« 【AQUA242号】関西にてBMW基礎学習会が行われました | メイン | 【AQUA242号】アジアからのBM便り »

2012年05月01日

【AQUA242号】アフリカ・ザンビア農業指導レポート2

「栄養不足・貧困の解消と
 アフリカの食料安定生産を目指して」

㈲千葉自然学研究所   
 礒田 有治

 アクア二月号では、昨年、九月の訪問時の農業調査等で明らかになった『極度に痩せた土』が、ザンビアの栄養不足と貧困の直接的な原因であること、一方でザンビアの農業潜在能力は、非常に高いこと等について、報告した。今号では、一一月〜一二月のザンビア訪問時に実施した農業技術セミナーと、中・小規模農家での現地指導、資源調査等について報告する。

ザンビア農業畜産省・天然資源開発大学との共同で農業技術セミナーを開催
 昨年の一一月末〜一二月中旬、再度、ザンビアを訪問した。今回の目的は、九月の調査で明らかになった『極度に痩せた土』の「土づくり」をどのようなステップで実現し、生産現場で、どう取組んでいくか――である。具体的には、現場の生産者と、生産者を指導する普及員等の指導層とともに、先ず共通認識を持つことを最大のポイントに置き、農業技術セミナーの開催や、現場での農業指導、資源調査等を実施した。
 農業技術セミナーは、ザンビア農業畜産省、同省所管の天然資源開発大学との共同で三日間の日程で開催した。内容は「土壌をどう改良し、どのような手順で、生産性を上げていくか」をテーマに、先ず各圃場の土壌状態を把握する土壌分析の重要性とその具体的方法を知り、植物生理や作物栽培の本質等を学ぶもの。生産者リーダーや農業技術指導者層の普及員、農業畜産省、農業研究所職員、現地JICA関係者らが参加した。
 講師には、協会でこれまで取組んできた〜自然学を実践する〜土と水の学校「有機栽培講座」で講師を務めていただいた㈱ジャパンバイオファームの小祝政明氏に、はるばる日本から来ていただいた。
 セミナーでは、日本から持込んだ小型土壌分析器での分析実習もカリキュラムに取り入れた。現場で土壌分析が実施でき、土壌の状態を把握できることに参加者は、非常に関心を持ち、熱心に実習に取組んでいた。セミナー終了後に分かったことだが、ザンビアには、土壌分析器が国内に四つしかないため、分析を依頼しても、結果が判明するのは数ヶ月後となる。結果として、生産圃場の有効な土壌分析は、ほとんど行なわれていないのが現状である。この小型土壌分析器については、小祝氏の好意により、農業畜産省に寄贈し、普及所等で活用してもらうこととした。
今回の農業技術セミナーには、ザンビアの有機農業関係者(注1参照)からも高い関心が寄せられた。ザンビア有機農業生産者・加工業者協会(OPPAZ)に、セミナー内容について報告したところ、非常に高い評価と関心が寄せられた。同協会からは、今年五月に開催される同協会が主催となっている第二回アフリカ有機農業会議(注2参照)への参加と発表を要請されている。現在、同協会とは、①植物生理に基づく高品質・多収穫有機栽培方法②資源循環型農業としてのBMW技術③有機栽培を中心とした日本の産直運動等について、発表内容を協議している。

