食品安全と「レイベリング」法 【189号】

食品安全と「レイベリング」法

  :どこからこの食べ物は来たのか。推測してもラベルの先は闇である

米国議会2002年の立法:「消費者は食物がどこから来たか知らされなければならない」

 シアトルのスーパーマーケットで広く売られているアップル・ブラックベリー・ソースはラベル(レイベル)に米国農務省の有機認証が付いていて、それがカリフォルニアのチノから来ていると記述している。それはまた「カナダ産物」とも書いてある。そこで人はそれがどこから来たのか分かるだろうか?それがトント分からない。乾燥バナナチップはサムナー(Sumner) から来ていると記されている。しかしバナナの木はサムナー では育っていない。それからカナダから来たピーナッツバターもある。だがカナダにはピーナッツ農場がないのだ。米国議会は2002年に以下のように規定している食品表記に関する法律を通過させた:「消費者は彼等が買う食物がどこから来たのか知らされなければならない」しかしそれから5年後の今日、買い物客はアメリカのほとんどの食料品店にある肉、家禽、果物、野菜、冷凍や缶詰食物の起源を見極めようとするが、しばしば不明瞭で、省略だらけで、あるいは真っ赤な嘘が書いてあり、まるでオズの魔法の国に入りこんでしまったようである。
 消費者は、買いたい食物がどこから来たか知らないのでは、それが安全であるという確信はもてない、とエキスパート達は言っている。「公共利益サイエンス・センター」(The Center for Science in the Public Interest) 食品安全部長のキャロライン・スミス・ドゥワアル(Caroline Smith DeWaal)はこう述べている:「このラベリングは、製品が高い品質であることを保証するのに必須なものである。もし人が詐欺まがいの事をすれば捕まえられると言う事が分かっていれば、人はそんな事はしなくなるものです」

そこで何がレイベリング法に起きたのか?

 米国農務省(The Agriculture Department) は、食肉圧力団体、食料品産業、共和党支配の政治勢力からのプレッシャーに屈服して、ラベル法の実施開始を2004年に延期させ、さらに2006年に延期させ、遂には2008年まで延期させてしまっている。例外はシーフードで、2005年以来ラベルが付けられている。しかし汚染された食物に関して次々と最近多くの報告が続き-ホウレンソウ、ピーナッツバターのサルモネラ菌、チリのボツリヌス中毒、さらに増大している中国製品の汚染-これにたいして行動を起こす事が市民から迫られている。先月下院農業委員会(The House Agriculture Committee)はラベリング法を最新状況に合わせた修正をして、下院本会議はそれを複合的なそして長い農場法案の一部に含めた。しかし多くの食料品店でラベルが芽をふくように現れてくる事は期待しない方が良い。上院がまだ審議をしなければならない、そして次に農務省は食物供給チェーンに関係するあらゆる人にこの法律が実際に何を要求しているかを教示しなければならない。またブッシュ大統領は、その全体的な農場パッケージ法案が税金と農業助成金へ影響があるとして拒否権の行使をすると威嚇してきた。
 今春世論調査した消費者の92%以上が購入する食物の起源を知る事を望んでいると述べた。ホワイトハウスはこの事を「十分に意識している」と、公共利益グループ「食物と水監視」(Food and Water Watch) の部長補佐パティー・ロヴェラ(Patty Lovera) が述べている。この最新化されたラベリング法は、牛肉、ポーク、ラム、新鮮・冷凍果物と野菜に食物起源のラベルをつける事を要求している。だがラベリングの「ノーマンズランド/ 危険区域」は、缶詰、ビン、袋、に詰められた加工食品が陳列される食料品店の売り場になるだろう。加工食品に「起源国」のラベルを貼る事は自発的(voluntary)であり、そして最新化された法律もそれを変える事はないだろう。
 少数の食料品店、特に高級チェーン店は、すでに大規模な生鮮食品にラベルを貼ることを行なっている。「一部の店舗がすでにその生産物の一部にラベルをはっているから、他の会社や利益グループが、それができないと主張する事はずっと難しくなるであろう」と、全国的な非営利食物研究組織「有機センター」(The Organic Center) の主任科学者チャック・ベンブルーク(Chuck Benbrook) が述べている。

