『内部被爆の脅威』――原爆から劣化ウラン弾まで

肥田舜太郎/鎌仲ひとみ 著 (ちくま新書)


 放射能汚染という、
生産者と消費者の分断
 東京電力福島第一原子力発電所の事故で、パルシステムは苦しい立場に立たされている。悩んでいる。
 乳幼児のいる母親から切実な不安が寄せられている。パルシステムは農薬や化学肥料と同じように政府の基準より厳しい基準を採用し自主検査を徹底して安全性を確保して欲しいと言う。国の放射能汚染の暫定基準値を守るとしたパルシステムの方針に不信を表明するものである。
 一方、生産者からも不安の声が寄せられる。自分達が使った農薬なら残留もわかる。しかし空からの汚染が不均等に拡散してくる。これはわからない。各団体の自主検査の結果で排除されたら今後どうしたらいいかわからない。原発事故現場からの距離ならわかる。放射能拡散の実態がわからないままでは田畑の栽培をどうするか本当に迷っている。将来が見通せない。農業をつづけることができない。
 こうした両者からの不安のまえに、危険なものは危険として排除すること、そしてその汚染地域の管理を徹底すること。これで生産できないことの補償を東京電力並びに国が完全に補償することが必要だ。このことで不安を少しでも排除することが求められる。ところが、この危険性について専門家や学者の見解がわれているのである。だから困ってしまうのだ。
 もちろん、パルシステムはじめ多くの生協や有機農産物などを扱う団体では厳しい基準で管理をしていきたいと考えているはずである。ところがこれがそう簡単ではない。汚染区域の特定も汚染品目の特定も安全基準の考え方に左右され、そのことで県や市町村といった行政区単位でも対応が異なってしまうからだ。やはり国内において統一した基準を明確にし検査体制も充実した徹底した安全管理が求められている。いつまで暫定基準とするのか。
 
 放射能基準の困難性
 じつは肥田先生によると、世界的には内部被爆をめぐる見解の相違があるという。アメリカを中心とする国際放射線防護委員会(ICRP)と欧州放射線リスク委員会(ECRR)の見解は異なっている。ICRPは内部被爆も体外被曝と同様に許容量を定め、ECRRは許容量ゼロ以外は安全ではないとしている。ヨーロッパの科学者グループであるECRPは1945年から89年までに放射線被爆で亡くなった人を6160万人としている。ICRPはこれを117万人とする。ECRPは一般人の許容限度を0・1ミリシーベルト/年、以下とICRPの10分の1としている。まるで数値が異なっている。学者の説が定まっていないのだ。そこで経済と政治がまかり通ることとなる。
 
 内部被爆と低線量放射線被爆
 ペトカウ効果について書かれている。カナダ原子力委員会のホワイトシェル研究所のアブアム・パトカウが発見したもの。「細胞は、高線量放射線による頻回の反復放射よりも、低線量放射線を長時間、放射することで容易に細胞膜を破壊することができる」というもの。つまり核爆発のような強力なガンマ線などの外部被爆よりも食物などで取り込まれた低線量のアルファ線やベータ線などがずーっと続けて細胞に影響をあたえることの方が怖い。遺伝子の復元作用の妨害と傷つけられた細胞の生き残りによる変異の継続によると想定されている。つまり発ガン作用は内部被爆の方が大きいという。生きて苦しむ。
 また自然放射能と人工放射能の違いの指摘も衝撃的。生物が自然放射能を学んできたため排出作用などの対応が見られるが、人工放射能の場合は特定臓器などに蓄積し継続した害をなすという。ここを意図的に混同する言説がある。

 核との共存はありえない
 原子力爆弾であれ、原発であれウランを採掘し濃縮する過程から被爆はおこり、すべての工程と最終廃棄物までに人々の放射線被爆がおきている。その意味で世界最大の被爆国はアメリカだといい、その深刻な実例が紹介されている。さて、世界唯一の被爆国とされてきた日本が原発大国となり、そしてその東京電力が福島第一原発で重大事故をおこした。なぜ止められなかったか。肥田先生は、原爆の被害の深刻さをじつは受け止めきれていなかったと語る。核と人類の共存はありえないことを真剣に考えられなかったのだと指摘する。わかっていなかった。

 エネルギー論争の前に核利用の廃止を
 ウラン、プルトニウムなど核分裂物質は、人間が制御できず深刻な害を及ぼす。これを利用しようとする愚かさと恐怖。いま私たちはこの真の恐怖を知る。この著作から感じ取ることができるか。ここから始まる。

評者:山本 伸司 (BM技術協会常任理事・パルシステム生活協同組合連合会)

Author 事務局 : 2011年07月01日23:30

 
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