『転機に立つタイ 都市・農村・NGOから』

新津晃一 秦辰也 編(風響社)

評者 山本 伸司 (BM技術協会常任理事・パルシステム生活協同組合連合会)

 平成の米飢饉といわれた一九九三年の翌年、初めてタイに行った。㈱パシフィック・トレード・ジャパンの山本寛幸会長にタイを見ませんかと誘われたことがキッカケだった。当時のパルシステムは、海外との関係はフィリピン・ネグロスのバナナをオルタートレード社のコーディネートで民衆貿易として唯一扱っていた。
 タイ訪問団は、生協の関係者と無茶々園の片山代表など生産者も含めて三〇名ほどで結成した。訪問先は、バンコクを基点に東北タイの貧しい農村地帯のNGOによる開発村での民泊、北部チェンライまでの山岳地帯、そしてバンコク港に広がるスラムのクロントイである。
 この視察中、タイ国協同組合省課長の講演、チュラロコン大学教授の講演などを行い、村開発での日本人指導による養鶏やちょうちん手作りの田中さん、そしてクロントイスラムでは、民主化運動リーダーのプラティープさんのお話も伺うことが出来た。こうした行程で参加者は様々な議論を行うこととなる。山本会長いわく、バスの中のバトルロイヤル。タイ米の輸入是か非か。都市と農村格差をどう受け止めるか、スラムと民主化、王政と民主化、経済発展と格差問題などなど。参加者が、生協関係者と生産者な割には実に多様な意見が飛び出し、一部過熱化して感情的になる場面もあった。
 この訪問から、一九九九年タイのバナナ産直が開始されバンラート農協との産直協議会の結成、そしてトゥンカーワット農園経営農民会との産直提携が築かれている。

 さて、この「転機に立つタイ」は、曹洞宗国際ボランティア会事務局長の秦辰也氏と新津晃一国際基督大学教授による編集。一九九四年三月、八月、九五年八月と三回に渡った「アジア教育シンポジウム」の記録である。タイ側からは、プラティープさんをはじめ、農民運動リーダー、スラム改革運動者や大学教授など。日本側からは、研究者やNGOなどの参加をもって構成されている。転機とは、タイの目ざましい経済成長とそのもたらした社会構造の変化のことである。これは、森林の伐採、農村の疲弊、都市スラムの膨張といった問題から仏教国ののんびりとした生活価値観を破壊するかの文化的変化をも巻き起こしている。こうした実態を様々な角度から照らし出し民衆の側からの問題解決を探ろうとする試みとなっている。
 特に、東北タイの農民運動指導者パーイ・ソーイサクラーン氏のイトーノーイ運動の言葉が面白い。イトーノーイとは山刀のこと、これで経済的な貧困問題や売春問題を解決すべく切り開いていくという。自分で農作物を作り自分で食べる。そして生活することを勉強しているという。換金作物に頼らない農民としての誇りを語っている。
 最後に、アジア農民元気塾の小松光一氏はいう。都市と農村、そして全ての貧困を生み出す仕組みは、世界システムに原因があるという。これを解決するのは、「離脱」だという。これは「産直革命」だと。都市と農村の関係性をもう一回作り変えていこうという実践だと指摘する。

 さて、今年もパルシステムは、産直協議会総会をバンラートで開催した。年度取組みを報告し二〇〇八年度の方針も協同で確認している。着実にタイの生産者との連帯を積み重ねている。ここに職員や理事も参加し生産者の家に民泊させていただいた。言葉の通じない日本人を暖かくもてなしてくれた生産者たちに感謝すると共に、豊かなトゥンカーワット農園の混植の森の朝の清涼な空気は本当に満ち足りた思いを感ずることが出来た。

Author 事務局 : 2008年10月01日09:44

 
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