食品供給先を信頼するしかないのか

 しかしながら、ベンブルークや他の食物科学者達はこう述べている:「食物チェーン内の矛盾を正す事でさえ大変なことで、仮に食品起源が適切にラベルで表記されていても、食物の危険は存在しうる。「食物システムのグローバル化は、政府が新しい危険の起源を理解する能力より速く起こっている、ましてやそれを妨げることは容易ではないのです」と「有機センター」主任科学者チャック・ベンブルーク氏は述べている。彼の28年に及ぶ経験は主導的な議会による調査さらに食物安全問題の国立科学アカデミーの研究を含んでいる。食料供給を担当している12の異なった連邦政府機関がある、だがデワアル氏は「それらは混沌としていて、そして非能率的である」と評している。食品の貨物は300以上の港を経て合衆国に入ってくる。そして米国政府は貨物が入港する少数の港湾を担当する検査官しか持っていない。そうすれば一般の商店は一体どうして、輸入商品の品質を確保すればよいというのだろうか?太平洋岸北西地域で営業している数チェーンストアの生産品マネージャー達、また、「パイクプレイス・マーケット」販売店のバイヤーや販売スタッフも皆同じ事をこう言った:彼等は彼等の購入先会社の正直さを頼りにしているのです。

農作物の細菌汚染はどこからくるのか

 ワシントン大学の栄養科学プログラムの先任講師、バーブ・ブルーマ(Barb Bruemmer) はこう述べている:「正直さを予期するだけでは十分ではなく、特に食べる前に調理されない新鮮な果物と野菜の場合はそうである。これらの産物は畑地で、あるいは取り扱い中に汚染されるかもしれない。それは他の国々から来る産物だけでなく、米国内の産物でも問題になる。規制のシステムが緩和されれば、それだけリスクがより高くなるのです」食品汚染は多くの危機から起こりうる。それには、畑地の汚染された地下水、作物洗浄とすすぎの清浄な水の不足、そしてトイレや手洗施設のような衛生施設の欠落が含められる、と、同氏は付け加えた。自然や有機食物産業への専門的そして科学的コンサルティング会社「FoodWise Inc.」を率いるメアリー・マルリー(Mary Mulry) はこう述べている:「生産者がしばしば生産地あるいは加工工場に出かけないブローカーを通じて営業するから、危険な食物が輸入されることは稀な事ではない」
 ブローカーあるいは信頼できる代理店による直接の、現場の点検なしでは、米国の生産物供給者は、外国の製造業者あるいは裁培者が代用成分を使ったか、あるいは産物に間違ったラベルを張ったか、あるいはもろに詐欺を犯したかどうかは決して分からないだろう、とマルリー氏は述べる。一部の大手チェーンストアでは、すべての生産物の80%以上が輸入されている。また予算を気にする消費者だけが、虚偽ラベルを貼られた食物を買う破目になるわけではない。最も値がはる店舗での買い物でさえ、さらにそこで最高価商品を買う場合でも、品質と安全が保証されるわけではない。2つの極端な実例は法外な値段を付けられた「新鮮なイタリアのシロトリュフ」と「ロシアのシロイルカキャビア」のラベルが付いた商品である。一部の専門店が、イタリア産と称されるシロトリュフは中国産であり、ロシア産のキャビアが実際には大豆粗挽き粉から作られた物である事が露見している。

マーケティング「装置」としての「Local/ 地元産」

 しかし国内の生産物を最良のストアで取り扱っている場合でさえ、消費者は依然紛らわしいインフォメーションしか与えられてない事がある。例えば食品販売業者はずっと前から消費者が「locally produced/ 地元で生産された」というラベルをはられた産物に引き付けられる事を知っている。料理人達は、「local」というのは新鮮さを意味すると思っている。環境保護主義者達は「local」を食べるのは、輸送が少ない燃料ですみ、省エネルギーであると考えている。そしてほとんどの人々は、「local」を考える時、地元の農民の力になりたいという気持ちになっている。しかし誰がいったい何が「local」であると決めるのか?シアトルにある大型スーパーマーケットで、新鮮なマンゴーが山盛りに積んであるバスケットが置いて在り、「Washington Pride.(ワシントン自慢)Grown right in your own backyard.(まさしくあなたの裏庭で育てられて)と書いた掲示が出ている。だがこの山盛りの下方にあるマンゴーの一部には「Product of Mexico/ メキシコ産」のラベルが依然付いている。「この「local」と言う用語さえ限定されていない、そしてこの場合西ワシントン(Western Washington) あるいは米国西部( westernU.S.) を意味するのかもしれない」とブルーマー氏が述べている。
 「それは管理が貧弱なマーケティングの手口(device)になっていて、産物を消費者に対してより魅力的にするため「local」と呼ばせているのです」とベンブルーク氏は言った。一部の組織には「local」の定義を提供しようと努力しているものがある。例えば「Whole Foods'Web」という組織のウェブサイトはこう規定している:生産農地から施設に7時間以下で移動された産物だけが、「locally grown/ 地域で栽培される」というレッテルをはられてもよい。

