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2015年07月01日

【AQUA279号】マイペース酪農交流会

マイペース酪農交流会
   これからの草地酪農を考える「酪農交流会」
    〜未来につながるマイペース酪農

はじめに「マイペース酪農」とは?
 放牧を基本とし、化学肥料や濃厚飼料などの投入を極端に抑え、土、草、牛の有畜複合をベースに、その循環を重視する酪農。BMW術協会会員の「根釧みどりの会」のメンバー、北海道中標津町の酪農家・三友盛行さんが提唱し、単に自分(人間)のペースでのんびり酪農をするという意味ではなく、いわゆる規模拡大路線を断ち持続可能な酪農、生き方としての農業を追及している。牛一頭当たりの年間平均乳量は五〇〇〇〜六〇〇〇kgと少ないが、飼料費、肥料費、減価償却費等の農業支出がきわめて低く、牛も平均五産と長生きするため、所得率が高い。労働時間も一日六時間程度と少なく、規模が小さくてもゆとりのある経営を実現している。
 三友さんは、酪農には地域ごとの風土に合った適正規模が大事だと考え、根釧地域では牛一頭につき草地一haが適正としている。これより牛が増えすぎると、粗飼料が足りなくなり、糞尿処理も限度を越え、環境への負荷が多くなり、様々な経費がかさみ経営が追い込まれていくという。一戸当たりの規模は経産牛(乳を搾る母牛)四〇〜五〇頭、牧草地四〇〜五〇ha程度、これを超えると労働過剰で人が倒れ、牛の飼養管理がおろそかになり、これまた経営の継続ができなくなるとのこと。草地更新(注※)についてもほとんどおこなわず、植物(牧草・雑草)の生態系を重視した、酪農の自然農を目指している。
 マイペース酪農は一九九一年から毎月第三火曜日に学習会を開催している。酪農家の立場から日本の農政、社会の情勢などについて話し合い、時には経営状況に困っている牧場の相談を受けるなどの手助けもおこなっている。この学習会をベースに年に一度の酪農交流会が開催されている。

根釧みどりの会
 マイペース酪農を実践する酪農家と獣医の高橋昭夫さんを中心に設立され、石澤牧場、三友牧場、岩崎牧場、渡辺牧場、川畑牧場の五つの牧場にBMW技術飲水改善プラントが導入されている。今年一一月に開催する「第二五回BMW技術全国交流会」の実行委員会のメンバー。会長はBMW技術協会全国理事石澤元勝さん。
※草地更新…草地が経年化して土壌や植生の状態が悪化し、期待した生産量が得られなくなった時や利用目的にあった優良な草種・品種を導入し生産性を高める場合におこなう。これを繰り返すことによって、化成肥料の多投や品種の交雑など、逆に土地が疲弊していくとも考えられる。

