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2012年10月01日

【AQUA246号】東ティモールレポート

 インドネシアの小スンダ列島の最東端、オーストラリアの北西部で日本のほぼ真南に位置するティモール島。その東半分を中心とした東ティモール民主共和国が独立(主権回復)を果たしてから、二〇一二年五月で丸一〇年が経過した。
 東ティモールは、総面積一四、八七四平方キロメートル(岩手県とほぼ同じ大きさ)、国土の大半を占める山地と海沿いに広がる平地からなっている。熱帯性サバンナ気候のため雨季と乾季にはっきりと分かれているが、近年では気候変動の影響が関係しているのか、従来の時期から季節がずれてしまい、長雨が続いたりすることも珍しくなくなってきている。
 二〇一二年現在、約一〇六万人の総人口のうち八割以上が地方に暮らしており、そうした人々は、自分たちの土地で様々な種類の作物(穀物、果物、野菜)や家畜を育てている「農民」である。このように農業が唯一の基幹産業といえる東ティモールの一人当たり名目GDPは近年大きく上昇しており、二〇一二年の統計では、フィリピンの一・五倍ほどの三、六四〇米ドル(実質GDPは約九五〇米ドル)となっている。その理由としては二〇〇四年から生産が開始されたティモール海の海底油田における石油・ガスからの収入にあり、これが国家収入の九五%以上を占めているため。では残りの数%はというと、唯一の輸出品目であるコーヒー産業、近年少しずつ発展してきている観光業などと非常に限られたものとなっている。しかし、海底油田は二〇二五年には枯渇するという予測もなされており、現在のいびつな経済構造からいかに脱するかが問われているといえる。
 東ティモール政府は、二〇一〇年に「戦略的開発計画」を発表し、二〇三〇年までインフラ開発に力点を置く方針を打ち出している。基本的なインフラ整備が重要でないと主張するつもりはないが、八割以上が農民である東ティモールの人びとの暮らしに直結する農業・産業を育てるための予算は、国家歳出のわずか四%にも満たない。しかも、農業や食料安全保障などに関する明確な計画や政策は皆無に等しく、各省庁間での調整も圧倒的に不足している。さらに、農業部門への限られた予算の多くが、外国人アドバイザーへの高額給与や海外からの農業資材・機材の輸入代金などに消えている。実際に、西部の稲作地帯ではトラクターが水牛にとって代わりはじめており、輸出産業の柱であり国としても国際市場に対して「有機」ブランドとして売り込みたいコーヒーとは対照的に、化石燃料依存型の農業が推し進められている。
 そもそも、元々東ティモールの人びとが主食としていたものは、キャッサバやタロイモなどの根菜やトウモロコシだった。しかし、一九六〇年代にポルトガルによって持ち込まれた稲が、続くインドネシア占領期の一九七〇年代に集約的な形態で広められて以降、米が主食として一般的に定着したという歴史がある。そして、いまや主食として人びとにとって欠かせなくなった米の確保のため、政府はベトナムなどからの輸入米(しかも「二五%Broken」というような表示のついたくず米が混ざったものも多い)を輸入することに莫大なお金をつぎこんでいる。その一方で、シャナナ・グスマン首相率いる東ティモール再建国民会議(CNRT)を筆頭とする連立政権は、観光商工省を通じて、「POVU KUDA GOVERNU SOSA(人びとが種をまき、政府が買い上げる)」というプログラムを実施し、「食料自給の達成」を掲げているが、実際のところ、これは単なるスローガンにしかすぎないことは明らかだ。これに対し、ミュージシャンであり運動家のエゴ・レモスさん(注)は、「こうした政策は、東ティモールの人びとが自分たちの土地で育てた旬の多種多様な作物を食べる代わりに、白米への依存をより一層強めることに貢献しており、人びとの栄養不良、土壌劣化、地方の市場の崩壊などを招いている」と強く批判している。
 NPO法人APLAでは、コーヒー生産者がコーヒーによる現金収入だけに頼らない自立・安定した地域づくりをめざし、淡水魚の養殖や自給のための多様な作物づくりなどを進めている。さらに今後は、エゴさんが立ち上げた「Permatil」という現地NGOと協働し、東ティモールの農民が直面している現状へのオルタナティブを提示していくという意味で、持続可能な農業を担う若手の育成プログラムなども実施していく予定なので、ぜひみなさんにも知恵を貸していただきたい。
(注)エゴ・レモス…持続可能な農業の実践と普及に取り組む一方で、東ティモールを代表するミュージシャンとしても活躍している。二〇一二年五月には、独立一〇周年を記念し、日本ツアーをおこなった。

NPO法人APLA 野川 未央

Author 事務局 : 2012年10月01日 22:01

 
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