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2012年11月01日

【AQUA247号】第5回 BMW技術基礎セミナー報告

 〜未来をひらく後継者・若手対象〜第五回「BMW技術基礎セミナー」が、九月七日、八日に開催されました。
 BMW技術協会会員の生産者団体、生活協同組合、流通団体、個人会員など、今後の協会活動を担っていく若手や後継者が参加しました。今回の基礎セミナーに向けて、木内克則常任理事を座長とした若手幹事会を形成、内容について今後の展開を含め議論し、「遺伝子組み換えと種子の問題」に絞って開催することになりました。BMW技術基礎セミナーとありますが、あえて今回、BMW技術そのものを取り上げなかったことには理由があります。これまでの参加者(アンケート)の意見を基に、若手幹事会でこれまでの開催内容についての意見を集約しました。ひとつは、それぞれの講演内容やプログラムの内容が濃く、飲み込むだけが精いっぱいになってしまい、自分なりの解釈にいたらない場合がある。もうひとつは技術に関しての学習会は、もっと生産者の事例などを含めて、より深く掘り下げて勉強したい。そこで今後の基礎セミナーの展開としては、回ごとのテーマに集中していくため、年二回開催予定の一回はBMW技術について、もう一回は今回のようなテーマ(前回までは放射能被害、TPPなど)について取り上げていくということになりました。

◆一日目
 東京・飯田橋の「ベルサール飯田橋駅前会議室」にて五三名が参加、オルター・トレード・ジャパン社の印鑰(いんやく)智哉氏を講師に、世界の農業で大きな問題となっている「遺伝子組み換え問題」を南米での農業問題を通して勉強しました。引き続き八つのグループにわかれてグループディスカッションを行い、最後にそれぞれのグループの発表をして全員で話し合いました。

「遺伝子組み換えが破壊する農業と社会、
 そのオルタナティブ」講師 印鑰智哉

 今、世界でモンサントなどの遺伝子組み換え企業による農業モデルへの批判が高まっています。一言で言えば、遺伝子組み換え農業モデルとは一握りの企業が農業生産を支配し、大量の農薬、化学肥料を利用して行う資本・エネルギー集約的な農業です。
 遺伝子組み換えというと健康への安全がよく話題になります。しかし、遺伝子組み換えがもたらす影響はその作物の有害性に留まりません。

遺伝子組み換えは社会を壊す
 南米、アルゼンチン、パラグアイ、ブラジル、ボリビア周辺の地域は「大豆連合共和国」と揶揄されるほど、大豆が集中的に耕作されている地域になりました。そのほとんどが遺伝子組み換え大豆です。しかし、この大豆は民主的なプロセスを経て、耕作が認められたものではありませんでした。遺伝子組み換え大豆が商業的世界に初めて登場した一九九六年、ほとんどどんな問題が引き起こされるか十分な検討もないままアルゼンチンにモンサントは潜り込みます。遺伝子組み換え大豆はこのアルゼンチンから隣国のパラグアイやブラジルなどに密輸品として持ち込まれます。ブラジルなどでは遺伝子組み換え大豆の栽培を禁止しましたが、この密輸による耕作は止まることがなく、強引に二〇〇五年に遺伝子組み換え大豆はブラジルやパラグアイで合法化されてしまいます。
 それと同時にモンサントは急速に種子企業の買収を進めます。その結果、農民が遺伝子組み換え大豆以外の大豆を植えたいと思っても、モンサントの遺伝子組み換え大豆以外の種を手に入れられなくなる事態がもたらされます。わずか数年のうちに、この地域で遺伝子組み換え大豆が独占する事態はこうして生みだされました。アルゼンチンやパラグアイでは全農地の六割近く、ブラジルでも四割が大豆に占められるに至っています。
 同時に進んだのが逆農地改革と言われる事態です。先住民族や小農民が追い出され、土地が大豆を耕作する大地主の元に収奪される事態が進みます。パラグアイでは一%の大地主が七七%の土地を支配するとまでいわれる事態になりました。遺伝子組み換え大豆は従来のものよりも高く、除草剤なども大量に使うため、資本集約的な農業を営む農民以外には現実的ではありません。数十万の先住民族や小農民が土地を追われ、貧困飢餓層となってしまっていると言われています。
 今年の六月にはパラグアイでクーデターが起きました。小農民を守る立場でパラグアイ史上初めて選出されたルゴ大統領が、一七人の死者を出した小農民と警官との衝突の責任を問われて、弾劾され、大統領の座を追わましたが、現地の人びとはこれをモンサントのクーデターと呼びました。ルゴ大統領がモンサントの遺伝子組み換え木綿などの承認に抵抗したことなどがその背景として指摘されています。現にクーデターのすぐ後、遺伝子組み換え木綿やトウモロコシが相次いで承認されました。
 遺伝子組み換えの導入の中で、南米諸国の主権は否定され、遺伝子組み換え大豆畑は風景が変わるほど激増し、土地を奪われた人びとの救済は進んでいません。遺伝子組み換えは社会を壊してしまったのです。

