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2009年11月01日

【AQUA214号】フィリピン北部ルソンに初めてのBMWプラント

地元農民組合、農地改革省とAPLAが合同で「出水式」を開催
フィリピン北部ルソンに初めてのBMWプラント

特定非営利活動法人APLA   フィリピンデスク 大橋成子

 去る八月二七日、気温三〇度を超える暑い日差しの中、フィリピン・ルソン島のイサベラ州カワヤン町の堆肥センターで、BMW生物活性水プラントの完成記念「出水式」が開催されました。
 式典は、第一部、第二部に分かれ、第一部では、バプテスト教会の神父による祝福式が厳かに執り行われました。この祝福式には、堆肥センターを共同管理するCORDEV(農民組合連合)及び農地改革省、カワヤン町灌漑協同組合、農業省・肥料検定協会などの代表一〇名に加え、日本から、㈱匠集団そらの星加浩二プラント事業部長、NPO法人APLAの秋山眞兄共同代表(BM技術協会理事)、APLAフィリピンデスクの大橋成子が参加しました(プラント建設までの経過はアクア9月号を参照ください)。
 階段のついた高さ二メートル以上あるプラントの上で、サミュエル神父の祈りが始まりました。神父もまた、八ヘクタールの米・野菜農家の出身です。
 神父の祈りと「今後、この地域の農民・農業に大きな力となるBMW技術は過去一〇年以上にわたり、日本の先駆者たちが築いてきたものです。私たちはそれを引き継いで、今後一〇年、二〇年と自らの技術として発展させていきましょう」という言葉の後、五トン×六槽タンクの静かな黒い水面に神父が聖水をかけた直後、電源のスイッチが入りました。突然、すべての槽からボコボコと盛大に湧き出した曝気に参加者から思わず歓声と拍手がおこりました。さっそく関係者は六槽目の生物活性水を出水し、切り替えされたいくつもの堆肥の山にBMW生物活性水がまんべんなく降りかけられました。
 
良質堆肥生産の拡大に大きな期待
地域資源循環型の食料・肥料の自給を目指す
 第二部は、場所を堆肥センター敷地内にある農地改革省の小ホールに移動して、星加氏によるBMW技術の説明会を開催しました。ここでは参加者が五〇名に増え、農地改革省や州の農業指導員、CORDEVのメンバーである野菜・米・果樹農民たちで熱気あふれる会合になりました。
 パワーポイントの写真と図を中心に、BMW技術とはなにか、そのめざすもの、BM技術協会会員生産者での活用事例がわかりやすく説明されました。まるでブドウのように実ったミニ・トマトや太く束ねられた稲の毛根の写真に、会場から「すごい」というため息がもれ、時間いっぱいまで様々な質問が続きました。
 CORDEVはルソン島北部の七つの州にまたがる生産者協同組合の連合体です。地元の行政組織である農地改革省と共同で設置した堆肥センターのあるイサベラ州はフィリピンの穀倉地帯の一つであり、米作・トウモロコシ生産の中心地。堆肥の原料は鶏糞・トウモロコシの残滓・おがくず・籾殻くん炭などすべて地元でまかなっています。さらに近隣そして山間部の州には果樹・バナナ・コーヒー・カカオの生産者がつながっています。現在の堆肥センターの需要は、イサベラ州の有機米生産者だけでも、すでに年間一千トンを超えており、生産が追いつかない状況が続いていました。
 プラント責任者のグレッグ氏(CORDEVプロジェクト・マネージャー)は、実際の経験を次のように語ってくれました。
 「生物活性水の使用によってさらに良質な堆肥の生産拡大に、関係者とくに米農家は大きな期待を寄せています。すでに堆肥センターでは、堆肥とBMW生物活性水を使った稲の育苗を行い、実験田に定植した結果、二本植えの苗から平均五〇本、多いもので七〇本の分けつになりました。定植の間隔もこれまでの二〇センチから三〇センチに広げました。今後、生物活性水は堆肥生産に使用するだけでなく、センターで野菜や果樹の育苗や家畜にも活用し、米作以外の農家にも配給していきたいと考えています」
 また、「出水式」ではたくさんの参加者が、BMW技術に寄せる抱負を語ってくれました。以下に紹介します。

