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2009年02月01日

槌田敦氏 講演会から 前編【AQUA205号】

弱者のための「エントロピー経済学」とBMW技術に期待すること
槌田 敦氏 講演会から 前編

 一二月二日、東京・神楽坂で、熱物理学と環境経済学がご専門の槌田敦先生をお招きして、「弱者のための『エントロピー経済学』とBMW技術に期待すること」と題して、BM技術協会主催の講演会が開催されました。槌田先生には、昨年、千葉県で開催された全国交流会のパネルディスカッションで、パネラーを務めていただいたほか、茨城県の田中一作邸を視察していただきました。今回の講演会には、協会常任理事や理事等を対象に、関係者二六人が参加しました。
 その講演内容の概要を今号と、来月号にわたってご紹介します。

エントロピー経済学とは何か
 リサイクルは廃棄物になるのを遅らせているだけで、根本を解決するものではない。また、リサイクルをすることによって他の資源を消費することになる。それより廃棄物は自然にかえせば自然がサイクルしてくれる。そのことをする努力をするべきである。自然への返し方で自然が資源を作りなおしてくれる。我々人間が作りなおすことはない。
 経済とは、物質の法則の範囲内で成立つものである。その中に三つの法則がある。エネルギー保存の法則、物質保存の法則、エントロピー増大の法則である。経済活動をしても、エネルギーや物質は増えない。一方エントロピーとは、活動・変化があれば必ず増大する。エントロピーがいっぱいになれば活動は終わる。エントロピーとは何かと言うと、最近では「究極の毒素」と言うようにしている。その蓄積によって変化や活動は終了する。エントロピーが終わらないものもいくつかある。エンジンなどはそうだが、これは資源を必要とする。資源がなかったら動かない。そして廃熱、廃物が必ず出る。熱機関をはじめ生命、生態系、地球なども活動を維持するすべての物質系はエンジンである。

人間社会もエンジンと同じ
 人間社会もエンジンである。社会の外から資源を入れて、外へそれらを廃棄している。社会の中でも同じようなことがある。需要と供給である。需要と供給で商取引が行われる。そこでものが動くことにより、物質循環になっていく。社会の中で物質循環になっているということが非常に重要である。その物質循環が社会を動かしている。これがアダム・スミスのいう「神の見えざる手」が成立する健全な人間社会である。この商取引では売り手と買い手、双方に余剰の利益が発生する。また、この商取引によって第三者に利益が発生して、このふたつが合わさって経済成長が起こる。

エントロピー経済学の目的
 エントロピー経済学の目的は社会のエンジン活動を維持することである。また、人間社会を動き続けさせることでもある。現代経済学では資源循環型社会が持続可能な方法であると言うが、これらはエントロピーの増大を無視してのことである。よって理論として完結しない。エントロピーをエンジンに例えた話に戻るが、社会活動をすると劣化する。それをまた修理し、元に戻して同じことを繰り返す。これにより社会エンジンを健全に運転できる。しかしここには資源が必要であり、廃物が生じる。ここでいう資源とは金融政策である。課税と規制、これにより修復をはかっている。ところがこの商取引により第三者に利益でなく損害を与えることがある。外部不経済である。汚染で考えればそれをどうにかする費用が必要になる。外部不経済が生じるということは過剰供給であることを指している。科学技術の使用を放置すると、需要が飽和しているのに過剰に生産することになり、失業者が発生する。貿易でも同じである。先進国で過剰生産したものを輸出すると、それを輸入する国は失業も同時に輸入することとなる。規制を緩和すると強いものに産業は独占される。そうすると資金のないものは商取引から排除され失業する。これらにより経済は膨張する。現代経済学は経済膨張と経済成長を混同している。

