「ミミズの話」

「ミミズの話」エイミィ・ステュワート 著 (今西康子訳 飛鳥新社)

評者 竹内周 (らでいっしゅぼーや(株))

 著者エイミィ・スチュワートは、自らもミミズコンポストを使用する家庭菜園の愛好者としてミミズとつき合って七年、すっかりミミズフリークになってしまったようだ。本書を読むと、時おりその偏愛ぶりをうかがうことができるが、主題は、ミミズを通した「土壌」の機能や作用についての「驚き」であるのかと思う。
 彼女の好奇心は、ダーウィン一八八一年の著作『肥沃土の形成』(ミミズと土)から紐解かれていく。
 ダーウィンは、ミミズには何十年、何百年もかけて少しずつ地質学的変化をもたらす能力があることに気づいていて、このような微々たる変化の積み重ねが莫大な結果をもたらすという考え方が、土壌を変える神秘の力として、ダーウィンを惹きつけてやまなかったと指摘する。そして、もう百年以上の時を経た現在でも、人類はミミズについて、あまりにも無知であることを知る。
 たとえば、数億年の地質年代を越え生きてきたミミズは、その生態を分類し地域ごとの調査を進めていけば、太古の大陸移動を詳らかにする生き証人としてとても重要な研究の対象。にもかかわらず未だ未発見種も夥しく、研究者をして「ぼくらはまだ十九世紀にいるようなもの」と、ため息をつかせるような状況なのだそうだ。
 また、土壌の生物圏を概観すると、線虫を含めた様々な微生物は、ミミズによって非選択的に増殖、あるいは抑制され、休むことのないミミズの摂食と排出が、土壌を作物にとって良い環境にも悪い環境にも左右していくことの重要性と、その制御についての研究も少ないそうだ。ミクロの倍率で眺める土では、ミミズは土壌と土壌微生物に直接働きかける触媒であり、巨大なトンネルを掘削する耕作者でもあるのだ。
 このほか、ヒトが無造作に持ち込んだ外来のミミズが、その土地の生態系に甚大な被害を及ぼし始めている可能性なども踏まえ、ミミズの持つこうした潜在能力を、積極的に活用し始めている事例も紹介される。要約すると、それは「大地を変化させる」ことだ。
 巨大なミミズコンポスト製造のビジネスやし尿処理、その副産物を小分けした家庭菜園用の商品群など。水で液肥が抽出できる「ミミズ糞ティーバッグ」なんてのもあった。有害な化学物質や重金属を摂取しても生き続けることや、PCBやメタンを分解する働きなどもわかってきて、汚染土壌の浄化や汚水処理などへの活用も模索されている。いずれも、バイオリアクターとしてのミミズ(と土壌)から、なんらかの有効なアウトプットを導き出す取り組みだ。
 
 著者の菜園(当然不耕起!)を掘ったら、バケツ一杯に四〇匹のミミズ。計算すると一エーカー(約〇・四ヘクタール)に一年で一五〇トンのミミズ糞が生産されるということだ。この一〇分の一でも興味深い数値と言えるが、私たちはミミズについて、まだまだ知らないことが多いようだ。

Author 事務局 : 2010年11月01日02:41

 
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