『デンマークという国 自然エネルギー先進国』

『デンマークという国 自然エネルギー先進国』
ケンジ・ステファン・スズキ 著  合同出版

 北欧の小国デンマークはアンデルセンと酪農の国であり、またエネルギー・環境政策の先進国として知られている。なかでも、風力発電とバイオマス発電が名高い。


 稼働中の風力発電機は2001年末現在6500基、250万キロワット、人口一人当たり476ワットと、世界最大規模である。当初は陸上に設置されることが多かったが、近年は定格出力2000キロワット以上の巨大風力発電機が主流になりつつある。「洋上ウインドファーム」という。風力発電所の設置場所は、自然保護法、自然保存法および航空法により規制されている。
 本書の著者はもともと経済学、なかでも財政学を修めた人で、そのせいもあり風力発電の採算問題が詳しく例示されているのが面白い。風力発電所は組合の共同所有の場合が多く、また広く投資を受けている。投資を促す税法が存在する。また、売電システムが施設としても法制としても整備されていることが強みである。これに風力などの自然条件、土地のインフラを考慮して風力発電所を建設する。風力発電は採算の取れる投資対象になっているようである。
 デンマークはまた、風力発電技術の先進国である。世界最大の風力発電機メーカー、ヴェスタス社がある。もともとは農機具会社で、風力発電技術を一から開発したという。いまや、風力発電機はデンマークの有力な輸出産業である。
 次は、バイオマス発電。デンマークは畜産の国だが、他方、飲み水をすべて地下水に依存しているので、糞尿の垂れ流しは致命的である。農家は糞尿をスラリーとして貯留しておくことが義務づけられている。これを原料にして食品廃棄物を加えてメタン発酵する。個人農場用と、共同利用のバイオガスプラントが普及している。個人用では発酵装置が150から900立方メートル程度である。滞留時間は10?25日。共同利用のプラントでは、最大9000立方メートルの施設がある。バイオガス(メタン)は発電して電力会社に売り、温水は暖房に使う。本書にはバイオマスプラントの収支、投資効率が例示されている。関心のある向きは、ぜひ参照してほしい。
 本書の著者は一九六七年にデンマークに渡り、デンマーク国籍を取っている。本書はこの国の成り立ちを風土から政治まで紹介している。およそわが国とは違った国である。もともと氷河が削った岩層でできた国土である。もっとも肥沃な南部(ホルスタイン州等)を戦争でドイツに持っていかれた。ヒースしか生えない原野が残された。ここに植林し、農地を増やし、協同組合方式の酪農を始めた。わずかに一八六六年以降のことである。自然の管理と自然との共生がなくてはならない国土である。デンマークの社会もその産物である。

評者 長崎 浩(BM技術協会会長)

Author 事務局 : 2007年04月07日11:05

 
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