BMW生物活性水プラント完成に寄せて
CORDEV代表及びカワヤン町農地改革省代表 
トム・フェルナンデス氏

 本日の出水式には、イサベラ州の各地から農民代表はもちろん、たくさんの農業省・農地改革省の関係者が強い関心をもって参加してくれました。これは、もちろんBMWという新しい技術への興味と関心の現われですが、同時に昨今の経済危機に加え、特にフィリピンは主食の米が、アジア最大の輸入国になってしまったことへの危機感も現しています。フード・セキュリティ(食の安全保障)は私たちの最大の課題です。そのための堆肥センターは農家にとってとても重要です。BMW技術がさらに良質な堆肥生産に役立つことを心から期待します。同時に農地改革省はCORDEVと提携して、イサベラ州を射程に育苗センターも作っていきたいと考えています。私たちは政府の役人ですが、同時に家は農家でもあるのです。役人と農民の両方の目からこの技術を生かしていきたいと考えています。

CORDEV事務局長及びプロジェクト・マネージャー 
グレッグ・ラシガン氏
 ネグロス島で始めてBMWミニプラントに出会い、さっそく自分の自宅に設置して数頭の豚や野菜に使い始めました。今回、CORDEVと農地改革省の共同堆肥センターにBMW技術を導入するにあたり、今年五月に日本を訪問し、山形の米沢郷牧場・ファーマーズクラブ赤とんぼ、山梨の黒富士農場、そして白州郷牧場を訪問させていただき、多くの方々からお話を聞くことでBMW技術の深さと面白さを再確認しました。
 BMW技術は農民にとって変革の武器だと私は感じました。この技術を使うことによって、これまでとは違う変化が必ず生まれます。しかも完成した技術ではなく、未知にあふれている。この技術を使う人は、先駆者たちが苦労して作り上げてきた質や水準を大切に守らなければならないのと同時に、あとの五〇%はこれから自分たちが実践して発見していく、という終わりのない技術なのだと分かりました。さらに、成果を独り占めするのではなく、広く仲間に伝える変革の手段にしていかなければならないため、まず堆肥センターで生物活性水をしっかり作って、他の作物にも活用することで、この未知の世界を私たちなりに探って行きたいと考えています。


カワヤン町灌漑協同組合代表 
エリテリオ・コルプス氏
 私は州の農業指導員の仕事を退職し、現在は三ヘクタールの水田をもつ米農家です。
 灌漑協同組合は米農家一、二八〇家族が組織されており、メンバーの水田面積は総計で約二千ヘクタールになります。これまでほとんどは慣行農業でしたが、数年前からの肥料代高騰で、仲間たちの中に有機栽培の米に転換する動きが出てきました。私自身、農業指導員時代は、高い肥料や農薬代で借金に負われる農家を目のあたりにしながら、有機栽培を奨励したこともありましたが、堆肥不足、成功の事例がないため、慣行農業から抜け出せないジレンマを抱えていました。
 二年前から、農家仲間と話し合い、灌漑組合が支援して一三四ヘクタールの水田を有機栽培に転換することにしました。地元の堆肥が足りず、他の州から取り寄せたり、籾殻の薫炭だけでまかなっていました。今回、カワヤン町に建設された堆肥センターは私たちの長年の夢でした。有機米に変えてから、幾度かの台風に見舞われましたが、倒れてもすぐに立ち上がることに驚きました。堆肥は一ヘクタール当たり最低二〇袋(一トン)を使用するよう指導しています。私は役人の仕事を引退しても農業は続けます。家族・地域・国が十分に食べていける食糧自給をめざしたいのです。


ヌエバ・ビスカヤ州サンタフェ町有機農家連合 
野菜・シイタケ生産者 モイセス・ピンドグ氏 
 私は隣のヌエバ・ビスカヤ州から今日参加しました。北部ルソンの先住民族の出身です。山間地で野菜を主に作ってきましたが、五年程前からシイタケ栽培に取り組んでいます。(注:フィリピンには多種のキノコ類が生息するが、栽培は一般的にあまり普及していない。中華・イタリア料理店などでは通常、缶詰のマッシュルームを使用している)ここ数年、マニラなどの大都市で需要が増え、他の野菜に比べて高価格で売れるのです。今日の星加さんのお話を伺って、「BMW技術は、五〇%はできあがった技術だが、残りの五〇%は自分たちで開発していくものだ」と聞いて、さらに興味をもちました。私はCORDEVのメンバーでもあり、私の州でも多くの農家が仲間にいます。私の場合、特に高地野菜とシイタケにBMWを使用してみたい。シイタケ栽培はある日本人に教えてもらいました。農業省の試験場から菌体をもらいました。現在数家族で栽培し、マニラまで出荷していますが、将来もし良質のシイタケができるのなら、仲間を増やしていきたいと考えています。


