「カジノ資本主義」から決別し、分配の公正を重視し、「レンタルな生活思想」を想い、全ての国民が幸福な生活が営める社会を想起している。

Author 事務局 : 2008年12月01日14:11

 
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