激増する農薬
 導入された遺伝子組み換え大豆はモンサントの除草剤ラウンドアップに対して耐性を持つように作られています。ラウンドアップをかければ雑草だけが枯れる、とモンサントは宣伝しました。しかし現実には雑草はあっという間にラウンドアップに耐性を持つようになり、ラウンドアップをかけても雑草が枯れない事態が生まれてきました。
 ブラジルでは遺伝子組み換え合法化の後、農薬使用量が世界一になってしまいました。アルゼンチンではラウンドアップの空中散布によりガン、白血病などの深刻な病気で苦しむ住民が激増し、大きな社会問題となっています。

遺伝子組み換え作物がもたらす健康被害
 米国に食料を依存する日本は大量の遺伝子組み換え作物を輸入しています。それらは加工食品としてあるいは飼料として私たちの体の中に入っていきます。残念ながら日本ではほとんど報道されませんが、遺伝子組み換えが健康に甚大な影響を与えるという研究は世界各地で発表されており、九月にもフランスのカーン大学で遺伝子組み換えトウモロコシを与えたラットの多くが腫瘍を持つようになり、早期の死を迎えたという衝撃的な実験結果が発表され、世界中に大きな反響を呼び起こしました。この実験の発表の後、ロシアは米国からのモンサントのトウモロコシの輸入を禁止しました。フランスはEU全体での輸入禁止を提案しています。しかし、残念なことにこのフランスのカーン大学での実験を報道する日本の報道機関はほとんどありません(NHK-BSのワールドWaveという番組の中で海外マスコミの報道として伝えられたのみです)。

種が危ない
 モンサントなど遺伝子組み換え企業は世界の種子企業の買収を急速に進めています。それまで先祖から受け継いできた種を植えることを犯罪とする法案もメキシコなどでは提案される事態になっています。つまり、遺伝子組み換え企業から種を買わなければ農業ができない時代がやってくるかもしれないのです。一部の企業により農業生産が支配され、危険な作物しか育てられなくなる時代が来てしまうかもしれません。こうした事態に対して、自家採取を行って種を守っていく運動が世界各地で起きています。
 そうした動きと連携しながら日本の農業を生産者と市民がいっしょに守っていく必要を強く感じます。
 BMW技術基礎セミナーで直接、生産者や生協などの方とこの問題を話すことができて非常に有益でした。日本のマスコミはほとんどこの問題を報じません。農水省なども米国の権益の関係を重視するため遺伝子組み換え問題について生産者や消費者を守る姿勢をほとんど見せません。そのため他の国よりも、消費者も生産者も十分に情報を得られない状況に陥っています。この問題について、国外の動きを含め、情報交換を通じながら、日本の農業と人びとの健康を守っていく具体的な取り組みが必要だと思います。このセミナーはその第一歩になったのではないかと思っています。種を守るという点では野口種苗研究所の野口さんの取り組みが貴重ですが、野口さんのお話を直接聞けたのもとても有益でした。 