イサベラ州農業省・肥料検定協会代表 
レオナルド・バンガッド氏
 カワヤン町があるイサベラ州は、マルコス政権下に行われた農地改革によって一九七三年以来、フィリピンを代表する米作地帯となったわけですが、最近の土壌検査でも明らかなように化学肥料の使用によって土壌の酸性化が激しい。さらに水田に生きる生物が本当に少なくなっています。加えて、地球温暖化などにより、本来のフィリピンの米作りが危機になっています。そんな状況の中で、堆肥センターができたことは本当に喜ばしいことです。昨年から生産されている堆肥を検査しましたが、窒素・リン酸・カリ・phなど、すでに商業ベースで販売できる水準に達しています。それにBMW技術が加わることで、さらに良質の堆肥ができること、それがイサベラ州の土壌を改良してくれることに大きな期待をかけています。私はCORDEVのメンバーでもあり、家では米・バナナ・野菜を生産しています。なるべく早くCORDEVの堆肥が商業的に販売できる資格をとれるように、肥料検定協会として申請を急ぐつもりです。

農民自身の技術としてBMW技術の定着を
BM技術協会理事 特定非営利活動法人APLA共同代表 秋山眞兄
 フィリピンにBMW技術が初めて導入されたのは一九九六年。ネグロス島のバナナが病害で壊滅的な打撃を受け、ATJ(オルター・トレード・ジャパン)がその対策の一つとして循環型農業を普及させようと、カネシゲ農場を開設し大型プラントを設置した時です。しかし、地域農民の技術として根付かせることはできないまま、最後はほぼ放棄した形になってしまいました。JCNC(日本ネグロス・キャンペーン委員会、APLAの前身)も、別のツブラン研修農場に中型プラントを設置したり(二〇〇一年)、カネシゲ農場のプラントの再生を試みたりしましたが、地域技術として移転させることは出来ませんでした。
 その原因は、ネグロス島の農民は農民といっても砂糖キビプランテーション農業に依存していて自立的営農を志すという姿勢が弱かったこと、また、彼らにとっては大型施設で高度な技術で、自分たちには手が届かないと思わざるを得なかったからでしょう。しかし、いつか活用する時が来るに違いないと私たちは考え、現地駐在員の大橋成子宅にミニプラントを設置して維持をしていました。このミニプラントと北ルソンの農民魂の出会いが新たな道を切り開いたのです。
 大橋宅の生物活性水が、彼女の裏庭の野菜栽培や家禽飼育、夫が村長をしている村での養豚の消臭や小学校の花栽培で活用され始めました。その成果が出てきていた昨年八月、ネグロスと北ルソンの農民交流計画を協議するため、グレッグさんがネグロスを訪れました。彼は以前来日した際にBMW技術を見聞していましたし、カネシゲ農場のことも承知していましたが、やはり自分たちの農業とは距離感があったのです。しかし彼は、大橋宅のミニプラントとその成果に触れ、自分もやってみようと即座に決断し、自宅に見よう見まねでミニプラントを設置し、養豚や野菜栽培への活用を試みたのです。
 これが、フィリピンの農民自身がBMW技術を自分の手で農業に活用した最初となり、そして、有機堆肥生産のための中型プラントが、農民たち自身の意志で設置されることにつながったのです。フィリピンに最初に導入されてから実に一三年、蛹が孵化するまでの年数として長すぎたかもしれませんが、それだけの月日を蛹として生き続けられたからだといえるかもしれません。
 今夏、ネグロスのカネシゲ農場は、農民自身が運営責任を持つ農民学校・次世代育成実習農場に生まれ変わりました。そして北ルソンで農民交流を経験した彼らは、BMWプラントを設置したいと願い始めており、ネグロスでも農民自身の技術として再生する可能性が生まれてきています。今後もネグロスはもとより北ルソンでも試行錯誤が続くでしょうが、ようやく孵化した技術が確実に育っていくように、APLAは継続して見守り手助けをしていく所存です。

Author 事務局 : 2009年11月01日 13:39

 
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