金融危機・不況の原因と崩壊した「神の見えざる手」
 経済現象は自然現象でない。誰かが何かをしたからそうなっただけで、自然現象ではない。現在の世界は、規制緩和と税制優遇で家計から大企業の経営者と資産家、まとめて富豪と言うが、これに利益が移っていることになる。そして内需が抑えられて外需に利益を求める形になっていくので経済は質的には冷え込むが、量的には膨張することになった。富豪はそこで得た金を投機にまわし、価格を吊り上げ、それを売り抜けた。その結果大金持ちは大儲けし、小金持ちは大損をした。そうした損をした人々がものを買えなくなってしまった。それが今の不況である。そして生産しても売れない結果、庶民は解雇されることになった。経済学者や自然科学者達はこの金融危機が富豪の異常な行為の結果だったことを話そうとしない。なぜなら、経済学者達は富豪の使用人だったわけで、大金持ちがどんどん儲かるようにやってきた。たとえば五〇年前に自然科学者達は石油が三〇年で枯渇すると言い、また世界は寒冷化に向かっていると付け加えて世界に四二九基もの原発を建設した(二〇〇六年データ)。そして富豪達を儲けさせた。この三〇年というのは石油の可採年数の事で、発表当時での技術、価格で計算しただけに過ぎない。最近では二酸化炭素で地球は温暖化すると言い始め、また原発を作り始めた。この二酸化炭素の排出権を売買することでこれらがまた証券化し、富豪が儲かるシステムを考え出した。その結果も失業と貧困である。失業は供給者からの排除であり、貧困は需要者からの排除である。現代はこの失業と貧困によって「神の見えざる手」は崩壊している。その結果、暴動とテロが起きる。

社会エンジンを正常に運転するための外部不経済対策
 さて、何がエントロピー経済学の目的だったかというと、社会エンジンを正常に運転する方法を考えることであった。この方法は、外部不経済対策を厳密に行うことである。それは他人に損害を与えない。また、与えた場合は賠償させることを厳密化する。さらに課税と規制をきちんとすることで収入が得られる。この収入により、失業者・貧困者を救済し、再び商取引に復帰させる。
 日銀は紙幣を増刷しないという規範を守っているが、その代わり国債を買っている。その結果、子孫に利息を負担させることになった。それならば紙幣増刷の方がよかった。日本はかつて世界第二位の資本主義国であった。しかしその実力は年々低下している。歴代自民党内閣はアメリカの国債を買い続けた。その額は五百兆円、税収の十倍にもなる。中国も同じであるが、日本はアメリカの属国になるために、中国はアメリカを支配するために買っている違いがある。豊かな貿易黒字で金を買うべきであった。金の保有は先進国で最低である。
 日本はアメリカの国債購入の他に補助金も出している。その合計は一千兆円にも達する。国債残高はGNP比で日本は一・七九、世界で断然一位である。これだけの負債があるということは子孫の資産を食い潰しているということである。また、さらに赤字国債は六〇年償還である。いずれ子孫がこれを払うことになる。これらの原因者はまず一九八四年の中曽根内閣、次に債務の拡大をした小泉内閣であった。これらを軌道修正するためにも失敗を認め、破産国家であると社会に宣言する必要がある。そうすれば国債と一般会計を切り離すことができる。

弱者が生き延びるためには
 エントロピー経済学とは人間社会エンジンの生理学であり、病理学である。弱者のための経済学なのである。
 最近は、自ら命を絶つ人身事故が非常に増えている。そんな時代になってしまった。それなのに彼らはまだウソを吹いて回っている。昔だったら共産主義者が色々暴露してくれたが、共産主義者が悪いことをしてしまったから、もはや期待もできない。
 どうすればいいのか。富豪達の好き放題から少しでも家族を守るには、そこから離れることを考えなければならない。食べ物は自給する。半日農業をする。それには土地がない。土地を求めるととんでもない山奥になってしまったりして現実性がない。そこで、皆さんがやっているBMW技術が活きてくる。みんなで助け合うように、半農をしながら協同組合活動をしていくのは必要なことだと思う。幸いなことに日本はまだそれができる。途上国は先進国の貿易でひどい目にあわされているので既に無理である。実行には技術が大切である。先駆的技術をどのようにして育てていくのか、というのが今日のもうひとつのテーマである。今できる選挙活動といえば、野党に投票する程度のことしかできない。あとは自分達でどうにかしていくしかないのである。  (以下次号)


槌田 敦 氏プロフィール
 理学博士。一九三三年東京生まれ。東京都立大学理学部化学科卒。東京大学大学院物理課程D2修了後、同大助手を経て理化学研究所研究員。定年退職後、一九九四年から名城大学経済学部教授(環境経済学)、二〇〇六年定年退職。二〇〇五年から高千穂大学非常勤講師。
 著書に「資源物理学入門」(NHKブックス)、「環境保護運動はどこが間違っているか?」(宝島社)、「CO2温暖化説は間違っている」「弱者のためのエントロピー経済学入門」(ほたる出版)など多数。

Author 事務局 : 2009年02月01日 15:16

 
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