第五回BMW技術基礎セミナーに参加して
みやぎBMW技術協会
 大郷グリーンファーマーズ 西塚忠樹

 私達の大郷グリーンファーマーズはBMW技術を主に農産物の生産において植物本来の生命力を引き出すために活用しています。若手である私達は農産物の生産を行っていくうえで必要になってくる技術、知識を日々学んでいるところです。その中で、BMW技術の有効利用を学ぶため基礎セミナーに参加しています。今回、第五回目の基礎セミナーに参加させていただいたのは植物栽培の最初の段階にあたる種子に関しての知識を学ぶためです。そして、現在問題視されている遺伝子組み換え作物の生産についての知識を身につけるためです。
 TPPによる日本の貿易自由化がもたらす問題点として、農産部門で取り上げられる代表的なものに遺伝子組み換え食品の流通の可能性があげられています。現在の日本では遺伝子組み換え食品に関して安全であると言えないため流通を抑えていますが、安全とは言えない理由は何なのでしょうか。今回の基礎セミナーを通して、大きな理由として三つが取りあげられていた気がします。
 一つ目に、遺伝子組み換えそのものに対する安全性です。今回の講師として講演していただいた、印鑰氏の「遺伝子組み換え食品と言うと、交配による品種改良や自然の流れの中での進化とは違うものだというのが伝わりづらいので、遺伝子操作食品というほうが正しいかもしれない。」との言葉通り、自然界ではありえない遺伝子の組み換えによる人間への影響が考えられます。あるはずのない遺伝子の食品を口にすることによる、免疫システムへの障害などが確認されているようです。特に子供などの免疫形成途中の者への影響は大きいと考えられるとのことでした。また、遺伝子組み換え作物と現存の作物との交配が懸念されます。同じ作物のため交配は可能ですが、遺伝子が違うため奇形の作物が続出したとの報告があるようです。このことから現存の種子が汚染されてしまい、通常の遺伝子を持つ種子がなくなってしまうことも考えられます。
 二つ目に、農薬に対して抵抗力のある遺伝子を組み込むことで農薬の大量散布が可能になり、農薬による人的影響がでてくることがあげられます。作物への農薬の空中散布時にそれを浴びてしまう直接的な被害や、食品として流通してからの残留農薬による間接的な被害が考えられます。農薬による影響としてはアレルギーやガン、出生障害などすでに大きく取り上げられています。
 三つ目に、遺伝子組み換えによる生産性の向上により大規模な作付けが可能になり、これまでの多様性のある作付けにより守られてきた土地への影響があげられます。大規模に拡張された土地で同じ作物を連作することにより、その土地の資源を偏って使ってしまい今までのバランスが保てなくなる恐れがあります。また、同じ農薬を使用し続けることで抵抗性のある雑草が増え、それの措置として新たな農薬の投入が必要になり、農薬に汚染された土地になってしまう恐れがあるとのことでした。
 現在、従来の有機農業が見直されてきて私達もそれに日々取り組む中、今あげてきたことを踏まえ考えると、この非自然農業と有機農業は相容れないのだと痛感させられた気がします。戦時中に軍事産業として発展した技術が戦後の今日になって、いろいろな分野でいかされていますが、この遺伝子組み換えの技術を開発した企業も元は軍需産業とのことでした。今までは結びつきのなかった産業が、資本の発達とともに他産業に資本を投入した場合、元の産業を色濃く反映していくものなのだと感じました。
 セミナーの中でグループディスカッションが行われましたが、どのグループも生産者、流通者、消費者のそれぞれの立場の意見が表れていた気がします。しかし、どの立場においても、商品とは自分たちの納得いくものでなければならない、納得いかないものは商品としての流通を認めない、という意思が表れていたように思えます。この意思を私達は生産者として消費者の元まで届けなければと感じた内容でした。一つのグループで、それぞれの立場の人が情報を正確に知ることが重要であるとの発表がありましたが、今回参加したことで遺伝子組み換えに対しての基礎的な情報を得られた気がしました。
 最後に、遺伝子組み換え作物を売る企業の重役は自分達の作った遺伝子作物は口にしないとのことでした。自分の納得のいくものを作れない者が生産者でいいのでしょうか。私は納得いくものを作れる生産者を目指し今後のセミナーを通じ、技術や知識を深めていきたいと思います。また、それを自分だけではなく周りの人の技術や知識としても活用してもらえることを今後の目標としていきたいところです。