酪農交流会
 五月一七日、北海道別海町西公民館にて「酪農交流会〜未来につながるマイペース酪農」が開催されました。主催はBMW技術協会会員の根釧みどりの会のメンバーが主体となる「酪農の未来を考える学習会」実行委員会。この酪農交流会は毎年この時期におこなわれ今回で三〇回目とのこと。参加者はマイペース酪農を実践する酪農家とその家族、就農を間近に控えた酪農研修生、その取り組みの研究をされている大学の教員、学生、研究者、賛同される消費者の方々と一〇〇名以上の参加がありました。特に若い参加者が多く、新規就農したばかりのご夫婦、酪農家の担い手、研修生、そして酪農家を目指す学生やJAなどの若手職員。担い手の中には、実家はマイペース酪農ではなく「つなぎ飼い」(放牧をせずに牛舎のみで牛を飼う)、だけど自分の代では放牧し、マイペース酪農を実践したいという方もいました。数は多くはないですが、この地でマイペース酪農がゆっくりと深く根付いていることを実感しました。
 交流会は「根釧地方における低投入型草地管理により河川流域の環境保全〜低投入型草地管理は、経営にも環境にも優しい」、「風蓮川の環境保全を考える」と題した二つの報告からはじまりました。根釧地域を流れる風蓮川流域は酪農含め広大な農地が広がっており、水環境への汚染が問題となっている。河口には汽水湖をかかえ漁業が盛んですが、湖内にたまる窒素などの問題から漁業者から酪農家へ河川の水質改善の要望が出されているとのこと。家畜排せつ物法の施行や河畔林の保全造成などの対策などはおこなわれてきているが、規模拡大路線の酪農による環境負荷は続き、その溝は埋まっていないとのこと。
 草地への環境負荷の少ない低投入型草地管理はマイペース酪農そのものであり、まず収量向上のために窒素を多投すると無機態窒素、いわゆる硝酸態窒素が増え、さらに土壌交換性アルミニウムが増えるためイネ科牧草が減少する。飼料についても、乳量の収量をあげるため穀物飼料を多投すると、未消化のグズグズの糞尿が増え窒素分が多くなる。草地酪農、いわゆる放牧酪農の糞尿は窒素分が少なく、草地にも負担がかからない。数年前に三友牧場の草地を歩きながら三友さんに牛の糞が土になっていく過程を実際に見せていただいた。「牛がした糞にはハエ、糞ころがしなど順番に虫がやってくる。もちろん微生物も活躍し、自然と土に還って行く。」三友さんは糞をひとつひとつ割って見せてくれ、実際に生息している虫が違うことがよくわかりました。ここで詳しく説明するのは無理があるので、報告した佐々木章晴氏の「これからの酪農経営と草地管理」(農文協)を是非、読んでいただきたい。これは酪農だけではなくて、他の農業にもつながるものがあるのではないかと思います。
 その三友さんは「畜産クラスター事業を契機に酪農のあり方を考える」と題し、政府が推進する畜産クラスター事業への問題提起をおこないました。畜産クラスター事業は生産基盤強化を目的に、畜産農家をはじめ、地域の関係事業者が連携・結集し地域ぐるみで高収益型の畜産を実現するための体制のことで、この畜産クラスターの構築を全国的に推進しています。生産基盤を強化するために更なる規模拡大を促し、地域の関係事業者を連携・結集し高収益型の畜産を実現する、とはいっても儲かるのは関係事業者で実際に酪農家への配分は微々たるもの。これらのことを細かなデータ、マイペース型畜産クラスターの構成図などの説明によって解説された。聞いている側として、畜産クラスター事業は、今までの規模拡大型の酪農こそが酪農を衰退させているという事実があるにもかかわらず、さらにそれを多少の形を変えてはいるものの、依然として推し進めているようなものであり、細かい事業内容は割愛しますが、結果から言うとマイペース酪農が目指すものとは真逆なものということがわかります。逆に適正規模をしっかりと考えた、低投入持続型家族酪農=マイペース酪農には大きな可能性を感じます。
 交流会は他にもマイペース型酪農と北海道南放牧グループ、A農協との経営比較などの農業所得に関する報告、マイペース酪農の事例報告などがあり、最後に質疑応答に加え、参加者全員からの意見や考え方を発言する時間が設けられるなど、主旨にそった「酪農の未来を共に考える」有意義な交流会でした。
 最後に数名の若い酪農家や学生さんの発言を抜粋します。これらは素朴な意見や感想でしたが、シンプルでわかりやすく、マイペース酪農の未来は明るいと感じるものでした。
Aさん(関西出身で新規就農)「北海道の酪農のイメージは豊かな大自然、広大な牧草地に牛がたくさんいる。都会の人はだいたいの人がそう思っていると思う。でも現実は違う。つなぎ飼育が多く、酪農自体も衰退している。マイペース酪農は都会の人のイメージそのものでもあると思う。そんな景色や環境も守って、酪農家として頑張っていきたい。関西の友達が遊びに来ても北海道そのもののイメージを壊さないためにも。」
Bさん(学生)「私の家は酪農家ですが、放牧もせずつなぎ飼育です。でも、私の代になっていくにつれてマイペース型に移行していきたい。課題は多いけれど、こうしてこの場で多くの同じ考えを持つ皆さんがいて、出会えたことに感謝しています。」
Cさん「地元から酪農が消えて行き、地域自体が衰退している。地域を守るためにも、日本の酪農を守るためにも頑張って行きたい。」
  (報告:BMW技術協会事務局 秋山澄兄)

Author 事務局 : 2015年07月01日 12:48

 
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