活用が図られていない地域の有機・鉱物資源
 中・小規模農家、それぞれの現地指導では、土づくりにおける有機物の重要性と、身近な有機物等、地域資源を活かした具体的方法の検討や、比較栽培実験等を実施した。
 ザンビアの生産現場では、作物残渣や、雑草、枯れ草等、身近に土壌を改善する有機物資源があるにもかかわらず、それらが、土づくりに有効に活用されていないのが現状だ。畜産も庭先養鶏をはじめ、粗放的畜産のため、有機資源としての畜産糞尿の生産への利用意識は、ほとんどない。このため、それら有機資源を極力、生産に活用して、土づくりを行うことや、牛糞堆肥+化成肥料、化成肥料のみの葉物野菜による比較栽培実験区を設け、その違いを生産者に体験してもらうこととした。
 資源調査は、セントラル州のムクシ市にて、地元生産者らと一緒と、鉱物資源調査を中心に行った。鉱物資源調査に費やせる時間は、わずか数時間程度であったが、その短い時間の中で、ドロマイト(苦土石灰)、鉄・マンガン等、土づくりに有効な資源が豊富にあることを確認することができた。また、関係者から入手した資料からリン鉱石も存在することも確認された。ザンビアは、やはり資源国であり、その農業潜在能力の高さを確信できる要因の一つである。
 ただし、ザンビアでは、こうした鉱物資源がほとんど、農業分野に活用されておらず、生産は、輸入化学肥料に依存しているという大きな矛盾がある。有機資源と鉱物資源、双方の地域資源があるにもかかわらず、その有効活用は、ほとんど図られていない。
 翻ってみれば、それは、戦後、日本が辿ってきた農業生産の歴史と重なる。食糧増産を目的に化学肥料栽培中心の無機的農業生産の普及が図られた結果、それまで、生産者が長い年月をかけて行なってきた身近な地域資源を利用した土づくりが軽視され、持続可能な農業生産に赤信号を灯した。そして、現在は、先人達が行ってきた土づくりの重要性が再評価されている。多少の時間差や風土等の違いはあるもののザンビアで起きている現象の本質は、日本と大きくは変わらない。BMW技術も、それらの経験の上に立脚し、地域資源循環型の適正技術を追求してきた。
 今回の農業指導では、本来の目的である生産性の向上について、その方法論の入り口の一つを紹介したに過ぎない。事業対象地域の生産者からは、次のステップを学びたいとの要望が寄せられている。また、資源調査後には、生産者から「うちの畑には、こんな岩石(鉱物)がある。これはどのような石で、どのような効果があるのか」との反応も早速、寄せられた。
 今後のアフリカの人口の増加と食料問題を考える時、ザンビアの農業潜在能力を活かすことができるかが、一つのキーポイントになるのではないかと思っている。その際、単位面積当たりの収穫量が高い日本の農業生産技術は、同国の農業生産性向上に非常に貢献できるものと考えている。欧米主導型の大規模農業生産は、環境への負荷が高く、生産性の向上も、先が見えており、ザンビアの国策であるNON・GMO生産も脅かしかねない。マクロの視点で生態系の物質循環(資源循環)を捉え、技術と生産・生活方法を提唱するBMW技術の理念と技術の本質は、ザンビアでも非常に重要かつ有効と考えている。
 『極度に痩せた土壌の改善』『栄養不足・貧困の解消』等、課題はそれぞれ重く厳しいが、現地の生産者の人々と、互いに問題意識を共有する中で、引き続き、課題解決に向け、取組みを続けていきたい。


注1:ザンビアの有機農業者=現在、ザンビアにおける有機農業生産者は、一〇五グループ、約五千人ほどとされている(OPPAZ調査)。ザンビアの総農家戸数約百三十万戸(二〇〇〇年センサス)からすると、有機農業生産者数は、まだ、その一%にも満たないが、取組み生産者は、農業収入の一定の向上が図られており、今後の動向が、注目されている。
注2:第二回アフリカ有機農業会議=二〇一二年五月二日〜四日、ザンビア・ルサカ市で開催される有機農業の国際会議。会議では、生物多様性を実現した有機農産物生産、種子生産、温暖化の緩和、食料安全保障を実現した有機農業プロジェクト、有機農産物のマーケティング(地場流通、広域流通、輸出入等)等について各国から報告と交流を行う。約三〇のアフリカ諸国が参加する予定で、ザンビア農業・畜産省、PAM(ザンビア栄養失調対策プログラム)、FAO、UNCTAD、EU、GTZ、IFOM(国際有機農業運動連盟)、African Union等が協賛団体になっている。

Author 事務局 : 2012年05月01日 22:24

 
Copyright 2005 Takumi Shudan SOLA Co.,Ltd All Rights Reserved.