「Made in USA」、「homegrown/ 自家栽培」

 一般の米国国民にとって魅力的なラベルのコンセプトに、米国で生産された食物に「homegrown/ 自家栽培」というラベルを付けるものがある。ごく小さなファミリー農場で栽培している個人から、巨大な農業関連産業のための企業弁護士達まで、米国で栽培された、あるいは加工された食物に、「Made in USA」のラベルを用いる事を義務にする事を要求している。「多くの米国農民は、消費者が優先的に米国産ラベルの産物を選ぶだろう、また消費者は国内生産されている食物がより安全であると信じている、と思っている」とドゥワアル氏が言った。しかしその米国産ラベルにも紛らわしさがある。「Made in the USA」のラベルは、その食物が国内で育てられたことを意味するのか、あるいはそれはただ、ビン、缶詰、袋、が合衆国でパックされたことを意味するのだろうか?ほとんどの食料品店の通路を通って見れば、何千という商品が、「...によってパッケージされた」、あるいは「...によって配給された」、あるいは「...から輸出された」と書いてある。だがその食物自体がどこから来たのかは書かれていないのが分かる。そんな実状だから、不可解な組み合わせの表示が出てくる。例えば、サムナー(Sumner/ 地名) からの乾燥バナナチップス、シアトルからの粉末マンゴー、オレゴン州マックミネヴィル(McMinnville)からのグアバの詰め物。それらの土地では出来ない産物ばかりである。

そこはピーナッツを栽培していないのだが、、、

 多数な成分を持つ食品に「起源国」のラベルを付けることが複雑な仕事になるのには、やむを終えない事情もある。ドゥワアル氏はこう述べている:「一人前のチキンキエフ( 料理) には20 の異なった国からきた成分が入っている事がある。トレーサビリティ追求がずっと難しくなるもう1つの理由は、供給元がある週では、アラスカの鮭を送り、その次の週にはチリからの鮭を送ったりする事があるからだ。「Made in the USA」のラベルは多くのアメリカ人にとって気が和むものかもしれないが、「Product of Canada/ カナダの産物」ラベルもそれに劣らず温かい、友好的なイメージがある。米国国境の北からくる何百という産物は米国ノースウエスト(The Northwest) 地域全体の食料雑貨店の棚に見いだされる。しかしこの「Product of Canada」は「Made in the USA」と同じぐらい紛らわしいものである。「有機交易連合」(The Organic Trade Association)カナダ・リエゾン(円滑関係)担当のステファニー・ウェルズ(Stephanie Wells) はこう述べている:「ラベルを貼る規則には、こんな奇妙な不整合性があります。例えば、私は「Product of Canada」というピーナッツバターを買うことができる、しかし私はカナダではピーナッツを栽培していないのを知っています。起源国の問題はちょっとややこしい事です。我々がもっと正直なシステムを求める事ができるかどうかはわかりません。だが今の表記は多くの場合紛らわしく、産物起源を誤魔化すのはちっとも正直ではありません。そしてもちろん消費者はこの事に満足していません。消費者がカナダのものを買いたい場合は、本当にカナダのものを欲しているのです、最終的にカナダで加工された物ではありません」
 カナダ人のパディー・ドハーティ(Paddy Doherty) 氏は中部ブリティッシュ・コロンビア州の500 エーカーある農場で有機野菜と羊を30 年間育ててきた。彼はまた「有機農業運動国際連盟の認可委員会」(TheInternational Federation of Organic Agriculture Movement
Accreditation Committee) の議長でもあるが、こう述べている。「消費者は「Made in Canada」というラベルが、実際はカナダで包装されただけとか、ラベルをつけられたとかを指す事情を不快に思っています。私もまたそれは好きではありません。そして私が知っているほとんどの農民もそれを好んではいません。それは誠実さ、国の誇り、安全の問題です。もし食物が中国から来ているのなら、それがカナダのラベルを付けてカナダで売られたり、米国へ出荷されたりするのを私は望みません。私が「Made in Canada」のラベルがついたコーヒーを見て、カナダにコーヒーのプランテーションがあると信じていないというのは奇異な事です」

参考資料;Seattle Post-Intelligencer
Where did that food come from? Your guess is as good as the label
Law would streamline regulations -- if it passes
Last updated August 16, 2007 11:58 p.m.
By ANDREW SCHNEIDER P-I SENIOR CORRESPONDENT


HP

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Author 事務局 : 2007年09月01日17:13

 
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