◆二日目
 現地視察を兼ねて埼玉県飯能市にある「野口種苗研究所」にて野口代表から日本の「在来種」の現状を中心に、日本における種子事情ともいうべき現実の話しを伺いました(野口代表の話しは三時間にもおよびました)。その後、日本一の学食を誇る「自由の森学園」にて昼食をいただき、同校食生活部の泥谷千代子さんより、食生活部の目指すものとこれまでの取り組みについての話しを伺いました。参加者は三五名。

第五回BMW技術基礎セミナー(二日目)報告
㈱ジーピーエス第一事業部野菜課 近藤由佳里

 野口種苗研究所・野口氏講演より
 〜私たちの土地の味を残すということ〜
 種子のF1を巡る議論について、その重要性を漠然と感じながらも、私自身の生活や日頃接する生産の場で取り組むきっかけがありませんでした。今回、野口氏の講演を拝聴する機会に恵まれ、そこで印象に残ったことを二つ述べようと思います。
 まず、驚いたのは野口氏より明かされる種苗業界の舞台裏や、F1種の採取に至る手法についてです。「F1種になって、種を採ることが忘れられた」と始まり、基本的な種子の説明、現在のF1種主力の産地形成に至る理由など、ご自身の体験をもとにお話しいただきました。
 品種改良により、異なる形質のものを掛け合わせると両親よりも優れた能力を持ち合わせるといわれる「雑種強勢」。それから、必要な形質をもった品種を固定するために、何代も繰り返して掛け合わせることで、その形質の子どもだけが出てくるよう近づけていたという「固定種」と、一代目のみにより優れた特性が現れるため、それのみを売り出した「F1種」。戦後の食料増産やその後大規模化を進めるにあたり、F1種の特性が必要とされ、広まったことにより、農家の生産効率も上がり私たちの食卓も恵まれたのでしょう。進歩する技術の様子を聞くだけで、日頃自分が、野菜は天候に左右されやすく工業製品ではない、と言ってはいるけれど、その種子はこんなにも工業化が進んでいるのかとただ驚くばかりでした。
 二つ目に、現在のF1種が「雑種強勢」を目的とせず、「雄性不稔」「母系遺伝」が主力となっていることもまた、初めて知りました。これらは花粉の機能が働かないものや、受精しても受け付けない因子をもつことで、これらを親とするとF1種を作るにあたりとても効率的だそうです。「種を制する者は、世界を制す」といわれるわけだと思いました。私たちの知らないところで、大げさにいえば、植物なのか、食べ物なのかと疑ってしまうような出来事が起こっているのです。
 こうやって出来上がったF1野菜が大半を占めるという現状は、私にとって大きな衝撃であり、想像をはるかに超えるものでした。自分の知っている野菜の味が、本物なのかもあやしいという事実は、野菜が好きなだけにとても寂しく思います。
 野口氏のお話の中で、私の中に一番残っていることは、「固定種はその土地で作り続けることでその土地の味になる」という言葉です。私たちが今から少しずつ着手できることは、そういった地道なものだと思います。わずかでも自分たちの手で種を採り、作り続けることが、その地に合った種となり、豊かな生態系を育んでいく。私たちひとりひとりがこの問題を知り、意識し、少しずつでも選択していくことで、その土地の味を守っていくことができるのだと強く思いました。
 私にできることは限られているかもしれませんが、まずは身近な人にこの種子の世界の現状を伝え、固定種・自分で種を採ることに、少しでも興味をもってもらえるよう伝えていきたいです。

Author 事務局 : 2012年11月01日 18:47

 
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