« ■世界水の日「命の為の水」 | メイン | 世界の疫病 INDEX 2005年1月~3月 »

2005年03月30日

■アジア鳥インフルエンザ科学データへの疑問

■アジア鳥インフルエンザ科学データへの疑問
  鳥インフルエンザ勃発の真実の数量は捕え難い
  米科学誌「SCIENCE」論文より

 伝染病:鳥インフルエンザ勃発の真実の数は把握できていない
  マーティン・エンセリンクとデニス・ノーミル

 鳥インフルエンザの人の患者についての混乱したリポートは、広域疫病についての懸念を高めている。しかし、H5N1の真実の広がりは未知のままである。ベトナムのクオンビン州の五歳のホアン・ツロンヅオンが先週鳥インフルエンザであると診断された。これはおそらく同じ病気で13歳のその姉が死んだ後ほぼ10日で起きた。それはアジアでH5N1鳥インフルエンザが席巻し始めて70人目の犠牲者になった。これは公式な数である。しかし、ほとんどのインフルエンザエキスパートは、H5N1にもっと多くの人々が感染していると信じていて、一部の人達は心配を深めている。現在の勃発が始まって17ヶ月になるが、大疫病になりかねないこのウイルスの人間感染への真実の範囲を確立する共同努力がまだできていないからである。ジョージア州アトランタの米国疾病管理予防センター(CDC)のインフルエンザ科学者ナンシー・コックス、は、「私はその情報が出てくるのが遅いのを非常に心配している。」と言っている。

 この情報の段差には多くの理由がある--感染国での研究施設不足による怪しいテスト結果から、政治的な微妙さまでを含んでいる。広範なテスト・プログラム、が、慎重に収集された疫学情報とともに、いくつかの基本的な疑問に答える為に「絶対に欠かせない」と、オランダのロッテルダム大学のウイルス学者アルバート・オスタハウス、は、述べている。それらの人々の間で何人の人々が感染しているのか?ウイルスが広がる方法は何であるのか?

 そしてこのウイルスは人から人へ感染していくのが「うまく」なってきているのか?--人への伝染は大疫病への最初のステップである。研究者達はこう言う。これまでに発見されているよりも多い発症数があると想定するのには充分な理由がある。たいていの重症患者は、H5N1のテストを受けている、コックスは言う、だが軽い患者は破れ目から抜け出している。(それが公式な死亡率が圧倒的な67%を示している理由かもしれない。)さらに、H5N1の最初の勃発時には、香港で1997年に何人かの感染した子供は、軽い症状だけか、または何も症状が出なかった。二週間前ベトナムでもまた二件の非対称的な感染が報告されている。

写真説明:アヒルとの接触は人への感染のリスクファクターである。徴候なしでH5N1を移すことができる:

 オスタハウス氏は、何をしなければならないかの一例として、1997年の勃発後に、コックス氏を含む香港保健省とCDCの研究班によってなされた研究を指摘している。その研究班はH5N1患者の51の家庭での接触者をスクリーニングした。これには、四日間の飛行機とバス旅行に行った26人が含まれていて、その26人は患者の1人と病気になった同僚がいる47人の銀行員と同行していた。研究班は患者との接触があった個々の対象者についての詳細な情報も収集した。(その結果はやや不安を軽くするものであった。ツアーグループの一人だけと6人の家庭での接触者がH5N1に対し抗体を持っていた。)

 いくつかの最近の情勢はもっと広いテストの必要性を強めている、と、コックスは言う。2月17日にニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンのオンラインで発表された論文は、H5N1が下痢と脳の炎症を起こすかもしれない、と、報告している。この事は、医師が鳥インフルエンザだと単に考えなかったので認知を逃れた患者がいたかも知れない事を示唆している。ベトナムでのH5N1の報告されている家族での感染者の増大は、人から人への伝染を示しているのかもしれない、と、コックスは述べている。

 しかし広範な予防努力は停滞している。1つの問題は、抗体の為のテストの技術的な困難さである。インフルエンザ研究者は、血清サンプル中の抗体を検出するのに血球凝集素抑制テストに慣例的に依存している。しかし、WHOのグローバル・インフルエンザ・プログラムを調整しているクラウス・ストー、は、こう述べている:血球凝集素抑制テストは鳥インフルエンザの場合は「まったく感受能力が充分ではない」事が判明した。その代わりになるもの、いわゆる「マイクロ中性化分析方」、は、より信頼できるけれども、ずっと時間がかかり、費用もかかる。そして、それは、細胞を感染させる生のH5N1ウイルスを使うので、生物安全レベル3の実験所で実施されるべきである。だが、その地域では、そういった実験所は希少である。

 サンプルと疫学上の疑問を収集することは大変な労働である。ピーター・コーディングリ、マニラWHOのスポークスマン、は、こう述べている:「ベトナム人は、深刻な患者を追跡するのに非常に忙しくしている。」そうではあるが、ホーチミン市熱帯病医院は、現在数百のサンプルを所有している--そのサンプルは処分担当者、患者、医療従業者、監督担当者からのものである。ピーター・ホービィ、ハノイWHO役員、は、それらのサンプルは、香港WHO協力センターに送られてもよいものだ、と、述べている。

 タイでは、他方、2つのグループが、昨年の勃発期間中に収集された数百のサンプルをテストしてきた。あいにくだが、その疫学的なデータのいくつかは適切には記録されていなかった。その結果はまだ参照されているけれども、バンコクの「国際出現伝染病プログラム」、タイ保健省とCDCの協力団体、の、スコット・ドーウェル、は、こう述べている:これまでのところそのデータは多くの亜臨床的な発症を示唆してはいない。香港大学のウイルス学者、マリク・ペイリスは、それは「意外な」結果だと述べている。

 情報不足は、専門技術を持っているがテストすべきサンプルがない研究所にとっては、挫折感を募らせるものである。CDCは、例えば、ベトナムの研究者を訓練してきて、タイの医療従事者からのいくつかのサンプルをテストしてきたが、もっと多くの事をしたいと思っていると、コックスは言っている。有名な国際的な研究所を参加させることは、結果にかんする不信や混乱を払拭するのにも役立つはずである、と、オスタハウス、は、述べている。「しかし、そのような協力を生むには外交的な対応が必要で、研究者の一団を引き連れてベトナムに乗り込むわけにはいかないだろう。」と、ストー氏は述べている。

 この間、先週インドネシアでH5N1の新しい鳥インフルエンザの勃発が報告されていて、韓国の新聞は北朝鮮がピョンヤンの近くで疫病勃発を抑制するため先月数千羽の鶏を抹殺処分したと報告した。北朝鮮は動物保健世界組織のメンバーとして、鳥インフルエンザの勃発を報告しなければならないのだが、これまで未だやった事がなかった。ストー氏は、秘密主義の国家では疫病発生を調査したり、制圧することも困難になるだろう、と、述べている。

参照:
Science 2005/3/25
INFECTIOUS DISEASES:
True Numbers Remain Elusive in Bird Flu Outbreak
Martin Enserink and Dennis Normile

Science Volume 307, Number 5717, Issue of 25 Mar 2005, p. 1865.
Copyright © 2005 by The American Association for the Advancement of Science. All rights reserved.

Author:事務局 : 2005年03月30日 16:27